第30話 これからもよろしくね、ロロン。
「ううう……うううう……」
ロロンが、唸りながら周囲を油断なく警戒している。
番犬か何かだろうか。
「む、むむむムーク様……!ご安心を、このロロン、身命をば賭してお財布をお守りいたしやんす……!」
物凄く気合が入っている……
原因は言うまでもないだろう、さっきロドリンド商会で支払われた多額のガルである。
きっと、周り中全ての人間が泥棒さんに見えているんだろう。
総額55万ガル……ボクとしてもとんでもない金額だ。
とんでもない金額だけど……こうしてボク以上に混乱しているロロンを見ているのでなんかこう、落ち着いてしまっている。
「大丈夫、落チ着イテ。ポーチ、入レテルカラ」
ちなみにポーチは小さくして、『隠形刃椀』の下に隠している。
ちょっとばかし肩甲骨に違和感があるけど、ここ以上の隠し場所はないだろうね!
いやあ、それにしてもポーチって便利。
これがないとサンタクロースのオジサンみたいな見た目の虫になるところだった。
「トリアエズ、宿マデ戻ロウカ。マント着ナイトネ」
アレがあると安心感も段違いだからね。
それに、ロロンを一旦落ち着かせないと。
「ロロン、だいじょぶ?だいじょぶぅ?」
「んだ、だだだ大丈夫でがんすゥ……!」
全然大丈夫そうに見えないし。
周囲を警戒するロロンを促し、宿への道を急いだ。
・・☆・・
「ドウ?ダイジョウブ?」
「……醜態をば、お見せいたしやんした!おもさげながんす!お許しえってくなんせ!!」
宿に帰還した。
部屋まで戻ると、ロロンは床の上で綺麗な異世界土下座をかました。
あああ!掃除は行き届いてるけど汚いから!床は!
この国って土足文化だし!!
「大金ダカラネ、仕方ナイネ。落チ着イテクレテヨカッタ」
ぶっちゃけロロンがいなかったらボクがアレくらい狼狽していた自信が、ある!
『妙な自信ですね……』
小市民虫ですので!ボク!!
さて……ロロンが落ち着いた所でどうしようかね。
今はお昼だし、ご飯でも食べてくるかな。
その前に……
「何カイルモノ、アルカナ」
「りんご!りんごぉ!」
アカはリンゴが好きだなあ。
とりあえず干しリンゴを渡しておく。
「あぐあぐ」
よし、今日もカワイイねえ。
「コレカラノ旅デ必要ナモノダヨ。ロロン、ドウ?」
「う、うむむむ~……」
やっと土下座を解除したロロンは、椅子に座って腕を組んで考え始めた。
ガラッドでも買い込んだけど、他にもきっと必要なものがあるハズだ。
あの時と違って、今は懐が火傷するくらい暖かいし……
ちなみにだけど、今回の稼ぎを除いた手持ちは全部で6500ガルです。
以前の護衛依頼、オオムシクイドリとかオオドブネズミモドキの代金、それに教会から貰ったお金やボクが酒場で歌ったおひねり諸々を合わせた額だ。
うーん……前まではこれでもテンション上がってたんだけど、55万ガルには勝てないなあ……
文字通り、桁が違うもん。
「そうでやんすね、安全を期すならまず、天幕でしょうか?」
天幕……ああ!テントのことか!!
そうだね、これからも旅暮らしだし……今回みたいに竜車に乗れたりするとは限らないもんね。
アカとずうっと野宿野宿&野宿の日々だったから、完全に頭から抜けてた……
これからの旅は森の中じゃないし、適当な木のウロや洞窟がいつでもあるわけじゃないしねえ。
「イイネ、ドウセナラ便利デ頑丈ナノヲ買オウカ」
「い、いいんでやんすか……?」
「イイニ決マッテルデショ、ボクラノ財産ナンダカラ。『安物買イノ銭失イ』ナンテ言ウシ、ケチッテモイイコトナイヨ」
ボクらみんなで使うものだしね。
「む、ムーク様のお言葉はいつでも的を射ておりやんす……心に響きやんすぅ……」
うん、地球のことわざに感謝だよね。
なんかボク、ことわざ結構知ってるよな……死んだときに結構なお年だったのかしら。
「ジャ、ゴ飯ツイデニ買イ物行コウカ。マントモ乾イタシネ」
「おなかすいた、すいたぁ!」
どうやらアカにとって、リンゴは別腹のようだ。
・・☆・・
「ンマイ!」
「んま!んまー!」
「んめめなっす……!んめめなっす!」
そして、昼食。
出がけにルアンさんに教えてもらった、焼き鳥の屋台。
そこで買った串焼きに、3人そろって舌鼓を打っている。
おいしい、この……なんて鳥だっけ。
『草原アホウドリ、ですね』
ああ、そうそう!とっても残念な名前だけど、お肉は脂が乗っていて最高に美味しいや!
味付けは塩となんかピリッとする粉!胡椒じゃない!
さすがおすすめされるだけあって、おいしいねえ!
