第28話 ラバンシのお宿もいいお宿!


「いらっしゃいませ~、何名様……アンタ!」


 ドラウドさんの仕事が終わるのを待ち、荷台を外した走竜ちゃんと一緒に移動。

10分少々歩くと、『草原の太陽亭』と書かれた看板の……2階建ての大きな建物にたどり着いた。

ここがドラウドさんの奥さんの実家かあ、ガラッドの『草原のさざ波亭』よりも大きいねえ。


 で、店先を掃除していた牛の獣人さんが……ドラウドさんの方へ走ってきた。

この人が奥さんだろうか?


「ルアン!」


 進み出たドラウドさんは、その女性と衝突音が響くくらいに豪快に抱き合った。

おおう、迫力のハグですなあ。


「ダンジョンが溢れたって聞いて……!」


「おうおう、大丈夫だって。心配かけたなあ」


 3か月振りって言ってたし、仲が睦まじくていいですなあ。

この世界、魔物や盗賊とかいるから行商は命懸けだね。


「とーちゃ!」「とーちゃん」「おかえり~」


 わわ、続いて小さい毛玉たちが玄関からわらわらやってきた。

かわいいなあ、木にしがみついてたロロンを思い出すなぁ。


「お~!おめえら元気にしとったか!土産がワンサカあっからな、ちゃんとみんなで分け……あ」


 そこで、ドラウドさんはボクたちを思い出したらしい。

バツが悪そうな態度で、ゆっくりとこちらを振り返った。


「あ~……ここまで無茶苦茶世話になった旅人さんだ。最高の部屋を用意してやってくんな」


「ド、ドウモ」「こにちわ!」「お世話になりやんす!」


 とりあえず、3人そろって頭を下げた。



・・☆・・



「ウチは朝夕二食です、お昼は言ってくれれば別料金ですけど作りますよ」


 1階の奥にある部屋に案内され、説明を受けている。


「それで、ウチにはお風呂がないんですけど近くに公衆浴場があります。はい、この割符を見せると無料で入浴できますからね」


 ドラウドさんの義理の妹だという牛の獣人さんは、ニコニコテキパキとしている。

うーん、とても仕事のできそうなお方だ。

ちなみにケモ度は70%って感じ。


「アリガトウゴザイマス」


「いえいえ、義兄が大変お世話になったようで……あ、私はルマンと申します」


 なんかレースみたいなお名前……おおっと。


「ムークデス」「ロロンでやんす」


 ちなみにアカは、ドラウドさんの子供たちと一瞬で仲良くなって馬房?竜房?へ一緒に行った。

アカのコミュ力は化け物だ。


「ご丁寧にどうも。それではごゆっくりなさってくださいね、外出する時は受付にお声をお願いします」


 綺麗に一礼し、ルマンさんは部屋から出て行った。


「イイ部屋ダネエ」


「ほんに、いい部屋でがんす!」


 大きなダブルベッド、掃除の行き届いた室内。

シーツだって綺麗だし、日当たりも最高だ。

ドラウドさん、本当にいい部屋を用意させてくれたんだなあ。


「デモ、本当ニ1週間100ガルデイイノ?安スギジャナイ?」


「明らかに相場無視でやんす。ムーク様のご人徳の賜物でやんしょ~!」


 くすっぐったい……そんなに働いたかな?

ダンジョンからこっちはほとんどロイドさんたちが活躍してたって言うのに。


「ト、トリアエズドウシヨッカ。ロロンハ用事アル?」


「荷物は殆どムーク様の風呂敷でやんすから、ワダスは……特に無えでがんす。槍の手入れは荷車でやりやんしたし」


 そうそう、ロロンはダンジョンの戦利品として槍の穂先を貰ったんだ。

なんとかって魔法金属でできてて、魔力をよく通すんだってさ。

今は骨槍があるから、穂先の方は腰にナイフみたいにして装備してるんだよね。


「ジャアサ、オ風呂行カナイ?」


「――行ぎやんすゥ!!」


 食い気味に来たね。

さすがは女の子と言った所か……!

まあ、ボクもさっき聞いてから気になって気になってしょうがなかったんだよ!

公衆浴場がさ!

異世界銭湯だよ、異世界銭湯!

どんなのかめっちゃ気になるんだよね!無料だし!

これは行くしかないでしょ!!


