第58話 おや?森の様子が……?
「おやびん!すくない、すくなーい!!」
ロロンと旅は道連れ状態になってから、早いものでもう1週間。
(本人は頑なにそんなに大したものではないと主張しているけど)料理人を入れた我がパーティーは、主に食の面でかなり有意義な状況になったよ!フフン!!
人助けはするものだよねえ!!
んで、アカが何か興奮しているな。
何が少ないって?ボクの頭髪のことかな?
いや、そもそもボクのヘッドは兜だもんね!HAHAHA!!
「じゃじゃじゃ!」
おおっと?
ロロンまで何かに驚いている。
なんだろ……お、おお?
なんか……森の、森の密度?が減ってきてるような気がする!
今まではみっちりしてたけど、今は少し先が見えるような感じに!
『植生の変化ですね。これは……森の終わりが近いのかもしれません』
や、ヤッター!
長く苦しい戦いだった……!
「この感じ……森が『浅く』なってきやんした!」
「アト、ドノクライカナ?」
「むむむ……森がこうなってきだがら……ワダスたちの足で1月はかからねえくらいでやんしょうか?」
おお!明確なゴールが見えてきたぞ!
一ヶ月か……いい!全然いい!
終わりが把握できればモチベーションもアップするし!
「頑張ロウ、アトチョット!」
「がんばる、がんばるぅ!」
アカが空中で謎ダンスを踊っている。
とてもカワイイ。
今日も絶好調だねえ!
『森を抜ければ、現在位置の把握もやりやすいでしょうし……ようやく明るい未来が見えてきましたね、むっくん』
トモさんやみんなのお陰ですよお!
ボク1人だけならしめやかに成仏していた可能性しかないし!
いやあ、何度も言うけど人脈だけはチート級に恵まれてるね、ボクは!
さあ!未来に向かって今日も頑張ろう!!
「ギシャアアアアアアッ!!」
「チクショウ!安心シタラスグコレダ!!」
意気揚々と出発してすぐ……地竜の群れに襲われた。
今回は10匹くらい、結構な大所帯だ。
『アカはロロンの上!近付いてきたら魔法!』「ロロン!アカト一緒ニ戦ッテ!!」
「あいっ!」「ムーク様もお気をつけで!!」
後方に2人を残し、前に出る。
たぶんこの中で一番防御力があるのはボクだし、攻撃を引き付けなきゃ!
「ギャアアッ!!」
真っ先に追いついた地竜が、鋭い爪を見せて飛び上がった。
よおし、まずは1匹目ェ!!
――右腕のパイル、射ァ出ッ!!
「――ゲッ!?!?」
斜め上に撃ち出したパイルが、地竜の首を捥ぎ取りながら抜けていった。
反動が、ボクの足を地面に沈める。
うわ、ここの地面柔らか!?
進化して体も丈夫になったし、死ぬほど魔力を込めたわけじゃなければ反動にも耐えられるけど、地面まではどうしようもない!
「ギャシャアアッ!!」
「ムゥンッ!!」
死んだ仲間の影から飛び出した新手に、衝撃波。
速射だから死にはしなかったけど、後方に吹き飛ばせた。
左腕の棘を二段階伸ばし、ナイフのように構える。
これだけ相手がいれば、射出はコスパが悪いからね!
足を地面から引き抜き、新手……3匹に向う。
「えぇーいっ!!」
後方からアカの声と、電気が弾けるような音。
聞こえたと思ったら、ボクに突撃してきた1匹に直撃。
声も出せずに痺れて転がった。
いいなあ!雷ってやっぱいいなあ!
「ギギッ!!」「ギャッ!!」
残る2匹が来る。
1匹は跳び、もう1匹が横から迫る。
映画で見たなんとかラプトルみたいに賢いなあ!
「グッ!」
飛び掛かってきた1匹。
その爪を右手で受け止め――胴体に左パンチ!!
「ゲッガ!?」
やつの爪は右手に少しの傷を残し……ボクの棘は胴体を貫いた。
付き込んだ勢いでそのまま横に振ると、骨を断ち切るグロい手応え!うわあキモ!!
「ギャウウ!!」
空中の1匹が死ぬくらいのタイミングで、もう1匹が横からボクに体当たり。
前のカブトムシボディだと吹き飛ばされそうだけど、今なら大丈夫!!
そのまま踏みとどまり……その顔に、全力右パンチ!!
「ガビャ!?!?」
ボクに噛みつこうとしていたそいつは、額?の部分を陥没させて目が飛び出した。
やだ、ボクのパンチって強すぎ……?
よし、残った敵はアカの電撃が命中した1匹!
そいつに――全力衝撃波ァ!!
「ギャッ!?!?」
地面に倒れたまま、そいつは首が真後ろに向いた。
前方はこれで終わり、後は横を回り込んだハズ!
アカたちの援護に行かなきゃ!
「どっせぇえい!!」「ギシャ!?!?」
振り向くと、ロロンが……なんか、刃の部分が3倍くらいになった槍で地竜をぶった切っていた。
えええ!?ナニソレ!?
