第二部 西の国放浪編

獣人の国、ラーガリ

第1話 草原!草原!木があんまりないから最高だっ!!



「おやび~ん!あは!あははは!」


 風にそよぐ草原の上を、アカが楽しそうに飛び回っている。

宙返りするたびに、羽や装甲に光が反射して綺麗で……まるで妖精だ。


『……妖精では?』


 トモさんの声が響く。

たぶんジト目をしていると思うな!


 そうでした。

ウチの子分は何処に出しても恥ずかしくない自慢のフェアリーでした!てへぺろ!


「あ、あの……重くねがんすか?」


「ゼンゼン、マッタク」


 頭の上からは、ロロンの恥ずかしそうな声がしている。

彼女はボクが肩車をしている体勢だ。

本当に軽いよ?

ただまあ……槍は重いけども。

でも、女の子に重いとか言っちゃマナー違反だしね。

ボクは気遣いができるイケメン虫、むっくんです!



 森を脱出し、『ロコトック草原』に出てから今日で3日目。

方位魔石もあるし、土地勘のあるロロンもいる。

順風満帆だと思ったんだけど……今日になってちょっとしたトラブルがあったんだよね。


 それは、この草原に生えている……異世界ススキみたいな草。

150センチくらいあるんだよ、コレ。

そして……ロロンは140センチくらい。

そこから導き出される答えは、『ロロンが埋まる』


 これでは道案内もできないし、なにより移動が困難。

というわけで、ボクが肩車することになったってワケ!


 ロロンは恥ずかしいのか『臭くないか』と『重くないか』を交互に繰り返している。

臭くは……ないかな。

ロロンの腰蓑からはちょっとした動物園の匂いがするけど、別に彼女が臭いわけじゃないからね~。


「このまま行げば、街道に出るはずでやんすから……ムーク様ァ、ほんに、おもさげなござんした~……」


「気ニシナイノ、ボクハオヤビンダカラ大丈夫」


 飛べるアカと違って、歩きのロロンは大変だからね。

あの森で進化を繰り返してかなりの力持ちになったボクなら、何の問題もないし。


「街道ナンカアルンダネ~」


「グロスバルド帝国からラーガリへ、そこからトルゴーンに続いてるでやんす。帝国とラーガリは国交もありやんすから」


 ああ、獣人の国家だもんね。

そっかそっか。

たしか、帝国の権力争いに負けた貴族?王族?が作ったんだっけ、ラーガリ。


『500年ほど前までは険悪な関係だったようですが……エルフと違って獣人は世代交代も早いですし、今はそれほどでもありません……と、知識にはありますね』


 早いって言ったって、何千年も生きてるっぽいエルフと比べちゃみんな早いでしょ。

ちなみに獣人の平均寿命は?


『王族なら200年前後でしょうかね』


 ホラやっぱり!

地球の人間よりもよっぽど長生きじゃん!!

魔法とかあるから寿命長いのかなあ、それともこの世界の人たちが強いのかなあ。

異世界ってふっしぎ~。


「おやびん!あっち、あっち!」


 と、楽しそうに飛んでいたアカがボクの前に戻ってきた。


「ナアニ?」


「あっち、草ない!なぁい!」


 ほう、これは……街道に出たのかな?

この3日間歩き続けた甲斐があったってもんだ。


「あとね、水のにおいしゅる!」


「オー!デカシタ!」


 川でもあるのかな。

日も高くなってきたし……安全そうならお昼ご飯にしよっか。


「えへへぇ、へへへ」


 頭を撫でると、アカがとっても嬉しそうにしている。

ウチの子分は今日もカワイイなあ!平和!



・・☆・・



「ムーク様はそのままで!ワダスにお任せくなんせッ!!」


「ウ、ウン……」


 やっとススキ地帯を抜けると、そこは轍のうっすら残る街道沿いだった。

地球の道と比べると見劣りするだろうけど、ボクからすれば転生してから初の人の手の入った空間だ。

やっとこさ文明に触れられて満足でござる。


 で、街道に到着してしばらく道沿いに西へ進むと……アカが言ったように小川があった。

ここを通る人たちが野営でもするのか、人の手が入った空き地もあったのでそこで休むことにした。


 到着するや否やロロンは薪や竈の準備に走り出し、手持無沙汰なボクはそこら辺に落ちていた石ころでアカにお手玉を教えている。

……何でこんなことできるんだろうか?

前世のボク、意外と渋い趣味をお持ちだったようで。


「あはは!たのし!たのし!」


 初めは苦戦していたアカだったけど、気が付いたらもう5つのお手玉をマスターしている。

ふふふ……お主に教えることは何もない、弟子よ。

ちなみにボクは4個が限界でした、とっても悲しい。


 小石でお手玉するアカを見ながら、ポーチに手を突っ込む。

むむむ……お昼ご飯は地竜くんにしとくか。

あと、あの異世界タマネギ。

調理方法はロロンに一任する……と言っても、なんの調理器具もないんだけどねえ。

はあ、異世界フライパンとか欲しいなあ。


 ……そういえばトモさん、今更も今更なんだけど、いい?

ちょっと気になることがあってさ。


『はい、なんでしょうか』


 あのね……ボクって今、全裸じゃん?


『正確には全裸にマントですね。地球だとハイレベルな変態です』


 ソレ言わないで!!


 ……そうですよ、ボクは目下全裸虫なのだ。

芋虫の時やカブトムシ状態はともかく……今は身長も大きくなったし、この先西の国に行くわけだけど……コレ、大丈夫なの?

