第6話 とりあえず、ウィンドウショッピングだ!ウィンドウないけども!!

 チョット酸味のある黒くて歯ごたえのあるパン、根菜と肉の切れ端の入ったスープ。

ああ……ああ……最高の……最高の朝食……!


『朝から元気ですね、むっくん』


 元気にもなるでしょ!文明の!文明の味!!

この世界に産まれてこの方、ほぼ腐肉か生肉か焼いた肉しか食べてないんですよボクは!!

しっかり調理した料理なんてもうアーティファクト!至宝!!


「んま!んま~!」


「ンマイ!ンマイ!」


 アカと同じように、ボクは全力で舌鼓を打っている。

16ビートくらいで!


「んめめなぁ~……んめめなあ~……」


 料理に飢えていたのはロロンも同じなのか、ニコニコしながら頬張っている。

小声なのが微笑ましい。


「おい」


 ッヒ!?

ムキムキ狸さん……ランゴさんだ!

マーサさんの旦那さんらしい、ちなみにメグさんは娘さんね!

昨日夕ご飯の後にメグさんが教えてくれたんだ。


 ……で、な、なんでしょうか。

う、五月蠅かったかな?


「その食いっぷりじゃ足りねえだろう、追加だ」


 どさどさ、とパンが置かれ。

じゃばじゃば、とスープが追加された。


「ワ、ワルイデスヨ」


「金払ってんだから気にすんじゃねえ。旅続きなら食える時に食っとけ」


「アリガトウ、ゴザイマス」


 それだけ言うと、ランゴさんは去って行った。

……見かけよりもかなり優しい人、なのかな?


「ありがとうござりやんす~!」「ありあと~!」


 ロロンとアカが続けて言うと、後ろを向いたランゴさんの立派なモフモフ尻尾が少し揺れた。


「オイシイネエ」「おいし!おいし!しゅあわせぇ!」


 とりあえず、感謝の気持ちと一緒にパンを頬張った。

うーん!おいしい!!



・・☆・・



「いってらっしゃぁ~い♪」


 マーサさんに見送られ、宿から出る。

ロロンが洗濯してくれた毛皮マントがキラキラと輝いている。


 朝食の後、ボクらは街に出ることにした。

目的は……そう、買い物である。

今は街から出れないみたいだけど、この先旅をするなら色々必要になるからね。

ボクにはポーチがあるし、この機会に色々買い込んでおこうということになった。


「マーサさんに店の場所も聞きやんしたが、まずはどごにいたしやんすか」


「トリアエズ、近イトコ」


 ボクらの中で一番旅慣れているのは、なんと言ってもロロン。

彼女にすべてをお任せしよう……いや、ずっとじゃないよ?

でも、とりあえず今回はそうする。


「オ財布ハ任セタヨ、申シワケナイケドモ」


「いいええ!責任重大でやんすが!ワダスはこの重責に必ず応えてみせまっす!!」


 おお、むっちゃやる気だあ。

ロロンの背中からボーッて炎が上がるのが見える!


