第59話 やっと楽勝ムードになったと思ったのにさァ!!


 焚き火の周囲で、木の枝に刺さった肉がじゅうじゅうと音を立てている。


「おやびーん!まだ、まだぁ?」


「マダマダ」


「ロロン!ロローン!」


「まだでがんす!今焼き始めたばっかでやんす!」


 アカがボクの前でホバリングしながら、空腹を訴えるような謎ダンスをしている。

とってもかわいいけど、もうちょっと待とうね。


 見た目にももう既に美味しそうなお肉は、さっきボクが頑張って倒した大地竜のもの……ではなく、アカたちが倒した地竜くんのモノだ。

え?大地竜は食べないのかって?


『――死にますよ』


 はぁあい……


 トモさんが言うには、大地竜ってのは子供の時はお肉にえげつない毒があるんだって。

前に水晶竜と喧嘩してたようなサイズだと大丈夫どころか美味しいらしいよ……くそう!

食べたいけどあんな大怪獣に勝てる気はしないので、涙をのんで魔石のみを回収した。


 ちなみに、ロロンもそのことは知っていた。

なので、かぶりつこうとするアカを必死で止めていた。


 解体した大地竜くんをその場に残し、もろもろポーチに入れてみんなで移動。

そして、日が暮れるまで歩き続けていい感じの空き地に到着。

周囲の確認がしやすい中心に腰を下ろし、夕食となった。


「はい!焼けやんした!」


「あむっ!はふふ……おいし!おいし!!」


 アカが早速自分より大きな肉片にかぶりついている。


「今日は野生のマルモまで手に入っていい日でやんす!……はい!ムーク様、どんぞ~!」


「アリガト」


 ロロンが肉と一緒に渡してきたのは、野球ボールくらいの大きさの野菜。

ここへ来る途中に、なんかスンスンし始めてあっという間に地中からいくつも掘り出したんだよね。

鼻がいいなあ……


 むむむ、表面は焦げて真っ黒だけど、漂ってくるのはいい匂いだ。

っていうか、前世?で似たようなのを見た気が……


「熱いのでお気をつけなっせ!栄養満点でがんす!」


 ふむふむ、それでは……皮を剥いてがぶり、しゃくしゃく。


「ンマイ!ンマー!」


 こ、これは……これはタマネギ!オシャレに言うとオニオンじゃないか!


『オシャレ……?』


 まさか異世界で焼き玉ねぎを食べられるとはね……!

香ばしくって甘くって美味しい!塩味がアクセントになってる!


「ホラアカ、オイシイヨ」


 肉に夢中なアカに、半分千切って見せる。

ボクの反応がよくって気になっていたらしく、小鳥みたいに手から齧り出した。


「ん~!しゃきしゃき!おいし!おいし!」


 好き嫌いなく何でも食べれて偉いぞお、アカ。


「野菜トカ詳シクテ凄イネ、ロロン」


「じゃじゃじゃ……森は野菜の宝庫でやんすから!……ムーク様たちはご存じなかったんでやすか?」


 あ。


「……アッチハソノ、草シカ食ベルモノガナクッテ……」「草!おいし!しゅき、しゅきい!」


 ボクたちは栄養バランスとか基本関係ないから……食べないと死ぬだけだから……


「……お見それいたしやんした!!」


 あーっ!また謎にお見それされてしまった!

やめてそれやめてっ!!



・・☆・・



「ロロン、もこもこ、あったか、あったか~!」


「にゃうう……あの、ムーク様は本当にそこでえがんすか?」


「イイノイイノ、ボクデッカイシ」


 お腹いっぱいに肉と野菜を食べた後、また移動してよさそうな横穴を見つけた。

今日の寝床になるはずだったそこは、ボクのワガママボディにはちょっと狭かったんだ。

なので、横穴の入口を塞ぐようにして寝転がることにした。

中では丸まったロロンと、腰蓑に潜りこんで楽しそうなアカがいる。

気にしないでいいのよ?ボクの体ってかなり頑丈になったしね。


『周辺の索敵はお任せください』


 っていうか今更だけどトモさん寝ないの?


『私に睡眠は必要ありません、寝るのは好きですが寝なくても大丈夫なのです』


 いいなー、神様っていいな~!

でも、退屈じゃない?


『お気遣いなく。地球をリサーチする過程でコピーした書籍や映像媒体もありますので、退屈はしません』


 いいなぁ!?それすっごくいいなぁあ!!

え?ナニソレそんなことできるの!?

凄いなぁ、神様!!


『ふふふ、神族の特権ですよ。それにしてもむっくんの世界の人間は本当にゾンビと鮫がお好きですね……』


 それ一部!一部の熱狂的な人たちだけ!

