第55話 森は続くよどこまでも……ところでどちら様?
「おいし!おいし!」
「ソコソコ……ソコソコ……」
今日も今日とて森の中。
あれから料理とも言えない料理の力に気付いたボクは、水場を見つけると積極的に火を起こしている。
アカは基本的になんでも美味しくいただけるけど、やっぱり美味しいものは好きらしい。
ボクとしても、今までの『すごく不味い』魔物が……『まあ、うん、食べられなくはない、かな~?』レベルまで進化するので大変助かっています。
美味しいとは言わないよ?
ちなみに今日のお昼ご飯は焼いた森狼くんです。
アカ的に大満足みたいだけど……ウン、美味しくはないよ、美味しくは。
焼いたから大分マシにはなってるんだけど……こう、なんていうかな?
香ばしいお肉の味を堪能していると……奥の方から洗っていない犬小屋がダッシュしてくる感じ?
あっ駄目だ、意識したら不味さを無視できない!!
『黒いゾーンの魔物は美味しいですよ?戻りますか?』
ぜ っ た い に い や 。
そりゃ、オークさんは美味しかったけどさ!
焼けばもっと美味しいと思うけどさァ!!
それとこれとは別問題です!!
折角あの地獄から逃げられたっていうのに、地獄をお代わりする趣味はないのです!
『でしたら、頑張って森を抜けましょうね?』
はあい!
そうだ……この森を抜けさえすれば人里に近付くんだ!
待ってろよ文明世界!
待ってろよ美味しいアレやコレ!!
「ごちそさま、でした!」
「ゴチソウサマ」
アカもボクも食事を終え、手を合わせる。
ボクが習慣でやってたの、アカも気に入って真似するようになったんだよね。
かわいい。
ウチの子分かわいすぎんか?
『火の始末はしっかりと、ですよ』
はあい!
料理に使った焚火に土をドザー!
万が一にも延焼しないように、川から湿ったモノを調達してきました!
火事にでもなってエルフさんに迷惑かけるわけにもいかないしね!
ここがエルフの国の領土かは知らんけど!
『黒い森の外側は、厳密には四方どこの国の持ち物ではありません。一種の緩衝地帯とでも言いましょうか……もっとも、エルフたちはその全てを慈しんではいるようですが』
へえ、そうなんだ~。
慈しんでるからこそボクらが助かったわけだね。
『これまでも周辺国家が何度か、どうにか森を切り開いて領土に……ということがあったのですが、その度に未曽有のスタンピードが発生して甚大な被害を出しまして。それで、不可侵のような形になっていますね』
も、森の怒りじゃー!みたいな感じかな?
この世界は魔法も魔物もあるから、そんなことになったら大惨事だよねえ。
地球の人間よりもこっちの人間さんは強いと思うけど、どっこい魔物も強いもんねえ。
『さ、出発です。暗くなる前に距離を稼ぎますよ』
「シュッパツ!」「しゅっぱーつ!」
火の処理を終え、アカと並んで歩き出した。
さあ、ガンバルゾー!!
・・☆・・
「ギャアアッ!!ギャアッ!!」
空気を切り裂く尻尾を、両腕でガード!
そしてェ……!むぅん!!
「ギュッア!?」
ガードに使った腕の下を通って……鋭い刃が突き出される。
それは、なんとかラプトル……ええと、地竜だっけ?とにかくソイツの胴体にザクザクっと突き刺さった。
最近やっと使いこなせるようになった『隠形刃腕』が、大活躍している。
コレ、強いとは思うけどむっちゃ使いにくいんだよね……ちょっと前に魔物の解体に使ったら、ボクの太腿に突き刺さって酷い目にあったし。
鋭すぎるんだよ、ソードアーム。
まあ、今回は成功だ。
移動中に襲い掛かってきた地竜くん3匹はしめやかに成仏している。
いやあ……転生初日に見た時には『勝てるかあんなもん!』って思ったけど……成長するもんだね!ボクも!!
『むっくんも立派になって……』
トモさんがたまにやる、親戚のお姉さんムーブをしている……親戚のお姉さんの記憶?なぁい!
とりあえず解体しよっと。
今はまだお腹空いてないし、小分けにしてポーチに放り込んでおこう。
「ヌン!」
『隠形刃椀』展開!
ふふふ……スパスパっと解体してやるぞアギャーッ痛い!?
ちょ、調子に乗って勢いよく展開したら腰がちょっと切れた……むぐぐぐぐ。
反省しなければ……
「だいじょぶ!?だいじょぶぅ!?」
「ダ、ダイジョブ……オヤビンハ最強ナノデ……」
『むっくん……』
トモさんが呆れた顔をしている気がする!!
と、とりあえずは解体だ、解体!!
『少し日が陰ってきましたね……この周辺で夜を越せる場所を探しましょうか』
ちょっと失敗したけど地竜くんを解体した後、いつものようにダッシュで移動。
出会う魔物を殴ったり蹴ったり挽肉にしたりした。
通常森ゾーンは恐ろしい魔物が少なくていいね……返す返すも進化していてよかった。
木々の切れ目から見える空は、言われたように暗くなり始めている。
ふうむ……今日はどこで寝ようかな。
最高ランクは洞窟、最低ランクは手掘り洞窟!
というわけでちょっと小高い丘でも探しましょうかね。
『アカ、丘を探そうか。近くに川とか水たまりがあればなおヨシ!晩御飯は焼肉だぞ~!』
まあ毎日焼肉なんですけども。
「やっきにく!やっきにくぅ!」
嬉しそうに繰り返し、アカは飛び上がる。
上から探してくれるようだ。
『あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ~。ボクが見えるところにいてね~』
「あーい!いてきま~!」
……いいなあアカ、口が回って。
ボクも毎日頑張ってるけど、まだ長文を喋るよりも念話の方が楽なんだよねー。
西の国に行った時に困らないように、練習だけは続けておこう……『隠形刃椀』の訓練と一緒にね。
「……バスガスガスバス!」
むう、駄目か!
