第54話 こんなによくされると罰が当たりそうでござる。

『両腕の修復、完了です……レクテスさんにいただいた魔石のお陰で問題ありませんでしたね』


 おお!懐かしの両腕!

会いたかったよォ!!


「治ッタ~!」


「なおった!なおったぁ!!」


 すっかり五体満足になったボクの周りを、アカが飛び回って喜んでいる。

ふふははは!復活!むっくん大復活!!


「相変わらずデタラメな回復力だな」


 レクテスさんは苦笑いしている。

見かけは元気だけどこのままだと余命一ヶ月です!フゥーッ!!

……笑い事じゃナァイッ!!

またもぐもぐしなきゃ、魔物を。


「そら、追加だぞ」


 そしてボクに放り投げられる魔石!

うっそでしょ!?


「ソンナ、悪イデスヨ……」


「この程度気にするな。そら、お前にも」


「わはーい!」


 さらに、アカにまで追加の魔石を!

はーっ!!今までにされた仕打ちこれでもう全部許しちゃう!エルフやっぱり大好き!!


 ぼりぼり……ごくん。

はー、石の味しかしないけど体がポカポカする!

これで完全に健康体だ!!


「おっと、毛皮もボロボロだな……少し待っていろ……どこにしまったかな……」


 レクテスさんが腰のポーチに手を突っ込んでいる。

あ、あれってボクが貰ったのと同じやーつ?


「ああ、あったあった。おひいさまから言付かっていたものだ、受け取れ」


 ずるり、とポーチから出てきたのは……濃い紺色の毛皮だった。

なんかこう……高級そう!!


「オルト・ファングという魔物の毛皮だ。まあ……そこそこ魔法に強い」


「コ、コンナニイイモノヲ……前ノ毛皮モスゴカッタノニ……」


 おずおずと受け取る。

うわあ、前の深淵タイガー?さんの毛皮よりも格段に手触りがいい!?

これ絶対高いやーつでは!?


「すべすべ!すべすべぇ!」


 アカは大層気に入ったようで、ボクの手の上で毛皮にダイブを繰り返している。

カワイイ!!


「これでもおひいさまを説得してランクを下げたのだぞ? 過保護にもエンシェント・グリフォンの毛皮を与えようと言い出したのでな」


 なんにもわからんけど絶対に貴重な魔物でしょ!それ!!


『年を経た希少なグリフォンですね。並みの竜種を小指で転がせる程度に強い魔物です』


 ホラ!超高級品じゃん!!

おひいさま……恐ろしい子……!!

しかし、何故小指というチョイス……?


「あの鎧に傷を入れるほどのお前なら、この先の森ではそうそう苦戦することもあるまいが……まあ、保険に持っておけ。いずれ西国へ到着したなら、仕立てて鎧か服にでもするがよかろう……それほど喋れるのであれば、向こうでも苦労はすまい」


 そう言うと、レクテスさんは地面で気を失っているララベルを担ぐ……と思いきや蹴りながら移動を開始した。

な、なんという無慈悲なドリブル。

……一切同情はしないけど、扱いが無茶苦茶ぞんざいだ……!!

何かこう、教会とやらに思う所があるのかもしれない!


「森の切れ目まで送ってやりたいところだが、色々と都合が悪くてな。もう2人で大丈夫か?ムーク」


「大丈夫!スゴク大丈夫デス!!」


 これ以上お世話になったら罰が当たっちゃうよ!!

魔石とこの格好いい毛皮で十分すぎるよ!!


「そうか……ほっ!」「キュオッ!」


 レクテスさんがララベルを……格ゲーみたいに蹴り上げて蹴り飛ばす。

高速回転しながら飛んだララベル岩は、魔導竜が器用に脚でキャッチした。

……一切同情しないけど……しないけど……1ミクロンくらいはかわいそうかも、しんない。


「では、私は行く。これから先、外でエルフに会っても皆がこんな手合いだと思わないでくれよ? こやつらは度を越してアレなのだからな?」


 心から嫌そうに言って、レクテスさんは魔導竜の背に飛び乗った。

ぜんっぜん音がしない……やはり彼女はエルフ・ニンジャなのでは……?


「大丈夫デス!ボク、オヒイサマ達ダイスキ!!ソノ白イノ以外ハ!!」「アカも!アカもォ!でも、そこのしろいの、きらい、きらーい!!」


「ハハハ!そうかそうか……ではな!幾久しく健やかにあれ!」


 鞍っぽいものに跨り、レクテスさんは破顔した。


「――願わくば、いつかまた!」


 そうイケメン声で言い、魔導竜を颯爽と操ってレクテスさんは帰っていった。

うーん……アレ、同性にモテるタイプの美人さんだね。

性別不明のボクにもモテモテではあるけども!!


「さいなら、さいならぁ~!」


 大きく手を振るアカに応えるように、魔導竜は翼を振って――あっという間に見えなくなった。

……いい人と知り合えてよかったあ。


『彼女の口ぶりから察するに、これ以上の組織だった追っ手はないでしょうね。ですが油断は……』


 禁物ですよね!わかってまーす!!

一寸先は闇!転ばぬ先の杖!石橋の上にも8年!!


『最後のはなんですか……では、西へ向かって行きましょう』


「シュッパツ!」


 ばさり、と毛皮を纏う。

おおお!やっぱマントは格好いいや!

ただでさえ格好いいボクがもっと格好よくなって困っちゃうな~?

