第12話 装備を買いに出かけよう!!

「アダマ、イダイ……」


 どうやって帰ったかもわからない宿の部屋で、ボクは目を覚ました。


「んみゅむ……ふにゃむ……」


 アカはボクの触角に抱き着いて眠っている。

もう、ソレ危ないからやめてって言ってるのになあ……寝てる間に手が切れたら大変でしょ。


「すひゃあ……すひゃあ……」


 そしてボクの横では、バウムクーヘンみたいに丸くなったロロンもいる。

いつも早起きしてボクを起こしてくれるのに、お酒の力って怖いね。

もう少し寝かせてあげよっか。


「ムグググ……」


 それにつけても頭が凄く痛い。

割れそうだし、胸までムカムカする。


 ボク、毒は普通に効くらしいけど……乱暴に言えばお酒も毒ってことかあ。


『半日分の寿命で解毒できますが、どうしますか?』


 ……お願いします、これじゃ何もできないや。


あとトモさーん、ボク昨日の飲み会の途中から完全に記憶がないけど、何も変な事してないよねえ?


『大丈夫です、楽しいお酒でしたよ?アカちゃんとロロンさんを抱っこして……日本語の歌を熱唱していたくらいですかね?』


 無茶苦茶変なことしてるじゃん……


『後でポーチを確認しておいてください。酒場のお客さんからおひねりも結構貰っていましたし』


 ボクには吟遊詩人の才能があった……?


 あ、あああ~……楽になった、一気に。

さようなら、半日分の寿命くん。

後で魔石齧っておこう。


『でもメグさんには謝っておきましょうね?』


 何したのボク!?


『オリガさんと別れた後、むっくんは踊りながらここへ戻ってきて……心配して近寄ってきたメグさんを頭上に持ち上げてまた熱唱していました』


 ……もうお外歩けない。


『大丈夫ですよ、マーサさんには大好評でしたから』


 ……その、ランゴさんは?


『むっくんに下心が一切なかったのがわかったのでしょう、『変な所触ったら真っ二つにしてやる』とは言っていましたが、無事です』


 ……朝ご飯の時に本場仕込みのDOGEZAを披露する必要がありそうだね。

やった記憶はないけれど、概念は知ってるから。


 いやーしかし、昨日は大変だったなぁ。

街の様子ってどうですか?


『コボルトの死体もすっかり片付いていつも通りです。昨日の時点で酒場が再開していましたし』


 そういえばそうだった!!

ここの皆さん、逞しすぎる!!

で、門ってもう解放されたの?


『いいえ、まだ完全にスタンピードが収まったかどうかわからないので、あと何日かは様子を見るようですね』


 ふむふむ、なるほどね。

まあ1週間くらいは泊まるつもりだったからいいけども。


 さて……今日は何しようかな。

ロロンが起きたら改めて相談するけど、旅の必需品はもう買っちゃったし……街を見て回ろうかな。

ここって結構大きいから、1日じゃ回り切れないかもしんないけど。

前にドラウドさんが言ってた地獄焼きってご当地グルメも食べてないし……


『あら、それでしたら私から提案がありますよ』


 お、なになに?


『――武器屋に行きましょう、むっくん』



・・☆・・



「オ~……」「ふわ~……」


 今日も美味しい朝食に舌鼓を打ったあと、トモさんのアドバイス通りにボクらは武器屋にやってきた。

宿から歩いて10分くらいで、なんか……煙突のいっぱい立っている区画にあった。

鍛冶関係のお店とかそういうのが密集してるのかな?


 あ、ちゃんとメグさんには神聖虫式土下座をしてから出発したよ。

『昨日の歌、また聞かせてくださいね!!』って言われたけど、どの歌か皆目見当がつかないです!

ランゴさんにも許してもらったし、開き虫人になる未来は回避できたと思う!


「すんすん……いい鋼の匂いがしやんす!さすが城塞都市、品質もえがんす!!」


 ロロンは妙な部分に感心しているが、ボクとアカは物珍しそうに見ることしかできない。


 ここは、簡単に言うと『武器と防具の店』ってやつだ。

城塞都市というだけあって、ここには武器防具の需要が高いらしく……そこら中に似たような店がある。

ボクらは右も左もわからないので、ランゴさんに教えてもらったここに来た。


 ……その時に聞いたけど、やっぱりあの人元は傭兵さんだったみたい。

色んな戦場で稼いで、生まれ故郷のここへ帰ってきてあの宿を開いたんだって。

人に歴史ありですなあ。


 『ムガタ』と、そっけなく書かれた看板。

しかし、そのそっけなさに反して……道に面した部分には、手入れの行き届いていそうな武器と防具の数々。

向かって右側が武器ゾーン、左側が防具ゾーンって感じの分け方なんだね。


「きらきら、きらきらぁ!」


「ソウダネェ!」


 アカは並んでいる武器に見入っている。

いやあ……ボクもテンションが上がる!

まさにファンタジーって感じ!


