第49話 ここまで、ここまでするゥ!?エルフコワイ!!



『さて、西の国について詳しく知りたいのですよね?』


 アッハイ。


『知識に貪欲な所は好感が持てますね。さすがはむっくんです』


 ウェヒヒ……褒められた。



 クソデカ森林スニーキングミッション2日目。

今日も朝から木陰を行きつつ、上空のエルフたちにビクビクしております。

アカは飛ぶと魔力で見つかるかもしれないので、昨日寝る前に適当に作った皮のポッケに入っている。

ちなみに位置はボクのお腹あたりです。

たまに上を見上げて、目が合うとニコニコしていてとてもカワイイ!

カンガルーのママの気持ちがちょっとわかる今日この頃です。


 それで、基本的に無言なので脳内でトモさんとお話をしている。

アカともお喋りするけどね、やっぱり口での会話だとまだ流暢に話せないから……ボク。

これ、進化するともっとペラペーラになるんだろうかな~?


『まず……西の国には明確な名前はありません。私の知識では、12個の小国が集まった連合国で……対外的には『ラドラシア小国家連合』と呼ばれています』


 ほほーう、ふむふむ。

まとまった国じゃないんだよねえ。

なんだろ……地球だとどの国になるんだろ?

崩壊する前のソ連とかそんな感じ?


『平時はもっとつながりが薄いですね。前にも言った通り、他国からの侵略や大規模な魔物の発生の時には1つの国家のようにまとまります』


 あー……そっか、この世界は魔物もいるんだもんね。

す、スタンピード?とかでワッサー!!って感じで攻めてくるんだろうね。


『ええ、そうです。それで、通常は12人の国家元首が合議制として運営しています。戦争の時は最も軍事に長けた国が総指揮を執るようですね』


 適材適所的な感じかー。

なんか面白い国だねえ。

ねえねえトモさん、12個の国ってそれぞれどれくらいの規模なん?


『どれくらいか……そうですね、大まかな地図しかありませんが、大体1つの国は……日本で言う所の都道府県レベルでしょうか』


 ほうほう、それが12個ってことは……四国と九州、そして中国地方を合体させたくらいかな?

結構大きい……のかな?


『あ、人口は都道府県よりも少ないですが、国土自体はもっと大きいですよ?オーストラリア大陸の半分ほどでしょうか?』


 人口が少なァい!?

いや、でも異世界だとそうなのかな……?

日本みたいに平和で安定してる世界じゃないもんな……


 あれ、じゃあ……この大陸むっちゃデカくないですか?


『ふむ……地球のユーラシア大陸の2倍くらいの面積でしょうかね』


 ボクが生きてる間に隅々まで旅行するのは無理そうかもね~、ソレ。

飛行機でもあれば別だけど。

そういえば、ファンタジーの定番、飛空艇とかないのかな!


『ありませんね。なにぶん空の魔物が強力ですので、今私達を探しているような……竜騎士が精々ですね』


 ああん。

浪漫も魔物には勝てんかったんや……切ないのでとりあえずアカの頭を撫でておこう。


「えへへぇ、なあに?なあに?」


「ナンデモナイ」


「あはは!なんでもない!なぁい!」


 あ~、なんじゃこの子分世界一カワイイ。

エルフの追っ手には絶対に渡さんぞ!絶対に!!


 えーっと……トモさん、じゃあ12の国ってどんな感じなの?

ボクみたいな虫人?むしんちゅ?の国もあるの?


『私の知識が正しければ、ありますよ。西の国最南端にある『トルゴーン』という国です』


 おー!あるんだ、虫の国!

しかも最南端!ここを出たらそこを目指すのがいいんじゃない?


『私もそれが最適だと思います。ちなみにトルゴーンは12国の中での序列は真ん中、土木建築に長けた国ですよ』


 ほほー!それはなんとも、サツバツとしていなくてよさそう!

ボク、自分以外の虫の人見たことないから楽しみだな~!

ねえねえ、他には?


『トルゴーンに隣接している東の国が『ラーガリ』という獣人の国家です。西に隣接しているのは『マデライン』という水棲人種の国ですね』


 多種多様だ!

……あれ?獣人の国あるんだ。

南の大きい国も獣人の国なんだよね?


『そうです、『ラーガリ』の王は……南の大国『グロスバルト帝国』の権力争いに破れた王族が祖となっていますよ』


 ワーオ!まるで戦国時代だ!

いやあ、乱世乱世。


『他の小国家にも獣人は多くいます、この世界の種族で最も広く栄えているのが人族と獣人ですので』


 ほえー……じゃあ、逆に少ない人種って?


『エルフ、龍種、それに一部の水棲人種でしょうか。それらは寿命が少なくとも現状のむっくんの何万倍かはあるので、あまり増える必要がないのですよ』


 なんで?

なんでボクを引き合いに出したん?

まあ事実ではあるけども!


 そんで水棲人種って……人魚とかそういうの?


『そうですね、その人魚の中でも『長命種』というカテゴリーですね。アカちゃんと同じようなデミ・フェアリーの一種です』


 ほほう、人魚さんって妖精みたいなのもおるんや。


『『マデライン』の国家元首がそれですね。エルフと違って妖精を問答無用で『保護』はしませんのでご安心を』


 それは安心!

