第29話 大金持ち虫、爆誕。

「おじちゃ、おじちゃ!」


「ハイハイ、ナンデショ」


 肩と首がモフモフするなあ。


「おそらとんで、とんで!」


「オ空……アカニ聞イタネ?」


 うむむむ……大丈夫なんかなソレ。

この子はモフモフで防御力ありそうだけども……万が一がなあ。


「ルーニ!あんたお客様に何してんの!!」


 あ、ドラウドさんの奥さんことルアンさん。


「ムークさん、ごめんなさいねえウチの子が!」


「イエイエ、別ニ嫌ジャナイデスノデ」


 お風呂を楽しみ、美味しい夕ご飯に舌鼓を打ち。

そしてアカとロロンと3人でフカフカベッドで就寝して……翌日。

グッスリと眠って最高の目覚めをしたボクは……毛玉、いや獣人の子供を肩車している。

ドラウドさんの子供のうち、一番末っ子の女の子、ルーニちゃんである。

ちなみに厳密に言うとボクよりも年上である。

だって生後一年未満だし、ボク。

でも見た目がコレなので、おじちゃん呼びも甘んじて受け入れよう。


「ルーニ!下りなさい!」「やー!やー!!」


「マアマア、マアマア」


 ボクの頭の上で喧嘩しないの!

危ないでしょ!子供が!

ボクの首は頑丈だけど!!


「おやびん、おやびーん」


 あ、いい所にアカが!

これ、もう飛ばないと収まりつかないでしょ。


『飛ぶから浮かせてあげてね、アカ』『あ~い』


「ルアンサン、絶対安全ダカラチョット離レテテ下サイネ」


 そう言って少し後ずさりし、軽くジャンプ。

そして、弱めの衝撃波を連続で射出して浮かぶ。

アカの念動力のおかげで、飛んでる風船くらいの速度だ。


「ドウ?」


「わきゃー!たのしー!たのしい!」


 どうやら気に入ってもらえたようだ。

しばらく宿の2階くらいの高さをふわふわ飛び、地面に帰還。

目を丸くしているルアンさんに、ルーニちゃんを渡した。


「おじちゃ!ありあと!」


「ドウイタシマシテ。デモ無茶苦茶疲レルカラ、モウ許シテネ」


 ルアンさんが抱っこしたルーニちゃんを撫でる。

おや、綺麗なお目目ですこと。

この子は将来美人さんになるでしょうねえ。

この宿も安泰だな。


「ごめんなさいねえ、無理言っちゃって」


「子供ハ国ノ宝デスノデ」


 お世話になってる宿の子供だもん、これくらいのサービスはするよ。


「おーい、ムークさんよ。そろそろ店まで行くぜ……なんだルーニ、ムークのおじちゃんに遊んでもらってたのか?」


「うん!」


 昨日のお風呂のおかげか、フッサフサの毛皮を揺らしながらドラウドさんがやってきた。

おっと、そう言えばそうだった。


「お、今日は全裸なんか」


「マントガ洗濯中ナノデ……」


 全裸って言わないで!

まだ大丈夫だって言ったのにロロンが洗濯してくれたんだもん!

あの子、本当によく働いてくれるよねえ……そんなに気を遣わなくてもいいのに……


「まあいいか、虫人だしよ。その姿も甲冑みてえじゃねえか」


「ハ、ハア……」


「おやびん、かっこい!かっこい!」


 全肯定アカの言うことはあてにならないけどね……まあ、いいならいいか。

それなら井戸端にいるロロンを呼んでこないとね。



・・☆・・



「お集まりいただきありがとうございます。私は本部直属、一級鑑定士のラドリーと申します」


 みんなで一緒にロドリンド商会まで行き、応接間のような場所に通された。

パライさんとロイドさんはもう来ていた……ロイドさん、無茶苦茶香水の匂いがキッツイ!

娼館で大暴れしてきたのかな……?

鬼のような顔をしていたパライさんに睨まれ、部屋の隅っこで小さくなっている。

獣人さんは鼻がいいからね……ロロンもちょっと顔をしかめている。


 そしてお店側の人間は、ドラウドさんと今しがた自己紹介したラドリーさんだ。

綺麗なローブを着て、オシャレな片眼鏡をかけた……50歳くらいの『人間』のオジサンだ。

そう、転生してから初めて見る人間さんだ!

なんていうかこう……渋い外人のオジサンってかんじ!髪の毛もロマンスグレー?っていうの?

とにかく、落ち着いてる感じの人ですね。


「こちらが、今回持ち込まれた品々の内訳となります。ご確認を」


 パライさんと、ボク。

2人の前に、羊皮紙っぽい紙が1枚ずつ渡された。


「まず、武器防具類です。【貫通】が付与された剣、【破断】の斧、そして【頑丈】の盾が特に貴重ですね」


 ふよ?

