第11話 傭兵さんは脳筋さん。
「なあるほど、いい面構えしてらあ。ここいらじゃ虫人さんを見るのは珍しいから、すぐに分かったぜ」
全身鎧……フルプレート?っていうんだっけ。
とにかく、扉から入ってきたライオンの獣人さんはボクを見て笑った。
ひええ……立派な牙ですね。
腰には立派というか、使い込まれている感じのいかにも強そうな剣が下がっている。
「アルマードの嬢ちゃん、アンタにも世話になったようだなあ」
「い、いいええ、ワダスはちくっともお役に立てず……」
ロロンが恐縮している。
気にしないでもいいのにい。
ライオンさんが、対面の椅子にどかりと腰を下ろした。
「俺はアロンゾ、『赤錆』で傭兵をやってるモンだよ。この孤児院出身でね……出先でスタンピードの話を聞いて慌てて戻ってきたんだが……」
一息で話し、ライオン……アロンゾさんは置かれていたコップを煽って喉を鳴らした。
「ぶはあ!……門前で変異種5匹倒してよ、これでしまいかと思ったんだがよ……こっちにもう1匹逃げたって聞いて肝を冷やしたぜ!それで、来てみりゃ親切な虫人さんが助けてくれたってわけさ!」
ああ、なるほど。
『にいさん』って呼ばれてたのはそういうことね。
メプリさんもここ出身だったんだな。
……それにしても聞き捨てならないワードが出て来たよね。
あのクソデカコボルト、他に5匹もいたんだ!?
よ、よかった~……こっちに全部来なくって。
ていうか、あの魔物を5匹倒してどこも怪我してないなんて……アロンゾさん凄く強いんだなあ。
まあ、他に傭兵の仲間もいっぱいいたんだろうけども。
「イエイエ、タマタマデスヨ、タマタマ。ソレニ、死ニカケマシタシ」
謙遜ではないですよ?
アロンゾさん絶対ボクより強いですし。
「はっは!奥ゆかしいねえ……まあとにかく、ここ出身として改めて礼を言う。アンタのお陰でガキどもが助かったんだ、アンタ……そういや名前聞いてねえな?」
「ムークデス」
ごめんなさい、でも名乗る暇なかったもん。
「ロロンと申しやんす」
慌ててロロンも名乗り、頭を下げた。
「ムークさんに、ロロンさんな。本当にありがとうよ」
そして、アロンゾさんは深々と頭を下げた。
「あの、これをどうぞ。兄さんも摘まむ?」
メプリさんが、お皿に乗った飲み物と……クッキー的なモノを持ってきた。
「おお!ありがてえ、メプリの茶菓子は絶品だからなあ」
アロンゾさんはテーブルの上に乗った皿からクッキーを掴みとり、バギバギと音を立てて齧っている。
……すごい音ですね?
いい匂いだけど!
「もう!兄さんだけの分じゃないのよ!……ムーク様、ロロン様、あの、どうぞ」
「イタダキマス」「いただきやんす!」
ボクも手を伸ばして1枚掴む。
ぼぎ、ぼぎぎ……ばりばり。
硬ァい!!香ばしくってとっても美味しいけど硬ァアい!!
なにこれ!?獣人さん的にはこの硬さがベストなんですか!?
「んめめなっす!んめめなっす!!」
ロロン的にはOKらしい。
ニコニコしながらバリバリ食べている。
「オイシイデス、トッテモ」
新しい飲み物を飲m――これコーヒーじゃん!?!?
厳密にはタンポポコーヒーみたいな感じだけど!美味しい!!
苦味の中にほのかな甘みがコンニチハしてて美味しいっ!!
「お、虫人でも味の分かるお人じゃねえか!ささ、どんどん飲んでくんな!」
「兄さんがなんで自慢げなのよ!……ふふ、でもいっぱいお代わりしてくださいね?」
ふむん、コレ苦手な人っていうか……虫人さんたちはNG的な飲み物なんかな?