『信頼されたのが嬉しいのでしょうね、ふふふ』


 トモさんが嬉しそうである。


 ボクらの持っているお金は、全てを『共有財産』とした。

そして、運用はロロンに任せて……ボクは承認する役になったのだ。

いや、正直承認もしなくてもいいのでは?なんて思ったケド……ロロンは断固として拒否。

『ムーク様は我らの頭目!首領でやんす!!』という感じで、絶対にNOと言わなかったんだよね。

……命の恩人とはいえ尊敬され過ぎて、あるかどうかわかんない胃が痛いボクでーす。

精々幻滅されないように、頑張っておやびんムーブしよう……


「おやびん!りんご!りんごほしい!」


「ハイハイ」


 アカを撫でながら、それはボクも欲しいと思った。



「おや、ロロンじゃねえか。買い出しかい?」


「はいでがんす!」


 まずやってきたのは……ロドリンド商会。

昨日別れたドラウドさんが店番?をしていた。

倉庫じゃなくって正面の方ね。

雑貨屋、って感じでいろんなものが並んでいるなあ。


「まずは塩とミラークの葉と……背嚢と調理道具、ありやんすか?」


「はいはい、こっちだ。アンタら何にも持ってなかったもんなあ、ひと揃え見繕うぜ」


 どうやら調味料とかそこら辺を買うようだね。

ちなみにだけど、ボクらが手ぶらだった理由は『森で魔物に持っていかれた』からだって前に説明したんだよね。

実際にボクとアカは食料以外持っていなかったし、ロロンはクソデカトンボにさらわれた時になくしたって言ってた。

でもいちいち説明するのは面倒だし、3人チームでずっと旅をしてきたってことになってるしねえ。


『アカ、一緒に見物してようか。触っちゃ駄目だよ?』『あいっ』


 ロロンの商談を横目に、周囲の棚に目をやる。

ふむ……食料品のないスーパーマーケットって感じ。

テントみたいなのまであるなあ……用途不明の機械?というか工芸品みたいな感じのもある。

ガラスっぽいケースに囲まれてるから高級品だろうなあ……何に使うかはサッパリだけども。


 ふむふむ……『魔力灯』?ああ、魔石が原動力のランプかあ。

あ、光る部分にはまってるのっておひいさまに貰った光り石じゃん!

へえ、本来?はこういう感じで使うんだねえ……お値段は100ガルか、結構するんだねえ。

……いや違う!1000ガルだァ!?

お、おひいさまってやっぱり王族マインドじゃん……1000ガル近いものをポーンとくれるなんてさあ。

大事に、大事にしよう……


「いろんなの、ある!」「ネー、イッパイアルネ」


 アカはボクの肩に座って、興味深そうに周囲を見回している。

ボクは一応地球のアレコレを概念だけ知ってるけど、アカは生まれて初めてだもんなあ。


 えーと、このミニサイズの灯篭みたいなのは……『魔物避け』ね。

これも、基部っぽい所に魔石をはめ込むようになってる。

なになに……『小魔石1つで連続3日間使用可能』かあ。

結構コスパがいいんだろうかね?

お値段は……1500ガル!うひい!


『どの魔物にも効果があるわけではありませんよ?ゴブリンや狼などの魔物は嫌って避けますが、オオムシクイドリや深淵狼のような強い魔物には効きませんし、かえって興味を惹く可能性もあります』


 ひええ。

それは困るなあ。

無条件で便利なモノってないんだなあ。


『そうですね……私も断定はできませんが、黒い森クラスの場所なら……せめて3000ガルよりも上のモノの用意した方がいいのではないでしょうか』


 高額すぎる。

魔法具って高いんだなあ……あ!方位魔石がある!

おひいさまに貰ったのよりも造りが甘いというか、安っぽいから結構安いんじゃないかn……2500ガル、だと?


 ……やっぱり作ろう、おひいさまの木像を。

それを毎日拝んで感謝を示さなければ!


「おま、お待たせしやんしたぁ~……」


 うわわ!?

ロロンが荷物の山を抱えてる!

厳密に言えば大きい背嚢に潰されそうになってる!


「ハイハイ、ボクガ持ツカラネ」


「じゃじゃじゃ!そういうわげにはいがねのす~……!!」


 頑固に言い張るロロンから背嚢を受け取り、背負う。

うわあ、重い。

こんなのロロンに担がせてたら、ボクは周囲からリーダーじゃなくて奴隷商にでも見られちゃうでしょ、人相悪いのに!

宿に戻ったらポーチに中身を入れて、背嚢だけはカモフラージュで背負った方がいいかな。


「イイノイイノ、ボクハ親分ナンダカラ!子分ヲ労ワルノモ仕事、デショ!」


「はぁああ……お、お見それいたしやんしたァ!!」


 またお見それされた!!