冷静になって考えると『バスガス爆発』ってどういう状況なんだろうか。
天然ガスで走るバスなんだろうか。
エコですね、エコ。
『こら、むっくん。索敵の気を抜かない!数が少なくても、この森にも強い魔物はいるのですよ?』
ハイスミマセン!!
ちょっと気を抜きすぎたね、反省反省。
進化もしたし、寿命も順調に伸びてる今だからこそ、足元をすくわれないようにしないとね!
『その通りです。この森はもとより、この世界には強い魔物が多いのですよ……むっくんはまだまだ、まだまだまだまだ弱者側ですからね?』
まだがむっちゃ多い……ボクこの世界ほんと怖いよ。
黒い森抜けたから安心しきってたけど……よくよく考えたら水晶竜も大地竜も通常の森ゾーンで出てたじゃん!
地底蜘蛛もいたし!
たしかに気を付けないと貰い事故で死んでしまう!
むん!
これからも気を引き締めていk――
「おやびん!おやびーん!なんかいる、いるぅ!」
「待ッテロ!アカーッ!!」
言ったそばから何かが起こった!
アカは……あっちか!
「あっち!あっちぃ!」
ちょっと先の上空で、奥を指差すアカ。
なんかいるって言ってたな、魔物か!
『アカちゃんが指差した方向……確かに多くの反応があります。戦闘が起こっているようです』
むむむ!
魔物同士の戦いか!
これは……来たね!漁夫の利のチャンスが!!
「アカ!シー、ネ。シー!」
「あいっ!」
走るボクの肩に、アカが着地。
よし!その方向に行ってみようか!
期せずして晩御飯のおかず?主食?が一品増えるぞ~!
・・☆・・
「うわああああん!うわああああん!誰かぁ!誰か助けてくなんせ~!!!」
「ルゥウオオン!」「ウルルルル……!!」「ガウウウゥ……!!」
えーと……これは……どういう状況なんだろうか。
アカとトモさんの誘導に従って行くと、大きな木が一本だけある開けた空間に出た。
その木をぐるりと囲んでいるのは、緑色の小汚い洋犬の群れ……森狼か。
そして……
「来ねえで!来ねえでくんろ!ワダスは硬ぇし苦ぇし不味いがら食っでもいいことねえでがんすぅ~!!」
木にしがみついている……毛玉?がいる。
その毛玉からは、なんだろう……槍?が突き出ていて、それをブンブン振り回している。
なんだろう……本当に、なんだろう……
言葉を話しているから魔物じゃないというか、『思考種』なんだと思うけど。
……今更だけど魔物と人類の違いって何なんだろうか。
『呼び方の問題なだけですね。言葉が話せて意思疎通できればみな人類ですよ』
ざっくりしちょる!
えーと……じゃあ……どうしよ。
あの毛玉?さんは話が通じそうだし、ボクとしては食べる気はない。
牛や豚と会話が出来たら食べられないことと同じだし……なにより、あんなにアワレっぽく助けを求めている存在をもぐもぐできないよ……
声の感じから、まだ子供みたいだしさ。
『では助けますか?』
そうだね、そうしよう。
この森とか周辺の国のこととか、情報収集できるかもしれないし。
エルフさん以来の異世界人類だ、愛想はよくしておきたいよね。
「助ケルカラ!ソノママ、ソコニイテ!」
「はへぇ!?誰だべや!?」
毛玉さんにそう言い、軽くジャンプ!
跳躍の頂点で――衝撃波を後方に発射ァ!!
どん、と衝撃が来てボクは前方へカッ飛ぶ。
「ワゥ!?」
ボクの接近に森狼が気付くが――もう遅い!
この技を使えるようになってから、ずっとやりたかったボクの新必殺技を喰らえッ!!
滑空しながら片足を突き出した、この――ライd……むっくん・キックを!!
……ダサイな、この名前。
「ガバァワ!?!?」
衝撃波で加速したボクの右足が、森狼にめり込む。
それどころか、胴体に足が突き刺さり――真っ二つになった!?
うわわ、これは威力が高すぎたか!?
かわいそうな森狼を二分割しながら、地面を削りつつ着地。
仲間を葬ったボクを敵と認めたのか、木に吠えていた残りの森狼が一斉にこちらを向いた。
「ガルゥウ……ガゥワォ!?!?」
真っ先に飛び掛かろうとした新手に、衝撃波。
顎に直撃した衝撃波で、首が曲がっちゃいけない方向に曲がった。
「カカッテコイヤー!!」「えぇーい!!」
ボクが吠えるのと同時に、背後のアカが雷撃を三連射。
あっというまに生焼けの森狼が3体完成した。
ふふふ、流石はアカ!素晴らしい子分よ!!
さあ、残りもおとなしく晩御飯の素材になれ……え?
「キャン!」「ギャヒン!」「ヒャン!!」
残った森狼はものすごい勢いで逃げて行った。
え、ええ~……せっかく気合入れたのに……ま、まあいいや、5匹は仕留めたし晩御飯には十分だ。
それで……
「アノ~、モウ大丈夫ダケド」
「はへえっ!?た、たたた食べねえでくなんせ~!!」
とりあえず、まだ槍を振り回している毛玉さんに声をかけるのだった。
どんな人なんだろうな~?
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