第2話 第一商人、発見!!

『おはようございます、むっくん』


 おはようございます、トモさん……むうん!いい目覚めだ!!

昨日の空き地でそのまま寝たんだけど、森じゃないから開放感が凄いや!

厳密には昨日までも森の外だったんだけど、周囲にクソデカススキくんがあったからねえ!!

いやー、満足満足だよ!


『それはよかったですね、さて……東から接近する存在がありますよ』


 なにい!?

て、敵ですか!?

アカとロロンを起こさなきゃ。


「おはようござりやんす、ムーク様!」


 もう起きてる!

早起きですごい!アカは……


「むにゃむ……むにゃぁ……」


 ススキくんのベッドで熟睡中だ。

今日も我が子分はカワイイなあ。


「オハヨウ、ロロン。早速ダケド東カラナニカ来ルミタイ、アカヲ頼ムヨ」


「東から……ああ!あれでやんすか!」


 おん?


 ロロンの視線を追うと……遠くに影が見える。

街道をそのまま移動しているようだ。

えーっと……アレは……?


「流しの商人でがんす!ほら、見てくだんせ!荷車に『ロドリンド商会』の旗がありやんす!」


 ……商人?ろどりんど商会?

だめだ、初耳情報ばかりでちんぷんかんぷんですよ。


 でも、遠くに見える影はなんか……確かに荷車とそれを曳く動物っぽい感じ。

転生初のお馬さんを見れるかもしれないね!


『『ロドリンド商会』とは、ラーガリを拠点にしている商人ネットワークの元締めですね。グロスバルド帝国やトルゴーンにも販路を構築しています』


 ほうほう、大商会じゃん。


『地球で言うフランチャイズ展開に近いものですね。所属する商人は大商会の庇護の見返りに上納金を収めるのですよ』


 ほーん……なかなか考えられてるなあ。

でも……


「偽物トカジャナイ?」


 そこが気になる。

旗だけ立ててさ、中身は盗賊じゃーい!!とかありそう。

地球みたいに身分証とかないだろうし。


『ああ、それは――』


「問題ねがんす。あっこの商会は専属の魔術師を何人も雇ってで、あの旗は全部魔法具なんでがす!」


「魔法具」


 ボクの方位魔石みたいなもんか。

で、どんな魔法具なん?


「ラーガリの本部で、荷車がどこにいるが、何台いるがを把握してるんでがんすよ。偽物なんぞ出た日にゃ、すぐにわがりまっす」


「カーナビジャン!」


「かなー……び?」


 あっと、口が滑った。

しっかし、リアルタイム監視システムか……すごいな、魔法具。


「しがも、商会付きの凄腕傭兵団もありやんす。騙りなんぞした日には、その晩までに皆殺しでがんす」


 ヒエッ……サツバツゥ!

ま、まあ……変なヒトじゃないってことかな。

用心だけはしておくけども。


 とりあえず、アカを起こしておこう。



・・☆・・



「おう、先客かい。こりゃまた珍しい!アルマードの嬢ちゃんか!」


 それからしばし。

街道をゆっくりと移動し、真っ直ぐこちらへやってきたのは……ボクの知っている馬車ではなかった。

『馬』車では。


「おはようござりやんす!これからどちらまで?」


「今日は『ガラッド』までって所かねえ」


 御者台っていうんだっけ?

そこには……おじさんっぽい声でしゃべる……毛玉が座っている。

いや、本当に毛玉なんだってば!2メーターくらいの喋るでっかい毛玉!


「ギュルルル……?ルル、ル?」


「わー!つるつる!ぴかぴかぁ!」


 そして、今まさにアカが興味深そうに旋回してる先。

車を曳いているのは……なんと、なんとトカゲだった。

地球のコモドドラゴンを3倍くらいにでっかくした感じ!!

舌をぺろぺろしつつ、顔の前を飛ぶアカを不思議そうに眺めている。


 あ、あぶない!食べられちゃうよ!!


『アレは走竜です。温厚な性格で荷物運びに重宝される……草食の魔物ですよ』


 うっそでしょ!?『牛とか丸呑みします!』って顔してんのに!?


『ちなみに御者さんは獣人です。長毛の牛獣人でしょうかね』


 あー……バッファロー的な感じの?

言われてみればそんな気もしないでもない、かな?

角っぽいの見えるし。


「あの可愛いのは妖精さんか、30年ぶりに見かけたよ。そんでアンタは……虫人かい?随分とまあ、強そうだ」


 毛玉さんが話しかけてきた。


「ア、ドウモコンニチハ。ムークデス」


「こりゃあご丁寧に。俺っちはドラウドってもんだ」


「ロロンと申しやんす!」「アカ、でしゅ!」


 この反応……エルフさんみたいに『妖精だあ!?捕まえろー!!』って感じじゃないな。

むしろボクの方を珍しがってる感じ。

ところ変われば……ってヤツなんだろうな。


 毛玉さん、いやドラウドさんは御者台からぽふんと降りた。

おお!手足はよく見るとぶっとくてムキムキっぽい!

全身毛だらけだからわかりにくいけど!