否!格好良すぎて困ることなんて――ないっ!!


「しゅっぱ~つ!あは!あはは!」


 いつもの定位置……肩に座ったアカの声を聞きながら、ボクは新たな一歩を踏み出すのだった。



・・☆・・

(どこか)


「のうのうラザトゥル、オルト・ファングの毛皮だけでよかったかのう?ろくな魔石も持たせんかったし、やはり今からでも追加でコレとアレを……」


「過保護でございますよ、おひいさま。あの虫人ならば身一つで立派に生きていくでしょう……いずれ会った時が楽しみですな」


「ふむ、それはそうじゃのう……して、わらわはいつまでここにおらねばならんのじゃ?とっととこの辛気臭い離宮を出たいのじゃが」


「内々の話とは言え、教皇猊下が危うくお隠れあそばされるほど殴りつけたのです。王のご事情も考えなされませ……まあ、1日2日とはいきますまいな」


「ふん、叔母上の鍛えようが足りんのが悪いのじゃ」


「並の竜種が消滅する程の魔力を込めておいてそれは……はは、手厳しいことですな」


「お主も嬉しそうじゃのう?……さては元々嫌いであったか?」


「滅相もない……私如きには恐れ多くて口にはとても出せませぬよ、とても」


「フハハこやつめ!……さて、それではレクテスの土産話を待つとするかの」


「御意」



・・☆・・



「ピギィイ!」


 突撃してくる緑色の猪。

その鼻面に、衝撃波ァ!!


「ギャッ!?」


 ノーマル衝撃波が直撃し、立派な4本の牙がへし折れた。


「オウリャーッ!!」


 急ブレーキをかけた猪の脳天に、飛び掛かって右パンチ!!

そしてェ――インセクト!パイルッ!!


「ギャッガ!?ギ……!?」


 勢いよく飛び出した棘が、猪の頭部を半分抉りながら飛び出した。

脳を破壊された猪は、倒れて痙攣している。


 ううむ……やっぱり強くなってるじゃん、ボク。

オオムシクイドリとか鎧エルフとか、格上とばっかり戦ってたから実感がゼロだったけどさ!

おかしいんだよ!RPGとかなら順々に敵が強くなるのに!

ボクの人生がRPGだったら、旅立ちの村を出た瞬間に魔王軍の幹部が行列作ってるレベルだよ!!

クソゲーだ!!!!!!


『四魔王のことでしたら、幹部はあのエルフなど比較にもならない程度に強いと思われますが……』


 ヒィー!!

やっぱり魔王軍幹部とかいるんじゃんこの世界!!

絶対に出会いたくない!!


『ご安心を。以前に言った4か国から遥か遠くですからね、魔王領は』


 あ、そうなんだ……

ちょっと安心。


「ごはん!ごはん~!」


 おっと、とりあえず血抜き?とやらをしてみよう。

黒い森ゾーンも抜けたし、エルフさんの追っ手も来ないっぽいし……トモさん!ちょっと火とか起こしていい!?


『そうですね……もう少し開けた場所ならいいでしょう。延焼にも気を付けるのですよ?うっかり森を燃やしたら今度はむっくんが捕まるかもしれませんし』


 ヒエッ……

き、気を付けまーす!


「アカ、移動移動~」「あい~!」


 首を切って大出血する猪を担ぎ、アカと一緒に移動することにした。

さあ!ささやかだけど異世界初の料理だ!料理ィ!!



「オイシソ」


「いーにおい!いーにおーい!」


 それからしばし。

水の匂いがする!と言うアカに先導されて……小さな川のほとりに出た。

見晴らしもいいし、水が近くにあるから安心だね!!


 適当な枝をここに来るまでに集めて、適当な竈?っぽくした後にアカに頼んで火をつけてもらった。

火起こしが楽にできるのって最高!

捌いた猪のお肉を隠形アームで適当に切って、これまた適当な枝に突き刺して火のそばに刺しておく。


しばらくすると、肉の表面が焦げていい匂いが漂ってきた……嗅覚って重要!お腹がグルグルする気がするう!!


「おやびん!まだ?まだぁ?」


「タブンヨシ!!」「わはーい!!」


 ボクもアカも食中毒とは無縁なのでね!

地球なら絶対にダメな野生動物のレアでも食べられるんだ!

今まではさんっざん生で齧ってたしね!!


『熱いから気を付けるんだよ?』


 アカに注意し、いい感じに焼けたのを渡す。


「ふーっ!ふーっ!……あんぐっ!はちっ!……んま!んまー!」


 かわいく息を吹きかけ、かぶりつくアカ。

満面の笑みで、もりもり食べ始めた。

よっし!じゃあボークも!


 もぐり。

もぐもぐ……もぐもぐ……


「気持チ、ンマーイ!!」


 焼いただけなのに!焼いただけなのに!!

(あんまり)血生臭くない!(あんまり)動物園の臭いがしない!!

噛めば噛むほど肉汁が溢れて……相対的にンマイ!ンマー!!


「おいし!おいし!おやびん、しゅごい!しゅごーい!!」


「ハッハッハ!オヤビンナノデ!!」


 今まで散々不味いものしか食べてなかったからね!!

焼くだけでもこんなに違うなんて……最高!異世界最高だあッ!!



 ちなみに、この後毒走り茸を見つけたのでウキウキで焼いてみた。

あのドブみたいな味がなんと……焼いたドブの味になった!!


 ボクは泣いた。

涙腺はないけど、泣いた。

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