第27話 ラバンシ、到着!


「見えてきたぜ、アレが『ラバンシ』だ!我が懐かしき古巣ってやつだ!」


「ギャルゥ!」


「おおっと、スマンスマン!『我らが』だなァ!」


 走竜ちゃんに突っ込まれたドラウドさんの嬉しそうな声が、草原に響く。


「オオ~……」


 ボクの目の前には、ガラッド程ではないけど……それでも城壁?に囲まれた街が見えてきた。

この世界の街って、魔物のスタンピードがあるからか防御力が高いよね。


『あら、戦争もありますよ?』


 そんな『ご一緒にポテトはいかがですか?』みたいなノリで言わなくっても……この西の国ってそんなに国どうしの仲悪いんですか?

聞いた限りじゃ一番住みやすそうなのに……


『ああ、この国は大丈夫ですよ。小競り合い程度はありますけれども』


 あ、なんか前にそんなこと言ってたような気がしましたね…… 

じゃあ、別の国と仲が悪いの?


『ええ、特に北と東の二国との仲は絶望的ですね』


 あ~……うん、まあそうだろうねえ。

人間以外はカス!みたいな国だって言うし。

南の獣人帝国さんとは?


『相互保障、と言った形でしょうかね。人間以外の国ですから、お互いに協力し合うといったような感じでしょうか』


 なるほどなあ。

んで、北と東の国もお互いに『人間の国』っていう感じで協力してると?


『いえ、情報から察するに……お互いにお互いを吸収しようとしていますね。人間の国は1つにまとまるべき、といった感じでしょうか』


 仲良くしなよお、人間同士なのにさあ。

ボク、たぶん前世は人間だけど今は謎むしんちゅだもんね。

人間さんと仲良くするのは別に……って感じだし。

ま、敵?が揉めるなら揉めててもいいけど。


『ちなみに、この小国家にも人間国家が1つありますが』


 えええ!?あるの!?

マジか……それスパイとかじゃない?


『東の国から亡命してきた人間が開祖となっていますね。現在、北の国家に一番近い場所にある【ロストラッド】という国です』


 亡命……?

人族至上主義?とかが嫌になった人たちってこと?


『概ねその通りです。初代王は東の国の貴族で、愛する異種族の妻と子供を守るために亡命を決めた、と歴史書にはあります』


 ほーん!それはまた、結構いい人なのかしら。

奥さんの為に亡命するなんて、愛に生きた王様なんだねえ。


『ええ、有名ですよ【イチロウ=ヤマダ】さんは』


 前に聞いたことある!?

なんか、悪い転生者と神様の野望を打ち砕いた人でしょ!?

転生者の子孫なんだよね、たしか。


『いえ、今回の話は【融和王】イチロウ=ヤマダ初代です。15人の異なる種族の妻との間に、56人の子をもうけました』


 山田一郎さん!?

む、むちゃくちゃハーレムしてるじゃんか!?

王様とはいえ、子供の数が多すぎません!?


『仲睦まじいご家族だったようですね……まあ、4代ほど後に跡目争いで国が割れかけましたが。現在はなんとか落ち着いていますね』


 んんんんエピソードが濃い!

いつか余裕ができたら歴史書とか読んでみたいなあ……


「おやびん、おやびん」


「ファイ?」


 遥か過去の同郷人に思いを馳せていたら、肩の乗ったアカが頬をつんつんしてきた。

いかんいかん、あまりにエピソードが濃くて……


「やっと戻って来たわね、疲れてるの?」


 荷台から、パライさんが声をかけてきた。

その後ろではロイドさんが干し草を枕に寝ていて、ロロンはその横に座ってナイフを手入れしている。


「アア、スイマセン。ウトウトシテテ……」


「あらあら、大活躍だったものねえ。ムークさんの表情ってわかりにくいから、会議の時にはお得ね、ふふふ」


 まあ、そりゃ表情筋ないっぽいしね!

遠くから見ると目の光も見えてないし。


「パライサンタチモ、大活躍デシタヨ」


 あのダンジョンから出発して、今日で6日目だ。

ガラッドからダンジョンまでは魔物は出なかったけど、ここまではそうはいかなかった。

主に、スタンピードからあぶれた?コボルトたちだったけど。

変異種もメスもいなかったけど、数は多かったねえ。

平均で3~4匹のグループだった。


 だけど、助っ人として参加してくれた2人が凄かった。

前衛で盾をぶん回すロイドさんと、荷台の上から百発百中の矢を放つパライさん。

いやあ、ボクの仕事ほぼなかったもん。

戦闘自体は多かったけど、それでも楽でした。

やっぱりパーティ人数が多いっていうのはいいねえ、便利で。


「あら、嬉しいわね」 


「アカは~?アカはぁ~?」


 微笑むパライさんに割り込むように、頬を膨らませるアカ。


「大活躍、最強ノ子分ダネ~、イイコイイコ」


「えへぇ、えへへぇ」


 実際に大活躍だったアカを撫でると、一瞬で機嫌が直った。

ヤキモチ焼いちゃってか~わいい~!