『ウワー!変態だ!国に入れるわけにはいかんでしょ!去れ!!』ってことにならん?


『大丈夫ですよ?虫人ですから』

 

 ……虫人は全員ストリーキング気質とか?

ちょっとお仲間になるの嫌だな……


『いえ、虫人は外骨格……むっくんの今の体ですね。それが鎧であり、服という扱いです』


 あ、なるほど。

そういうことね。

まあ、今のボクは鎧着てるようなモンだからなあ。


『個人の自由で服を着る虫人や、種族的な関係で服を着ないといけない虫人もいますが……少なくとも、今のむっくんがHENTAI扱いされるようなことはありません』


 なんかヘンタイの発音がすっごいよかった。

まあ、そういうことならいいか。

……ちなみに服を着ないといけない虫人って?


『有名なのがアラクネ……蜘蛛の虫人ですか。彼女らは人間女性のような上半身に蜘蛛の下半身といった形状ですので』


 あー!なんかイメージがわかる!

上の女の人はセクシーな感じが多いんだよね……なるほど、そういうことか。

じゃあ、その……センシティブな部分がむき出しじゃなければ、服を着るのは自由ってこと?

ボクは……大丈夫!

ヤバいモノは露出してないし!あるかどうかもわかんないけど!!


『概ねその考えで間違いはありませんね、一部の毛量が多い獣人などは服を着ない種族もいますから。むっくんに関係があるかわかりませんが、貴人との面談のような場合では服や鎧を着ることもあるでしょうけれども』


 なーるほど、それは絶対に関係ないや!HAHAHA!!


 あ、ロロンが竈を組み終わった。

それなら手伝いを――


「ハイ!ありがとうござりやんす!しぇば、お待ちを!!」


 ボクの手伝いが一瞬で終わった件について。

用意したお肉とマルモがあっという間に掻っ攫われた……親分扱いは落ち着かないなあ。


「にゅ!にゅ!にゅ!」


 アカは6個目のお手玉に夢中だし、何もすることがない。

……すごいなこの子!?

大道芸で食っていけるかもしんないぞ!?


 ……ねえねえトモさん、森を抜けてちょっと落ち着いたから聞きたいことあるんだけど。


『なんでしょうか』


 あのね、転生したのってボクだけじゃないんだよね?


『そうですね、むっくんが最後の1人でしたが』


 あ、やっぱりそういう感じなんだ。

なんかやたら急いでたもんね。


『締め切りギリギリに来たのがむっくんでしたので。それに加えて、脳がアレでしたので自我が発生というか復活するまで時間がかかりましたし』


 ボク、脳味噌爆発して死んだんだろうか。

トラックにグシャアされたのかしら……ま、まあいいや。

それじゃあさ……転生した人って何人くらいいるの?


『申し訳ありません、それは開示できませんね』


 おーん……禁則事項ってやーつ?

じゃあさじゃあさ、今は何人くらい残ってるとか……聞いてもいいかな?


『具体的な人数は言えませんが、既に4分の1の方がお亡くなりになっています』


 結構な修羅場だった!?

……まあ、ボクみたいに芋虫とか、小動物スタートだったらキッツイよねえ。

どこかの人間の家に生まれるとか、始めから強い種族とか、そういうSSR的なものを引かないと厳しいってことかな。


 それを考えれば、ボクって結構幸運だね。

ワンオフ謎虫だし!その割には何もチート的なアレがなかったけど!

おひいさま達と知り合えたのは幸運だったけどね~……アカやロロンのこともそうだし!


 ま、いいか。

別に他の転生者たちのことがそこまで気になるワケじゃないし、記憶がないから地球に愛着もないしな~。

襲ってこなければスルーでいいよね、スルー。

あ、そういえばトモさん、転生者のことわかるようになった?レーダー的なやーつ!


『むっくんがその形態に進化した時にアンロックされましたよ。ですが、有効範囲は2メートルです』


 無茶苦茶範囲が狭かった!!

特に必要でもないから言ってなかった感じだろうねえ。

ボクも聞いてないし、今まで。

この先出会えたら教えて――あ、ちょっと待って。

それって向こうにもわかるってこと!?それはちょっと面倒臭くなるかなあ。


『それは、お互いの位階によってどうなるかわかりませんよ?誰もがむっくんのように経験を積んでいる訳でもありませんし』


 あー、なるほど。

平和な環境で生きてたら戦うこともないもんね。

ボクは虫スタートだけど、例えば人間スタートの人ならまだまだ赤ちゃんだろうし。


『あ、むっくんと先頭の転生者の間には最大で15年の開きがあります。あなたは最後に転生したので』


 うっそでしょう!?

え!?じゃあなに、ボクってばあの真っ白空間で15年も放置っていうかぼーっとしてたの!?


『いいえ、あの場とこの世界では時間の流れが違いますので』


 ……え、SFだ。

そう言えば、あの時トモさんが基底現実なんちゃらに移行とかいってた気がしないでもない。


 ふむむ……まあ、これから用心しておこう。

別に転生者同士で殺し合いをしないといけないワケじゃないし。

下手な考え、休むに似たりってねえ。


「ムーク様ァ、アカちゃん!ご飯ができやんしたァ!」


「わはーい!ごはん、ごっはん~!」


「ワーイ!」


 何はともあれ、ご飯を食べようか。

腹が減っては戦が出来ぬって言うし!

戦は御免だけれども!!

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