第14話 異世界下水は危険がいっぱい。
「ここだ、奴はここから逃げた」
ムガタさんのお店から歩くこと10分少々。
この街にいくつかあるという、下水へのメンテナンス通路の前にボクたちは立っている。
地下鉄の駅へ続くような階段の途中が、頑丈そうな鉄扉で区切られている。
その前には、立派な鎧を着た衛兵が立っていた。
「ムガタか。その連中は?」
門番っぽい感じの、槍を持った獣人さんが声をかけてきた。
「ウチで雇った。昨日のコソ泥の『遺品』を回収してもらうんだよ」
「ああ、すまんなあ……コボルトのことが無けりゃあ手伝ってやるんだが。まだ警戒中でな……よし、入っていいぞ」
がちゃり、と鍵の開く音。
重そうな外見に反し、あまり音がせずに開いていく。
結構頻繁に出入りしてる感じかな?
開いた先は、当然のごとく真っ暗闇。
底すら見えない闇の中だ。
「松明はいるか?貸してやるが……」
「オ気遣イドウモ。デモ、ボクラハ夜目ガ効キマスカラ」
優しい衛兵さんだなあ。
加えてボクには光石があるし、問題ない。
でも、結構お高いらしいので内緒にしておく。
「なるほどな、中は濡れてるから気を付けろよ。それと傷が濡れたら綺麗な水で洗うか最悪焼け、悪くすれば腐っちまうぞ」
破傷風のことかしら?
ボクとアカは大丈夫だろうけど、ロロンは気を付けてもらおう。
「ジャ、行ッテキマス」
「おう、遅くなるようなら一旦戻ってもいい。別に今日1日で見つけろなんて言うつもりもないからな」
ムガタさんも優しいねえ……ボク、この街好きかも。
「この下は特に入り組んでいるわけじゃない。もしも迷ったら太い水路に沿って歩けばどこかの出口に突き当たるからな、各所に話は通しておくから、扉の向こうから声をかければ開けるぞ」
ありがたすぎる……
「ハイ、ソレデハ」
頭にアカを乗せ、ロロンの手を引き……階段を下りた。
・・☆・・
「アンマリ臭クナーイ!!」
扉が閉まるのを待って光石を使い、首から下げ……ようとしたらアカが持ちたいと言うので渡した。
それで、階段を下まで降りてみると……広い空間に出た。
幅の広い水路の左右に、足場。
天井が高いのは、獣人さんの平均身長に合わせてるんだろうか。
そして……あんまり臭くない!
異世界の!下水道!!って聞いてたから覚悟はしてたけど……大丈夫だった。
まったく臭くない訳じゃないけど、普通に我慢できるくらいのレベルだね。
てっきり何もかも垂れ流しかと思ってた……
『そんなことをしていたら物凄い勢いで疫病が広がりますよ。ちゃんと錬金術で処理されています』
ほへー……魔術的浄化槽って感じ?
『はい、そうです。200年ほど前に開発された技術なので、大きな街はだいたいこうなっていますよ』
ほほう、やるではないですか異世界。
「ひろい、ひろ~い!」
「広イネエ」
「じゃじゃじゃ……大きな下水でやんす!これなら槍が振れやんすね!」
ロロンの興味はそこなのか。
ここって魔物いないんじゃないの?
でも、トモさんが言ってたように油断は禁物だねえ。
骨棍棒はそのままに、ボクは衝撃波と射出パイルで対応することにしよ。
ムガタさんに貰った玉を持ち、足を踏み出した。
「コッチハ反応ナシ、カ」「なし、なーし!」
とりあえず真っ直ぐ突き辺りまで歩いてみた。
足音の他は水の音しか聞こえない、薄暗い空間。
……ボク1人じゃなくてよかった。
オバケとか出そうで怖いもん。
『死霊系の魔物は近くにいると気温が下がるので、わりとすぐにわかりますよ?』
ヒィ!?そうだ、いるんだこの世界には!本物のオバケが!!
お、恐ろしや……お経とか効くのかな、あんまり覚えてないけど。
『効くわけないじゃないですか。異世界の死霊には異世界の祈りや鎮魂ですよ? 衝撃波をぶつけた方が効きます』
あ、対抗はできるんだ。
ちょっと安心。
で、突き辺りだけど、玉に変化はない。
この下水道は太くて長い真っ直ぐの水路と、そこから枝分かれした水路がある。
「ココカラハ、左右ヲ見ナガラ向コウマデ行コウカ」
「それが良がんすね」
ボクの横で骨槍を構えるロロン。
アカは光玉に魔力を注ぎ、移動式照明として頑張っている。
さて、虱潰しに探すとするか。
「おやびん、なんかいる、いるぅ!」
向かって右側の水路に入ると、耳元でアカが言った。
なんか……?
むむむ、魔力チャージ、開始!
「――チチチッ!」
お、この声は鼠かな?
ははは、ビックリして魔力なんか溜めちゃっ――
「チギャアアアアアッ!!」「ウワーーーーーーーッ!?!?」
暗がりから飛び出してきたのは、子犬くらいでっかい鼠の化け物だった。
咄嗟に放った衝撃波が幸運にも直撃し、その鼠は頭を破裂させて即死した。
――こんな化け物がいるなんて聞いてないよお!?!?
