第61話 【第一部最終回】そう、まさに……ボクたちの冒険は――

「おやびん、あーいっ!」


「アリガト」


 ふよふよ飛ぶアカが、オオムシクイドリの立派な牙を渡してくる。

それを受け取り、ポーチへ。


「ムーク様の魔法はほんに凄いでがんす!頭ば吹き飛ばすなんて……あ、これ皮膜でやんす」


「アリガト」


 ロロンも忙しく働いてくれている。

悪いなあ……でも、手伝おうとするとむっちゃ止めてくるんだよねえ。

『休んで!』って。

もう体は大丈夫なんだけども、本当に。


『頭部の上半分が消し飛んだのは痛いですが、それでもオオムシクイドリの体は素材の宝庫です。痛みが早い内臓以外は売れますよ』


 トモさんもどこか嬉しそう。

やったね!現金収入が増えたよ!

……まず金銭で売買できる環境までたどり着く必要があるんだけどね!


 まあ、油断せずにいこう、うん。


「ロロン、これおいし?おいし?」


「そりゃあもう美味ぇでがんす!竜種は一部以外はなーんでも食えて、しかも美味めなっす!」


「わはーい!」


 2人とも楽しそうで何よりです。

ボクも今から晩御飯が待ち遠しいよ、とっても!


「あ、魔石でやんす。これも売れるでやんすよ!」


 おー……凄い!今までで一番大きい魔石だ!

ハンドボールくらいある!!

売れるのかあ……でもなあ。


「ゴメン、食ベルカラ売レナイヤ」


「食べっ……!?!?」


 ロロンの耳が立ち、短い尻尾もぴんと立った。

おお、驚いてる驚いてる。

そういえば、ロロンの前で魔石食べたことなかったね。


『ちなみに、魔石を食べて消化できるのはむっくんとアカちゃんだからこそですからね。ロロンさんのような獣人はお腹を壊すどころか、最悪死にます』


 ひええ、そうなの?

コワイねえ……


「ロロンハ駄目ダカラネ、オ腹壊シチャウヨ」


「お、お見それいたしやんした……ムーク様の強さの一端がわがったでやんす」


 なんかまたお見それされてる!

最近こればっかりだよ。

背中が痒くなっちゃうなあ。



 そして、解体は進み……オオムシクイドリの体は綺麗にポーチに……入らなかった!

これまで無尽蔵に思えた貯蔵量も、流石にこれだけの物量には敵わなかったらしい。

やっぱり、地球の大型コンテナくらいの容量って感じかな?


 トモさんとロロンのアドバイスに従い、今まで入っていた安い魔物を出したり、バカみたいに入っていた草を放出したりして……『長持ちして、なおかつ売れるし美味しいモノ』を筆頭に内部を整理した。

いやあ、気が付いたらむっちゃ草入ってたからびっくりしちゃった。

移動しながら詰め込みまくってたからねえ。

餓死への恐怖感のなせる技だったようです、てへへ。


「ほ、ほんっとに……本当にえがんすか!?」


「イイノイイノ、ボクニハ使エナイシ」


 で、ロロンは……キラキラと輝く表情で、オオムシクイドリの大きい骨を2本握りしめている。

なんでも、槍の穂先と本体の補強に使用するらしい。

さっきまで使っていた槍は、思いっきり突き込んだ衝撃とアカの全力雷撃によって焦げて破損してしまったんだ。

だから、修理……というか新調に必要なら使ってもらいたい。

流石のボクらでも骨は食べられないしね。

頑張ったご褒美みたいなもんだよ。


「はぁああ……このロロン!御恩は終生!終生忘れはしねッス!」


 ロロンはボクに頭を下げて、骨を抱きしめて謎ダンスを踊り始めた。

アカも加わって、しばらくその微笑ましい踊りは続くことになった。

……ふふ、コレが見れただけで十分かなあ。


『オオムシクイドリの骨はいい武器の材料になります。仲間の装備が充実するとこの先も楽になりますよ』


 だよねえ。

みんなにいいことだよ、ほんと。

……ちなみにボクも武器とか欲しいんだけど。

毎度毎度ステゴロは疲れちゃうよ。


『あるではないですか、そこに……素敵な大腿骨が』


 んんん蛮族!!

