第47話 アレはエルフさんとは別種だと思うことにする!!
……ちょっと、ほんのちょっと格好悪い部分があったけど。
あったけど!!
ともかく!ボクは……ボクたちは黒い森を脱出した!
はあ~……なんか、感慨深いよね!トモさん!!
『そうですね、ようやくここまで来れましたが……むっくんの人生はまだまだこれからですよ』
そりゃあもう!ボクの冒険はまだまだこれからですよ!
だってまだ緑の森と黒い森しか見てないもん!転生してから!!
異世界感全然ないもん!!
魔物だけはさんざん見たけどね!
まさに、ボクたちの冒険はこれからだ!ってやつだよ!!
『――ちなみにむっくんの寿命は残り8か月です』
ンンンなんで今言うの!?
急に辛い現実をお出ししないでいただきたい!!
はー……魔物もぐもぐしなきゃ……
せめて常に1年以上は欲しいところ。
『これから先は森を抜けるまで、さほど強力な魔物もいませんが……油断は禁物ですよ、むっくん』
あっはい。
油断=死だもんね、この世界。
いくら寿命があっても、急に頭を吹き飛ばされたらどうにもならないもんねえ。
『アカちゃんのためにも、早く森を抜けましょう。エルフの追っ手が気になります』
そ う で し た 。
ある意味オオムシクイドリよりも大変な相手ですよ。
魔物ならその、殺せばいいけど……さすがにエルフさんはねえ、おひいさまのこともあったからねえ。
流石に殺すのはねえ……
『というよりも、今のむっくんが勝てるかと言うと……おひいさまたちの戦闘を思い出してください』
そ う で し た 。
だよね……進化をしてそれなりに強くなったけど、あの人たちに勝てるかって言われると……
無理!むりむりかたつむりだよ!!
おひいさまのごん太ビームもそうだけど、護衛の鎧さんたちの剣技に対応できる気がしない!
魔法剣、だっけ?あのなんでもスパスパ斬れる斬撃!
あんなもの……この格好よくなった鎧でも防御できるかわかんないよね!
『そうです。上には上がいるということですね……さあ、そろそろ休憩は終了して移動しましょう』
はーい。
「イクヨ、アカ」「むにゃ……あい!」
肩の上で器用に寝ていたアカに声をかけ、立ち上がった。
さーて、危険度はぐっと下がったけど……油断せずにイクゾー!!
・・☆・・
「グルアアアアアッ!!」
「イヤーッ!!」
「ギャンッ!?」
緑色の狼……森狼だっけ?
ボク目掛けて飛びついてきたソイツのお腹を蹴り上げる。
進化して鋭利になった爪先が、お腹にめり込むどころか突き刺さった。
ぶちぶち、となんとも嫌な感触。
「オリャアッ!!」「ギャッ!?!?」
涎を撒き散らす口を避けて右パンチ!
棘を打ち込むまでもなく、森狼の右目を貫いて頭までめり込んだ。
うわ、柔らか……!
腕を振ると、即死した森狼がべしゃりと落下した。
『進化のお陰ですね。森狼の群れなどもはや問題になりませんか』
「おやびん、しゅごい!かっこい!」
ボクの周りには、さっきまで命だった森狼くんがひいふう……6匹転がっている。
移動中にちょっかいをかけられて戦闘になったんだ。
ビックリしたけど、噛みつかれても全く痛くなかったので問題なく対処することができた。
アカも何匹か魔法で仕留めてくれたし、楽な戦いだったな~。
『時間もいいですから食事にしましょうか。森狼には魔石がありませんので』
ううう……食べたくないなあ、食べるけど。
とりあえず皮を剥いで中身だけ食べよう。
狼っていうか犬系の魔物って、皮の部分が洗ってない犬小屋の味がするんだよね……
あ、アカに火を起こしてもらって焼けばマシになるかも!
生の丸かじりはしんどいのよ……
『駄目です。追手がいたら見つかりますよ』
ああん、そうだった。
こんな森の中で火なんか使ったら無茶苦茶目立つもんね……
火を使えるくらい賢い魔物がいますよ~!って教えてるようなもんじゃん。
「おいし!おいし!」
アカはいつものように嬉しそうにかぶりついている。
なんでも美味しく食べられていいなあ、この子。
「……イタダキマ――」
諦めて森狼の足を齧ろうとした、その時だった。
――頭上を、白くて大きなドラゴンが通り過ぎた。
な、なんで!?全然気づかなかった!!
