第57話 3人チームもとい4人チームはとても楽。最高に楽。


「来タヨ!」


「一番槍!行ぎやんすっ!!」


 ロロンが、一気に踏み込む。


「おおっ……っりゃあああっ!!」


「――ギャウッ!?!?」


 低い体勢から一気に突き出された槍が、茂みから飛び出した森狼の首を貫いた。


「ぬんっ!!」


 首を突き刺したまま、ロロンが槍を回す。


「ギャインッ!?!?」


 続いて飛び出した新手の森狼。

そいつに、さっきの森狼が刺さったままの槍が直撃した。

うわあ……強いじゃんロロン。


『むっくん!見とれている場合ではありませんよ!反応、左に3!』


 おおっと!?

むんむん……充填ッ!!

――中溜め衝撃波、発射ァッ!!


「ピギッ!?!?」「ブギィッ!?!?」


 開けた左側の林、その奥から猛然と突っ込んできた苔猪2匹に着弾。

前足を両方ともへし折り、2匹はその場に転がった。


「にゅにゅにゅ……えぇーいっ!!」「ギャッ!?!?」


 その苔猪のさらに後方、遅れてこちらへ走ってきたゴブリンに――アカの稲妻が直撃。

威力は十分だったのか、ゴブリンは血反吐を吐いて倒れた。


 ええと……他の魔物はいない、かな?

ロロンも、残った1匹の森狼に小ぶりなナイフを突き刺してトドメを刺していた。


『素晴らしい、理想的なパーティですね』


 トモさんがそう言ったように、なんとも楽な戦いだったな~……

油断はしないけど、1人増えるだけでこんなに楽になるのかあ。



 ロロンと知り合った翌日。

ボクたちは、西に向かって歩いている。


 昨日、森狼に囲まれて震えていたからどうかな~……なんて思っていたけど、蓋を開けてみればロロンはとても強い戦士だった。

どうも、昨日のは上空から落下したことで軽いパニックになっていたらしい。

さっきみたいに、森狼2匹くらいなら問題なく処理できるみたい。


「ロロン、スゴイネエ」「しゅごい!しゅごーい!」


「じゃじゃじゃ……そ、そんな、ワダスなんてまだまだでござりやんす、へへへ」


 森狼を手慣れた様子で捌きつつ、ロロンは照れている。

うわー!すごい!お肉屋さんみたいな動きだ!


「捌クノ、見セテネ」


「こげなもんでええんでしたら、いぐらでも!」


 ほほー……なるほどなるほど、そういう風にナイフを入れるのね。

ふむふむ、勉強になるなー……今まではそれ所じゃなかったから適当に千切ったりしてたもんねえ。

料理とか、捌き方とか、そういう部分に気を回せるのはいいことだよね~……


「苔猪は背の茸がいい稼ぎになるんでがんすが……荷物になりやんすね」


「ア、大丈夫」


ぶん殴って成仏させた苔猪の茸を捥ぎ取って、ポーチにしゅるりと入れる。

見た目も匂いも完全に松茸チックなんだけど、コレ猛毒なんだよねえ。

残念無念だなあ。


「じゃじゃじゃ!【エルフの大風呂敷】でがんすか!? さすがはムーク様、それをお持ちとは!」


 へえ、獣人さんはそう言うんだね。

……それにしてもやっぱり超貴重なんじゃん、このリアクションだと。

やっぱりおひいさまは王族だけあって価値基準的なやーつがバグってるんだなあ。


「ウン、友達ニモラッタンダ。大事ナ友達ニネ」


「エルフ様と友誼がおありでやんすか!? はぁあ~……お見それいたしやんすぅ!」


 なんかすっごい尊敬した目で見られた。


「そう!おやびん、しゅごい!とっても!」


 ボクの肩の上で、アカがドヤ顔をしている。

あの、2人して褒めまくるのやめてもらっていいですか?

無限に調子に乗るので、ボクが!


「ハハハ……マア、ソコソコネ、ソコソコ」


 とりあえず謎の弁解をするボクだった。



『ふむ、川も近いですし周囲の見晴らしがいいですね。ここでお昼ご飯にしましょうか』


「ココヲキャンプ地トスル!!」「する、するう!!」


「いい場所でやんすね。ワダスは竈を作りやんす!」


 しばらく歩き続け、お昼ご飯に最適なロケーションを発見した。

すぐにロロンが石を取りにダッシュ、アカも枝を拾いに行ってしまった。

こ、行動が早い……出遅れてしまった。


「ムーク様はどっしり!構えてお休みになってくなんせ!親分さんがバタバタするもんではねえがす!」


「イヤ……ボクモ働クヨ‥‥‥」


 えっと……うん、とりあえずお昼ご飯に使う森狼くんのお肉を準備しておこうか。

至れり尽くせりすぎるでしょ……


『むっくんの人徳ですね、ええ』


 トモさんからなんか、ドヤ顔の気配がする!

慕われるのはまあいいとして!居心地が若干悪いでござるよ!!



