甲蟲転生 ～虫モチーフのヒーローが好きだとは言ったけど、虫にしろとは言ってないよォ！！森を出ましたが、ボクの無双はいつですか！？ ～

第51話 やるしかないんだ、やるしか！！

「命までは取らない。キミは不思議な回復術式を使うのだろう？」

　魔法をかき消して、エルフは一歩も動かずに立っている。

『剣自体にもかなりのエンチャントがされているでしょうが、それを振るうあのエルフも並ではありません……エルフの中でも、上澄み……！』

　トモさんの声にも焦りが見える。

ううう……ボクも同感ですゥ！

なんかこう……すっごい！すっごい強キャラのオーラがあるよォ！！

「安心したまえ、懐のデミ・フェアリーには傷を付けず――キミの両手両足を落とそうか」

「――ッ！！」

　地面に伏せる。

その上を、剣が通過した。

ひぃい！恐ろしい！！

「ンニャロォ！！」

　伏せたまま、横に衝撃波。

高速横スライドしながら――右手パイル、射ァ出ッ！！

空気を切り裂いて、ボクの棘は疾駆し――

「ほう」

　鎧の、胸の部分に接触して――弾かれた。

エルフは、身じろぎすらしない。

　ぼ、ボクの現状最大の攻撃力ゥ……！

「大したものだ、この鎧に傷を付けるとは」

　全然褒めてる感じがしない！

傷付いてる感じもない！！

「これが、全力かね？」

「ウオオオ、オ！？」

　また剣だ！？

いつ振ったかもわかんない！

なんとか、躱す！！

「――オオオッ！！」

　躱しながら衝撃波！

うあ畜生！またかき消された！

でも、諦めてなんかやんないぞォ！！

『アカ！魔法バンバン撃っちゃって！雷の方！ビリビリ―ッて！！』『わかたっ！！』

　斜めに飛び上がりながら、さらに衝撃波！

懐から、続けてアカの雷撃！

「よい連携だな」

　が、駄目！

一振りで魔法が消えちゃった！！

　空中で横に衝撃波を放って姿勢を変える。

とにかく動き続けなきゃ！止まったらやられる！！

「んにゅうう……！」

　懐のアカが身を捩って……うわ、なんか装甲が、装甲が取れたァ！？

……あ、これってアレか！『剥離装甲刃』！？

「いっ……けぇえ！！」

　アカが叫ぶと、パージされた装甲がいくつもの鋭利な破片に分かれて縦横無尽に突撃を開始した。

いいなあそれ！おやびんもそのスキル欲しい！！

　ボクも、そのファンネ……装甲刃を追って加速！

離れててもあの剣が来るんだ！ボクが一矢報いれるとしたら接近戦しかない！と思う！

『攻撃を貰わないでください！こちらで結界の解析と解除を試します……時間を、稼いで！』

　了ォ解ッ！

勝てると思ってもないけど……負けるつもりもないんだァ！

インセクト・ソウルを見せてやるぞ！！

　アカの装甲刃は一度に突撃せず、大きく3つの群れに分かれている。

刃っていうか、細かいガラス片みたいな感じ！

当たったら痛そう！！

「ふむ」

　まず、左から突っ込んだ装甲刃が切り払われた。

一振りで払うのやめてくれますゥ！？

――だけど、それに合わせて衝撃波……連射ァ！！

「おっと」

　偏差を付けて放った衝撃波が、二度の振りで消えた。

でも、今更くじけたりするもんか！

『アカ、着地と同時に魔法！』『あいっ！』

　着地して、大きく後方に回り込む！

とにかく、とにかく動き続けるんだ！

止まったらやられ――

「――まずは、一つ」「――ガ、ア！？」

　ひ、左手が！？

左手が肩から吹き飛んだァ！？

「ン、グウ、ウウ！！」

　吹き飛んだ左腕をキャッチ――全力投球ッ！！

ああああ！ボクの左手が空中でミンチに！？

オノレーッ！！

「おやびん！こ、のォ！！」

　アカの雷撃、そして背後に回り込んだ装甲刃が同時に鎧へ着弾。

轟音。

でも、鎧は微動だにしない！

そんなの、わかってるよ！！

　もっと、もっと速度を上げなきゃ！

ランダムに衝撃波を！小刻みに！

ハハハハ！高速不規則ホバー移動！

題してインセクト・ランダムマニューバ！！　　

左腕の付け根が死ぬほど痛いけど、動かないとまたやられる！

『痛覚のみ遮断！耐えて、むっくん！』

　はい女神様ァ！

「なんとも、よく動く。末恐ろしいよ」

　ぜんっぜんそう思ってないでしょ！

ボクは詳しいんだ！！

　細かい噴射を繰り返して、背後に回り込む。

余裕たっぷりですねェ！ボクの攻撃なんかなんともないって感じですよねェ！

振り向きもしないでさ！

　アカの装甲刃が正面に回り込んで突撃。

そして――こちらからは火炎球！！

『右手の棘、再生完了！』

　よォし！これを延髄に叩き込む――前に、伸ばして！振るッ！！

　突如出現した剣と、ボクの棘が接触。

火花を散らして噛み合い――冗談みたいな勢いで横に吹き飛ばされた。

「ッガ！？ア！？ッグ！？」

　太い木を三本なぎ倒し、四本目に体がめり込んで止まった。

な、なん、なんちゅう……馬鹿力ァ……！！

「硬いな、その棘。よもや我が剣と斬り合うとは思わなんだ」

　ちょっと感心しましたねえ、くらいの声色。

