第9話 死闘、クソデカコボルト!
「はひゃあ!?む、むむむムーク様!?」
「舌噛ムヨ!黙ッテテ!!」
道から上空に舞い上がり、再度衝撃波。
もう一段高く飛び――落下が止まる。
頭に抱き着いてるアカの念動力だ!さっすが自慢の子分!
平屋建ての家々を見下ろし、コボルトの逃げた先を見る……あからさまな教会っぽい建物見っけ!!
それじゃあ、カッ飛ぶぞ!!
最大溜め衝撃波を、背後に放出。
腕の中のロロンが軽く悲鳴を上げ、周囲の背景がぐんっと加速する。
おおお、街中を飛ぶなんて新鮮!
ねえねえトモさん、コボルトって子供食べるの!?こんな街の奥までダッシュしてくるくらいに!?
いきなり飛び出してきちゃったけどさあ!
『いえ、コボルトは老若男女問わず捕食します。孤児院ではなく、教会の方が主目的なのでしょう』
教会に?
それじゃ、やっぱり懺悔が目的なのかな。
『恐らく魔石でしょう』
魔石ぃ?
なんで教会にそんなものが?
――おっとと!屋根を蹴ったら割れちゃった!?ごめんなさい!!
再度ジャンプゥ!!
『ある程度以上の規模の街になると、緊急時に魔物避けの結界を発生させる目的で教会に大型の魔石が設置されています。恐らく、あの変異種はそれを食べるつもりなのでしょう』
魔物避けの結界!?
え、そんなもんがあるならなんで今攻め込まれてるの!?
『いつでも展開させているわけではありませんよ。この街がどうかは知りませんが、展開には普通、領主の承認が必要なのです』
はーなるほど。
そっか、コボルトは魔物だもんね。
ボクみたいに魔石をボリボリできるってことか。
んで、行き掛けの駄賃的なやーつで孤児院も襲う、と。
『ええ、教会は孤児院が併設してあることがほとんでですし』
むむむ、それなら急がないとね!
なんでもかんでも助けるほど万能じゃないけど、流石に子供むしゃむしゃは容認できないよ、ボクは!
助けられるなら助けなきゃね!
『ふふ……それでこそ、むっくんですよ。トモさんポイントを進呈しましょうね』
初めて聞いたポイント制度が生えてきた!?
転生して以来初なんすけど、そのポイント!?
溜めると何に使えるん――
「む、ムーク様ァ!あれ!あれを!!」
「たいへん!たいへん!」
ウワーッ!!コボルトの足が意外と速い!?
もう教会の敷地に入りそう!!
なんか、神父さん的な人が通せんぼして……おおう!火炎魔法を撃った!
あ、でもシュっと避けられてる!
あああ!動きが速い!でも、ダッシュは止められたね!
それなら――
「突ッ込ムヨ!!」「は、はいぃ!!」
ロロンをきつく抱えて、最大級の衝撃波を放つ。
景色が歪み……あっという間にボクも教会に近付く。
「――オウリャアアアアアッ!!」
そのまま、足を突き出した格好で突っ込む。
接近に気付いたコボルトが、こちらを見た。
うひゃあ、怖い顔!!
獣人さんとは全然違うや!
「ええーい!!」
アカが放った稲妻、そしてボクの蹴りは惜しくも外れた。
だけど、時間は稼げた!
コボルトの横を通り過ぎ、教会前の庭の地面を抉りながら着地した。
芝生が、下の地面と一緒にボロボロになる!ごめんなさい!!
ぎゃりぎゃりと止まり、ロロンを下ろす。
「あ、あなた方は――!?」
さっき魔法を撃ってた神父さんが話しかけて来たけど、ちょっと今忙しいですう!
「通りすがりの旅人でやんす!助太刀いたしまっす!!」
ロロンに対応を任せて、棍棒を握って振り向く。
ボクの蹴りを避けた体勢で、でっかいコボルトがこちらを睨んでいる。
うわ、ノーマルコボルトと違って迫力満点だ。
顔も狼っぽい……!
「ハルルルルル……!」「ゴ、ゴルルルル……!!」
『なんでむっくんも唸るんですか』
なんか、その、なんとなく?
「えぇえい!!」
と、アカの稲妻。
隙を突かれたのか、今度はコボルトに直撃!
ナイスプレイ!!
「ギャッ!?ガ、ガガ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」
なにぃ!?
感電を気合で消し飛ばしたァ!?
なにその技!
「ガアアアウ!!」
いかん!アカにヘイトを向けられちゃう!
「コッチ、ダヨッ!!」
右手で棍棒を担ぎ、フリーな左手の棘を射出!!
両足のパイルを同時に展開、地面に体を固定する。
喰らえッ!!
「ギャンッ!?!?」
体の中心を射抜くつもりの棘は、ギリギリで避けられた。
だけど、ヤツの左腕を掠って血飛沫が飛ぶ。
――よし、続けて速射衝撃波、どうぞッ!!
どどん、と放った衝撃波。
それを……ヤツは上空へ飛び上がって避けた。
やっば、こっちに来る!?
