第3話 旅は道連れ、渡る世間は魔物がいっぱい。

「ごとごと、あはは、ごとごと!」


 揺れる馬車……竜車?の中。

ボクの肩に乗ったアカが、揺れに合わせて揺れている。


 ドラウドさんが『全部売っちまった』と言ったように、荷台はがらんとしていて走竜用の干し草しかない。

天井の部分は簡単な幌がかかってるけど、吹き込む風がよくわかる程度には気密性がない。

サスペンション的なやーつがないので振動がダイレクトに来るけど……進化のお陰か、それとも虫ボディが優れているのか、ボクの腰とお尻が爆発することはなさそうだ。



「ムーク様の人徳でがんす、いい出会いに恵まれやんした!」


「ソンナ、褒メ過ギダヨ」


 ボクなんにもしてないし。

っていうかさ、ドラウドさんとの交渉とかしたの全部ロロンじゃん。


「ロロンノ方ガヨッポド有能ダヨ、ホント……イイ出会イダッタネェ」


「あひゃあ!?」


 そう言うと、ロロンは急に丸くなった。

どうしたの急に!?


「わ、わわワダスごどぎ若輩者にぃい……も、もっだいね……もっだいね……」


 ああ、照れてるのか。

びっくりしたなあ、もう。

薄々気づいてたけど、それが照れのポーズなのか……ここから見ると立派な背中しか見えないや。


 あ、そうだトモさんトモさん。


『はい、なんでしょうか』


 今から行く街ってどんなとこ?

が、がら……ガラクタ?とかいう。


『ガラッド、ですね。ラーガリの最南端に位置する城塞都市、のはずです』


 ふむふむ、城塞都市。

アーマードエルフに追いかけられて、ちょっと森から抜ける位置がずれてしまったんだよね。

直でトルゴーンに近い街道へ行くつもりだったんだけど、ラーガリに近い側に出ちゃったんだ。

まあ、特に気にしてないけど。


『そうですね、小国家群には違いありません。むしろガラッドは大きな街ですし、旅の準備を整えるにしろ、この世界について勉強するにしろ……いい場所だとは思いますよ』


 ふむふむ、なるほど。

当面の目標としてはゆるく考えておこうかなあ。

さすがに、森の中よりかは安全だろうし……なにより初めての人類社会なんだ。

トモさんが言う通り、勉強は大事だしね。


「ア、ロロン、チョットイイカナ」


「は、はい!なんなりとォ!!」


 丸まっていたロロンが物凄い勢いで正座の体勢にチェンジした。

そんなむっちゃやる気にならなくても……なんか言いづらいなあ、大したことじゃないし。

ま、まあいいか。


「アノネ、オ金ノ価値ニツイテ教エテクレナイ?」


「ハァイ!!」


 そして、ロロンは物凄く熱心に貨幣価値のレクチャーをしてくれた。


 まず、小国家群で流通しているのはさっき貰ったガル硬貨で、紙幣なんかはない。

1ガルはあの銀色の硬貨じゃなくて、クズ鉄でできた黒いモノ。

銀色は1つ10ガルとなっている。

その上に、金色の硬貨があって単位は100ガルとなる。

さらに最上級として、白色の1000ガル硬貨があるそうな。

ふむ……地球で言うところの1円玉、10円玉、100円玉に1000円玉?があるようなもんか。

けっこう簡単な貨幣ですこと。

一万円玉はないのね。


『一部地域では物々交換も多いそうですよ、小国家群は』


 なるほどねえ。


『貨幣経済が発展しているのは北と東ですね、あちらは紙幣もあるそうですよ』


 どっちも人間以外はカス!!みたいな国だよね……

一生行かないだろう国だけど、一応覚えとこ。


「アリガトネ。ズット森ニイタカラ何ニモワカンナクテ、助カルヨ」


「いいええ!この程度のこどでしたら、何時でもワダスにお聞きくなんせ!」


 ロロンがむっちゃちゃやる気に満ちている。

この子、多分頼られるのが好きなんだろうなあ。

部族では一番の若手……とか言ってたしね。

こちらとしては右も左もわからないので、遠慮なく頼らせていただきましょうか。


「ムークさん、ムークさん」


「アッハイ」


 ドラウドさんが声をかけてきたので、荷台から御者席に顔を出す。


「すまねえが横に来てくんねえか?ここからしばらく魔物が多い区域になるんでよ」


「ア、ワカリマシタ」


 どっこいしょ……ふう、ドラウドさんはボクよりも大きいので、荷台も御者席も大きくていいや。


「出発する前にも言ったがよ、俺っちとコイツは自分の身くらいは守れる。だから魔物が出た時にはバンバン前に出てもらって構わねえよ」


「ハイ、了解デス」


 今更だけど、ここから……というか空き地から目的地の街、『城塞都市ガラッド』までは3日ほどかかるそうだ。

今移動している街道は、ちょうど帝国からガラッドまで人里がなーんもない区間なんだって。

なので、当然ながら魔物が出る。

ここは草原と言っても小規模な山もあれば谷もある。

人里がないから間引きとかもあんまりできないし、結果として魔物が多いんだとか。


 ボクらの仕事は、その区間の護衛だ。

自分の身は守れるって言ったドラウドさんは、見るからに重そうな3メートルくらいの鉄っぽい棒が武器。

そして名無しの走竜くん?ちゃん?は……うん、見た目でも既に強そうです。

ぶっちゃけ彼らだけでもここを通るのは大丈夫なんだけど、護衛がいればもっと安全だからってのがボクらを雇った理由みたい。

使えるところにはサッとお金を使う、中々やり手の商人さんみたいだ。


「ドンナ魔物、出マスカ?」


「そうさなあ……多いのは草原狼だな。それにゴブリン、コボルトあたりってとこか」


 ふむふむ……なるほど、魔物としては通常の森レベルって所かしらね。

それなら対応できるけど……油断は禁物だね!