「りんご!りんごある!ほかにもいっぱい、いっぱ~い!!」


 アカが狂喜している。

ドラウドさんにお金を払って店を出て、次に向かったのは食料品店……というか、八百屋?に来ている。

ちなみに代金はしめて120ガルでした。

高いか安いかわかんないけど、ロロンが満足してたからお得なんだと思う。

しっかし、日用品に比べて魔法具の高いこと高いこと……


「リンゴは日持ちの問題もありやんす、旅に出る時は干しリンゴを持って行くとえがんすよ」


 干しリンゴ!そういうのもあるのか!!

 

 物流の問題があるのか、並んでいるものは干した野菜のような物体が多い。

ボクとアカは食べられればなんでも栄養になるけど、ロロンはそうはいかないもんね。


 アカがキラキラした目で見つめているのは、瑞々しいリンゴやオレンジっぽい果物のゾーン。

この街の中か周辺に果樹園でもあるかなあ?

ねえねえトモさん、中に入れたものの時間が停まるポーチとかもあるの?


『はい、ありますよ。むっくんがお好きの、ダンジョンからごくごく稀に発掘されるものですね』


 ダンジョンの宝物だって!?


『ええ、ダンジョンは太古の遺跡と前に言ったでしょう?時間が停止するような空間拡張背嚢は、現在の魔法技術でも再現できないのですよ』


 ほ、ほえぇ~!!

失われた太古の魔法技術!大海に沈んだ幻の大陸!どこかへ去った先住古代人類!!


『後半2つはなんですか……とにかく、高度な魔法具はそういったものが多いですね。ちなみにですが、お値段は付けられませんし、過去には『出土品』の魔法具を巡って国が亡ぶほどの戦争が起こりました』


 ひ、ひぇえ……小市民虫人のボクには縁がなさそうだね……

でも、いつかはダンジョンに入りたいなあ。


「ムーク様、なにかご入用のモノはありやんすか?」


「ソコノ、適当ナ木材ノ欠片カナア?」


「……お、お食べに?」


「チガウチガウ」


 おひいさまおフィギュアの為にね!!



「おいし!おいし!」


「オイシイ」


「ここいらの果物はうめめなっす~……」


 3人で歩きながら、果物を齧っている。

あの八百屋さんで買ったものだ。

アカはリンゴ、ロロンはオレンジみたいなの。

そしてボクは……熟れてないバナナみたいなのを齧っている。

コレ、『ノゴゴ』とかいうよくわかんない名前なのにおいしいや。

皮剝かないで丸かじりしてるけど、味は甘さ控えめのマンゴーってかんじ。

うーん、味を知っているから凄い違和感。

美味しいけどさ。


「保存食も買えやんした。ムーク様、結構使ってしもて、おもさげながんす」


「何言ッテルノモウ。大助カリダヨ、ロロン」


 しゅん……としているロロンの頭を撫でる。


「ひゃわぁ!?も、ももも、もっだいね……」


「いいこ、いいこ~!」


 ロロンは真っ赤になった。

アカも面白そうに頭を撫でている。

……リンゴの果汁付けちゃだめだよ?


「騒ガシイネ」


 ここからは、昨日入ってきた大きな門が見える。

閉じられたその周りには、衛兵さんだっけ?とにかく鎧を着込んだ獣人さんたちがいる。

城壁の上にも結構な人数が上がって、右に左に走り回ってるなあ。


「衛兵以外の方々は普通でやんすが……」


 ロロンが言うように、周囲の住人は怖がっている風はない。

昨日のドーンさん?デデーンさん?が言ってたように、城塞都市の信頼感はすごいんだろうねえ。


 まあとにかく、買い物も済んだし一旦宿に戻ろうか。

この背嚢地味に重いし、ボクらがこの場でできることもないし―― 



『――家に入れェ!出入口を塞げェ!!魔物が、魔物が来るぞおおおおおおおおっ!!』



 ……なんて?

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