第22話 必殺技にはリスクがつきもの、偉い人はたぶんそう言いました。

「ウオォオ……」


 パンを齧りつつ、破壊状況を確認する。

一抱えくらいあった岩が、機械でも使って削ったようになってる。

空気がなんか、焦げ臭い……イオン臭ってやーつ?


「つるつる!つるつる~!」


 アカは岩の状況が珍しいのか、楽しそうに指でなぞっている。

怪我しないでね。


 ……ふう、やっと魔力が回復した。

これは……威力に見合った消費だ。

感覚で乱暴に計算してみたけど……たぶん、さっきの電磁投射砲を撃つと魔力が8割くらい消し飛ぶ。

今確認したら、足を固定していた棘にヒビが入ってた。

とんでもない反動と消費ってことか……


『予想以上の威力ですね。恐らく、成体の大地竜や水晶竜にも撃つ場所を選べば通用するかもしれません』


 それはすごい!

必殺技だ!必殺技!!


『ですが、放つタイミングが重要です。魔力消費はもとより、充填にかかる時間も通常のものより多いですし』


 たしかに……いつもの衝撃波よりも時間はかかるし、集中も必要だった。

必殺技だもんね……使い所さんが大切だと思う。


 さて……もう1つの追加スキル、『連環撃発棘・二段』だ。

連環って、繋がってるって意味だよね?

明らかに様子の変わった右腕のことだと思うけど……どう使うんだろ?


『いつものように、右腕の棘を展開してみてください。それでわかりますよ』


 ほむり……とりあえずやってみるか。

むんっ――!?


 じゃぎぎん、と右腕から棘?が展開された。

いやこれ、棘って言うよりも……ああ、連環ってそういう……


『チェーンソー、ですね』


 そう!それ!!

他の腕の棘が腕の側面から出るのと違って、これは……肘から腕の中心を通って、60センチくらいのチェーンソーが飛び出た感じ!!

う、うわ……外から見たら痛そうに見えるけど、全然痛くない。

指も問題なく動くな……神経どうなってるんだろ?

手首は……この状態になると固定されるみたいで曲げられないけど。

肘は問題なく動くなあ。


『棘に魔力を流す感じでやってみてください』


 う、うん……

よっこい、しょぉお、おおおお!?


 ――側面に付いている細かい棘が、ギュンギュンと高速で回転を始めた。

腕が軽く振動するくらいの反動がある!


「なにこれ、なぁにこれぇ?」「アブナイ、アブナイ」


 興味深そうな様子でアカが寄ってくる。

そりゃ、こんなもん見たことないだろうしね。


 アカを手で制し……回転を止めて村の外へ行く。

あ、丁度いい木があった!

よっし……むんむん!


 ビィイイイイ!って感じで棘が木に食い込み……うん、問題なく切断できた。

……これはこれで便利!

魔力消費も、棘を飛ばすのに比べたら微々たるものだし。

でも、『射出』が付いてないから……右腕の棘はこのままか。


『魔力を纏った棘が高速回転を繰り返すのです。近距離でのダメージは高いですし、このように付いた傷は塞がり難いです。武器と打ち合えば破損させることもできそうですね』


 確かに!

今までの棘はドンッて突き刺すだけだけど、これは刺さった上にギャリギャリ肉を千切り取るんだ……コワ!


「しゅごーい!おやびん、もっとやって、やってぇ!」「ハイハイ」


 アカはチェーンソーの動きが面白いらしく、何度もボクにせがんできた。

丁度いいから、薪の足しにでもしてもらおうかな。



・・☆・・



「何カノ足シニシテクダサイ」


「おお、随分と細かく切ってきたな……お前大丈夫か?なんか角が割れてるぞ?」


 竜車まで戻り、ドラウドさんの近くに木を置く。


「成長シマシタ」


「はぁ~……虫人だもんなあ、じゃあ昨日の晩に蛹になったんだな?」


 蛹?


『一般的な虫人は蛹や脱皮で成長しますので』


 あ、そういうことね。

やっぱボクって魔物ジャンルなんじゃな~。


「ハイ」


「そうかそうか、よく見りゃ少し背も高くなってんな。一晩で様変わんのは初めて見たぜ……すげえんだな、虫人」


 はっはっは!そうなんだよ!!

さっき確かめたんだけど、前より5センチくらい伸びてるんだよね!背が!!

なお大まかな変化はそれだけでした!以上!

でも嬉しい!!


『通常の虫人は1週間から2週間かけて成長します、よく覚えておきましょうね』


 ここテストに出マース、みたいな感じで補足された。 

覚えておこう、いつか虫人の国に行った時のために。


「じゃじゃじゃ!?」


 あ、ロロン。

今日のスープも具沢山で美味しそうだね~。


「なんど神々しきお姿……!感服でがんすぅ!!」


「ウェヘヘヘ……」


 声の方は前と変わりがないけどね!