『それはケマという獣人族の伝統的なお茶ですね。苦手と言うか……この原料になる植物がトルゴーンにあまり生えていないので、飲み慣れてないということでしょうね』
ほほう、なるほど。
それじゃあこの国を離れる時にはいっぱい買い込んでおこうかな。
「はあぁ~、里を思い出しやんすぅ……」
ロロンも大満足のご様子でよかった。
やっぱり、いっぱい買い込もう。
「いやあ、安心したら力が抜けっちまったよ。今晩はここに泊まろうかねえ」
「子供たちも喜ぶからいいけど、団長さんにはちゃんと断っておくのよ?」
「わーかってる、わかってるって!」
ふふ、微笑ましい。
羊とライオンだけど、いい兄妹っぷりだねえ。
ほっこりしちゃう。
「――アロンゾぉ!!どうせここにいるんでしょぉお!!」
うわビックリした!?
庭の方から女の人っぽい声がしたねえ!?
「……うわ、来やがった」
アロンゾさんは面倒くさそうに頭をかいている。
「来やがった!じゃないでしょ!先輩に向かって失礼よ兄さん!!」
庭の方も騒がしくなった。
「とらねーちゃ!とらねーちゃ!」「あそびにきたの~?」「ふわふわ!ふわふわぁ!」
「だーっ!ちょいと待ちなって!お土産は後で持ってきてやるから……えぇ?ここ妖精まで引き取ってんの!?」
子供たちの他に、アカの声も聞こえる。
馴染んでるなあ、すごく。
急ぐ足音が続いて扉がばぁんと開き、その人が入ってきた。
「やあっぱりここにいた!あのさ!心配なのはわかるけど片付けくらいしていきなよアロンゾ!!被害はなかったって報告もあったのにさァ!!」
そこには、アロンゾさんと同じような鎧を着た……虎っぽい女の人がいた。
カラーリングはシベリアタイガーみたいで、ケモ度50%くらい。
首元から毛皮がふかふかしてるけど、顔は女の人っぽいね。
しかし背が高いなあ……2メーター近いんじゃない?
ボクももう少し背が欲しいですなあ。
「おやびん!ふかふか~!」
その頭頂部というかケモミミをもふっていたアカが、ボクの方に飛んできた。
たしかに、あの耳は触り心地がよさそうだね。
でもいきなり触るのはNGだぞ。
「あ~……スイマセン、姐さん」
「ったく、副団長が怒ってたよ!後で詫び入れときな!!」
苦笑いしながら、メプリさんが追加の飲み物を持ってきた。
「兄さんがすみません、オリガさん」
「ま、このケマに免じて許してやるよ……で、アンタらがコボルトをやったって連中かい?」
お、こちらに目線が来た。
正面から見るとめっちゃ目力が……強い!!
「アッハイ、ボクラハ……」
・・☆・・
「さ、遠慮なくかかってきな!」
「ハイ……」
庭で、虎の獣人……オリガさんと向かい合っている。
どうしてこうなった?
『オリガさんがむっくんの力量に興味を持ったからじゃないですか。虫人と組手なんてしたことがないから、とのことで』
ええ、そうでしたね。
いや、それも含めてどうしてこうなった。
ボクは宿に帰って泥のように眠りたいのにぃ……
体は完全に治ってるけど!心はメタメタなんですぞ!!
大丈夫だって言わなきゃよかった!謙遜するんじゃなかった!!
おかしい、コボルトとの戦いを説明していただけだというのに……
「おやびん!がんばて!」「ムーク様ァ!大振りは禁物でがんすゥ!!」
子供たちに混ざったアカたちの声援が耳に痛い。
あ、ちなみにアロンゾさんはお尻を蹴られながら後始末に帰っていった。
あんなにガンガン蹴るオリガさんも、蹴られてもたいしてこたえた様子のないアロンゾさんも怖かった。
「ムークさん!さ!遠慮しないで!どんどん!どんどん!!」
そんな……料理を食わせまくる定食屋じゃないんだから。
だけどこれ……やっぱり戦わないと収まらないだろうなあ。
『心配しなくても、彼女はかなりの強者ですよ。万が一にも事故が起こる恐れはありません』
いや、心配してるのはボクの体だよ。
武器ナシ魔法ナシ素手のみの組手だって言うけど、あの鎧ぶん殴ったらボクの手首へし折れるんじゃないのォ?