記憶はないけど、なんかボクも見たことがある気がするけど!!


『というわけでお任せを。今晩は『スプリンター・デッド』の第三シーズンを流しながら索敵します……マルチタスクは完璧なのでご心配なく、ですよ?』


 いいな~!

まあ、トモさんも息抜きは大事だしね。

それじゃ、おやすみ~……


「むにゃあ……むにゃあ……」「くぅくぅ……おっかちゃぁん……」


 2人分のカワイイ寝言を聞きつつ、ボクも眠ることにした。

いい夢が見れるといいなあ~……



・・☆・・



『……いるのね、○○、ここに、この世界に』


 あ、多分それ人違いです。

ボクはあなた様を存じ上げませんので。

そこにないならないで~す。


『あなたは!あなたはいつまで!いつまで私の邪魔を!!』


 だから人違いですってば。


『待っていなさい……必ず、必ずあなたを――して――を――この手――』


 ちょっとォ!!

肝心なところでノイズ乗せるのはルール違反ですよォ!!

あと、ボク人違いだから!

そんなことに関わり合いになってる暇ないからァ!!


 ボクは忙しいんですよ~!!



・・☆・・



『――むっくん!起きてください!』


 んはぁ!?な、なんだァ!?

妙な悪夢を見ていたら、トモさんに叩き起こされた!!


 目を開けると、早朝の森が見える。

むむむ、モヤが出ているけど特に変わったことはないけど……


『上空です!接近する反応あり!――アカちゃん、起きて!ロロンさんを起こしてください!!』


「うにゅむ……あいっ!ロロン!ロロン!!」「むにゃあ?アカちゃん、何事でやんすかぁ?」


 背後で起き出す2人。

上空って言ったな、じゃあ……空飛ぶ魔物か!


『反応がとても大きいです!あれは、あれは――』



「――キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



 空に響く音、いや声。

これは……まさか!

聞き覚えがあり過ぎるぞッ!?


 木の切れ目に、太陽を遮る大きな影。

うああ!やっぱり、やっぱりアイツはッ……!!


『――オオムシクイドリです!!』


 ノオオオオオオオオオオウ!!

なんで!なんでこのタイミングでッ!!

ボクが何したって言うのさ!神様の意地悪ッ!!


『真っ直ぐこちらへ来ます!むっくんの魔力に引き寄せられたようです!』


 なんでさあ!?

と、とりあえずここを離れるっていうか!アカたちにターゲットが行かないようにしなきゃ!


「オオムシクイドリガ来ルッ!!ボクガ引キツケルヨ!!」


 背後にそう言い、声の方向へ走り出した。

カブトムシ状態では逃げるばかりだったけど……今のボクはちょいと手ごわいぞ!!!



「キシャアアアアアアアアアアッ!!」


 ボクをターゲッティングしているのは本当なのか。

上空で声がした瞬間に、白いブレスが飛んできた。

木々を薙ぐそれを、衝撃波ブーストで潜り抜ける。


 ――トモさぁん!これもう戦うしかないよねェ!!


『はい!今のむっくんの攻撃なら有効打になります!なりますが――被弾には気を付けて!』


 はぁい!!

ちくしょう!どこまでいっても防御力問題がついてくる!!

結構頑丈だと思うんだけどなあ!ボク!!

いつか鎧でも仕立ててもらおうかなあ!


「キュオオオ!!」


 おっとォ!?

ブレスを躱されたことが分かったのか、オオムシクイドリが急降下。

木をなぎ倒しながら、土煙を上げて豪快に着陸してきた。


 来るか!

じゃあこっちも――最大溜め衝撃波を喰らえぇ!!


「ギャッガァ!?!?」


 着陸したばかりのオオムシクイドリの顔に、衝撃波が着弾。

血がでたり陥没したりしてないけど……!痛そう!

ぶん殴られたみたいに顔がブレたし!

よおし、これならいけそうだ!!


『おやびん!』


『ボクが前に出る!アカとロロンは遠くから助けて!』


『あいっ!!』


 アカたちも追いついてきたようだ。

ボクが前衛で大暴れして……援護を頼む!


「ギャアアアアッ!!ガアアアアアアアアッ!!」


「バッチコーイ!!」


 顔にダメージを受けたオオムシクイドリが吠える!

『この野郎!!』って顔だな!


『喉に赤い鱗があります、これは雌です。子供の援軍はありませんね』


 育児放棄するタイプのママだ!

オマケがないのはありがたいねえ!!


「オオムシクイドリ……腕が鳴りやんす!天空のお歴々よォ!我が槍捌きをば、ご照覧あれェ!!」


 ロロンもやる気満々で素晴らしいな!

さあ……行くぞォ!虫食いトカゲ野郎ォ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る