……み、見つけた、ぞ！ボクの、勝ち筋！

もとい！逃げられるかもしんない筋！

『アカ、魔法はもういいよ。ボクが吹き飛ばされたらほんの少しだけ念動力、使って！』

　木の幹から脱出しつつ、念話。

そして、再び距離を取る。

　距離を取りつつ――ポーチに手を突っ込み、地味にため込んでいた魔石を一つかみ。

口に放り込んで噛み砕きながら、衝撃波で回避行動！

この人たちがボカスカ殺してくれた、特にかわいそうでもない魔物たちのものだ。

緊急用に拾っといてよかった……正直、魔力切れでフラ付き始めてたんだよねえ！

さっきからバンバン魔法を使っていたアカにも一つ、口に放り込んでやる。

「修復が早い。やはり、見たこともない術式だな……こんな場面でなければ、じっくりと観察したい所だがね」

　んのおおおお！？

一呼吸で2回も剣振らないでください！それ、ウチのシマじゃノーカンだからァ！！

なんとか！必死に！右手で払う！！

『素晴らしいです、左腕の修復を開始……隙を見て魔石をどんどん食べてください！』

　おおお、ジワジワ左腕が生えてきてる！

ふふふ！エルフめェ……調子に乗って魔物を殺し過ぎたね！魔石の貯金は十分あるぞォ！！

小さいのばっかりだからとても進化には足りないだろうけど！手足の修復には十分すぎる量がねェ！！

勝負は――まだまだ、これからだァ！！

・・☆・・

「もうそろそろわかったのではないかね？抵抗の――無意味さを」

「……チョット、何言ッテルカ、ワカンナイ」

　100から先は数えるのをやめた斬撃を、クロスさせた両腕の棘で受け止める。

その衝撃で足首が地面に埋まり、膝が嫌な音を立てた。

いっだい！割れた！たぶん皿的な部分が割れたァ！！

「キミは賢い、少し前までただの虫けらだったとは思えぬほどにな……ならば、この戦いがいかに無益なものかがよくわかっているハズだろう？」

　何度かの衝撃波、そして隙を見て放った両足パイルの直撃。

それらを受けても、全くの無傷の鎧。

そして『一歩たりとも動いていない』状態のまま、エルフが喋っている。

まるで、聞き分けの悪い子供に説教でもするかのように。

「この世界は不条理と危険に満ちている。キミはもとより、そのデミ・フェアリーにとっても」

　エルフの剣に、魔力が集まっていく。

ただでさえ強そうなその剣が、蒼く光り輝く。

……今までのは舐めプってわけですかい。

フフフ、舐められたものだよ……もっと！ずうっと！舐めてて！お願い！！

「我々が『保護』すれば、少なくとも危険はないのだ。彼女はこの世界で長く生き、そしてやがては完全な妖精となって世界を飛び回る……キミも、それを喜ばしいと思うはずだろう？」

「グ、ウウ、ア！！」

　左腕を切断する軌道で出現した剣。

それを、横から殴りつけるように棘で叩く。

棘は半分の部分から断ち切れたけど、斬撃は回避！

……切れ味が、上がってる！

『むっくん！腕に魔力を纏わせてください！』

　やってます！超やってますゥ！

これやると棘が硬くなるって戦いの途中で気付いたからァ！

でも、それでも切られたってことは……もっと！もっともっともっと！魔力を込める！！

最大溜め衝撃波、くらいに！

「さあ、無駄な抵抗はやめたまえ。それほど大切に思っているキミの言葉なら、デミ・フェアリーも従うハズ――」

「――アカ、ダ！！」

「……む？」

　再び、今度は逆方向から襲ってきた剣を――ありったけの魔力を込めた棘で弾く。

いよし！ちょっと欠けただけで済んだ！！

「……ドコニ」

　そして、言い返す。

言いたいこと全部、言ってやるんだ！

「ドコノ世界ニ、自分ノ家族ヲ、喜ンデ手放ス奴ガイルンダヨ」

　いやあ、最近結構流暢に話せるようになってきたんだよね。

こりゃあ、西の国でもコミュニケーションがはかどりそうだ！

「……それが、無駄と知っていてもか」

「ソレニ、コノ子ニハ『アカ』ッテ立派デ最高ニカワイイ名前ガ、アルンダ！！」

　デミ・フェアリーデミ・フェアリーって何度も言いやがって！

ウチのアカはそんなハンバーグの一種みたいな名前じゃありませんことよ！！

「アカ！おやびんとずうっといっしょ！おまえら、きらい！きらぁい！だいっきらぁい！！」

　懐のアカが、より強くボクの胸に縋り付く。

「……私とて、申し訳なく思うよ、大いに、な」

　ぞん、と音を立てて。

右腕が付け根から切断された。

――いっっっっだい！！ぜんっぜん見えなかったァ！！

「だが、我らの誓いは揺るがぬ。今は蛇蝎のごとく思われようとも……これは、必要な事なのだ」

　今までで一番早く動いたはずなのに、左腕が切り飛ばされた。

「――それが、世界と我らの盟約ならばこそ」

　痛みに耐えて跳んだボクの、左足首が消えた。

「おやびん！？おまえッ！おまえーッ！！」

　最大級の火花が散り、アカが紫がかった稲妻を放った。

しかし、それは掻き消される。

「キミには、本当に申し訳ないと思うよ。恨んでくれても――構わない」

　左足が、根元から吹き飛んだ。