「なあ、アンタら。物は相談なんだが……食い物を持っているなら買い取らせてくれんか?仕入れた食料を全部売っちまったもんでね、腹ペコなんだよ」


「ムーク様?」


 ロロンがこちらを見る。

正直、ポーチ内にお肉は大量にある。

それに、買い取ってくれるのなら現金収入になるね!


「ドウゾ。地竜ナラアリマスケド」


 オオムシクイドリはまだ食べてないので内緒だ。


「地竜!そいつは……ははは!凄い!一人前でいいから売ってくれねえか?」


「ハイハイ」


 マントの内側にあるポーチに手を突っ込み、適当な量を取り出す。

それを、ドラウドさんへ渡す。


「おおう、こいつは見事だ!」


 ……ポーチよりもお肉に注目してるね。 


『空間圧縮収納はそこまで希少なモノというわけではありません。もっとも、むっくんが貰ったものは入る量がかなり多いので、そこだけは気取られないように気を付けてください、あと、エルフ製ということも』


 あ、そういうこと。


『一般的な収納はそうですね……段ボール2つか3つ分です。それを覚えておいてくださいね?ロロンさんはそれをわかっていて、内緒にしてくれているようですよ』


 おおう……ありがたい。

助けてよかった、ロロン。


「昨日作った竈がありやんす。よければこちらの朝食ど一緒に、ワダスが調理しやんすよ」


「おー、そいつはありがたい上にありがたいねえ!この肉もいい状態だし、勉強させてもらうぜ」


 追加でボクらの分も出し、一緒に朝食にすることにした。



「あーん!あーん!」「ギュルル……グルルル……」


 食事が終わったアカが、走竜に干し草を食べさせている。

本当に草しか食べないんだ、あのトカゲ……異世界って広いなあ。

走竜は、荷車に積まれていた干し草をモリモリ美味しそうに頬張っている。


 そして、朝食と言っても焼いただけのお肉だけど、どうやらドラウドさんは満足してくれたようだ。

3回も追加をおかわりしてたし。

食べる時にちらっと顔が見えたけど、まさにバッファローって感じだったねえ。


「いやあ、助かった。腹ペコでする旅っていうのは辛いからな……ありがとうよ、ムークさん」


「イエイエ」


 食事中、ロロンはボクにずっと敬語。

そしてアカは『おやびん』呼び。

以上のことから、ドラウドさんはボクをリーダーだと思ったようだ。

正直、ロロンの方がよほどしっかりしてると思うんだけど……その、厳密に言えば年長者だしさ。

ボクは前世の記憶がないので通算でいくつかなんて知らないし、目下生後1年未満なのだよ。


「ひいふう……代金はこれくらいでいいかい?」


 ドラウドさんは懐から革袋を出し、銀色の不揃いな硬貨を手の上に乗せている。

う、通貨基準がわからん……と、トモさーん!!


『あの銀色の硬貨はガルですね、小国家群と帝国の一部で流通しています。ふむ……私より、ロロンさんにお任せしては?現地の方ですし』


 あ、そうか!


「ロロン、オ願イデキル?」


「お任せくださっしゃい!……100ガルも?本当にいいんでやすか?」


「街中ならともかく、ここいらみたいな場所じゃこれくらいが相場さあ」


 ロロンの口ぶりから察するに、結構いい取引みたい。

銀色の硬貨……それが10枚あるように見える。

ってことは、銀色一個で10ガルってことか。


「ムーク様、いかがでやんしょか?」


「問題ナイヨ」


 こちらとしては何も言えないしね。

細かい硬貨の価値なんかは、後でロロンにコッソリ教えてもらおう。


「それじゃあ、商談成立だぁな。ムークさんよ、もう一つ頼みがあるんだが」


「ハイハイ、ナンデショウ」


 嬉しそうな雰囲気のドラウドさん。

人を見る目があるかないか定かではないボクだけど、いい人そうには見える。


「地竜を問題なく狩れる腕っぷしがあるんだろ?乗っけてやるし、いくらか駄賃も払うからよ……護衛というか、用心棒をしてくれねえか?」


 おお、渡りに船とはこのことだよ。

こんなにスムーズに話が進んでいいものなのかしら。


「ソレハイインデスケド……ボクラヲ信用シスギデハ?」


「はっはっは!空の荷車をかっぱらって何しようってんだよ?走竜を盗むなんざできねえし、儲けも預けたから手元にねえ!俺っちからは小銭以外はなーんにも盗むもんなんてねえや!はっはっは!!」


 むっちゃウケてるやん。

でも、走竜が盗めないってどういうこと?


『走竜は根気強く世話をした飼い主にしか懐きません。性格は穏やかで従順ですが、誰の言うことでも聞くかどうかは、また別なのですよ』


 ほーん、なるほどお。

覚えることがいっぱいあるなあ。


 ロロンの方を見ると、小さく頷かれた。

OKってことだろうね。

お墨付きがあれば大丈夫だろう。


「しぇば、給金についでお話ばしましょう」


「はいはい、しっかりしてるねえ嬢ちゃん」


「当たり前でがんす!アルマードの女でがんすから!」


 胸を張るロロンが、ちょっとかわいかった。

小学生が背伸びしてるみたい……ふふ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る