「いい焼き色でやんす!では、最後の仕上げをば……!」


 じゅうじゅうと音を立てるお肉に、ロロンが何かを振りかけた。


「マ、マサカソレハ……塩!?」


「で、がんす!塩は必需品でやんす!」


 お、おお……初めて見た!異世界で!

いや、おひいさま達は持ってたんだろうけどね。


 そっかあ、ボクとアカは食べたらなんでも栄養になるけど……普通?の獣人さんはちゃんと食べないと駄目なんだよね。

アレ?そういえばトモさん。

獣人さんは進化とかしないの?


『はい、彼らは魔物ではありませんので。寿命も平均130年ほどありますし』


 長生きだなあ、獣人さん。

……そういえばボクって虫人じゃなくって虫の魔物なんだよね?

これ、西の国に行ったらなんか問題にならない?


『ならないでしょう。意思疎通ができて、今のむっくんの外見なら問題ないかと……正直、『人か魔物か』というのは厳密に分けられない分野なのですよ』


 ふむん。


『まあ、むっくんは出自の段階で謎虫ですので』


 謎虫って言わないで!!


「ムーク様、どんぞ。アカちゃんも」


「アリガト」「ありあと~!」


 そんな風に考えていると、狼肉が焼けたみたい。

早速、湯気が上がっているそいつにかぶりつく。

がぶり、もぐもぐ……ごくん。


「む、ムーク様ァ!?何事でござりやんすか!?」


「オイシスギテ……オイシスギテ……」


 地面に倒れちゃった。

なんだこれ……なんだこれ……

塩振っただけでこんなに美味しくなるのォ!?

おかしい……動物園がどこにもない……あ、ちょっと隠れてた。

で、でも今までの狼肉とは段違いだ!

ロロンの捌き方っていうか、下ごしらえの良さがいいのかな?!


「ロロンッテ、料理人?」


「じゃじゃじゃ、そげな大層なモンでは……部族では一番の若造だったもんで、狩りの時によぐ竈番をしておりやんした」


 竈番……ふむ、狩りの時の料理役ってことかしら?


「行商に獲物を卸すこどもありますので、美味しく食うコツくらいは知っておりやんす!」


「オイシイ、スゴクオイシイ」「んま!んまー!ロロン、ロロンしゅき!」


 アカも大絶賛だ。

基本的になんでも美味しく食べれるアカだけど、美味しければ美味しいほどいいのは間違いない。


「うぇへへ……へへへ……」


 なんか、ロロンの耳がリズミカルに動いている。

感情ってそこに出るのかあ。

なんかカワイイね。


「さ、ムーク様!まだまだありやんす!いくらでもお食べえってくなんせ!アカちゃんも!」


 そういえばまだ倒れたままだった。

座り直さないとお行儀が悪いね。



・・☆・・



「ロロン、森ヲ抜ケルノニドレクライカカルカナ?」


「う~ん……ワダスも半分失神して運ばれてたのでなんとも……でも、方角はムーク様がお持ちの【方位魔石】でバッチリでやんすから……ここも、木や魔物からそこまで『深い』場所には見えねし……」


 さすがは土着?の獣人さんだ。

こういうのに詳しい現地の人がいると助かるね、トモさん。


『そうですね、私の知識も広く浅くといったものが多いですので』


「ソウイエバ、ロロンッテドコノ国ノ人?『ラーガリ』?ソレトモ南ノナントカ帝国?」


「どちらでもねぇでがんす。ワダスは『エラム砂漠』の端の出でやんす」


 知らない地名が出た!


『『グロスバルド帝国』の西に広がる砂漠地帯ですね。国に定住しない、またはできない獣人の部族連合がある……と、知識にはあります』


 ほほう。

なるほどねえ。

国に住んでる人だけじゃないんだなあ。


「ムーク様はどちらがお国でやんすか?」


 ム……ムムム!?

ど、どうしよう。

ボク、よく考えたら波乱万丈とはいえ生後一年未満だよ!?

ちょっと前まで兜芋虫だったんだよ!?


「……森ノ中デズット、ソノ、修行ヲ」


 これ、嘘じゃないから大丈夫でしょ。


『アカ、ボクたちが芋虫だったことは内緒ね、内緒』『あいっ!ないしょ、ないしょ!』


 念話でそう言うと、アカも空気を読んでくれた。

……よくよく考えれば、元人間?のボクはともかく……アカはこの短期間で賢くなったもんだなあ。

異世界の神秘だよね、何故か共通語?話してるしさ。


『あら、話していませんよ? アカちゃんは念話の要領で、感情を言葉の形で私達に翻訳して伝えているのです。実際には共通語ではなく、妖精独自の言語を話しています』


 ええええええ!?

今明かされる驚愕の……ってほどでもない。

こうして話が通じるからいいか。


「にゃんと!か、【帰らずの森】で修行……!!お、お見それいたしやんしたァ!!」


 そしてちょっと勘違いをしたロロンは、再び土下座のような姿勢になった。

……この短期間で、ボクはどれだけお見それされるんだろうか。


 香ばしく焼けた狼肉を齧りつつ、ボクはそんなことを考えていた。

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