第24話 ヤバい敵は、囲んで叩け!!
「ッギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
ボクの放った足の棘は、エンシェントの下腹部に突き刺さった――けど貫通しない!
それなりに魔力は込めたのに、なんて硬い体なんだよもう!
でも、衝撃力はどうにもできなかった!
エンシェントは、悲鳴を上げながら後ろへよろける。
「オオッ――!」
距離が開いた!斜めにジャンプゥ!!
空中で!右足を――叩き込む!そして背後へ衝撃波!!
「ゲゥッ!?」
からのォ――射出ゥウッ!!
「ギャンッ!?!?」
今度のはさっきよりも魔力を込めてないけど、それでも刺さることは刺さった!
そして衝撃力は、さらにエンシェントの姿勢を崩す!!
前世ではどうだったか知らないけど、今世では進化のおかげでこれくらいのアクロバティックな動きができるんだ!
筋肉痛もないし、この虫ボディって最高!!
「――で、か、し、たァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そんなボクの横を通り過ぎる影。
盾を構え、鎧を脱ぎ捨てたロイドさんだ!
もう治って……ない!お腹に真っ赤になった包帯が巻かれてるゥ!?
えええ!?なんで動けるのォ!?
「回復する暇は、与えないぞォ!どおおりゃああああああああっ!!」「――ッギ!?!?」
どごぉ、と。
そのでっかい盾は、エンシェントにとんでもない轟音を立てながら激突した。
「『開け』!『喰らい付け』!!」
ロイドさんが妙な感じで声を出すと、なんと……盾が変形した!
まず真ん中に線が入って、エンシェントを挟むような形に。
そして、さらに端から4分の1くらいの所にも線が!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
まるで両手で挟み込むように、盾が分かれた!?
盾の両端から爪みたいなものまで飛び出し、ガッシリとエンシェントを挟み込む!!
ふおー!何あれ!?
さすがは熟練の傭兵団!でっかくなったり変形したり、凄い装備だ!
「無理するな、下がれロイド!」「言われなくても、これで無理だよ、ハハ、ハ……」
よろ、と体を揺らして……ロイドさんは尻もちをつく。
それとほぼ同時くらいに、今声をかけたバリトンさんが突っ込んでいく。
「ぬうぅっ――あぁ!!」
思い切り振りかぶられた左手の斧が、エンシェントの頭目掛けて飛ぶ!
今のアイツは腕2本と上半身を封じられた形だ、防御はできない!
「ガァアウッ!!」
――できてるゥ!?
と、飛んできた斧を……咥えて止めたァ!?
どんな顎してるの!?
「――化け物がァッ!!」
バリトンさんが、残ったもう1本を投擲。
それは、エンシェントが咥えた斧に向って飛んでいく!
アレで押し込む気なんだ!?なんてコントロール!
――だけど、エンシェントが首を横に振る方がもっと早かった。
咥えられていた斧が、首の振りだけで投げたとは思えないほどの速度で飛ぶ。
あ、あの角度って……!
――あ、ぶない!衝撃波ァ!!
「ぐぅ、あっ!?」「ギャンッ!?」
ボクの衝撃波で僅かに軌跡が逸れた斧。
それは、バリトンさんの兜に当たって弾かれた。
あのままだと直撃コースだったんだよね……壊れてたらスイマセン!
そして、バリトンさんが投げた方の斧は――エンシェントの胸に突き刺さっている。
よし!こっちはOK!
「――えぇーいッ!!」「ッギ!?ガ、ガガ!?!?」
アカの声と一緒に、稲妻。
胸に刺さった斧に直撃したそれは、エンシェントの動きを止めた。
復活したんだ!でかした!さすがはボクの1の子分!!
「ぬぅうッアァ!!!!」
アロンゾさんも攻撃に参加!
横合いから走り抜けて、横薙ぎに剣を振る。
振りの途中から分裂した刃が――エンシェントの首に巻き付いた!
「ぐ、く、く……パライ!わかってんなァ!!」「誰に言ってるのよ!」
剣を握るアロンゾさんの腕に、太い血管が浮かび上がる。
エンシェントの首が硬すぎて、一気に切れないみたい!まるで綱引きだァ!?
さっきのお腹は切れたのに、なんで!?
『魔力です、魔力を集中して硬度を上げています。むっくんと同じです!』
なるほど……あんな鋭そうな剣に耐えるなんてすっごいや。
「ぬ、ぐ、ぅう、が」
みち、みち、と。
分かれた剣が、ゆっくりと引かれていく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
アロンゾさんの大声と共に剣が振り抜かれ、エンシェントの首が……切れて、ない!
いや、切断はされてないけど切れてはいる!
「――みんな!目をつぶって!【弾けろ】ォ!」
えっいきなりなんですかパライさ――ぎゃああああああああああああ!?!?
いぎゃああ!?め、目がァ!!耳がァア!?!?
こ、これは……パライさんの虎の子!
【破砕ボルト】だ!このタイミングで!!
爆音も聞いたし閃光もまともに見ちゃった……!
『エンシェント、顔に着弾して崩れ落ちました。パライさんが第二射を放つようです』
そっか、トモさんには見えてるんだ。
ありがたい!