『名物に美味いモノなし』は、異世界だと適応されないみたいで安心したよ。
ちなみにお値段、1本2ガルです。
お財布にもとっても優しいですなあ。
「おやびん、これもすき!しゃくしゃく、おいし!」
そして、アカが満面の笑みで齧っているのはマルモ……異世界タマネギの串焼きだ。
以前に森に生えていた野生種ではなく、畑で栽培された野菜である。
大きさが2倍くらい違うし、何より甘みが強くて香ばしくって美味しい。
異世界野菜もやるではないか……ボクとアカは何を食べてもいいけど、野菜や果物も食べたい!あと魚も!
「海、行キタイネエ」
「うみ?うみ~?」
あ、そうか。
アカは森生まれだから知らないのか。
ボクもこの世界では知らないけど、概念は知ってる。
『この国からですと……トルゴーンの西にある『マデライン』のさらに西が一番近い海ですね』
そこって人魚さんとかの国なんよね?
海が近くにないのって不便じゃない?っていうか海が無くても生きていけるんだね。
『マデラインは大きな、本当に大きな湖の中にある国なのです。そこから海まで川が繋がっているのですよ』
はへ~!?湖の中に国があるの!?
そ、それは……地上の人たちにはちょい辛そうな環境だねえ。
『いえ、全てが水中というわけではありませんよ。地球でも湖の上で暮らしている民族がいたでしょう?あれの規模をもっと大きくしたような感じですかね』
へええ、船の上に街が!とかそういうアレか。
うわー、いつか行ってみたいなあ!
ずうっと旅暮らしもアレだけど、しばらくは色々見て回るのもいいかも!
当面の目標はトルゴーンだけどさ。
「ネエ、ロロン。ココカラ『トルゴーン』マデ、ドレクライカカルノ?」
「そうでやすね……ワダスもトルゴーンまで行っだごとはながんすが、地図がありやんす」
そう言うと、ロロンは鳥の脂でテカテカになった唇を舐めて革の小物入れに手を入れた。
しばしガサゴソと漁り、羊皮紙っぽい厚い紙を取り出して広げる。
B5くらいの大きさの紙には、色々と文字が書き込んである大まかな地図があった。
「ここがガラッド、それで……ここがラバンシでやんす」
ふむふむ、本当にラーガリの南の端を通ってるんだなあ。
「そんでこれがら……」
ロロンの指先を追う。
どうやら、ここからラーガリまでは大きな街が2つ、小さな集落?村?みたいなものがチラホラある。
やっぱり街道筋には人が集まるのね。
でも……
「山、アルネ?」
「でがんす。ラーガリとトルゴーンの間には険しい【ミレドン山脈】がありやんす」
これから行く道の途中に、大きな山みたいなものがある。
それが、半分国境みたいな感じになってるねえ。
「トルゴーンは山を越えた高地の国でやんす。ここよりもかなり寒い、と……昔旅をしたじっさまに聞きやんした」
ほほーう。
防寒具も買い込んでおく必要があるかな?
あ、そうだ。
「ロロンハ、イツマデツイテキテクレルノ?」
「えうっ……!?」
そう聞くと、何故かロロンは目を丸くした。
えっ、何か不味い事言った!?
「む、ムーク様は、ワダスが、ワダスがお邪魔でやんすか……?」
「ナンデサ!?」
今の文脈でなんでその勘違いしたの!?
それならもうついてこなくていいよって言うよ!!
「違ウカラ、無茶苦茶助カッテルカラ!ロロン抜キダッタラモット苦労シテタカラ!ソウジャナクッテネ……」
震えるロロンの頭を撫で、肩をポンポンし、また撫でつつ説明をした。
この子は武者修行の旅の途中なんだ、ボクらの都合でずうっと縛り付けてるとかわいそうじゃないか。
だから、いざとなればそちらの都合を優先してよ!みたいな感じのことをね。
ううう、回らない口が憎い。
「それなら大丈夫でやんす!」
ボクの説明を聞き終わったロロンは、また胸を張った。
何故か、その肩の上でアカも真似している。
微笑ましかわいい。
「渡世流しに決まった期間は無がんす。加えてワダスは末子、継ぐ家も家名も無がんす」
ふむふむ、気楽な末っ子ってこと?
「なので……その、ムーク様たちがお嫌でなげれば……しばらぐお供をさせて欲しいのす!」
「ロロン、いっしょ?いっしょぉ?」
「はい!一緒でやんす!」
「いっしょ!いっしょ!」
アカが、ロロンの顔に抱き着いて頬を摺り寄せている。
体のスケールも種族も全然違うけど、そうしてると姉妹に見えるなあ。
「ジャア、コレカラモヨロシクネ、ロロン」
す、と手を差し出す。
それを見たロロンはぱあっと顔をほころばせ、嬉しそうに手を握ってきた。
そして、何故かアカは握手の上から抱き着いてきたのだった。
『微笑ましいですね……記念に写真としておさめておきましょうか』
さすがは神様、スクショ機能まで搭載されてるのか……
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