第25話 未踏破マップ!テンション上がるなあ……上がらない?

「うっひゃあ、こいつがエンシェント・コボルトかあ……」


「アロンゾ兄貴たちすげえなあ、こんなのやっちまうなんてよ」


「助っ人のにいちゃんたちも活躍したってよ、虫人ってつええんだな……」


「食っちゃべってねえで手を動かせ!かなりの実入りになんぞ、丁寧に捌けよな!」


 賑やかに、傭兵団の皆さんが作業をしている。

エンシェントをコロコロした後、パライさんが後詰の人たちを呼んできてくれたんだ。

一番元気だったしね。


「おやびん、だいじょぶぅ?」


「ウン、ダイジョブ」


 アカが心配そうにホバリングしている。

魔石もモグモグしたし、ボクはすっかり元気だ。


「ムークさんよ、大丈夫か?」


 傭兵さんたちとなにやら相談していたアロンゾさんが歩いてきた。

この人は無傷なんだよね……地味に凄い。

思いっきりインファイトで渡り合ってたのにさ。


「ハイ」


「いやあ、あの魔法には助けられたぜ。すげえなアレ、風魔法か?」


「ソンナモンデス」


 異世界でレールガンの説明をしても理解してもらえると思わないし……なにより、ボクにレールガンを説明できる頭脳がないので!

お茶を濁す!!


「ロイドサン、大丈夫デスカ?」


 そして話題を逸らす!

いや、本当に心配ではあるんだけども。


「ああ、ちょっと腹が破れてるが大丈夫だ」


 全然大丈夫そうじゃないんだけど!?

えっ、お腹の包帯の下は破れてたの!?

そんな状態であの大きい盾をぶん回してたのか……ひええ。


「ダ、大丈夫ナンデスカ?」


「心配すんな。中級ポーションの予備があるしな。欠損以外ならなんとかなる」


 ポーション!ファンタジー!!


『ちなみに地域によって微妙に違いますが、中級ポーションのお値段は最低1万ガルからですね。欠損や重篤な症状に効く上級ポーションは10万ガル以上です』


 ……赤錆さんたちってお金持ち!!

それでよく赤字にならないよね?


『それ以上の実入りがあるということなのでしょうね』


 はあ~……傭兵団って儲かるんだなあ。

いや、有能な傭兵団は、ってことね。


「ロイドは後方に下げるが……ムークさんたちはどうする?俺達はこのまま奥を探索すんだが。おっと、勿論ついてこなくても何か見つけたら全員で山分けだぜ?アンタらも一緒に死線を潜ったんだしな」


 おお……優しい!

それに探索だって?そんなもの……行くに決まってますよ!


「行キマス」「はい!」「アカも!アカもぉ!」


 ボクと、そして仲間たちの意思は一つなようだ。

まあ、2人はボクが行くなら行くって感じなんだろうけど。

そしてボクは遺跡をとても探索したい!


「よし、そんならもうちょい休憩して……奥を確認するぜ。もう確実にエンシェントはいねえだろうが、用心だけはしねえとな」


 もういないんだ、よかった。

でも、なんでわかるんだろ。

まだ奥まで探索してないのに。


『エンシェントとは、その種族の到達点のような魔物です。滅多に進化しませんし……特にコボルトは縄張り意識が強いのですよ、群れに1匹……これが普通ですね』


 はえー、なるほど。

ボスは2匹もいらねー!ってやつか。


「ムークさん、あの時は助かった」


 感心していると、バリトンさんが後ろから声をかけてきた。

あの時……ああ、返ってきた斧を衝撃波で弾いた時ね。


「イエイエ、結局兜ハ駄目ニナッチャッタミタイデスシ……!!」


 振り返ったボクは、なんとか悲鳴……いや、驚愕の声を抑えた。


「いや、命があっただけありがたい」


 ボクに感謝するバリトンさん……その顔は、もふもふのウサギさんだった。

なんとかドワーフって言う、耳の垂れた地球のウサギを思い出す!

声はむっちゃ渋いのに、見かけはお目目がくりくりの可愛らしいウサギさんだ!!

いつだかの定食屋さんは小さかったけど、この人はボクよりも大きいからすっごい違和感!

ボクに表情筋が存在しなくってよかったよォ!!


「ふわふわ、ふわふわぁ!」


「ああ、おい、ちょっと、その、ああ……うん、引っ張り過ぎるなよ」


 アカが!アカがバリトンさんの耳に頬ずりしている!超ごめんなさい!ウチの子分がごめんなさい!!

しかも許してくれてる!やさしい!!


「ゴ、ゴメンナサイ!」


「まあ、いい。子供のすることだし……はは、嬢ちゃんにも助けられたからな」


 バリトンさんは、顔以外は落ち着いた大人の男性だった。

ボクもいつかこういう大人になりたいもんである。

あの、アカ?そろそろ耳を解放してあげてね?