「もう1発ッ!【弾けろ】!」
続いて、また爆音。
いぎぃい!?今更だけどボクの耳ってどこにあるのかわかんないから塞げない!
音だけはどうしようもないんだ~!?
『鼓膜は存在しませんから破れる心配はありませんね』
そんなお得ですよ!みたいに言わないで!
っていうか鼓膜ないんだボク!
今明かされる驚愕の真実!!
って感じのことを考えてると、目が元に戻ってきた。
虎の子2発をぶち込まれたエンシェントはどうなって……
「ギャアアッ!!ギャオン!ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
……無茶苦茶元気じゃん、嘘でしょ。
エンシェントは……上半身が焦げ焦げになって、大量に出血はしてるけど……まだ吠えてる。
あ、片目は潰れてるみたい。
しかし、なんていうタフネスだ!
「――は、ああああぁああああっ!!」
ボクの横を、凄い勢いで白いものが通過していった。
アレは、ロロンの骨槍!
「ゲェアッ!?」
それは、エンシェントの首に突き刺さった!
やったぜロロン!すごいやロロン!!
ボクも負けてられないな!
ポーチから取り出した魔石を口に放り込み、噛んで飲み込む。
失った魔力が復活していく感覚――!
「デカイノ、撃チマス!!」
そう言い、触角に魔力を集中させる。
ヴヴヴヴ……と重低音が響き、紫電が発生する。
溜めろ、溜めろ、溜めろ……!ありったけを、溜めろォ!!
「心得た!」
兜が半壊したバリトンさんが構え、いつの間にか拾っていた斧を投げる。
「頼むぜ!」
アロンゾさんの伸びた剣が、今度は足に巻き付いた。
「逃がしゃしねえぞ……!テメエは死ぬまでそこにいろォオ!!」
斧を避けようとしたが、流石に首に槍が突き刺さって、さらに出血のダメージもあるエンシェントは動けない。
今度の斧は、左の肩口に突き刺さった。
絵面が地獄めいているけど、向こうはボクらよりも明らかにヤバい魔物なんだ!
こういう敵は……囲んで殴るに限るってね!!
「おやびん!」
アカがボクの肩に着地。
すっかり元気になった様子で、追撃の雷を叩き込んでいる。
いいぞいいぞ!ナイスアシスト!
――よし、来たぁ!充填完了ォ!!
喰らえエンシェント――磁界電磁投射砲、発射ァアア!!!!
放つ瞬間、触角が空中で崩壊するのが見えた。
ボクは反動で吹き飛ばされ、パライさんたちの方まで行っちゃった。
うおおお……魔力が、一気に抜けていく……しんどい……
「――ッカ」
ボクの魔力に気付き、こちらを向いたエンシェント。
何をしようとしたかは知らないが……もう無駄だ!
バリトンさんの投げた斧。
その下、たぶん心臓があるあたりに……風通しのよさそうな、バスケットボール大の穴が空いている。
岩に撃った時より、穴が小さい……相手の防御力によって変わるのかな?
「グ、ウゥ……」
うわあ、駄目だ、立っていられない。
倒れ込んじゃう。
ちょっと、魔力を込め過ぎた、かな?
でも、これでエンシェントも――
「ガ、ァア、オオオ……」
まだ生きてる!?
なんという出鱈目な生き物!?
「――くたばれ、畜生ォ!!」
だけど、走り寄ったアロンゾさんがその首を――刎ねた!
空中で口を何回か開閉した後、エンシェントの首は床に落ちた。
更に何回か口をあぐあぐした後……やっとその動きは止まった。
そっか、死にかけだから防御力も下がってたのか……よかった……
「おやびん!いしたべて、た~べ~て~!」「ムガグ」
あらかじめ渡しておいた魔石を、ボクの口に無理やりねじ込むアカ。
これ、アカ用なんだけど……優しいなあ、この子は。
しかし、強いけど使い所さんにやっぱり困るなあ……電磁投射砲。
威力はすっごいけど、反動も、消費する魔力も段違いだあ……
魔石を齧りつつ、ボクはしばし必殺技運用に思いを馳せるのだった。
「ムーク様、ムーク様、お加減はいかがでやんすか?」
「ダイジョブ……ロロンモ、オ疲レ。ファインプレイダッタヨ」
「ふぁ……ぷ……?」
コレ翻訳してくれないんだ……ええっと。
「獅子奮迅ノ大活躍、ダッタネッテコト」
そう言うと、ロロンは赤くなってクネクネしだした。
「うぇへへ……そ、そげなことは……へへへ……」
「アカは、アカはぁ~?」
うおっと、視界にアカが割り込んできた。
「大活躍、トッテモ助カッタヨ、イイコイイコ」
「えへへぇ、へへぇ」
とりあえず、寝転んだままで頭を撫でておくことにした。
しかし……疲れたァ……
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甲蟲転生 ~虫モチーフのヒーローが好きだとは言ったけど、虫にしろとは言ってないよォ!!森を出ましたが、ボクの無双はいつですか!? ~ 秋津 モトノブ @motonobu
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