 様々な長さ、大きさの剣、槍、斧、それに……よくわかんないけど強力そうな武器!

RPGで見る光景そのものだね!

どう使うのか想像もできない武器まで沢山!


『むっくん、とりあえず店主さんに』


 あ、そ、そうでした。

今回の主目標を完全に忘れてた!

えっと、店主さん店主さん……あ、いた!


「スミマセン」


「客か、何の用だ?」


 奥の暗がりに……筋骨隆々の小さいオジサンがいた。

あの人はまさか……!


『ドワーフですよ、むっくん』


 やっぱり!

ムッキムキの体に、スキンヘッド。

そして胸くらいまで伸びている豊かな髭!!

THE・ドワーフだ!!


「こんにちは店主さん、ランゴさんにご紹介されで……」


「ランゴの坊主にか、それで何の用だ?」


 ボウズぅ?

この人いったいいくつなんだろ。


「まずは素材の買取をばお願いいたしやんす。ムーク様」「ハイ」


 店主さんの近くまで行き、彼の座っている前のテーブルに大き目の袋を置く。

ポーチから取り出したものだ。


「オ願イシマス」


「買取か……ふむ」


 袋を開け、店主さんがテーブルに中身を出す。 

どさー、と出てきたものは……今までに狩った魔物の一部だ。


「オオムシクイドリの素材だな」


 一発で見抜いた!

凄い目利きだなあ……


 ますは狩った素材を売る。

以前の解体屋でも買い取ってもらえるけど、武器防具の素材になるものは個人店に持ち込んだ方がいい。

……と、ロロンに聞いた!


「牙、爪 、鱗、翼膜に……腱か。最低限の選り分けも出来てるようだな、鮮度もいい……よし、買い取ろう」


「ありがとうござりやんす!」


 ロロンの手柄だねえ。

解体も丁寧だったし、ボクなんか指示に従って動いてただけだもんね。


 まだまだポーチの中には素材が詰まっているけど……一度に出すと膨大な量になる。

腐るようなものはないし、今回はこの程度にしておくんだ。

オオムシクイドリの素材は、的確に処理すればかなり長持ちするんだって。

トモさんとロロン情報です。


「……これでそうだ?」「じゃじゃじゃ、いぐらなんでもご無体でがんす。これほどの状態ならば、もうちくっと色を……」


 白熱する商談。

ボクはアカと一緒におとなしくしている。

何もできないので。


 ほ~……あの剣すっごいなあ。

刃の部分がボクの身長よりも長いや。

幅も広いし、無茶苦茶重そうだ……『それは剣と言うより鉄塊だった』ってやーつ?

お値段は……いちじゅうひゃくせんま……おおう、おおう。

お高いんですね……

 あ、あっちには刃の部分がドリルみたいになった槍がある!

魔石を嵌めるみたいな穴があるから動くんだ!アレ!

ドリルランスか……興味は、ある!

お値段は……うん、うん、無理。

武器ってお高いんですねえ。



・・☆・・



「アンタ、ロロンとか言ったな。たいした商人っぷりだぜ」


「おありがとうござりやんす!」


 並ぶ武器のお値段にガクガクしていると、商談が終了したらしい。

結構な額を袋に移し、ロロンはホクホク顔をしている。

反対に店主さんは『参ったなぁ』みたいな感じ。

薄々思ってたけど……ロロンは買い物上手なのかもしれない!

素晴らしき旅の仲間よ……


「ムーク様、これを」


 重たい袋を受け取り、ポーチへ入れる。


「イイコイイコ」「うへぇっ!?も、もっだいね……」


 頭を撫でておく……アカはなんでボクの逆の手を持ち上げてるんだろう。

とりあえず撫でておく。


「えへぇ、えへへ」


 可愛いからいいや。


「さてと、買取だけじゃねえんだろ?」


「ア、ハイ。防具ニツイテゴ相談シタクテ……」


 もう一つの本題に入る。

ボクの防御力は、どうやらそんなに低くはないらしい。

ないらしいが、高くもない。

急に硬くなるのは無理なので、防具で補強することにした。

いくつもの魔石をアカと半分こしながら食べてるけど、まだ進化は遠そうだし。


「アンタか?それともロロンか?……ウチにゃあ妖精用の防具はねえぞ?」


「ボクデス」


 ロロンは魔法の鎧があるし、アカは着込むと飛べなくなりそう。

目下一番防具が必要なのは、ボクだ。


「ふむ……そこで回ってみな」


 指示に従って回る。


「背中に1対の腕があるな?そこは塞げねえな……ふむ」


 胸の装甲をコツンと叩かれる。

見ただけで隠形刃腕を見抜いたね、この人。

普段はちょっと盛り上がった肩甲骨にしか見えないのに。


「上半分の強度は高ェな。そんなら……」


 お腹をコツン。


「鳩尾から腹周り、か。待ってな」


 それだけ言って、店主さんは店の奥に消えていった。

ゆ、有能だ……!ボク何も言ってないのに……!

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