第48話 クソデカ森林、スニーキングミッション開始

 結局、あれから絨毯爆撃はずうっと続いた。

しかも、何回か掠った。

進化したおかげか、ボクの装甲がかなり硬くなっていたので……ボロッボロになるだけで済んだ。

いやあ、命拾いしたなあ……じゃないよ!!

修復で寿命が1週間縮んだよ!ボクの貴重な寿命がッ!!


 やだもう!あのエルフさんたち嫌い!

おひいさまとレクテスさんとラザトゥルさんは好きだけど!

あのエルフさんたちは大嫌い!!


「おやびん、だいじょぶ?」


「ダイジョウブ、ボク、ムチャクチャツヨイノデ」


 嘘です、背中側の装甲がむっちゃ焦げました。

じりじり痛かったです。

でもボクは頼れるおやびんなので我慢は大事!

おひいさまにもらった毛皮があればもうちょい楽だったろうけど、『不自然な魔力減衰があると気付かれます』っていうトモさんアドバイスでナシになった。

ガッデムエルフ!


 で、現在時刻は夜。


 場所は、エルフさんたちが吹き飛ばしまくった木が寄り集まった部分の下です。

なんかこう……うまい具合にログハウスの屋根みたいになった所!

奇跡的なバランス!


『さすがに夜は活動しないようですね』


 ほほーん、エルフさんたちは夜目が効かないとか?


『正確には魔導竜が、です。明るくなったら同じことを繰り返すつもりでしょう』


 妖精さん好きすぎでしょ、あのエルフさんたちは。

他のすべてを全無視して動いてる……こわっ。


『私の想像をはるかに超える入れ込みようでした。あれはもはや『狂信』の域ですよ』


 だよねえ。

妖精を保護するためには他の全部がどうでもいい!ってかんじ。


 むうう……どうしたもんかね。

いっそのこと夜の間だけ移動しよっか、トモさん。


『いえ、おそらく『夜の間に移動したであろう』距離に同じことをするのでしょう。むしろ、今夜は動かずに向こうの出方を窺ったほうがいいですね』


 そういうこともあるのかー……

賢い相手って怖いなあ。

オオムシクイドリとはまた違った怖さがあるねえ。


 む?

なんだこの葉っぱ。


「おやびん、ごはん!ごはんっ!」


 アカが葉っぱを差し出している。

おおう……なんちゅうええ子や。


「アリガト」


 ばりばり……青臭ァい。

結局黒い森ゾーンでは果物を探すどころじゃなかったし、森を抜けたらアカの為にも美味しいものを調達しなきゃねえ。


「ハイアカ、アーン」


「おいし!おいし!」


 アカにお返しの葉っぱを与えながら、とりあえず明日も頑張ろうと思うのだった。

青臭いけど葉っぱは無尽蔵にある、とにかく腹を満たして寝よう。

食後のデザートはハチの巣だ。



・・☆・・



 ぐっすりと寝て、翌朝。


 トモさんが言っていたように、エルフたちの姿はない。

この先に行ったようだ。

ちなみに今日からはエルフ『たち』だ。

おひいさまと違って、あんなに無茶苦茶する人たちに敬称を付けたくないので……!


『爆撃されたとはいえ、木々はまだ残っています。木陰から出ないルートを通りつつ、魔力を出さないように移動しましょう』


 ううん……速度が落ちるけど仕方ないね。

あの人たちも無補給でずうっと探索できないだろうし、こうなったら根競べだ。


『最短で西に向かうルートは網を張られているでしょうし、少し南西へ迂回するようにしましょうか』


 はーい。

こうなってみると、この森が深くて助かった。

林レベルの所だと上から見えちゃうもんね。


「シュッパ~ツ」


「しゅっぱーつ!あはは!あは!」


 いつものようにアカを肩に乗せ、歩き出した。



「ドッセイ!」「――ピギ!?」


 右ストレートをぶち込んだ苔の生えた猪が、両目を飛び出させて沈黙した。

よし、出会い頭のパンチが上手く決まった。

やっぱり通常の森産の魔物は棘ナシでもなんとかなるね。


「ゴハンニシヨ」「ごはん!ごはんっ!」


 お弁当もできたし、まあよかったね。


 エルフたちが無茶苦茶したことで、よかったことが1つある。

そこら中で、昨日の爆撃を喰らった魔物が無残な姿で転がってるんだ。

そのかわいそうな死体を、ボクらが非常食として有難くいただいている。


「フンヌ!」


 めきめきごりごり。

進化したお陰で力が強くなったので、棘ナイフを使わなくても解体できるのが救い。

まあ、解体した後は控えめに言ってスプラッタ映画だけどね。

ボクもアカも『魔力吸収効率化』があるので、体に飛び散った血なんかは放っておくと吸収されるからいいけど。


「ドゾ~」


「いたらき、ましゅ!」


 猪くんの肉片をアカに渡すと、喜んでかぶりついている。

ちょっとお行儀悪いけど、歩きながらボクも食べようっと。

大部分はポーチに入れておくので、いつでも食べられるのが救いだね。

ハチの巣とリンゴの在庫はあるけど、非常食はあるには越したことはないね!

……ちなみに、猪くんはやっぱり洗ってない動物園の味がした。


『魔導竜の姿はありませんね。この周囲にはいないようです』


 そんなこと言って、またステルス魔法とかじゃないの?


『いえ、先日の観察で魔力振動数を『覚え』ましたので大丈夫です。100メートル以内に近付かれればわかりますよ』


 トモさん優秀!

素晴らしい……アカといいトモさんといい、やっぱりボクの周囲は恵まれてるね!


『照れますね』


 ふふふ、勝ったな!


