第4話 城塞都市、到着!


「見えてきたぜ、ガラッドだ」


「オー!」「おっき!おっき!」


 街道の先に、大きな影が見えてきた。

森かと一瞬思ったケド、キッチリしたシルエットに見える。

あれがガラッドかあ。

平原の真ん中にどかって感じで建っている。

遠すぎて実感がわかないけど、かなりおおきな壁?で囲まれてる街だねえ。


「おやびん!おっきなおうち!おうち!」


「ネー、オッキイネェ」


 肩に乗ったアカが興奮している。

この子にとっては初めてだもんな、大型建造物。

ボクは概念だけは知ってるけども。


「話には聞いでおりやんしたが、じゃじゃじゃ……なんとも、迫力でやんす!」


 荷台からこちらへ顔を出すロロンも、少し嬉しそうだ。


「ムークさん達には本当に世話になった。かなり楽な道行きだったぜ、なあ?」


「ギャルルル……」


 ドラウドさんに同意するように、走竜が舌を出して鳴いた。



 ドラウドさんと出会い、臨時雇いの用心棒になってから3日。

散発的に襲って来る草原狼やゴブリンをコロコロ転がしつつ、ボク的にも楽な旅は終わりつつある。

ずうっとその2種類だけ襲ってきたから、なんとも楽だったねえ。

夜に活動しないのは種族的なものなんだろうかね?


 まあ、そんなこんなで竜車は何事もなく目的地に着きそうだ。

いやあ、転生初のヒトの街だよ、街。

ワクワクするなあ。


「狼共の毛皮もたんまり集まったしなあ、今から査定が楽しみだぜ。街に入ったら解体所まで付き合ってもらうからな」


「ハイ、ソレハモウ。ツイデニイイ宿モ教エテクダサイ」


「おー、そういやアンタらラーガリは初めてなんだったよな。いいぜ、お嬢ちゃんたちも満足するいい所を紹介してやるよ」


 うーむ、持つべきものはいい商人の知り合いですわよ。

この3日で仲良くなった?成果だね。

ちなみにボクらについては『ロロンと一緒に砂漠から旅してきた』という設定にしている。

そこらへんはロロンが上手い事説明してくれて助かったよ。

いやあ、何度も言うけど助けてよかったねえ。

情けは人のためらなず、って感じ。


「おいしーもの、ある?あるぅ?」


「あるともよ。ガラッド名物、猪の地獄焼きは絶品だぜ?アカちゃんも気に入るぜ、きっとなあ」


 名前が物騒だね……でも名物だから大丈夫か。


『名物に美味いものなし、日本の名言ですね』


 そういうこと言わないで!

ここは異世界だから適応されるかどうかわかんないじゃん!!


『ふふふ、申し訳ありませ――あら?』


 からかい半分って感じのトモさんが何かに気付いた。

なにかありました?


『いえ、反対側の街道が少し……あれは!』


 むむむ?反対側?

ぼんやり見えてきたガラッドの反対側……つまりはトルゴーン方面の街道のことだよね?

いや別に、変わった所はないけれど……結構混んでる?っぽいけど。


「ドラウドさん!向こうの街道が変でやんす!随分急いでおりやんすが……もう閉門の刻限で?」


「何ぃ?まだ昼だからそんなこたあねえが……妙だな、急ぐから掴まってな!」


 ドラウドさんが横に置いていた革の鞭を持ち、走竜をぴしりと叩いた。


「ギャルゥウ!」


 ここ3日間で全く聞かなかった雄々しい雄たけびを上げ、走竜は猛然と走り出した。


「わわわ」「あわーっ!?」


 アカが慌てて肩に掴まり、ロロンは荷台の方へ転げて行った。

大丈夫かな?

そ、それにしてもすっごい加速!

今までは自転車程度の速度だったのに、今は軽自動車みたいな感じ!


「ハ、ハヤインデスネ、走竜」


「――ああ、本気で走れんのは精々半日程度だがな!どうにも街道の様子が尋常じゃねえ、舌噛むから黙ってな!!」


 ボクに舌はなぁい。

まあでも、心配してくれてるんだから従っておこうか。


 走竜はぐんぐん速度を上げ、それに伴って街道の様子がはっきり見えてきた。

あっち側の街道はなんというか……馬車が渋滞している?のかな。

懐かしい日本の風景というか概念を思い出した。


「やっぱりなあ、こいつは面倒ごとの匂いがしやがるぜ!」


 だが、渋滞しているあっち側に比べてこっちはガラガラ。

あっという間にガラッドは近付き、その巨大な全容が見えてきた。


 外壁は……なんだろ、石と木のハイブリッドなんかな。

かなり分厚く作られている外壁の高さは、目測で10メートルはある。

上の方にはええっと、ああ!銃眼だ!アレみたいなもんがあるね。

そういえばこの世界だと鉄砲ってあるのかしら。


『あまり流通していませんね。魔法具がありますし、個人の能力も高いですから』


 あーそういえばそうか。

スキルとかあるもんね、この世界ってば。

魔法があれば問題ないんかな。

戦争のこととかよくわからんけど。


『ガリルというドワーフ国家では若干流通しているようですがね、ちなみにトルゴーンの北ですよ』


 おお、ドワーフ国家!ファンタジー!

いつか行ってみたい!!


 そんな話をしているうちに、ガラッドの外壁にある大きな大きな門が見えてきた。

開けられた鉄製っぽい大きな門の左右には、鎧を着込んだ兵隊さんがいっぱいいる。

ふわー、むっちゃ長い槍持ってる!大河ドラマみたい!!