この子は高速で飛び回りながら魔法を乱射するもんね、敵からしたら悪夢だもん。


「お陰様で楽な道行だったぜ。赤錆とムークさん一行、様々だあな!」


「アラ嬉しい、じゃあ買取も勉強してよね?」


「おうよ!上にはキッチリ言っとくぜ!」


 わーい、懐があったかくなる予感がするぞ~!

ダンジョンって最高だよね~?


『むっくん?今回のことは幸運なだけですからね?そこの所、しっかりと認識しておきなさい。恵まれた助っ人のことも忘れてはいけませんよ』


 はい!そこは重々承知しております!

ボクたちだけであのコボルト集団にカチ会ったら、即回れ右して逃げますわよ!


『はい、よろしい。この世界において油断は禁物!ですよ?』


 はぁい!女神様!!


「あら、まただわ。ムークさん、ロイドと代わりなさいな……もう危険はないから、寝ていなさい?」


「おやびん、ねゆ!ねゆ~!」


 ああいかん、またぼんやりしてしまった。

トモさんとのお話は楽しいけど、傍から見ているとお眠むしんちゅに見えるから気を付けないとなあ。


「ふわぁあ~……よく寝たあ。代わるよムークさん、ホラホラ」


「ワワワ」


 違うんですロイドさん!眠いんじゃないんです!!



・・☆・・



「おお!コレが報告にあった宝物かァ!最近じゃ珍しい実入りだな」


「おう、一級保管庫に頼むぜ。それから鑑定士は……」


「もう手配済みだ、明日の昼には到着するぞ」


 荷台に寝かされて、ラバンシに到着した。

そのままロドリンド商会の倉庫に乗り付け、あれよあれよという間にダンジョン産の宝物が作業員さん?によって運び出されていった。


「っちゅうわけでな、アンタらは明日の昼にまたここに来てくれ。まずは査定をそこでやるから」


 何から何まで、ありがたいなあ。


「あいよ~。それじゃ、僕は一旦ここでね~」


 ロイドさんは盾を背負って歩き出した。

ありゃ、パライさんとは別行動なのね?


「あ、ムークさんも一緒に来る?【豊穣の女神】っていういい娼館があるんだけどさ痛ァアい!?!?」


「子供の前で!昼間っから何言ってんのよ!!ホラ行きな行きな!この変態!!」


 ロイドさんは、パライさんにお尻を思いっきり蹴り上げられてる。

今、軽く浮いてなかった?


「しょーかん?しょーかん?」


「馬鹿ロイド!ほら見なさい!アカちゃんにとんでもない悪影響が発生したじゃない!!」


 いかん!アカにはまだ17年くらいは早い情報だ!

この世界の成人事情知らないけども!!


「ホラアカ、干シリンゴダヨ、アーン」


「おいし!おいし!」


 ふう、なんとか誤魔化せたか……ロロン?なんでそんなに真っ赤になってんの?


『むっくん……ロロンさんは思春期真っ盛りですが?』


 あっ。

うーんと……ノーコメントで!


「いちちち……ごめんごめん、じゃあまた明日~♪」


 あんまり痛そうじゃない様子で、ロイドさんは小躍りしながら去って行った。

防御力高いなあ。


「まったく……それじゃ、私もここで。今日はお湯に浸かってゆっくり寝るのよ~♪」


 パライさんもすぐに、別の方向へ去って行った。

へえ、この街ってお風呂付きの宿あるんだ。

ちょっと気になる!


「ドラウドサン、イイ宿教エテクレマセン?」


 ボクは土地勘がゼロなので、地元民に聞くのが一番。

打ち合わせが終わった様子のドラウドさんに声をかけた。

こういう問題で一番役に立ちそうなロロンは、まだ顔を赤くしてだんまりしている。


「おお、任しときな!まあ俺っちの家でもあるんだが、もうちょっと待ってなよ」


「ドラウドサンノ家?」


 実家に泊めてくれるの!?

それはちょっと……気を遣うというかなんというか……


「嫁さんの実家が宿屋なんだよ。タダってわけにゃいかねえが、勉強させてもらうぜ?」


「ホエ~……」


 なるほど、そういうことね。


「身内目線抜きにしてもいい宿だぜ?身元のキッチリした客しか泊めねえから、嬢ちゃんたちも安全だ」


 おや、それは嬉しい。

ボク以外はカワイイ女の子だもん。

安心できる環境は最高だね。

あ、でも。


「ボクノ身元、アンマリシッカリシテナインデスガ……」


「はっはっは、何言ってやがる!これまでの振る舞いで太鼓判押せらァ!安心しなって!!」


 あらら、優しい。

ありがたいねえ……

渡る世間は魔物ばかりだけど、人に関してはいい人しかいないや。


「……ッハ!?む、ムーク様、今晩の宿をば、探しましょう!」


「ウン、今見ツカッタ」


「はへぇ!?」

 

 赤面から復帰したロロンを、とりあえず撫でた。

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