「えぇいッ!!」「ギャン!?!?」
空中のコボルトに、アカの稲妻が直撃。
体をこわばらせ、そのまま落ちてくるコボルトに――
「っせいやぁああああああっ!!!!」
ボクの横を走り抜けて加速し、低い体勢から突き出されたロロンの骨槍が――コボルトのお腹に食い込んだ!
どず、と鈍い音がする。
よし、ナイス連携!
ボクよりもチームワーク発揮してない?
「んなっ――っが!?!?」
だけど……ロロンは焦った声を出した後、横方向に吹き飛んだ。
そのまま、敷地内の生け垣をいくつか砕きながらゴロゴロ転がっていく。
「ロロン!?」『――鎧のお陰で大丈夫です!気を逸らさないで!!』
くっそ、よくもロロンを!!
着地したコボルトの手には、血の滴る骨槍が握られている。
あいつはお腹に刺さった骨槍の刃を掴み、それ以上刺さらないようにして余った手でロロンを殴ったんだ。
なんて、反射神経!
「グルルルルル……!!」
コボルトが槍を放り捨て……右手を前に出した。
すると、足元の土が盛り上がる。
うええ!?あれって土魔法!?
盛り上がった土がコボルトに到達するよりも早く、ボクが衝撃波を放つ。
「ガアッ!!」
ああくそ、空中で搔き消された!?
そのまま殴りかかればよかった!
土がコボルトに到達し、棍棒の形を取る。
「ウオオオッ!!」
棍棒を両手で握り、飛び掛かる。
「ガアアアアッ!!」
ボクの棍棒とコボルトの棍棒がかち合う。
うぐぐ、なんて力だ!?打ち合った手が痺れる!!
「オオオオン!!」
横薙ぎをバックステップで躱すと、コボルトの棍棒が翻って上から降ってくる。
切り返しが速い!っぐ!?
なんとか防御するも、あまりの勢いに足が地面にめり込む。
きっ、きつ……だけど、この体勢なら!!
――『隠形刃腕』、展開!!
「ギャンッ!?!?」
背中から展開した刃が、両脇の下を通ってコボルトの両脇腹に突き刺さった。
でもかったい!?すごくかったい!?
半分も刺さらない!
「ガウウウウウッ!!」
いっだァ!?く、首筋に噛みつかれた!?
ぶちぶちって嫌な音がする!
だ、だけど!だけどォ!!
「――喰ラエッ!!!!」
頭は狙えないので、鳩尾付近から発射するイメージで衝撃波!!
コボルトの体が浮く。
もういっちょ!
さらにコボルトが揺れ、首筋から歯が外れた!
食い破られた傷口から、体液が噴き出す。
「グ、ヌウウ、ウ!!」
よろめいたコボルトに、頭突き!
触角が顔面に直撃し、一筋の切り傷を付けた。
よし!更に衝撃波を叩き込んで――
――体に、衝撃と痛み。
地面から生えた鋭い棘が、ボクの鳩尾に食い込んで背中から飛び出た。
つ、土魔法……!?
「ムーク様ァ!!」「ギャンッ!?!?」
横合いから必死の形相で飛び出したロロンが、鋭い棘の生えた肩をタックルの形でコボルトに叩き込んだ。
完全に不意打ちだったから、コボルトは棍棒から手を離して横に倒れる。
「おおおおっ!!」「ギャガッ!?!?」
ロロンは地面から拾い上げた骨槍を反転させ、倒れたコボルトの右足を地面に縫い留めた。
「ヌ、グウウウ!!」
激痛を訴える体を無視し、魔力を右腕に纏わせる。
腕の鎧に、内側からの魔力によってヒビが入る。
「ギャ――!?」
魔力に気付き、コボルトが身を捩るけど……ロロンがしっかりと槍で止めている。
「――モッテケ、コンニャロ!!」
十分な魔力を纏った棘が射出され、超近距離でコボルトの胸に命中。
反動が襲い掛かって、鳩尾に刺さった土の槍が破損し、3メートルほど後ろへ飛ばされる。
「ッゲ――!?」
コボルトが目を見開き、血を吐く。
ボクの棘は、コボルトの胸を貫通して地面に突き刺さっている。
「このォッ!ばか、ばかーっ!!」
「ギャ――」
アカが叫び、いつものような赤色じゃなくてガスバーナーみたいな青色の炎球がコボルトの顔面に直撃。
接触した瞬間に、爆弾みたいに爆発した。
「オ、オオオオ!!」
痛みをこらえ、お腹から槍を生やしたまま……顔面が炎上してもがくコボルトの首を蹴って踏みつけた。
そのまま――パイル!二段階!!
「ギュ、ゴ!?……ォオ、ァアアア!!」
「ッギ!?!?」
ボクの棘が首を貫いたコボルトは――死ぬ前にもう一度魔法を使った。
ギャアア!?お腹に埋まったままの槍が、イガグリみたいな形にィイ!?
む……無茶苦茶!無茶苦茶痛ァイ!?!?
「カ……ハ……」
コボルトは息を漏らし、その目から光が消えた。
そして――ボクも立ったまま失神した。
「おやびん!おやびーん!!」
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