伸びるの!?その槍!?
『先程魔力反応がありました。おそらく土魔法ですね……槍の刃に鋭利にした石を纏わせたのでしょう』
土魔法!すごーい!!
いいなあ!魔法使えるのいいなあ!!
「ガアアアッ!!」
地竜の首を飛ばしたロロンに、新手が!
いけない!援護を……!!
「んんんん~~ッ!!」「アギャッ!?」
アカが、口を大きく開けて……『疑似撃発口吻』を発射した。
ロロンに飛び掛かろうとした地竜の顔に、指先大の穴がボボボボっ!って感じで空いた。
うひゃあ、えげつないや!
いやいやいや、こうして見ている場合じゃないや。
ボクも援護に――
『むっくん!下ッ!!』
――はぁいッ!!
トモさんの声にジャンプすると、さっきまでいた所になんか……棘が生えた!
いや、アレは棘じゃなくて――
『大地竜です!!』
やっぱりィ!?
アレは口だ!大地竜の口!!
地面ごとボクを食べるつもりだったのか!
着地すると、地面を突き破って大地竜が顔を出した。
これは……転生初日に見たのよりもちょっと小さい!!
「ムーク様ァ!」「おやびんっ!?」
「大丈夫!ソッチコソ気ヲ付ケテ!」
あっちにはまだ地竜がいるし……こっちはボクがやらないと!
トモさん!コイツもブレス吐く!?
『吐きます!射線に気を付けて!今のむっくんなら即死はしないでしょうが……!』
了解!
まずは衝撃波を横に出して回り込みつつ、同時並行で魔力を溜める!
アカたちにブレスが行かない角度で――まだ溜める!
「グルオオオオオ……!!」
ゆうゆうと地面から出てくる大地竜にぃ――オーバーチャージ衝撃波、発射ァあ!!
かぉん、と射出すると同時に、ボクの体が反動で跳ぶ!
地面に両足のパイルを突き立て、背後に衝撃波を撃って反動を相殺!
うぐぐ、体がミシミシするう!!
「ガアアッ!?!?」
衝撃波は、半分体を外に出した大地竜の顔面に着弾。
鱗をいくらか吹き飛ばし、口から覗く牙をへし折った!
よおし、よしよし!ボクの攻撃は、大地竜に通じるッ!!
水晶竜と喧嘩してたような大きい奴じゃないけど……進化した甲斐があった!
コイツが地面に出て来るまでに……バンバン攻撃してやるぞォ!!
もう一度……触角に、魔力を充填する!
さっきよりも、多く!!
お腹の下あたりから胴体を通って……額に魔力が集まる!
体のどの部分からでも衝撃波は出せるけど、触角からのモノが一番威力が出る!ような気がする!
「ゴオオ!ガアアアアッ!!!!」
大地竜が吠え、ボクを睨みつける。
うひい怖い!だけど――喰らえもういっちょォ!!
ごぉん、と衝撃波を射出。
やっば、触角にヒビ入っちゃった!?
ちょっと魔力込め過ぎた!
「ゴギャ、アア!?ガアアアアアッ!!」
だけど、大地竜には問題なく着弾!
下顎が外れたようになって、口から血を吐いている!
ぬおおおお!?ちょっと反動が消しきれなくて飛ばされた!?
だ、だけど今のは大ダメージに――
『ブレスが来ます!』
うわあ!?顎が外れたっぽいのにそのままブレス撃つのォ!?
ジャンプ&後方に衝撃波ァ!!
飛び上がったボクの足元を、赤黒いブレスが通過!あっぶない!!
だけど……!ここはいい位置だァ!!
「ガアアアアアアアアッ!!!!」
斜め上に舞い上がったボクに、大地竜が吠える。
好きなだけ、吠えてなさいッ!!
むんむん――後方に衝撃波!
ボクは、足を揃えて大地竜に突撃する。
喰らえ必殺――むっくん・キィイックゥ!!
「――オオオオオオオオオオッ!!」「ガッガアアアッ!?!?」
加速したドロップキックが、大地竜の首元に炸裂。
到達するまでに溜めた魔力を乗せて――両足パイルを同時に展開!
しかる後――射ァ!出ゥ!!
「――ゲゥッ!?!?」
二連続で突き刺さり、そして射出されたボクの棘は――大地竜の皮膚に突き刺さって体内へ侵入。
貫通して、地面に2つの大穴を空けた。
「ギャ……アァ……」
体に空いた穴から滝のように出血し……大地竜はガクリと首を折った。
やった……やったぞォ!
「おやびん!おやびーん!」「ムーク様ァ!」
アカたちがこちらへやってくる。
どうやら向こうの地竜は片付いたようだ。
そして……ボクは地面に倒れ、衝突と射出の反動でグシャグシャになった両足の修復をトモさんにお願いするのだった。
ううう……攻撃力は高くなったけど、ボクの体がその反動に耐えられないのはバグでは!?
『仕様ですね』
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