第7話 ワンちゃん大行進(きしゃない)!!

『――女子供は家に入れェ!予備兵と冒険者は武器を持てェ!!』


 門の方から、拡声器でも使っているような怒号が響く。

それを聞くなり、さっきまでのほほんとしていた周囲の人たちの表情が変わった。

パニックって感じじゃなくて、一斉に避難行動を開始した感じ。

な、慣れてる……!


「おやびん!こわぁい!」


 アカが首に抱き着いてきた。


『大丈夫大丈夫、おやびんは最強で無敵だから大丈夫』


 その背中をポンポンしつつ、ロロンに目をやる。


「すぐに、宿まで行ぎやんしょ!」


 さっきまでの照れ顔はどこへやら。

ロロンはすぐさま解体用のナイフを構え、油断なく周囲に目をやっている。

うーん、頼もしい!


「了解!」


 ボクらは兵隊でもなければ冒険者でもないし、こんな荷物を抱えてたら何もできない。

武器も宿に置いてるし!


 統制の取れた状態で動く住民たちの中を、すぐさま宿まで帰ることにした。



・・☆・・



「ああよかったわぁ、ご無事で!」


 宿まで走って帰ると、玄関でマーサさんが待っていた。

その横には……桃太郎の絵本にでも出てきそうなクソデカ金棒を持ったランゴさんがいる!

すっご!朝と違って鎧着てるゥ!?無茶苦茶使い込まれた皮鎧!!

やっぱり元は戦闘職の人だったんだ!!


「アンタら、門を見たか?どうなってた?」


「城壁の上の方が騒がしかったようでやんすが……それ以上は」


「もう!そんな話はあとあと!早く中に入って!」


 マーサさんがそう言い、玄関を開けた時だった。


「ギャン!」「ルゥオオオオッ!!」「オオオオン!!」


 今まで来た道……門に続く大通りの方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

あ、あれは……


「コボルトか!衛兵隊は何してやがる!!アンタら、中に入れ!!」


 ランゴさんが金棒を構え、前に出る。

と、とりあえず荷物を中に!


 玄関に入り、カウンターの横に背嚢を下ろす。


「ロロン!武器ヲ!!」


「わがりやんした!!」


 ロロンが階段を駆け上がっていく。


 この宿は綺麗だし、いい所だけど……防御力があるようには見えない。

コボルトがどれだけ入り込んだか知らないけど、籠るよりかは外で出た方がいい!たぶん!! 


『アカはロロンと一緒に来てね!』『あいっ!』


 マントをしっかりと固定し、ボクは玄関から外へ出た。


「おい!ムークさん何してんだ!?」


「身ヲ守ルクライハ、デキマス!!」


 ランゴさんがこちらを振り返ったその時。


 前方の路地を曲がって、1匹のコボルトが走り込んできた。

――速射衝撃波、発射ァ!!


「――ギャンッ!?」


 粗末なナイフを握った灰色のコボルトが、衝撃波を頭に喰らって倒れた。

よーし!大当たり!!


「アンタ、魔術師か!」


「ソンナイイモンジャ、ナイデス!」


 ランゴさんの横に出る。


「こいつは頼もしいじゃねえかよ……マーサ!中に入ってな!」


「あらあら……ムークさん、お気をつけてね!」


 こういうのに慣れているのか、それとも元々肝が太いのか。

マーサさんは、ボクとランドさんの肩をばしんと叩いて宿に消えていった。


「ええ~!?ロロンちゃん、アカちゃんまで?あら、あらあら~」


 それと同時に、武器を抱えたロロンがアカと一緒に出てきた。


「ムーク様ァ!」「アリガト!」


 骨棍棒を受け取る。

うん、頼もしい重さだ。


「前に出過ぎるなよ!それと嬢ちゃんたちは俺に寄るんじゃねえぞ!」


 ぶおん、と金棒を振るランゴさん。

うひい、風圧がすごいや。

何でそんな速度で振れるのさ?


「ダンジョン、溢レタッテ昨日聞キマシタ。ソレ関係デショウカ?」


「ああ、恐らくな。例のダンジョンは馬車で1日の距離なんだが……ここまで来やがるなんてな、今回のスタンピードは大掛かりだぜまったくよお」


 やっぱりそうかー。

ダンジョンが溢れるって、大変なんだなあ。


「援軍ハ、来マス?」


「どうかな、ここと首都は距離が離れすぎてる。それより『赤錆』が近くにいてくれりゃいいんだが……」


 む?なんかその単語昨日も聞いた気がする。


「アカサビ?」


「ロドリンド商会付きの傭兵団だよ。大商会専属だけあって、腕っこき揃いだ」


 ほへー……名前からはそんなに強そうに思えないけど。

なんか鉄臭そう。


 大通りの方からは、断続的にコボルトの声と人の怒号が聞こえてくる。

うひゃー、やってるなあ。


「っち、抜けられたみてえだな……来るぜ!俺が前に出る!!」


 ランゴさんが前に出た。

それと同時に、また角を曲がって……コボルトが、4匹!