「じゃじゃじゃ、『オオドブネズミ』でやんすか。こったら街にもおるんでやんすなあ」
ろ、ロロン?
なにその名前。
『オオドブネズミ。この世界ではさほど珍しくない魔物ですね、魔法は使いませんし、毒もありません』
ムガタさん!魔物いないって言ったのに!!
『一応魔物ですが、さほど脅威ではないので害獣扱いなんですよ……むっくんは噛まれても大丈夫ですが、ロロンさんには注意してくださいね』
くそう!異世界なんて大っ嫌いだ!!
これからは常に魔力を充填しておこう、今の手応えだと速射衝撃波程度でなんとかなりそうだ!
「この狭さだど……」
ロロンは槍を背負い、腰から二本のナイフを抜いた。
オオムシクイドリの牙を使ったやつだ、解体用じゃなくってよかった。
「おやびん、いっぱい、いっぱーい!」
「マジデ!?!?」
暗がりの中を進む、無数の足音と鳴き声。
鼠は群れで生活してるもんなあ!オノーレ!!
『アカ!数が多い方に向かって雷撃!水路に思いっきり撃ち込んじゃって!!』
『――あいっ!』
光玉の光量を越える明るさで、アカの周囲に雷が纏わりつく。
「ロロン!目ヲツムッテ!!」
「にゅにゅにゅ……えぇ~いっ!!」
ロロンに注意した瞬間に、アカの稲妻が水路を這うように闇の中へ。
放電によって、狭い水路の奥までがくっきりと照らされギャーーーーーーーッ!?!?!?
ね、ねねね、鼠の、鼠の群れェエエエエ!?!?
「ジ!?」「ギャ!?」「ッチ!?」
ボクが未来から来たネコ型ロボットだったらショック死しそうなその群れを、稲妻が蹂躙していく。
僅かに地面が濡れていたのか、鼠たちは一瞬で動きを止めて痙攣し、倒れた。
「……アカ、ダイスキ、アリガト」
「えへぇ!アカも!アカもおやびんしゅき!!」
頼もしくって泣きそう。
涙腺ないけど。
ともかく、進行方向の鼠は全滅した。
ここではアカがメインアタッカーになるから、後で補給用の魔石を渡しておこう。
「ムーク様、おもさげながんす!ワダスの魔法では各個撃破が精々でやんすぅう……!!」
死ぬほど申し訳ない!!みたいなロロン。
ここって煉瓦造りだけど、土魔法は使えるんだ?
『空中から杭を生成、射出できる『土礫』というものがあります。元からある土を使えない分、魔力効率は落ちますが……』
へえ、魔法ってすっごいや。
「イイノイイノ、怪我ダケハ気ヲツケテ。不意打チニハ注意シテネ」
「な、なんどお優しぎお言葉……合点!」
ロロンはすごく元気になったようだ。
よかったよかった。
そして……この先は行き止まりだね。
玉に反応はないし、行っても鼠しかいない。
下水に浸かった鼠は食べたくないし、次に行こう。
『まあ、むっくんが贅沢に……ふふ、女神ジョークです』
やめてくれませんか!!
「アカ、オ疲れ様。休憩シテテ」
「あい~……」
見通しのいい水路で足を止める。
すると、アカが頭にへちょりと縋り付いた。
ここへ来るまでに目当ての反応はなく、鼠だけがバカみたいにいた。
アカはその度に雷撃魔法で殲滅してくれてたけど、さすがに疲れたみたい。
「ボクラモ頑張ロウカ、ロロン」
「はいっ!お任せくなんし!!」
アカには魔石を食べてチャージしてもらう。
ボクは光玉を受け取り、首にかけた。
もう、半分くらいは確認したんじゃないかな?
そろそろ本命にたどり着きたいところだけど……む、むむ?
――玉が、紫色に発光している。
おー!言ってみるもんだね!
幸先がいいZ……待てよ?
「ボクラ、動イテナイヨネ? トイウ、コトハ……!」
「――ムーク様ァ!前方!!」
といことは、『向こうが動いて』いるってことか!
なんだ、呪いで死んでなかったのか、盗賊さん!!
「先手必勝ォ……!オーム・ビゼーセ・ビゼーセ……」
ロロンの左右の空間が歪み、塵が集まり、鋭い円錐状の槍になった。
「ラクタ・ログ・スヴァーハ!!」
1対の槍が、ドリルのように回転しながら射出される。
ボクもそれに合わせ!衝撃波、発射ァ!!
暗がりの中から、肉に刃物が突き刺さるような音が響く。
ボクの衝撃波も命中したようだ。
なんとなく、わかる。
「――ギ!?ガ、ガギャ!!キシャアアアアアアアアッ!!」
うえ!?
な、なんだこの声!?
盗賊っていうか、人間の声じゃないっ!?
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ぞる、と闇から出てきたのは……牛くらい大きい、鼠だった。
嘘でしょォ!?
『アレは……オオドブネズミモドキ!!』
あ、混乱するから気にすんのやめとこ!!
ちくしょう!!この世界の魔物図鑑作った奴出て来い!!ぶん殴ってやる!!
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