・・☆・・



「ああ、畜生。これだから遺跡案件は嫌なんだ……鼻が曲がるどころか、捥げそうだぜ」


 休憩が終わり、ボクらは広間から奥へ向かって探索を開始した。

ロイドさんは搬送されたけどね。

この先にはもうコボルトは出ないだろうし、出てもエンシェント以下だから問題はないんだって。

たしかに、この人たちなら何でも対応できそうだもん。


 大きい部屋を過ぎると来た時みたいな細い通路になり、ずうっと一本道が続く。

変化のない景色に退屈さを感じていた頃……ようやく、開けた場所に到着した。


 一番最初の部屋よりも気持ち小さそうなそこは、アロンゾさんの言う通り……とても、臭かった。

部屋中に、おそらくコボルト由来の食べ残しや排泄物なんかが山になり、そこら中に散らばっている。

スタンピード起こすくらいいたんだもんなあ、ボクと違って排泄するんだし、この惨状は納得だ。

しっかし鼻が曲がりそう!鼻ないけど!!


「くちゃい!くちゃあい!」


 たまらず、アカがボクのマントの中に避難してきた。

臭い上に密室だもんねえ……籠ってるもん。


「ああ……うん、奥から風が流れてきてるわ。恐らく、連中の侵入経路はそこね」


 ちなみに獣人さんたちはみなさん鼻がいいのか、揃って顔に布を巻き付けている。

鼻がいいと辛いよね……


「とっとと確認して報告すんぞ、ここにいたら自慢の毛並みが臭くなっちまう」


「よく言うぜ、ろくに水浴びもしねえくせによ」


 アロンゾさんに突っ込むバリトンさん。

水浴びはしようよ……


「オリガ姐さんに嫌われるわよ、アロンゾ」


「姐さんとはそんなんじゃねえよ!」


 ほう。

そこはかとないラブの気配がしますな……デュフフ。


『油断……』


 しませぇん!!

危ない危ない……


「もごめ、もめめめ」


 なお、我がパーティの獣人枠ことロロンも本当に辛いらしくて……顔中に布を巻き付けて新種のミイラみたいになってる。

ちらりと見える目はずっと涙目だ。

かわいそう……でもついてくるって頑なだから……

もうちょっと我慢してね。


「ああ臭ェ、ったく……」


「言わないでよ、ただでさえ臭いのに……」


 ぶつくさ言いながらも、皆さんは一切油断をしていない。

いつ何時敵が飛び出しても対応できるように、武器を構えつつぼやいている。

ボクも魔力をゆるーく溜めておく。

ノーマルコボルトなら速射衝撃波で十分なんだけどなあ。


「ココ、ナンノ為ノ建物ナンデスカネ」


「さてなあ、俺ァ学がねえからわからん。【ジェマ】あたりの学者連中なら喜ぶんだろうがよ」


『小国家群の北にある国家ですね。魔法の研究や考古学が盛んですよ』


 へえ、そんな国もあるのか。

いつか行ってみたいな~、西の国だけでもボクの一生じゃ足りなさそうだ。

ワクワクが止まらない。


 しかしまあ……だだっ広い、家具も何もない空間だ。

このダンジョンは遺跡だから……ほんと、古代では何に使われてたんだろ。

遺物の1つでも残っていればわかるだろうけど……見渡す限り腐った肉とうんc……排泄物の山だ。

地獄って意外と近くにあるんだなあ……

トイレはお外でやろうよ、コボルトさん達。


 そんな激臭空間を歩きながら、奥へ向かう。

さすがに真ん中にはヤバいものがあんまりないのが救いだった、臭いけど。


「これか……」


 普通なら行き止まりだったんだろう、壁の部分。

そこが、地震で壊れたビルみたいにひび割れていて……穴が空いている。

そして、穴の向こうは……なんと通路だ!

壁の中に通路がある!?


「たまげたぜ、こりゃ【未踏破区域】じゃねえかよ……この遺跡にこんなもんがあったなんて」


「普通なら手順が必要な隠し通路なんでしょうけど、経年劣化で崩壊したのかしらね」


「これは、ひょっとするとひょっとするかもしれん、な」


 3人はなんかちょっと興奮している。

ミトーハクイキ?


『今までに発見されていない遺跡の区画ですね。貴重な遺物が残っている可能性があります』


 マッジで!?すごー!

ダンジョンの醍醐味じゃないですか!

隠された財宝!閉ざされた隠し部屋!吊り天井!!


『最後のモノもですか……?むっくんの性癖は特殊ですね、私は心配です』


 性癖じゃないやい!!

そんな潰されたい願望とかないやい!!


「よし、行くぞ。何があるかわからん、気を付けろ……まあ、コボルト共が向こうから来たってことは確かなんだから、罠かなんかはもうないだろうが……それでもな」


 アロンゾさんが先頭に立つようだ。

ボクたちは、パライさんと一緒に最後尾。


「何かあったらよろしくね?強い虫人さん」


「ガンバリマス……!」「もごももも!」


 ロロンも似たような事を言っているけど、申しわけないが解読できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る