甲蟲転生 ~虫モチーフのヒーローが好きだとは言ったけど、虫にしろとは言ってないよォ!!森を出ましたが、ボクの無双はいつですか!? ~
第8話 ほほう、ボスバトルですか……大したものですね。なんでこっちくるの!?
第8話 ほほう、ボスバトルですか……大したものですね。なんでこっちくるの!?
「【跳ね橋】のロロン!義によって助太刀いたしやんす!!」
「おお!?コイツは威勢のいい嬢ちゃんだ!」
「だけんど無理すんじゃねえぞ!コボルトごときで死んじゃあ大損だかんな!!」
大通り。
さっきの場所から少し前進した場所に、小規模な集団がいた。
ロロンを先頭にしたボクたちは、そこに合流した形になった。
ボクはついてくだけです、ロロンが無茶苦茶やる気なので。
そこにいたのは、少し年配……いや、お爺さんっぽい獣人さん達だ。
皆さん年季の入った皮鎧を着込んで、使い込まれた槍や剣、斧なんかを持っている。
結構なお年っぽいのにムキムキだ……この人たちが予備兵とかいう存在なのかな。
「こにちわ!こにちわ~!」
「たまげたぜ、妖精の嬢ちゃんかよ!」
「吉兆ってやつだなァ!こりゃあ勝ったも同然だぜ!ガハハ!!」
空中で挨拶するアカも大人気だ。
「助太刀、シマス」
お爺ちゃんたちにそう言い、ロロンの横に立つ。
「おう!虫人だぜ、久しぶりに見たなあ!」
「ひょっとしてドラウドが護衛に雇ったって腕利きのあんちゃんか?コイツはいい助っ人だ!」
噂が早くな~い?
まあでも、この街でボク以外の虫人いないから目立つんだろうね。
買い物の最中でもついぞ見かけなかったし。
「おっと、前の連中が抜かれやがった!来るぞォ!!」
前方の迎撃集団がわちゃわちゃしたかと思うと、言う通りにコボルトが5匹抜けてきた。
抜け過ぎですよ!?
「お任せくなんせ!」
ロロンが少し走り出て、骨槍を地面にドンっと突き刺した。
「オーム・バザン・ヤグン・ウーム・スヴァーハ!!」
そして、詠唱。
地面がぞぞっと動き、ロロンに纏わりついた。
え?槍に刃が追加されるんじゃないの!?
そう思っていたら、ロロンの土まみれになった体が……なんか、鎧っぽい形になった!
うわー!何あれ!格好いい!!
あっという間に茶色の鎧武者みたいになっちゃった!!
『土魔法の一種で『岩鎧』というものですね。魔力で土を練り、硬い鎧に変化させます』
いいなあ!ボクもああいう見た目にカッコいいスキル欲しい!
『わがままはいけませんよ、むっくん。さ、構えなさい』
はぁい……そうだよね、ロロンに任せっきりにするわけにはいかないもんねえ。
魔力充填開始……むん、むん、むん!
「ロロン!遠イノニブチカマスヨ!!」「はいっ!!」
ロロンから一番遠く、射線に獣人さんがいないコボルト2匹に向け――溜め打ち衝撃波、発射ァ!!
がおん、と衝撃波が飛び――コボルト2匹に着弾した。
微妙に重なっていた2匹の胴体を打ち抜き、まとめて吹き飛ばす。
「おお!やるじゃねえかあんちゃんよお!」
隣に出たシェパードっぽいお爺ちゃんが褒めてくれた。
獣人さんって不思議なんだよね、この人みたいにワンちゃん80%みたいな人もいれば、ちょっと顔が毛皮でフサフサな人間……って感じの人もいる。
どういうことなんだろ。
「オオオオッ!!」
そんなことを考えていたら、すっかり鎧形態になったロロンが残り3匹の方へ突っ込む。
「――でぇえりゃあっ!!」「ギャンッ!?!?」
ロロンの骨槍は、真っ直ぐコボルトの首を貫いた。
「どおおっ――せぇえい!!」
そして、ロロンは骨槍を突き刺したまま大きく横へ振る。
たぶん即死したであろうコボルトが、横の新手に激突、吹き飛ばす。
ああっ!でもまだ1匹残ってる!
『アカ!魔法を――』
「――でらっしゃぁあ!!」「ギャビッ!?!?」
ロロンは慌てず騒がず、槍から片手を離し……ボロ剣を振り上げたコボルトにパンチをぶち込んだ。
鎧を纏ってゴツくなった彼女の拳は、コボルトの顔面を粉砕。
両目を飛び出させ、仰向けに道へ倒した。
……うん、強いなあロロンは。
「ロロン!かっこい、かっこい!」
アカが興奮してロロンの周りを旋回している。
「こいつはたまげたぜ!オイみんなァ、ワシらは楽ができそうだなあ!」
「馬鹿言ってんじゃねえよ!てめえの孫くらいの嬢ちゃんにおぶさってんじゃねえ!」
「そうだそうだ!老兵の気概って奴を若ェ連中に見せてやんだよォ!!」
おおう、おじいさんたちもむっちゃやる気になってる……好戦的すぎない?この街の人たち。
「あんちゃん!次は俺らな!休んで見物してな!」
「嬢ちゃんホラ水だ!これ飲め飲め!」
武器を振り回し、お爺ちゃんたちはロロンを追い越して突撃していった。
おお~い、そんなに前に出たら前の集団にぶつかっちゃいますけどォ?