ビジュアルが蛮族ゥ!!

なんでさ!ボクも槍とかカターナとか使いたいよ!!


『武道経験がおありで?』


 ……ないですゥ。

記憶は元々ないですゥ。

そして武術系の概念もあまり知らない所から察するに……生前?のボクは運動音痴でござるな?


『でしょう?ならば鈍器がマストでありベストです。それを振り回すだけで十分ですよ』


 むむむむ……

まあ、武器があれば棘とかの消費も抑えられるし……今は蛮族虫で我慢しようか。


 解体の済んだよさそうなのを持ってみる。

長さは1メーター半くらいかしら?

よっこい……どっせい!!

――ぶおん、といい音が鳴った。

ふむ、結構馴染むなあ。


「じゃじゃじゃ、ムーク様は棍棒をばご所望でやんすか!しぇば、ワダスにお任せを――!」


 目を輝かせたロロンが、ボクの持っていた骨を加工してくれるらしい。

何から何まで、悪いなあ。


「おやびん!アカも!アカもほしい、ほしーい!」


「お任せくなんせ!アカちゃんには牙をナイフに――!」


 なんか、ロロンはこういうのが得意らしいね。

適材適所、という言葉もあるので……やはり、お任せしたほうがよさそうだ。

うむ、やっぱりボクは周囲に恵まれているねえ!


『照れますね』


 はっはっは!存分に照れていただきたい!!



・・☆・・



「おやびん!あれ!あれぇ!!」


「オオオ!オオオオ!!」


 アカが指差す方向を見て、ボクは恐竜にも負けないくらい吠えた。


「アレは――やはり、方向は間違ってねがったがんす!」


 ロロンも嬉しそうだ!



 あれから、ボクたちはひたすら森を歩き続けた。

オオムシクイドリのようなボスモンスにぶつかることもなく、トラブルが起きることもなく――ついに、ついに!

歩き続けること、20日!


 ボクたちの目の前には、森の……森の切れ目が覗いていた!!

その先は遠くて見えないけど、明らかに今までと違った景色が見える!!



「アカ!ロロン!」


「わはーっ!」「うひゃあっ!?」


 アカを肩に乗せ、ロロンを担ぎ上げた。

片方は驚いているけど――ごめんね!ちょっと我慢できないんだ!!


「イックゾオオオオオオオオオッ!!」


 ボクは、思いっきり地面を踏みしめて――跳んだ!

何も言わなくてもアカが浮かせてくれたので、その頂点で……後方に衝撃波を放つ!

ぐん、っと加速し……2人を抱えて、木の上を跳び越えた。


「おやびん!もり、もり、なーい!あはは!あはははは!」


「アハハハ!ナイ!素敵ダ!トッテモ素敵ダァ!!」


 アカが、笑いながら頬に抱き着いてくる。

もう笑えてしょうがない!やったあ!遂に森を抜けたぞ!抜けたぞーッ!!

トモさん!トモさーん!!

クソゲーのチュートリアルが終わったよ~!!


『ええ、ええ……おめでとうございます、本当に……本当におめでとうございます、むっくん!』


 トモさんが、なんかちょっと、いやとても声に感情が現われている!!


『にゃっ……なんですか!私だって泣きもすれば笑いもするんですよ!』


 えへへ、ごめんなさーい!

でも、それだけ喜んでくれてるんだよね!

ボクも自分のことのように嬉しいよ!

そして自分としても嬉しいので……なんと嬉しさが2倍だよ!2倍ッ!!


「じゃじゃじゃ……空を飛ぶっちゅうのは、なんとまあ、こう……愉快なモンでやんす!あはは!あははは!!」


 呆気に取られていたロロンも、ボクたちに釣られて笑い出した。

あはは!いやあ!今日は――間違いなく、転生してから一番楽しい日だよ!!


「アッハッハッハ!フフワハハハハハハハハハハハ――!!!!」


 ボクは、馬鹿笑いしながら森の最後の部分を跳び越えるのだった。

眼の前には、青草の茂った……綺麗な草原が見える。

今までの人生で、一番きれいな草原だった。



「おやびん!おやびーん!!」


「ムーク様ァ!ちくっとお待ちなっせ!すぐに掘り出しやんすゥ!!」


「……マア、ソノ……気ニシナイデ、ユックリ、ユックリデイイカラ……」


 そして、現在。

……ボクは、首まで草原の土に埋まっている。

あの、その……えへへ、速度が出過ぎた上にテンションが上がり過ぎてブレーキを忘れてね……えへへ!

ここの土が柔らかいのが悪い!

まあ、アカとロロンは怪我がなくってよかったね!HAHAHA!!


 ……ボクの間抜け!粗忽!ウカツ!!


『締まりませんねぇ、まあ……ふふ、むっくんらしいとは思いますが』


笑い混じりのトモさんの優しさが胸を抉るよう!!

そんなことをしている間に、ロロンが新調した白くて綺麗な骨槍を縦横無尽に使用して……ボクはどこぞの発掘品よろしく掘り出されたのだった。

本当に締まらない!!



「地平線までのなだらかな草原……間違いねがんす!ここは『ラーガリ』の東南、『ロコトック草原』でやんす!この先にあるはずの街道を行けば、ラーガリ経由で『トルゴーン』に辿り着きやんす!」


 ……ちょっと、予定外のボクの蛮行があったけど。

ともあれ、仕切り直しである。


「……ヨシ!行コウ!アカ、ロロン!」


 体についた土を払い落し、背中に背負ったロロン作の棍棒の位置を調整。

毛皮マントをぶわっと翻し――ボクは、2人にそう言った。


「あいっ!」


 肩に飛び乗り、頬をボクの頬に擦り付けるアカ。


「はいっ!!お供ばいたしやんす!」


 ぐっと、拳を握りしめるロロン。


 2人に頷き――ボクは、いやボクたちは、西へ向けて歩き出した。


ワクワクする冒険心と、これからへの希望を抱えて。


 ……トモさん!これってまさにアレだよ、アレ!

お約束のやーつ!!


『――ええ、そうですね、むっくん。私達の冒険は……』


 ――これからだ!


えへへ、この先も、ずうっとよろしくお願いしますね!相棒!!


『ええ、こちらこそ……よろしくお願いしますね、むっくん!』


 ――ボクらと、草原を照らす陽射しは……泣きたくなるほど優しかった。


さあ!さあさあ!輝く未来に出発だァ!!



・・☆・・



『……やはり、いる』


 どことも知れぬ闇の中で、声が反響する。


『……この世界に、いる』


 切望するような、愛おしむような、呪うような声が。


『くふ、ふふ、ふふふ、ふは、ははぁ、あぁあ……』


 ごぽり、と。

粘性の液体が弾ける音。


『ここならば、ここならば、邪魔は入らない……入らない!!』


 反響する、狂気を含んだ、狂喜の声。



『――今度こそ、殺してやる――』



 それを聞くものは、その場には誰もいなかった。



・・☆・・



 これにて、『第一部・森編』は完結となります。

特に何が変わるわけでもない、場所だけが変わった『第二部・西の国ぶらぶら編』がすぐに始まります。


 これほど続けられたのは、読者の皆様の応援あってのことです。

この場を借りて、深く御礼申し上げます。


 これからも、むっくんや仲間たちの物語をどうかよろしくお願いいたします。

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