なんか聞いたことある気がする。


『武器防具に対し、スキルを付与することですよ。現代でも付与師は存在しますが、古代の遺物の方が全体的に高性能です』


 おー、本当にゲームみたいだ。

そんなに便利なものがあるんだねえ。


『もちろん、付与品自体が貴重です。普段街の武器防具屋で買えるものでもゼロが一つ二つ違う貴重品ですよ』


 ヒエエ……


「それ以外の品も実用性に優れ、保存状態も申し分ありませんね。未踏破区域という環境がよかったのでしょう」


 コボルトのうんちまみれだったけどね、周囲は。

あの部屋が狭くてよかった……広かったらあの部屋も大惨事だったと思う。


「それに魔法具類を加えまして、総額が22万ガルとなります。内訳をご確認ください」


 に じ ゅ う に ま ん が る ! ?


 う、ううう嘘でしょ!?

えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!!


「ま、そんなもんだよね」「そうね、想像通りだわ」


 だけど赤錆陣営はそれほど気にした様子はない!嘘でっしゃろ!?

た、大金に慣れていらっしゃる……さすがは敏腕傭兵団……!


「……」


 あ、でもロロンも静かだ。

いかんいかん、親分としてボクがうろたえてたら駄目だね……


『座ったまま気絶しています』


 ロローン!?!?


「さて、そして残りの硬貨類ですが……」


 わあ!どんどん先に進んでいく!!


「古代ヤクシャ王国製だと確認が取れました。コレは考古学的価値はもとより、硬貨自体に微量ながら【オルカ】が含まれていますので……」


 おるか?

なんで海棲哺乳類が硬貨に……?


『オルカ鋼、魔力伝導率がとても高い魔法金属です。1000年前に周辺の鉱脈が枯渇、現在では僻地でしか産出されることのない希少なものですね』


 へ、へえ……?

つまりむっちゃ貴重でお高いってことですね?


『ええ、先程あの方がおっしゃったように考古学的な価値も、美術品としての価値も、さらには溶かして混ぜ込む媒体としての価値もあります』


 欲張り!!

そんなに貴重なものなんだ……


「総量44キルグラムル、総額88万ガルとなります」


 は ち じ ゅ う は ち ま ん が る 。


 あ、駄目だボクも気絶しそう。

ってことはさっきのと合わせて……110万ガル!!

武器防具よりも高いんだ……あの硬貨!


 ウワーッ!気が遠くなってきた!!


『落ち着きなさいむっくん、山分けですよ、山分け』


 ……あ、ああそうか。

そうだった、そうだった。


「みゅ~?」


 不思議そうな顔で内訳を見ているアカ。

この子を見ていると落ち着くなあ……


「おやびん、りんごどれくらい?どれくらぁい?」


「イッパイ!」


「しゅごい、しゅごーい!」


 両手を目いっぱい広げると、アカは空中で喜びの舞を踊っている。

……むしろ、リンゴ畑くらい買えるかもしれない!

そこら辺の相場知らないけど!


「ねえムークさん、本当に山分けでいいの?こっちは4人、そちらは3人なのよ?やっぱり半々に……」


「イイエ、男ニ二言ハアリマセンカラ」


 ここで『やっぱり半分ちょうだ~い!!』とかは言えないです、ボク。

それに、始めにそう決めたんだからね!


「ふふ、それじゃあ……赤錆に55万、そちらに55万ね」


「半分ジャナイデスカ!?!?」


 今の話聞いてた!?


「アナタ、忘れてるでしょ。アロンゾが依頼した分の給金を足したのよ」


 あ、ああ~……あの時の『小遣い稼ぎ』ってやーつか!

今まで完全に忘れてた!!


「デ、デモ……多スギデハ」


魔石も結構もらったのに……


「うふ、赤錆の女にも二言はないの。諦めてね♪それに細かい計算って面倒臭いもの♪」


 そう言うと、パライさんは魅力たっぷりにウインクをするのだった。


ど、どうしよ……急に大金持ちになっちゃったよ。

ロロンに相談……駄目だ、まだ気絶してる。


「それでは、ムーク様たちの現金をお持ちいたします」


 ラドリーさんは一礼し、去って行った。

あれ、ボクらだけ……?


「ウチは本部に直送。後で給金になるんだよ」


 ロイドさんはそう言って笑った。

ああ、そういう感じなのね……そういえばこの人たちって直属だった。


 はあ……ダンジョンって、儲かるんだなあ。


『むっくん!』


 はい!油断大敵!今回のは宝くじクラスの幸運ですう!!

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