『油断は禁物ですからね』


 アッハイ。

そうですよね。


『先日の神聖魔法の威力を見るに、もし戦闘になればむっくんに勝ち目はほぼありませんよ?』


 ですよね~……

しかも1人じゃないし。

それどころかドラゴンまでいるし。

えらいこっちゃだよ、本当に。


『むっくんには申し訳ありませんが……神聖魔法に耐えられることは確認できましたので、我慢して行動しましょう。散らばる死体で減った寿命は補填できそうですし』


 回復するけど痛くない訳じゃないんですよォ?

ま、それしかないからやりますけどね~。


 齧りながら移動しますか、はー、ぼりぼり、ばぎん。

あ、骨の周りのお肉がほんの少しだけ美味しい。

すぐさま動物園スメルが襲って来るけども。



『停止してください。反応がありました』


 おっとと。

上を見上げると……いたあ。


 遠くの空を旋回する魔導竜の姿が見える。

純白いから、今日みたいにちょっと曇ってるとよくわかるね。


角度がいいので、上に乗っている推定エルフも見えた。

ここからでもわかるくらい、白くって綺麗な全身鎧だ。

見た目でもう強そう。


「わるいエルフぅ?」


「ソソソ、オヒイサマトチガウ、ワルイエルフ」


「おひーさま、しゅき!リンゴくれた、くれたぁ!」


 そうだねアカ、いつかまた会えたらお礼したいねえ。

本当にいつか、西の国まで遊びに来てくれないだろうか?

その時にちゃあんとおもてなしできるように、向こうについたら生活基盤とか整えておきたいね。


 ねえねえトモさーん。


『はい、なんでしょう』


 今までスッカリ聞きそびれてたけどさ。

西の国に行くじゃん?今までに回収したものとか売るじゃん?

それで当座の資金はどうとでもなるけど……仕事とかどうしようか?


 ボクらの性質上、魔力補充してれば生きていくことはそう難しくないけどさ。

それ以外にも色々買ったりしたいし、やっぱり働かないとだよね?

ボクみたいに根無し草100%の虫人にできる仕事ってなにがあるの?


『そうですね……候補に挙がる職種はいくつかありますよ?まずは確実に就業できる……冒険者と傭兵ですね』


 おー!冒険者!

トモさん的には最底辺の職業だけあってなるのは簡単だねえ!

あと、傭兵?


『冒険者は依頼を受け、それをこなして賃金を受け取る職業です。傭兵も同じような最底辺の職業ですが、こちらは『団』と呼ばれる組織に所属して、主に警備員や戦争での歩兵業に従事します』


 ほほう、ほうほう。

概ねイメージ通りの職業だ。


『冒険者は敷居が低いだけあって、前科があろうが出自がなんであろうが問題なくできる仕事です。その代わりに一切の保障がなく、全てが自己責任の危険な職業ですね』


 ふむふむ、なるほど。

アレなの?小説や漫画みたいにランクとか等級とかあったりするのかな~?

冒険者ギルドとかあってさ!

強固なネットワーク的なアレがあったり!


『冒険者ギルドの権限はそんなに強くありませんし、等級などもありません。そしてフィクションのように国を跨いで連携しているようなこともないです。西の国では小国ごとに管轄が変わりますね……地球で言う、日雇い労働者の職業安定所のような感じでしょうか』


 一気にリアルさが増したね……なんか、ファンタジーっていうよりネカフェ難民的な感じな印象……

まあでも、日銭を稼げるのはありがたいよね。

ボクには一切の後ろ盾がないんだし!


『傭兵の方は……所属する団によっても違いますが、力量さえあれば最低限の保障は受けられますね。組織の中で出世でもすれば、給料も上がりますし……勝ち戦ならば領主の衛兵として召し抱えられるケースもあります』


 あー、そういうのもあるのね。

むーん、戦争、戦争か……


『お嫌いですか?戦争』


 むしろここで大好き!!って主張する人とお友達になりたい?トモさん。

ボクはそっと距離を置くと思うよ。


 記憶がないからか、こう……生き物を殺すことにそれほど忌避感?はないけどさ、ボク。

でもそれは生きるためっていうか、食べるために仕方ないからやってるんであって……積極的に生命体をコロコロして回りたいわけじゃないんだよねえ。

だから冒険者か傭兵かどっちかにしろ!って言われたら……まあ、冒険者かな?

冒険者なら、依頼のついでに食べ物ゲットしたりできるだろうし。

この先何があるかわかんないんだもん、進化の為にそっちの方がいいんじゃないかな~?

って、感じ?


『なるほど……先を見据えたいい判断ですね、素晴らしいですよ』


 うぇへへ、褒められちゃった。


 それにさ、折角の異世界だから色々ウロウロしたいしさ。

そういう意味でも、冒険者の方が身軽でいいと思うんだよね~?

永住したい街でも見つけたら別だけど。


 とりあえずは西の国に行って……余裕ができたらいつか、南の獣人の国にも行ってみたいな。

そこは鎖国してないんだよね?

たしか選挙権は獣人の男にしかないんだっけ、でも旅行するくらいならいいよねえ?


『そうですね、むっくんの外見で生きやすいのは西か南でしょう』


 ちなみに聞きそびれてたけど北と東は?


『北は人族以外を『人類』と認めていませんし、東は……人族といくつかの種以外は『二等民』という格下扱いですね……もちろん、虫人は後者です』


 絶 対 に 行 か な い 。

ロクでもないことに巻き込まれそうだから絶対に行かない!


『南も南で、獣人の発言力が大きいですがね。まあ、先程の二国のように差別されることはないでしょう……『表立って』は、ですが』


 なんだろう……西以外から不穏な気配しかしない。


『ああ、西は西で平時は小国間での小競り合いが……』


 聞きたくない!今は聞きたくないィ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る