これで3つか、ねえねえトモさん、他の国も教えて――


『――魔力反応、上空に魔導竜!』


 ああんもう!

折角の異世界レクチャーが!

ちくしょうめ!


「アカ、ジットスル」


「あいっ!」


 アカを抱え、木の幹に身を寄せる。

そうすると、上空を白い魔導竜が通過していった。

しつっこいなあ、もう。


『魔力反応、収束……爆撃、来ます!』


 頑張れボクの格好いい装甲!!



・・☆・・



「おやびん、おやび~ん!だいじょぶ?だいじょぶ?」


「ダイジョブ、ダイジョブ」


 うぐぐぐ……体中が痛い。

エルフめえ……ボコスカ爆撃してくれやがってぇ!

しかも今度は木の下敷きになっちゃったよ!

黒い森ツリーじゃないからそんなにダメージないけど!期せずしてバリアになったからいいけど!いやよくない!

やっぱりもっと自然と虫のことも考えて!!


『申し訳ないですが、しばらくはそのままで。まだ上空を旋回しています』


 ちくしょう……重いよお。

ここには何もいないからとっととどっか行ってください!


『魔力放射、確認。地表を探査しています……そのまま動かないで、魔力を出すと気付かれます』


 はあい。

んぐぐぐう……我慢だ、我慢ん……



 結局、エルフは木の下で悶えるボクの頭上を1時間くらいグルグルして去った。

何という念の入れよう……ぷひぃ。


 木を持ち上げて、やっと自由になった。

進化しておいて本当によかったよ……芋虫状態なら死んでたねえ。


『このまま移動しましょう。危惧していた通り、かなりの執念ですね……これは儲けものです』


 ……?なんでもうけもん?

狂信者じゃん、なんのいい知らせでもないんですが?


『非破壊で虱潰しにされるほうが厄介です。これほど盛大に破壊活動をしてくれれば……そろそろ、来ますよ』


 来る?

来るって何が……?



「――ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



 な、なんだこのデッカイ声!?

森が、森がビリビリ震えてるぞ!?


『来ましたか』


 ……あれ?

なんか、ボクこの声聞いたことがあるんだけど。

どこだったかなあ……?


『アレは、水晶竜です』


 ――ああ!そっかあ!

……ナンデ!?


『これほど派手に魔法を使用したのです。水晶竜にしてみれば、縄張りの周囲で妙なモノが暴れているという現状……まず、放っておくはずがありません』


 なるほど!水晶竜の縄張り意識ってすごいんだなあ。


『加えて、水晶竜は竜種の中でも好戦的な種です。エルフは挑発しすぎました』


 特にかわいそうだとは思わない!

頑張れ~!水晶竜頑張れ~!!


『……接敵したようです』


 遠くの方から、爆発音が盛大に響き始めた。

それに混じって、魔導竜っぽい鳴き声も。

うわー、やってるやってる。


『むっくん、ダッシュです!これを機に距離を稼ぎましょう!』


 アイアイサー!


「アカ、イクヨ!」「あいっ!」


『魔力が出るので衝撃波は無し、全力疾走で!進む方向はその都度指示します!』


「ヨッシャー!!」


 ボクは、ここ何日かの鬱憤を晴らすように地面を蹴り飛ばした。

さーて、逃げるぞ~!



・・☆・・



「……チカレタ」「たのしかった、たのしかったぁ!」


 日中をずうっと走り続け、今は夜。

小さな丘を見つけ、その側面を虫アームでちょっと掘った横穴……そこが今夜の寝床です。

ここは黒い森じゃないから土も掘りやすくっていいね。

あっち、土も硬かったんだよねえ……


『お疲れ様です、かなりの距離を稼げましたよ。向こうはむっくんを補足していたわけではないので、これでかなりのアドバンテージを得ることができました』


 うへへ……食事も走りながらやった甲斐があったね……

この体で地球に戻ったら、マラソンの世界記録大幅更新不可避だよ。

金メダルでオセロができちゃうねえ!


『大パニックになりますよ、容姿で』


 わかってますゥ……

確認された瞬間に射殺される自信がある。

下手したら軍隊とかも出てきそう!


『ともかく、今日は早く寝て明日は早くから走りましょうね。このペースで一気に西の国に近付くために』


 うん!任せてよトモさん!


『アカ、我慢させてごめんねぇ。この森を抜けたら思う存分のんびりしようね』


「あいっ!いっしょ、おやびんといっしょ!」


 かわいらしいことを言いながら胸に飛び乗ってくるアカ。

その頭を撫でながら、すぐさま眠りにつくことにした。

スヤァ……



・・☆・・



『……どうだ?』


『ロフォルとユギールが重傷です。竜の方も痛手を』


『お前が本国へ付き添え。加えて、応援を』


『騎士長は?』


『ここで陣を張る。存外に頭が回るようだ……『保護者』は』



・・☆・・



「ウソデショ」


 明けて、翌日。

もぞもぞと横穴から顔を出したボクたちは、動けずにいる。


『まさか……ここまでするとは……』


 トモさんも絶句している。


「おやびん……」


 胸のアカが縋り付いてくる。

ボクはその背中をそっと撫でた。



 ――遠くの森が、燃えていた。

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