「お風呂、久しぶりでやんす~♪」


 いつになくウキウキなロロンを微笑ましく見つつ、椅子から腰を上げた。



・・☆・・



「おやびんは~?おやびん、なんで、なあんでぇ?」


「ソウイウ決マリナノデ。ロロン、ヨロシクネ」


「はいっ!ささ、アカちゃんはこちらでやんす~」「あいぃ~……」


 アカが、女湯の方向にしぶしぶ飛んでいった。

ふう……ロロンがいてよかった。


「なんでえ、別にこっちでもよかったんだぞ?ウチのガキ共も、俺っちと一緒に入ることもあるしよ」


「イエ、アッチニ入レ、ッテコトデスヨ。アカガ言ッテタノハ」


 この姿で女湯行ったらパニックだよ。

いや、この姿じゃなくても駄目だと思うけども。

一応、外見はオスなんだし……たぶん。

今度虫人さんに会うことがあったら確かめておこう、見た目の問題。


「はっはっは!そいつは駄目だ!衛兵呼ばれちまう!!」


 爆笑しているのは、ドラウドさん。

宿から出て公衆浴場に行こうとしたら、奥さんに『旅の垢を落としてきなさい』と言われた彼も一緒になったんだ。

ちょうどいいので、道案内をお願いすることにしたんだよねえ。


 その公衆浴場なんだけど……見た目は煉瓦造りの大きな四角い建物だったんだ。

近付いても硫黄っぽい臭いはしなかったので、温泉ではなさそうだった。


 中に入るとそのまま受付で、そこから男女に分かれる方式になってる。

そして、簡単なロッカールーム的な場所についた。

どうやらここが脱衣所らしいや。


「ムークさんは初めてかい?浴場は」


「コノ国デハ初メテデス。作法トカ、教エテクダサイ」


 この世界でも初めてなんだけどね。

ややこしいから黙っておこうか。


「どこの国でもそう変わりはねえと思うぜ?まあここで服を脱いで、鍵付きの箱にしまって……で、浴場に入る時には必ず足を洗うんだよ」


 あ、ふむふむ。

足が汚れてるもんねえ、ボクら。

アスファルトもないから土埃で大変なんだよねえ。

時代劇で宿屋に行ったら足洗うの、この世界で初めて実感できたなあ。


「よし、行こうか。お互い楽でいいなあ」「デスネ」


 ボクはマントを脱ぐだけ。

ドラウドさんはズボンを脱ぐだけです。

初めて知ったけど、下半身にちゃんと服着てたんだね……毛玉状態だから全然わからんかったよ。


『では、私はしばらくサウンドオンリー状態になりますので。何かあったら声をかけてくださいね』


 トモさんの配慮がすごい。

いやまあ、ボクはいつも通りだけど……他に全裸の男性がいっぱいいるしね。

でもなんか意外。

普通に見るものだって思ってた。


『私は、うら若き乙女なのですよ!?』


 無茶苦茶怒られた……ゴメンナサイ! 



「うぐあああ~~~……こたえらんねえな、オイ」


「アアアアア~~……最高デスネ、最高」


 湯船につかるって気持ちいいなあ……概念だけは知ってるけど、体験すると最高だぁあ……

脱衣所を出て、浴場に入ると……そこは大きな大きな浴槽が1つと、体を流すような洗い場があった。

地球の銭湯と違うのは、どの席にも大きなブラシが常備してあったこと。

それに、明らかに排水溝の直径が大きかったことだ。

これは、獣人さんが多いからなんだろうね……抜け毛とか。


 で、泡立ちの悪い石鹸を使って2人でモコモコになり、ドラウドさんに感謝の気持ちを込めてブラシをお手伝いした。

彼には悪いけど、動物園の飼育員になった気分だった!

それで……やっと湯船につかることになったのだ。


「旅暮らしは性に合ってるし、実入りもいいから好きなんだがよ……風呂がなかなかねえのがなあ」


「ヤッパリ、オ風呂ッテ珍シインデスネ」


 ガラッドにはなかったしね。


「帝国にゃあもうちょっと数が多いがな。ラーガリだとこの街と……あとは2つくらいしかねえな」


 結構少ないんだねえ。

まあ、手間がかかるしね。


「あっても蒸し風呂ばっかだな。アレはアレで最後に水ゥ、ひっかぶるのが最高なんだがよ……ふぃいい……」


 異世界サウナ!そういうのもあるのか!!

そっちも体験してみたいもんだねえ、いつか。


「ア、ソウイエバ……イイオ部屋ヲドウモデス、ソレニ安クシテイタダイテ」


「気にすんなよ、こっちも楽な帰り道だったしな。ゆっくり疲れを癒してくんな」


 ありがたいねえ……この世界いい人多すぎでしょ。


「ココノオ湯ッテ……ドウヤッテ沸カシシテルンデショウネ?」


 ボイラーとかあるのかな?


「ここは専属の魔法使いがいるからな、川から引いた水を沸かして流しっぱなしにしてんだ。ちと値は張るがよ、いつでも熱い湯につかれるなら別にいいやなあ」


 まさかの人力、いや魔法力だった!

豪快なかけ流しだね……すごいや、異世界。

魔法使いさん、そういう仕事もあるんだねえ。

平和的だなあ。


 ……トモさんトモさん。


『なんでしょう』


 魔術師と魔法使いってどう違うの?

前からちょいちょい分けて出てくるよね。


『乱暴に言いますと保有する魔力量と使える魔法の種類です。まあ、強い方が魔法使いという認識で間違いないかと』


 じゃあこの銭湯の人って強いんだ!?


『まあ、毎日これだけの湯を沸かせるのですから……そうでしょうね』


 あ、そういえばそうか。

ふむん、なんか面白いねえ。

じゃあじゃあ、おひいさまは魔法使いなの?


『間違いなくそうでしょう。あの時点でも底は見せていませんでしたが……保有魔力量は、今のむっくんの恐らく100倍以上です』


 強者!

ボク自身の小ささが身に沁みるよ……がんばろ。



「おやびぃん~……あははは~……」


 芯まで温まり、ピカピカになって男湯から出ると……アカがふらふら飛んできた。

うわ、顔が真っ赤だ。

へちょ、と肩に止まったアカはちょっとしたカイロくらいあったかい。


「アカちゃん、湯に浸かるのが初めてだったみてえで……おもさげながんす!」


 ロロンが謝ってくるけど、別に悪くないでしょ。

そっかそっか、アカは今まで水浴びとお湯で体を拭くくらいしかやってないもんね……当然か。


「アカ、ダイジョブ?」


「えへぇえ、きもちい!ぽかぽか~!」


 本人的には大満足だったので、よかったよかったあ。

銭湯は最高だね!また来よう!!

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