第53話 やっぱりエルフさんは最高だぜ!!
「色々と聞きたいところだが、まずはこれだ。ホラ口を開けろ……魔力がそこらの虫けら以下まで少なくなっているぞ」
「ムグーッ!?!?」
青い鎧を着た、おひいさまの部下のレクテスさん。
彼女は懐から魔石を取り出すや否や、ボクの口に押し込んできた。
ありがたい!ありがたいけど相変わらず全てが急!!
いただきますけどォ!
ばぐばぐ、ごぎん。
……ふおお~!!
一気に魔力!魔力が!
あまりの急速チャージでなんかクラクラしちゃう!!
「ホラ、お前も」
「ありあと!ありあとぉ!」
そして、同じような大きさの魔石をアカにも渡している。
アカもレクテスさんには慣れているので、喜んで受け取ってるな。
「おやびん!たべて!たーべーて!」
「ングーッ!?ダ、ダイジョブ!アカガ食ベテ!!」
そしてアカは迷うことなく魔石をボクの頬にガンガンぶつけてきた。
ウワーッ!?なにこのいい子!?
でも大丈夫だから!それはアカが食べなさい!!
『十分な魔力量です。何がが起こるのかわかりませんので……申し訳ありませんが最低限一気に修復します』
「ギャアアアアアアアアアアッ!?!?」
「おやびん!おやびーん!?」
トモさんの申し訳なさそうな声と同時に、一気に胴体が修復されて両足まで復活した。
漏れそうなくらい痛い!ボク排泄しないけど!!痛い!!!!
「……ダイ、ジョウブ……オヤビン、無敵……」
「ほんと、ほんとぉ?」
『我慢できて偉いですね。両腕はゆっくり修復しますから、ご安心を』
でもアカが心配そうだから虚勢を張るのだ、親分だから!
「相変わらずデタラメな回復術式だな……」
苦笑いしながら、レクテスさんはなんか……緑色の鎖みたいなもので鎧のエルフを手早く縛っていく。
こっちを見てないのになんて早業だ。
警察の人みたい!
「ぐ……う……お、おのれ……」
縛り上げられた鎧の人は意識を取り戻したけど、なんかこう……体に力が入らないみたい。
的確な縛り方なのかな、アレ。
概念だけ知ってる亀甲縛りに見えるけど。
鎧の上からだから一切センシティブ要素はなぁい!
「ほう、流石はララベル……教会筆頭騎士よ。そこそこ強く殴ったのだがな」
「貴様、リオノール殿下付きの……『宵闇』!」
「ふふ、随分と懐かしい呼び名だな」
レクテスさんの異名むっちゃカッコいい!
ボクもいつかそれ系の異名欲しい!『紫電』とか『剣聖』とかそういうの!!
あと、鎧の人結構かわいい名前なのね。ゆるキャラにいそう。
……行動は全然ゆるくなかったけどさァ!
どっこいせ……ふう、足があるって素晴らしい。
「あぐあぐ」
あぐらをかいたボクの膝に乗り、アカが平和に魔石を齧っている。
どうやら、もう安全だと認識したらしい。
「……このような真似をしてどうなるかわかっているのか!いかに『宵闇』といえ、じきに援軍がやってくるぞ!」
援軍!?嘘でしょ早く逃げなきゃ!!
「来ないぞ、援軍は」
「――なに?」
……来ないのォ?なんでェ?
「本国で拘束されているからな、教会騎士を始めとした部隊は」
……なんでェ???
「拘束だと!?馬鹿な!なんの容疑で!?よもやこの『保護活動』についてではあるまい!?」
ララベルはなんかじたばたしている。
あ、敬称はつけません!決して!!
ボクの両手両足の仇だからね!仇!!
「ハァアアアア!?ナニガ保護活動ダヨ!?タノンデナイ!フザケンナ!アーマードエルフゴーホーム!ファッキュー!!」
身動きが取れないっぽいのでボクも罵倒しておく!
フフハハハ!これぞ勝者の特権よ!特権!!
厳密に言えば敗者ですがね!!
「ふぁっきゅ!ふぁっきゅー!!」
ああああ!アカが変な言葉を覚えてしまった!!
子供になんてことを……ついつい本音が!本音が!!
「ふふふ、当然とはいえ嫌われているなあ……」「ぐうう……!貴様ァ……!!」
レクテスさんは、薄く笑いながらララベルの上に普通に座った。
うわあ……なんという屈辱だろう!もっとやってやって!もっとォ!!
ザマミロ!!フィーヒヒヒ!!
『気持ちは大変わかりますが、言葉遣いが少し下品ですよ。アカちゃんの教育に悪いです、むっくん』
ハイッ!!
もうやめます!!
「わ、我々は教義に則って行動していたにすぎない!教皇猊下の申しつけの通りにな!いかに妃殿下とはいえ、それに横槍を入れられ……不当に拘束されるいわれはない!」
「ほほう、なるほどなるほど」
「とにかく私の上から下りろォ!!」
手も足も出ないっぽいので、ララベルは喚くことしかできないようだ。
あの状態でよく吠えられるなあ……鋼のメンタルをお持ちですねぇ。
「『森を焼け』と、仰ったわけか……教皇猊下は」
ひやり、とするほど冷たいレクテスさんの声。
「――デミ・フェアリーの為ならば、我らの故郷たる森に魔法を放ち、無駄に殺生をし、さらには『燃える水』をぶちまけてもよい、と……仰せになったのだな?教皇猊下は」
「っそ、それは……」
あの大規模環境破壊って、やっぱエルフさん的にはギルティ判定なんだ。
妖精すきすきエルフさんたちでもさすがに駄目ってこと?