もっとペラペーラになりたい!!


「しぇば、朝ご飯でがんす!ムーク様、モリモリお食べになってくだんせ!アカちゃんも!」


「ワーイ!」「わはーい!!」


 よく気が付くし、色々賢いし……おまけにご飯が美味しい!!

ロロン、ボクはキミを仲間にできて最高の幸せ者だと思うよ!とても!!

さあ、まずは腹ごしらえだァ!!



・・☆・・



「よし、行くぞ」


 アロンゾさんの声に従い、ボクらはダンジョンに足を踏み入れた。

結局援軍は間に合いませんでした……それなら、ボクらが頑張らないとね。


「ハジン、後詰は頼んだぜ」


「おう、骨は拾ってやらあ」


「馬鹿野郎、何かあったらドラウドさんと一緒に撤退しろって言ってんだよマヌケ」


 ダンジョンに入るのは、昨日と同じメンバーだ。

残りの6人の人たち……あ、1人伝令に出たから5人か……は、入り口に残って、ボクらに何かあったら撤退することになっている。

ボクらが失敗したら、近隣へ危険を知らせないといけないからね。

ガラッドには、昨日のおねえさんがついでに報告してくれてるらしいけど。


「朝見たら角が割れてるから何かと思ったわよ、虫人さんって不思議ねえ」


 横を歩くパライさんがそう言ってきた。

まあ、ボクもビックリです。

朝起きたら右手がチェーンソーになってたからね。


「成長期ナノデ」


「あーね、ボクも昔一気に伸びた時はビックリしたなあ」


 ロイドさんのは普通の成長期だと思う。


「……なんにせよ、このタイミングで戦力が増えるのはありがたい。昨日の動きもよかったし、期待してるぜ」


「ハイ」


 無人の通路を歩く。

昨日と同じように、何の気配もしない。


「連携は昨日と同じだ、各自できることをやる。特にパライ、虎の子のタイミングはお前に任せるぞ」


「任しといて」


 ちなみにパライさんの虎の子、正式名称は【破砕ボルト】って言うらしい。

先端に……なんかこう、魔法が充填されてるらしい。

専属の魔術師に作ってもらうから、普通に買うとすっごくお高いんだって。

1本5000ガル前後だって聞いた時はビックリしちゃった。

傭兵団ってお金持ちなんだなあ。


『私の知識にはありませんが、100人規模の傭兵を派遣できる時点で強者側ですよ。零細カツカツ傭兵団は盗賊団とほぼ変わらないレベルのものもありますからね』


 冒険者もそうだけど、傭兵団も世知辛いんだねえ……超絶成果主義って感じ。


「おやびん、どしたの?どしたのぉ?」


「ナンデモナイヨ~」


 この世の不条理について考えつつ、アカを撫でることにした。


「えへぇ、えへへぇ……」


 まあ、頑張ろう。



 待ち伏せも不意打ちもなく、昨日の広場手前へと到着した。


「まずは明かりを確保する。ロイド、バリトン、頼む」


 声を潜めたアロンゾさん。

それを聞き、2人は背嚢から取り出した何本もの松明に一斉に火をつけた。

そしてそれを、前方にぽいぽい投げ始める。

あっというまに暗闇が払われた。

アロンゾさんとパライさんが、それぞれ腰に装着したランタンに火を灯す。

ボクも光石付けとこ。

よーし、これで視界は大分楽になったぞ。

ボクには暗視があるけど、自分だけ見えててもこの場合はどうしようもないし。


『――むっくん、前方に動きがあります!正面!』


 来た!魔石準備完了!

同時に魔力充填、開始!!


 戦闘の途中で使うのは慣れてないからまだ無理だけど……開幕ぶっぱなら、いける気がする!


「デカイノ、撃チマス!」


「おう、頼んだ!」「外れたらアタシが援護するわ!」


 むんむん、むん……むぅうん!!

触角に紫電が走り、重低音が周囲に響き始める。

それと同時に、奥の方から走り寄る足音が!暗視でシルエットも確認!


 充填、完了!

両足パイル展開ッ!!


――磁界電磁投射砲、発ッ射ァア!


 奥の空間に向けて、一筋の閃光が走った。


「――ッガ!?!?」 


 その光に照らされたコボルト。

そいつの胸は円状にガオンッ!って感じで消し飛んだ!


 消し飛んだん、だけど……!


「――まだ残ってやがったか!変異種!!」


 アロンゾさんが言うように、お目当てのエンシェントではなく……変異種のコボルトだった!


「ガアアアッ!!」「ギャウウウウウッ!!」


「2匹向かって来る!その後ろに、さらに1体ッ!!」


 パライさんが叫び、クロスボウを撃つ。


 ――ちくしょー!そのまま突っ込んできてよォ!!

魔力補充用の魔石を齧り、ボクは内心そうツッコミを入れるのだった。

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