『胸を借りましょう、むっくん。手首が折れても寿命がありますので』
嫌なセールスポイントだなあ……し、仕方ない、やるか!
「ジャア……イキマス!」
拳を握り、オリガさんの方へ走る。
ええと、大振りは駄目だってロロンが言ってたよね?
それなら――まずは右のジャブ!
「おっ!なかなか速い、じゃないか!!」
「ゴブーッ!?!?!!?!?」
アッサリ避けられ、カウンターの拳が鳩尾に突き刺さってボクは吹き飛ぶ。
こ、こんなの……森で喰らった猪くんのタックルよりも何倍も強力じゃん!?!?
「ゴバー!?!?!?!?!?」
そのまま地面に倒れ、何度も後転を繰り返して止まった。
んめ、目が凄い回る……
「おー!凄いじゃないかムークさん!綺麗な受け身だ!それに……かったいねぇ!手が痺れちゃったよ!!」
オリガさんはむっちゃ楽しそうです。
ボクは帰りたいです、ここではないどこかへ。
っていうか硬くないでしょ、コボルトの魔法でグサーってなったんだから。
『いえ、あの魔法は一般的な鎧程度は楽に貫通しますよ?むっくんは防御力に不満がおありなようですが……その形態に進化してから今までに受けた魔物の攻撃は、どれもこれも致死レベルのものです。むっくんが柔らかすぎるのではなく、向こうの攻撃力が高すぎたのですよ』
今明かされる衝撃の事実!!
今までの相手が悪すぎたのか!!
やっぱりあの森ってクソゲーだったんだ!!
「さ!こたえてないだろう?どんどん来なよ!ムークさん!」
「ムググ……」
帰りたい、凄く帰りたい。
けど……あああ!アカとロロンがボクを!期待のこもった目でご覧になっていらっしゃる!!
おやびん権威失墜のピンチ!ピンチですわよ!!
やるしか、やるしかないんじゃ!!
ちくしょう!だいたい今日会ったばっかの他人に模擬戦申し込むとかなんなのォ!?
戦闘民族すぎるじゃろ!!
「オウリャアーッ!!」
ボクは、諸々の気持ちを抱え込んで立ち上がり、そして突撃し――
・・☆・・
「アレだね!ムークさんはタフだしやる気もあるけどさ、攻撃が正直すぎるんだよ!魔物相手だったらそれでいいのかもしんないけどさぁ、旅してりゃあ盗賊なんてのも山ほど出るんだ!もうちょっと性格を悪くっていうか……工夫した方がいいねぇ!」
「ファイ……」
ボコボコにされましたとさ、めでたしめでたくもなし。
だが、健闘をたたえてくれたのか……ボクらは孤児院の近くにある飲み屋さんでご馳走になっている。
アカは果物の盛り合わせを齧りつつ、鳥の丸焼きに頭からかぶり付いて楽しそう。
ロロンは……勧められたお酒をひと舐めするかしないかくらいで真っ赤になって眠り出した。
お酒に弱すぎる……健康的でいいね!
そしてボクは、オリガさんに肩を組まれながら無限にお酒を飲まされているってわーけ。
「いやーでもすっごいガッツだよ!ウチの若い連中に見習わせてやりたいねえ!さ!飲んだ飲んだ!」
「ゴボーッ!?!?」
やめろください!いくら異世界でもアルハラはやめろください!!
あとお酒がどれもあんまり美味しくないんだよ!!
それにボク、生後一年未満なんですけど~!!!!
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