「ロドリンドのドラウドと護衛だァ!!入れてくれ~!!」


「ドラウドか!いいぞ、そのまま入れ!!」


 兵隊さんの中でも一番偉そうな……狼の顔をしたごっつい獣人さんが吠えた。

おおー!人狼!人狼だ!カッコいい!!

顔パスどころか名前パスとは、商会の影響力ってすっごいなあ。

ボクらまで入れてくれるみたいだし。


 走竜は土煙を上げながら、トップスピードのまま門を通過した。



・・☆・・



いやあ~……最後の最後にヒヤッとしたが、問題なく入れたなあ。


 異世界初の街。

それをじっくり見ている暇もなく走竜は走り続けて、でっかい倉庫の前に停まった。

倉庫はがらーんとしていて広い。

ここが本拠地なのかな?


『いいえ、本店はラーガリの首都です。ここは支店ですね』


 はえ~……大規模!!

ここもかなり大きいのに。


「ナニガアッタンデショウネ?」


「さてなあ……衛兵が外に展開してたから只事じゃねえとは思うが……まあ大丈夫さ!城塞都市の名は伊達じゃねえよ」


 なるほど。

ここ、かなり大規模な街だもんね。

チラ見しかできなかったけど、中の建物とかも頑丈そうだもんなあ。

煉瓦造りっぽいのがズラーッと並んでたし。

人口何人くらいなんじゃろ、表に人全然いなかったけど。


「ロロン、ロロ~ン、おき~て~」


「んめめ、目が、目が回るでやんすぅ……」


 荷台では転がり回ったロロンが狼の毛皮まみれになっていた。

丸まるとむっちゃ動きそうだもんねぇ……


 そうこうしていると、倉庫の方から獣人さんがやってきた。

おお、あの人は……犬の獣人さんかな?

顔がアレ、マスティフ?みたい!戦闘力高そう!!

ドラウドさんとは違ってちゃんと服を着てる!


「ドラウド!大変な時に帰って来たなあ」


「おうデーン!ありゃあいったい何の騒ぎだ?」


 デーンさんはボクをちらりと見て軽く会釈した。


「ドウモ、ムークデス」


「途中で会ってなあ、護衛に雇ったんだ。かなり腕の立つあんちゃんだよ、お陰で楽な帰り道だったぜ」


「へえ、ここいらで虫人たあ珍しいな……同僚が世話んなったな、ムークさんよ」


「イエイエ」


 デーンさんは懐からパイプを取り出し、咥えると火をつけた。

異世界煙草だ!


「ふう……それがよ、ここと『ラバンシ』との間にダンジョンあったろ?アレが溢れたらしいんだよ」


「ああ、コボルトがやたら住み着いてるっていうあそこか……規模はでけえのか?」


 ダンジョン!ダンジョンですってトモさん!!


『はいはい、おとなしくしておきましょうね』


 そんな面倒臭い親戚のオジサンをなだめるみたいに言わないで!!


「えらいことによ、近くの村が丸ごと飲まれたとさ。『ラバルマ』に伝令を出したようなんだが……援軍が間に合うかどうか」


『ちなみにラバルマはこの国の首都ですね』


 トモさんペディア助かるう。

それにしても村が滅ぶとか怖すぎでしょ……これが前に言っていた『スタンピード』ってやつかあ。


「じゃあしばらくは籠ることになっちまうなァ、早ぇとこ『赤錆』が来てくれりゃいいんだが」


「ま、衛兵にお任せしとこうや。そんで……おお、ずいぶん狼を狩ったなあ!ありゃ、おーい、アルマードの嬢ちゃん、大丈夫かい?」


「んだなっす……もう大丈夫でがんす!」


 デーンさんが荷台を覗き込んでいる。

ロロンも元気になったようだ。


「ムークさんよ、面倒なことになる前に精算しちまおう。この近くに解体所があるんで、毛皮をそこまで運ぶの手伝ってくんな」


「ハイハイ」


 現金収入はありがたいからねえ。



・・☆・・



「それじゃあ、護衛の分と毛皮の分……合わせて300ガルってとこだ」


「えがんす!むしろ貰いすぎでやんすが……」


「なあに、儲けは出てるから気にしなさんな。俺っちも楽させてもらったからなあ」


 ロロンがドラウドさんからお金を貰っている。

ここは、あの倉庫から歩いてすぐの場所にあった解体所。

独特の匂いがするお店?だなあ。

どうやら、ここで革やお肉の買取をしてくれるらしいね。


 ボクは何もわからないので、ロロンに全てお任せする。

彼女がどこまでついてきてくれるかわからないし、ボクも相場とかもっと勉強しないとねえ。


「商談成立だ。しばらくは外に出れねえだろうが、この街を楽しんでくんな!仕事に困ってんならあの倉庫まで来るといい……じゃあな!」


 ドラウドさんは手を上げて去って行った。

うーん、気持ちのいい方だった。

まさにこの出会いに感謝ってやーつ。


「ナンカ、ツカレタネ……今日ハモウ宿ニ行コウカ?」


 ロロンに提案する。

さっきドラウドさんに宿も教わったし、今日はゆっくり休みたいや。


「で、やんすね。ドラウドさんの様子だど緊迫した感じではねがったですし……行ぎやんしょ」


「しゅっぱつ!あはは、あははは~!」


 アカはいつでも元気で楽しそうだなあ。

ふう……異世界初の街歩きはまた明日、だね。

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