曲がったボロボロの剣を持ったコボルトだ!

アレで斬られたら凄い病気になりそう!!


「ギャオン!」「ガウウ!」「ウオオン!!」「ワォオオウ!!」


 口々に吠え、こちらへ走り寄るコボルトたち。

よし、ランゴさんから一番遠い1匹に衝撃波を――



「―― 轟 ォ !!!!!!!!!!」



 あぎゃあ!?耳が!あるかどうかわからない耳がァ!?


 ランゴさんの大声は、物理的な衝撃でもあるかのようにコボルトたちの動きを止めた。

あ、一番手前のコボルト、耳から出血してる!


『威圧と呼ばれるスキルでしょう。自分よりも格下の敵を怯ませる、魔力を乗せた咆哮ですよ』


 まさに威圧って感じだ!

あ!ランゴさんが走って――


「おうらァアア!!!!!」


 ぼ、って感じで金棒が消えた。

そう、消えた。


 そして、めぎょん!みたいな何とも言えないような異音。

それで……3匹のコボルトの頭も、消えた。

一拍遅れて、首無しになった胴体から噴水みたいに血が噴き出る。

え、えええ……あ、アレもスキル?


『いえ、魔力の発露がありませんでした。アレはただ単に思い切り金棒を振っただけです』


 すっごお……何者なんだろ、ランゴさん。


「えぇいっ!!」「ギャン!?!?」


 アカの雷撃が残りのコボルトに着弾。

毛を逆立たせ、引きつって倒れたそいつが何度か痙攣を繰り返した後……しめやかに成仏。

ああ、有能な子分よ!


「やるじゃねえか、お嬢ちゃん」「えへぇ、へへへ」


 ランゴさんが振り向き、迫力満点に笑った。

アカは照れている……大物だなあ。


「アノ、チョット先、見テキマスヨ。ランゴサン、ココヲ守ッテクダサイ」


「おう、そうか?無理すんじゃねえぞ!」


 この場はランゴさん1人で大丈夫すぎる。

見通しが悪いし、ちょっと先を確認しておこうかな。

ボクらの戦闘能力を見て大丈夫だと思ったのか、止められることもなかった。


「お供しやんす!」「アカも!アカもぉ!」


 ということに、なった。



・・☆・・



「エライコッチャ」


 気配を探りつつ、大通りまで出た。

今更だけど……この街は大通りがどーんとあって、その左右に家や店がある感じだから道がわかりやすい。

宿は街の奥の方にある。


 で、現状。


 大通りのそこかしこで、コボルトが大暴れしている。

門が破られた様子は……ないね。

ってことは、もしかしてあの城壁を乗り越えて来たのか、コボルトの群れ。


「後ろを取られんな!円陣組め!!」


「爺さん無理すんじゃねえ!若ェのに任せろ!!」


「だあっくそォ!槍が折れちまった畜生ォ!アンドのとこの武器はなまくらだァ!!」


「テメエの腕が悪ィんだよ間抜けェ!!」


 だけど、逃げ遅れた人はいない感じで……街の人たちが、手に手に武器を持って戦っている。

さっき予備兵がどうかとか言ってたし、ここは戦える人が多い街なんだなあ。

ぜんっぜん混乱してないし。


『さすが城塞都市と言った所でしょうか?私の知識にはありませんが、常住戦陣の心構えができているようですね』


 できすぎでしょ。

この街、どんだけ修羅場潜ってきてんの。


「じゃじゃじゃ……戦士が多い街でやんす!故郷を思い出しやんす!」


 ロロンの故郷も似たようなもんらしい。

この世界、修羅場が多いんだねえ……日本の戦国時代もそうだったんだろうか。


「ムーク様ァ!我らも戦働きでがんす!!」


「エッ、チョッ」


 骨槍をヘリコプターの羽くらい旋回させ、ロロンがやる気満々の顔をしている。

あの、みんな戦えてるからいいんじゃないのかな?

ボクらはホラ、旅人でお客さんなわけですし?


『ふむ、いい機会ですね。先程調べましたがこの灰色コボルトは魔石を有しているようです、むっくん!おやつの時間ですよ!!』


 嫌だあ!ボクそんな血生臭いおやつ嫌だァ!!

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