『まあ、普通に考えれば自国周辺の森を焼き払うなど正気の沙汰ではありませんよ。撤退しながらの遅滞戦闘でもないですし』
まあ、そりゃあそうだけど……そういうの全部ガン無視しても許されるのかって誤解しちゃうじゃん。
あの滅茶苦茶具合からしたらさ。
「っし、しかしアレは今までに確認されていない貴重なデミ・フェアリーだ……!猊下もいたく気にされておいでで……」
「――ふざけるなよ、小娘」
「ぐ、むぅ!?」
ひいい!レクテスさんがララベルの頭を思いっきり踏んだァ!?
踵の部分が食い込んで痛そう!もっとやってやってー!!
「教義、教義教義……はん、少しは自分の頭で考えてほざいたらどうだ?その程度の戯言しか吐けぬ腑抜けた頭蓋なら、後生大事に抱えておっても無駄であろう?――寝ていろ、ガキが!」
「――っが!?」
キャアア!?今度はサッカーボールみたいに顔を蹴っ飛ばした!?
だ、だだだ大丈夫!?今なんかむっちゃ首ねじれたけど大丈夫!?
デスってない!?
いい所を蹴られたのか、ララベルは白目をむいて失神したっぽい。
すごい音したもんなァ……バギー!って。
「ふう……やっと静かになった。馬鹿とは話すものではないな、疲れるだけだ」
レクテスさんは、短い杖を取り出す。
「オーム・カマール・カマール・ロゴダウ・ラウ・スヴァーハ」
わわわ!?ララベルが!ララベルが顔だけ露出して地面から出てきた岩で簀巻きになっちゃった!?
岩から顔だけ出てるみたい!なんか笑える!!HAHAHA!!
「これでよし……と。おおムーク、なんとか持ち直したようだな」
最後にララベル岩を足蹴にして、レクテスさんがこちらへ来る。
「ほほう、やはり随分と姿が変わったものだ。この前まではそれこそ子供のようだったのに……黒き森で精進したのだな」
「アリガトウゴザイマス!エルフ大好キ!!」「だいしゅき!だいしゅき!!」
全身で感謝を伝えるために、とりあえず高速五体投地をかます。
見よう見まねで、アカも同じようにした。
カワイイ。
「腕も生えておらぬのに無茶をするな、馬鹿者」
怒られた……
「まあ、なんとか間に合ってよかった。これでおひいさまもお喜びになられる」
「ありあと!ありあと~!」
「はは、やめんかくすぐったい」
飛びついて頬ずりするアカに、微笑むレクテスさん。
あら、とっても優しいお顔ですこと。
ボクが無垢な少年ならプロポーズするところですわ?
「デモ、助ケテヨカッタンデスカ?処刑トカサレマセン?」
「ふふ、心配無用……先程あやつにも言ったが、連中はやり過ぎたのだ。いかにデミ・フェアリーの『保護』のためとはいえいたずらに森を焼くのはご法度……恐らく、ムークが存外によく逃げたので焦りおったな」
あー、そゆこと。
必死で逃げ回った甲斐があったってもんだよ、ほんと。
「オヒイサマ、元気デスカ?」
「元気も元気。本国に戻るや否や王と直談判し……教皇猊下の横面を張り飛ばして壁を貫通させ、おまけに教会の一部を魔法で消し飛ばしたわ」
ウゲーッ!? 元気すぎるでしょ!?
ちょっと、それほんとに大丈夫なん!?
王族だからってロックすぎる!!
「ダ、ダイジョブデスカ……?」
「まあ、今代の教皇猊下は王妹……おひいさまにとっては叔母上にあたるのでな。なんとかなった……と、思う」
親戚!
でもなんか歯切れが悪いですね?
「教皇猊下がやりすぎであったとはいえ、王城の近辺で大規模攻城魔法を撃ったからな……現在、離宮で謹慎中である」
「一生幽閉トカ……?」
「ははは、それはない」
レクテスさんは、さらに顔を寄せてきた。
いい匂いがする!!
「(……ここだけの話、今代の教皇猊下は過激でな。市井の評判もさほどいいわけではなかったし……ご退任を願う声も多かったのだ……)おっと、これは内緒だぞ?」
「今、ボクハ何モ聞キマセンデシタ」
どうせ一生エルフの国とか行かないし!!
「ふふふ、賢い虫は長生きするぞ」
長生きしたい!とってもしたぁい!
ちなみにトモさん!ボクの寿命今どれくらい!?
『今回の被害で残り1ヶ月になりました』
ンンンン!!一大事!!一大事ですぞ!!
油断したら減るなボクの寿命はァ!!もうやだ!やーだ!!
『大丈夫です、ここの周囲はエルフを除けば通常の森ですので……たくさん魔物を食べましょうね?』
あい……
ちくしょう……エルフさんは好きだけどエルフは嫌い……
「というわけでな、おひいさまは大層会いたがっていらっしゃったが……そういうことになったわけだ。許せよムーク」
「イエイエイエ、メッソウモナイ。アリガトウゴザイマシタ、ソウ、オ伝エ下サイ」
まだ腕がないのでちょっと分格好だけど、正座して深々と頭を下げた。
「ふふふ、礼儀正しい虫だ。ははは」
レクテスさんが笑うその姿は、ちょっとおひいさまに似ていたのだった。
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