「ワカリマシタ、ジャア外ニ出マスネ」


 走竜くんの速度はそんなにない。

横を問題なく歩けるし、警戒もしやすいからそうしよう。


「ロロンハ荷台ノ近クデネ!」『アカ!荷台の上にいて……魔物が出たら魔法使ってね』


「あいっ!」「わがりやんした!」


 2人の返事を聞きながら、ボクは御者席を軽く蹴って斜め前にジャンプした。



・・☆・・



『来ましたよ、むっくん。斜め左……草原の方向から来ます』


 はい、了解でーす。


 竜車と並走することしばし。

トモさんがそう言ったので、背中に吊った棍棒を掴んで引き抜く。

オオムシクイドリの大腿骨をロロンが加工してくれた逸品だ。

握り手の部分は少し削られて、滑らないように細い革が巻かれている。

うーん、ロロンはすごいや。


「ギャッギャ!!」「ギャガガッ!!」


 おっと、背の高い草が揺れて2匹のゴブリンが臭ァいッ!?!?!?

か、風上だから直撃しちゃった!

奇襲するんなら水浴びでもしておいてよっ!!


「グウゥ……」


 棍棒を両手で握りしめる。

さて、初陣だぞ骨棍棒くん!


「ギャバルガ!!」


 木を削った槍的なモノで突撃してきたゴブリン。

森のヤツよりも肌の色が薄い気がするそいつに――棍棒を横薙ぎに叩き付けた。


「ゲァ――」


 粗末な槍をへし折り、一切減速せず棍棒がゴブリンの胴体に直撃。

某スポーツ用品ブランドのマークみたいになったゴブリンが、血を吐いて横へ吹き飛ぶ。

ウワァ!この棍棒すっごいや!


「ギャヒ!?ギャギャギャギャ!?!?」


 お仲間の惨状に戦意喪失したっぽいゴブリンが逃げ出した。

よし、それじゃあ衝撃波で――


「えぇ~い!!」「アギャッ!?」


 衝撃波を溜める前に、アカの稲妻が背中を向けたゴブリンを貫いた。

は、早撃ちすごいですね……


『後続、来ますよ!変わらず正面!』


「ウオオオオオオン!!」「アオオオオオオン!!」


 焦げたゴブリンの向こうから、草をかき分けて小汚い洋犬……たぶん草原狼が出てきた。

森狼と違って灰色で、より一層小汚い洋犬感がすごい!

数は……4匹!


 まずは衝撃波、発射ァ!!


「ギャンッ!?!?」


 先頭の草原狼が、首をゴキリと曲げて即死。

それに合わせて踏み込む!


「オウリャアッ!!」


 ぶおん、と地面を這うように振った棍棒が新手に直撃。

両前足をへし折って、胴体を陥没させる。

よし、残りは2匹!


「ガウウウウウウウッ!!」「アダダダ!?」


 足が速い!右手に噛みつかれた!!

鎧は破損してないけど、痛いものは痛い!!


「コン、ノ!!」「ギャァ!?」


 棍棒を放し、左手で噛みついた草原狼の顔面を掴む。

鼻を思いっきり握りしめると、バキバキと骨の折れる手応え。


「コンニャロ!」「ギャンッ!?」


 鼻面の砕けた草原狼を引き剥がしつつ、ソイツを残った1匹にぶん投げる。

2匹はもつれあったまま衝突し、吹き飛ぶ。


 むううん――衝撃波、発射ァ!!


 中溜め程度の衝撃波が、絡まったままの2匹に直撃。

動きが止まった連中に、続けて速射衝撃波を4発放つ。

3度目の着弾くらいで、2匹はぐったりして動かなくなった。


 ふう……もういない、かな?


『はい、前方に反応はありませんね。竜車の方にも反応がありましたが、ロロンさんが問題なく処理したようですよ』


 ありゃ、そうなの?

駄目だなあ……全然わからんかった。

そういう所も察知できるようにならんとねえ。

ボク、体は強くなってもそういう方面がダメダメだしさ。



「鮮やかだったなあ。おかげでこっちは楽だったぜ」


 竜車の所まで戻る。

ドラウドさんは嬉しそうに御者席から下りてきた。

なんかでっかいナイフ持ってるけど、どうすんの?


「ナニスルンデス?」


「おん?ゴブリンは駄目だが、草原狼の毛皮はそこそこな値段で売れるんだよ。アンタの倒し方は綺麗なもんだったし、行き掛けの駄賃を見逃す手はねえやな」


 あら、そうか。

今までは毛皮なんて食べれないし、全部捨ててたから意識してなかったよ。


「アンタらの駄賃に上乗せしとくぜ、安心しな」


「肉ハドウスルンデス?」


「肉だあ?草原狼の肉なんざ臭くって食えたもんじゃねえよ、餓死寸前以外は食いたくねえし、1ガルにもなりゃしねえ」


 そう言って、ドラウドさんは狼へ向かっていく。

……そんなに不味いのか、草原狼。

毒走り茸とどっちが不味いのかなあ。


「アカ、ロロン、オツカレ」


「おちかれ、おちかれぇ!」


「お疲れ様でやんす!ムーク様はお休みになっててくだんせ!」


 肩に飛び乗るアカと、3匹の草原狼を解体するロロンも無事なようだ。

うーん、森よりも安全だな、街道。

安全って最高だ!!

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