第13話 異世界ディスカウント!

「おいアンタ、魔法は使えるか?」


 店主さん……たぶん店名と一緒のムガタさんが、店の奥の倉庫っぽい所から聞いてきた。


「アッハイ、使エマス」


「おう、わかった」


 そして、影からごとごとバキバキどさどさと音が聞こえてきた。

大丈夫?倉庫が崩落するんじゃない?


「これと、これと……これは、まあ持っていくか……死にゃしねえだろ」


 不穏当なワードが聞こえたんですけお!?!?

何なの!?生きてる鎧とか持ってこないよね!?


『ああ、リビングメイルをご存じですか。アレは装着すると延髄経由で中枢神経を乗っ取って……』


 やめて!今その話やめてぇ!!


「よっこいせ……と」


 ムガタさんは、鎧2つとごっついベルト?を持って帰ってきた。

それを、カウンターにどかっと下ろす。


「さて、ウチの在庫でアンタの体格に合いそうなのはこれくらいだ。順に説明してやる……まずはこれだ」


 一番右端を指差すムガタさん。

ほう……何の変哲もない革っぽい鎧ですな。

胸の部分は無くて、腹巻みたいな形だ。


「『極地蜥蜴』の革を加工したもんだ。アンタの腹の装甲を触った感じ、打撃には強そうだと思ったんでな……コイツは斬撃に対して高い耐性を持つ」


 あのコンコンだけでそれを見抜いたとは……ボクもそこらへんまるでわかんないのに!!


「手入れさえしっかりすりゃ、結構長持ちするぜ。値段も1000ガルで手ごろだしな」


 なるほど……お高い!!

武器の時点で気付いてたけど、武器防具って本当に高いんだね……命を預けるから当然だけども!


「で、次はコイツだ」


 こっちも腹巻だけど、前と後ろが金属板。

その間を皮と鎖でつなげてある。

見るからに頑丈そう。


「鍛えた鉄に『ロンド鋼』を加えたもんだ。打撃にも斬撃にも強く、下位の魔法は無効化して……中位以上の魔法でも減衰させる」


 無茶苦茶いいものですやんか!

でも、お高いんでしょう?


「値段は2500ガル」


 やっぱり!!

魔法具クラスじゃん!!


「腹は頭の次に守らなきゃいけねえ箇所だ。いくら金をかけても、かけ過ぎってことはねえ」


 で、ですよねえ。

……トモさん、そういえば超今更なんだけどボクの急所ってどこなん?

今までは人間と同じだと思って動いてたけど、よくよく考えたらこの前おへそから下が吹き飛んだじゃん?例のエルフにやられてさあ。


『頭部です。人間で言えば脳の位置が最も重要な器官になります……ですが、胴体も大事ですよ?手足に比べて修復に使う寿命も多いですし……』


 なるほど。

やっぱりボクは通常の生き物とは違う体らしい。

いや、今更~って感じなんだけど……正直ここに来るまではそれどころじゃなかったもん。

進化前は何処に当たっても即死するレベルだったし。


「で、最後がコイツなんだが」


 出た、謎ベルト。

幅広の金属製バックルが嵌まったごっついベルトだ。

でも、どう見ても鎧じゃないんだけど……?


「こればっかりは装着してみねえとどうにもならん。腰に巻いてみな」


「ハ、ハア……」


 ズシリと重いベルトを受け取り……マジで重いんだけど!?このバックルが特に!!

何の金属でできてんのこれ?鉛?

とにかく巻いてみるか……閉め方は普通のベルトと一緒だね。

これで……おへそを守れと?


「巻いたな……金具の部分に向けて、全力で魔力を流せ。いいか?全力だぞ」


 魔力を?

あー、だから魔法使えるか聞いたんだね。

それでは……むん、むん、むーん!!


 お腹の下から湧いた魔力が……ベルトのバックルに吸い込まれていく!?

ええ、なにこれむっちゃ吸われる!?全力衝撃波くらい!?


「オ、オオ、オ?」


 うわわわわ!?

べ、ベルトから銀色のスライムみたいなものが出てきて……お腹に巻き付いたよ!?

ひんやりして気持ちいい……アレだ、風邪ひいた時におでこにペタっとするアレの感触!!

へー、面白い!!


「展開できたか……じゃあそのままでいろよ。――フンッ!!」


 オギャーッ!?

急にお腹をぶん殴ってくるのはやめてぇ!?……えぇ?

……あれ、全然痛くないや。

殴られたのに、衝撃もほとんどないぞ?


「正常に作動したな。これはな、『レイオス』って金属を加工した魔法鎧だ。魔力を流すと、あらかじめ刻んでおいた魔術式に沿った形状へ変形する」


 ほおおお!?

すっごい!ファンタジー鎧じゃ!!

……ビジュアルはファンタジー腹巻なんだけどね!それでもすごいなあ、これ。


「込めた魔力で防御をして、それが無くなりゃさっきの状態に戻るぜ。解除する時はバックルのあたりに手を当てて魔力を流しな」


 言われたとおりにすると、その通りバックルに戻った。

これ、本当に便利だなあ。

かさばらないし、バックル以外は重くないし。

なによりベルトだから、ポーチと一緒に巻いていても邪魔にならないしねえ。

……でもさ。


「……オイクラ、デスカ?」


「4500ガルってとこだな」


「ムリポ」


 買えるわけがございませんわ?

こちとら全財産が1000ガルもないんですのよ?

あ、さっきの素材代と教会からのお礼は数えてないけど。

この前の酒場でのお捻りは100ガルちょいでした!

食うに困ったら吟遊詩人虫にクラスチェンジするかもしんない。


 ま、どっちにせよ買えないよ。

残念だけど。

全財産はボクのものだけじゃないし。


「待て待て待て」


「オオウ?」


 むっちゃ寄って来るじゃん。

テレビショッピングみたいに同じものをもう1つ!とかしてくれるのかしら。


「正直に言ってな、これは失敗作なんだよ。おっと!効果も大したもんだし品質もいいぜ? 問題なのはな……コイツは他の鎧と併用できねえんだ」


 ……おん?


「レイオス鋼は他の金属と相性が悪いし、革に至っちゃ腐食させちまう。だから、これだけを身につけなきゃいけねえんだよ」


 つまり、丸裸にこれだけを着用する必要がある、と?

HAHAHA!そんなHENTAIいるわけないじゃん!

……つまり現在のボクじゃん!?!?


「だから仕入れてからかれこれ20年売れてねえんだ……さすがに、そのままの値段じゃ売らねえよ」


 この口ぶりだと、この人は初めからこれを売るつもりだったんだね?

ほほう……またロロンに頑張ってもらおうかな。


「さらにだ!」


「ワヒャ」


 まだ何かあんの!?


「ちょいとした仕事をしてくれたら……さらに値引きしてやる!」


「仕事、でやんすか?ムーク様に非合法なお仕事ば、させるわけにはいかねえのす!!」


 ロロンがぷんぷんしながら割り込んでくる。


「だめ!だめぇ!」


 その頭に乗ったアカもだ。


「おいおい、なに言ってんだ?こんな昼間の、しかも往来でそんな仕事頼むわけねえだろ」


 ムガタさんは憤慨している。


 まあ、その通りではある。

いくら何でも目立ちすぎるしね。

せめて夜でしょ、夜。


「この街にゃあ地下水路が走ってるんだがな、そこへ行ってほしいんだ」


「地下水路?」


『ああ、むっくんは排泄をしませんからね……この街は下水道があるんですよ』


 へー!結構先進的じゃん。

そんなものがあるなんて。


「ああ、そこからあるものを回収して欲しいんだ」


 ……うんちかな?


『……そんなわけないじゃないですか』


 ジト目の気配がする!!

わ、わかってるよ!

ボクの渾身のインセクトボケなんだってば!!


「アルモノ?」


「ああ、鎧と剣だ」


 ……地下水路に宝箱でもあるのかな?

ボクが「?」って顔をしていたからか、補足される。


「ウチの商品を盗んだ奴がな、水路に逃げ込んだんだよ。あの野郎、昨日のコボルト騒ぎに乗じて盗みに入りやがったんだ」


 あのわちゃわちゃした状況でそんな悪い人がいたんだ。

まあ、地球でも暴動のどさくさにテレビ盗む人とかもいたしねえ。


「そこそこの品なんでな、錆びさせるにゃ惜しい。冒険者にでも頼もうかと思ってたが、丁度いいからアンタらに頼みてえんだ」


 ふむん、なるほど。


「では、盗賊の討伐も含めての仕事でやんすね?」


 あ、そうか。

昨日の今日ならまだ生きてるもんね、盗賊の人。

うわあ……期せずして転生初の盗賊討伐かぁ……

ボクにできるかなあ?


「いや、盗んだ奴はもう死んでる。ウチは会計前の商品には全部『死の呪い』をかけてんだ、呪言師を雇ってな」


『呪い専門の魔術師、その総称ですね。専門的な知識と技量が無ければ死は避けられません』


 ヒエッ!?

万引き防止タグよりコワイ防犯対策だ!!


「そしてコレだ」


 ムガタさんが、懐からピンポン玉サイズの紫の玉を取り出した。


「近くまでいけば、反応してコイツが光るからわかるハズだ。これは鍵も兼ねてるから、持ってりゃ呪いはかからん……これを持って、剣と鎧を探して来てくれ」


 ほほーう、ほうほう。

いいねいいね!サブクエスト発生!【地下水路を探索しろ】って感じ!!


「ドウシヨ、ロロン」


「ランゴさんの紹介されるお店でやんす。阿漕な話ではねと思いやんすが……」


 ふむ。

安くしてくれるって言うし、とりあえずチャレンジしてみようかな?


「魔物トカイマス?」


「街の地下だぞ?定期的に掃除されてるし、いてもネズミが精々だろ。少なくとも俺が知ってる限りはない」


 ……やってみるかな?

いいよね、トモさん。


『むっくんのお好きなように。ただし、くれぐれも油断は――』


 禁物!!


「ジャアヤリマス」


「そうか!助かった……俺ァ暗い所が一等苦手でよ、頼んだぜ」


 ボクは、ムガタさんとがっちり握手をした。

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