「アカも、アカもたたかう~!」
魔法を撃てなかったアカが、空中で盛大に帯電している。
今近くまで行ったら感電しそう……
「援護、ありがとやんす!」
「ロロンモ、オツカレ」
がしゃがしゃと鎧を鳴らして帰ってきたロロンを、とりあえずねぎらった。
・・☆・・
それからは、ボクたちが働く機会はなかった。
いい所を見せようとしたのか、お爺ちゃん連中が……それはもう大活躍。
槍で3匹のコボルトをおでんの具みたいな死体にしたり、でっかい斧で頭から真っ二つにしたり。
ロロンみたいに魔法で鎧を作ることもなく、素手でコボルトハンバーグを作ったりしていた。
獣人さん、コワイ。
「はぁああ……すんばらしぎ男振りでやんす!じっさまを思い出しやんす!!」
ロロンは目を輝かせて見入っている。
アルマードのお爺ちゃんも凄いらしいね、そっちもコワイや。
……しかしまあ、これだけ獣人さんたちが戦いまくってるのに……減らないもんだね、コボルト。
前の方では相変わらず戦闘音が聞こえるし、たまに空中にコボルトのパーツが飛んでるのが見える。
いったい、どれくらいの数に侵入されたんだろうか。
『群れを率いる存在がいるのでしょう。その個体をどうにかしなければ、この状況はコボルトが全滅するまで続きますよ』
はえー、そうなんだ。
「……どうやら長がおりやんすね。ソイツを殺さねえと、ずうっとこのまんまでがんす」
ロロンも同じ感想なようだ。
つまるところ、ボスをコロコロしないと撤退してくんないってことか。
まあ、見たところ亡くなった獣人さんはいないみたいだし……いつかはボスも倒せるでしょ。
正直ここからじゃ何もできないし。
どうせボスってのは一番奥でデーンと控えてるんだろうしさ。
そういうもんでしょ?
「――駄目だァ!手に負えねえ!!」
「予備兵の爺どもは下がってろ!門前に伝令!伝令!」
「あの野郎屋根伝いに来やがった!槍だ!槍衾で迎撃しろォ!!」
「なんだってこんな奥まで来やがるんだ!?」
なんて言ってたら、前方がむっちゃ騒がしくない?
不穏当な単語がバンバン出てくるんですけお!?
『むっくん構えて!前方に強力な魔力反応――長クラスです!』
ウワーッ!?!?
ナンデ!?ボスナンデ!?
「背中がヒリつきやんす……ムーク様ァ!お気をつけなっせ!!」
ロロンが骨槍を構えた。
なにそのシックスセンスは!?
『アカ!ボクの上に飛んでて!』『あいっ!がんばて、おやびん!』
アカが飛び上がり、ボクが棍棒を構え直す。
そして3人で、お爺さんたちの前に出た。
どうせこっから逃げるわけにはいかな……いや別に逃げてもいいんじゃない……?
『こら、むっくん!』
はいすいません!
「――ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
うわぁ!なんだあの声!?
今までのコボルトとちがっ――
「ぐわっ!?」「こ、コイツ……!?」「駄目だ、爺さんたちは逃げろォッ!?」
ボクらの前方に展開していた人たちが、3人まとめて吹き飛ばされた。
見た感じは正規の兵隊さんみたいだったけど、そんな人でもああなっちゃうのか!?
で、吹き飛ばされた人の向こうに――2メートル半はある、影!
なんっだあの、でっかいコボルト!?
体は灰色っていうか、銀色だ!
『気をつけてください、コボルトの変異種です!』
でしょうねえ!
「抜けられると、思うな!!」「刺せ!脚だ!脚を殺せェ!!」「誰かクロスボウ持ってこい!!」
そのでっかいコボルトに、吹き飛ばされた人以外が一斉に槍と剣を突き刺した。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
だけど、先っちょが刺さったくらいでコボルトが身震いし――槍も剣も折れながら吹き飛ばされた。
か、硬ァい!?毛皮の分際でなんて防御力なんでしょ!?
や、やばい……絶対こっちに来る流れだ!
「ミナサン、下ガッテ!」「お下がりくだんせ!ここは我らにお任せを!!」
後方のお爺ちゃんたちに言い、改めて構える。
向こうまでは50メートルくらいあるけど、これくらいの距離はすぐに詰められそうだもんね。
ああもう、仕方ない……ここから逃げる未来はさすがにないし、腹を括るとしよう!
「ロロン!ボクガ前ニ出――ハ?」
すっかり周辺の兵隊さんたちを無力化し、天に向かって吠えたコボルトは……横の路地にダッシュした。
……え?に、逃げた?
ひょっとしてボクのビジュアルがあまりにも強そうだったから恐れをなしたとか……?
そ、それは困っちゃったな~?
この進化したイケメンボディが憎いな~?
「――まさか、オイ!あの方角!」
「なんてこった、皆行くぞ!!」
「あんちゃんたち!戦う気があんならすぐに追ってくれぇ!!」
お爺ちゃんたちが凄く動揺してる。
あっちになにか重要な建物でもあるの?
「アッチニ、ナニガアルンデス!?」
怒鳴るように聞いた。
「――教会だ!ヤツはそこに向かったに違いねえ!!」
……教会?それって宗教のやーつ?
でもなんで教会に行くの?
懺悔?
『むっくん!今はとにかく向かってください!』
あ、ハイ。
じゃあボクらもダッシュで向かお――
「――孤児院のガキどもが食われちまう!急ぐぞ!!」
それを聞いた瞬間、ボクはロロンを抱っこして地面を蹴り――衝撃波を放って上空へ飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます