第50話 エルフよ、剣を収めてはいかがかな?イヤ本当に、勘弁して!!

 焦げ臭い。

周囲の森のあちこちが、黒煙を上げて炎上している。

ま、まさかこれ……エルフたちがやったのォ!?

魔力反応とかなかったんですか、トモさん!?

ちなみにボクにはわかりませんでした!ごめんなさい!


『私も全く認識できませんでした……どうやら、魔導竜でかなりの上空から可燃性の液体を散布したようです』


 おいおいおい!ベトナム戦争じゃないんでござるよ!?

っていうか昨日の水晶竜はァ!?

もしかしてやられちゃったの!?


『それか、振り切ったかどちらかでしょうね』


 マジか……マジかあ……

確信した、エルフたちには現状逆立ちしても勝てないって!

ボクが勝てるかどうか微妙なオオムシクイドリを瞬殺した水晶竜を……どうこうできるんだもんね!


 って、トモさん!

前の魔法爆撃は聖?魔法だったからいいけど!いやよくないけど!

普通の火だったらアカにもダメージ入るんじゃないの!?

妖精は絶対保護なんじゃないの!?


『今までのことから、むっくんの脅威度を上方修正したということでしょうか。……この程度ではどうにもならない、という評価に。物理的に森を焼くことで、遮蔽物を排除するのが目的でしょう』


 隠れ場所を減らして、空から見つけやすくするってこと?

あと、ボクに対する評価が高まってるのが地味に嫌ー!!


『おそらく、おひいさまの周囲にいた誰かの報告で『むっくんがアカちゃんをしっかりと庇護している』こともわかっているのでしょう。見捨てて逃げるようなことはしないと確信しているから、これほど大胆なこともできるということでしょうね』


 ううん……それについてはそうだけどォ。

見捨てないけどォ!

絶対に見捨てないけどォ!!


「……エルフコワイ」


「こわい、こわぁい!」


 これをしたのがエルフだと理解したのか、アカはボクの頬に抱き着いて怖がっている。

おー、よしよし。


「えへぇ、へへへ」


 うん、カワイイ。

気分が落ち着いたよ!!


 ……それで、どうしよっかトモさん。

このままここにいたら焼け死んじゃうよ。

酸欠で死ぬかはわかんないけどさあ。


『仕方がありません、上空の警戒を最大レベルに引き上げます。むっくんは木陰を選んで、とにかく西に向かって走ってください』


 それしかないよねえ。


『毛皮をしっかり纏ってください。深淵猛虎の毛皮は魔力以外にも高い防火性を持ちます』


 ありがとうおひいさま!

オオムシクイドリの時にも役に立ったし、本当に有能な毛皮さんだ。

それじゃ……行こうか!


 毛皮をグルグルと体に巻き付ける。


「イクヨ、アカ」「あいっ!」


 懐に潜り込んだアカが、元気に返事をした。

ふふ、カワイイ。


 とりあえず、火がない方向に向かって走り出した。



・・☆・・



『おかしいですね……』


 かれこれ3時間ほど走り続けた頃、今まで無言だったトモさんが呟いた。

なんとも気になるので、手近な木の陰に隠れる。


 どうしました?トモさん。


『上空に気配がありません。昨日までの警戒ぶりなら、既に遭遇していてもおかしくないのですが……』


 むむむ。

言われてみればそうかも。

昨日まではかなりの頻度で隠れろ!って言われたもんねえ。

……あ!ひょっとして水晶竜がむっちゃ頑張って数が減って、それで手が回らないとか!?


『根拠のない希望的観測は死を招きますよ?……ですが、その線も考えられますね……いかにエルフといえど、水晶竜は容易い相手ではないですし……』


 むむむむ。

これはどうしたものか……


『とにかく、進みましょう。これだけ走り続けてもまだ延焼範囲からは出ていません』


 エルフめえ……森焼きすぎですわよ!

東京ドーム何個分焼いてるんだよ!

この世界には消火ヘリなんかないんですよォ!?

これ、エルフの国でも結構問題になるんじゃないの……?


『どちらにせよ、今は関係ありませんね。この場においては』


 でした!

掴まる前に焼け死んじゃう!

アカは……


「んにゃむ……すひゃあ……おやびん……えへぇ……」


 寝てるな。

この子は将来大物になるぞぉ。

では、マラソン再開だ!



 それは、さらに1時間ほど経った時だった。

あいかわらず、走っても走っても森は燃えている。


『――止まってください!』


 はい止まりますう!

何があったんです?


『前方に、妙な魔力反応があります……右方向に迂回してください』


 おおう、遂にか!

了解です!


 しばらく移動すると、また警告。


『また魔力反応……右、いいえ、左方向に迂回してください』


 うひい、コワ……了解!

ここへきて急にだなあ……


『止まってください、また前方に反応が……右方向へ迂回……』


 まただよ。

念の入りようだねぇ……了解了か――


『――いけない!今来た道を引き返して――』



 ――ぶん、と音が聞こえた。

次の瞬間には……森に半透明のドームが出現している。

こ、これ……いつだったかおひいさまたちが野営地に張ってたやーつ!!



『誘いこまれました……強力な結界です!』


 んああ!やっぱりィ!

ど、どどどどうしよトモさん!

この結界ってどうすればぶち破れるんですか!?


『かなりの魔力を感じます……これを直前まで感じさせないとは、術者は手練れです。破る方法については……来ます!正面ッ!!』


 うおおっ!?

咄嗟にジャンプしたら、以前見た神聖魔法?のビームが!!


『魔力反応!斉射が来ます……とにかく、回避を!もう発見されましたから、魔力を遠慮なく使ってください!!』


 りょ、了解っ!!


『アカ!ボクにしっかり掴まってるんだよォ!』


「ふぇえ……?あい~」


 寝ぼけ眼でも、アカはしっかりとボクに縋り付いた。

よし、これで――うわわわ!ゾクっとしたァ!!


 着地して再びジャンプ!

そして……横方向に衝撃波ッ!!

さっけまでのボクの居場所に、またビームが複数!

衝撃波!衝撃波!衝撃波!

ロボットゲームの自機よろしく、サイド移動を繰り返す!


『事ここに至っては仕方ありません……!戦いましょう!』


 うぐぐぐ、やっぱそうなるう?


『エルフと事を構えたくありませんか?』


 それも1ミクロンくらいあるけど!

そうじゃなくって……勝てる!?ボク!?


『なんとか凌いでください!その間に何か考えますので!』


 うむむむ……仕方ない!

どの道この空間で逃げ回るだけじゃあジリ貧になっちゃう!

やるしか……やるしかないや!


 むんむんむん……最大溜め、衝撃波ァ!!

どん、と後方に衝撃波を撃ち出し、ボクは攻撃の出所へ突撃した。



・・☆・・



「――ほう、聞いていた形状とは違うな。さらに進化を重ねたか」


 攻撃を避けながら到着したそこは、小さな池のある開けた場所だった。

その中心に……模様がいっぱい付いた豪華で高級そうな『白い』鎧を着た、たぶんエルフがいた。

声はたぶん女性っぽいけど……わかんないや、エルフさんたちってみんな中性的な感じの声だし。


「さて、虫人よ。デミ・フェアリーはこちらで『保護』する……渡してくれるなら、これ以上の攻撃はせぬ」


 綺麗なロングソードを引き抜いて、エルフはボクにそう言った。

ハハハ、ご冗談を。

そんなもん――


「ゼ――」


「やだ!やーだ!!アカ、どこもいかない!おやびんとずっといっしょ!いっしょッ!!」


 ……格好よく断ろうと思ったら、アカの方がマジギレしてる。

お、おやびんの威厳が……


「……オカエリクダサイ、ボクラ、フタリデ大丈夫ナンデ」


 ハナからこれで逃がしてくれるなんて思ってないけど、一応言っておく。

最近は少しだけ流暢に放せるようになった。


「……申し訳ないのだがね、キミの意思は最初から――」


 横方向に、衝撃波!!

避けた空間を、『剣』が切り裂いた。


「――関係ないのだ」


 剣が、浮いている。

地面をザックリ切りつけたその剣は……瞬く間にエルフの手に戻った。

な、ななななにそれェ!?

ズルいぞ!そんなカッコいい魔法だか必殺技だか持ってるの!


 ……だけど、ボクの答えは1つしかない。

これしか、ないんだ!


「エルフハ、大好キダケド――アンタタチハ、別ダ!」


 すかさず、衝撃波を放った。


「えぇーい!!」


 懐のアカも、ほぼ同時に雷撃を放つ。

親分子分の同時攻撃を喰らえッ!!



「――無駄だよ」



 しゃりん、と場違いなほど綺麗な音がした。

……ボクらの放った攻撃は、始めから存在しなかったみたいに消えた。


『魔力干渉……魔法剣です。なんという……練度!』


 ……どうやら、アレだ。

ちょっと……いや、かなり……格上さんみたいだ。

どうしよ……

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