『隠形の魔法――むっくん!追っ手です!エルフの!!』
「アカ、コッチオイデ!」「こわい!」
森狼の残骸を手に持ったまま、アカがぴゃっと飛びついてきた。
抱き留めて、木の陰に隠れる。
『そのまま動かないで……アレは、『魔導竜』という飼い慣らされた竜種です。エルフが使用する……まあ、自家用の飛行機のようなものですね』
自家用ドラゴン!ブルジョワだ!!
エルフさんってやっぱりすごいなあ。
『エルフと言えども誰もが使用できるモノではありません。おひいさまが言っていた『教会』の手のモノでしょう』
あー……なんか言ってたね、そういうこと。
『白い鎧を見たら絶対逃げろ』とも言ってたな。
ここからじゃ、白い竜のお腹しか見えなかったからわかんないけど……
『――まだ来ますか!』
うわあ!?
白い竜が3匹も飛んできた!?
これで……全部で4匹!
『魔導竜が4匹……上空から虱潰しに探索する気ですね。向こうは隠密の魔法を使用しているので、こちらからの探査には引っかかりにくいのが問題です……』
ううむ、面倒臭い。
しかも今飛んでるのを見て思ったケド、あの魔導竜?っていうのほとんど音が出てないや。
ふぁさ、ふぁさ……くらいの感じ。
ステルスドラゴンとかやめてくれませんか?
『これからはアカちゃんとの会話は口頭で行ってください。探査系の魔法に引っかかるかもしれませんので』
そういう魔法も使うんだね……厄介!
『目視確認をしながら、なるべく戦闘も避けて移動しましょう』
了解でーす。
上から見つからないように、木が茂った所を選んで移動しなきゃね。
ジャンプ移動ができないのが辛いけど仕方ないや。
ボクの衝撃波アフターバーナーで競争するのは明らかに分が悪いだろうしね。
魔導竜、飛ぶのむっちゃ速かったもん。
「アカ、トバナイデネ。カタニイナサイ」
「あいっ」
肩に座って毛皮に潜り込むアカ。
よしよし、このスタイルが一番安全だな。
……そういえばトモさん、ボクって進化して姿が大分変わってるから気付かれないんじゃないのかな?
アカさえ見られなきゃ大丈夫ってことはない……?
『むっくんの外見が唯一無二すぎて無理です。すぐに目を付けられますし、なにより『二足歩行する特異な虫人』というのはどうやっても目出ちますよ?』
ボクの格好いい兜ヘッドが憎い!
やっぱり、そんなに甘い話はなかったか……
・・☆・・
上から見えないように、影の中を小走り程度で移動し続けた。
常に上空を警戒していたので……4回くらい魔物とエンカウントしちゃったよ。
まあ、全部魔法を使わないで成仏させたけどね。
ここが黒の森じゃなくってよかったあ……肉弾戦だけだと厳しいもん、あそこ。
『美味しいですか?』
トモさんが問いかけてくる。
今は、殴り殺した魔物の破片を齧りながら移動なう。
「おいし!」
人生について考えるくらい不味い、です。
ちなみに齧っているのはさっき遭遇した毒走り茸です。
本当に不味すぎる……この森で一番不味いんじゃないすか、この魔物。
なぜこんなに不味く進化したのか。
いや、まあ生物としてはアリなんだろうけどさあ……
餓死寸前とかじゃないと絶対に食べたくないよう。
はあ、それにしても上空のエルフさんたちはどこら辺にいるんだろうか。
とっととこの区画を諦めていただきた――い?
なんだこの感じ、魔力!?
『――むっくん、木のそばで動かないでください。上空から魔力放射……収束!』
アカを抱えて大きな木に身を寄せた。
――その次の瞬間、木の隙間から見える空に幾筋もの光線が走った。
なん、だアレ!?
『身をかがめて!甲殻でアカちゃんを庇って!!』
はいっ!
「むぎゅ」
アカを抱えて地面に伏せる。
それとほぼ同時くらいに、四方八方からドゴンドゴンと音が聞こえてきた。
うおお、大地が揺れる!?な、なにが起こってんのコレェ!?
『広域用の魔法……!絨毯爆撃ですか、あぶり出すつもりのようですね!』
嘘でしょ!?
アレにアカが直撃したらとか考えないの、あの人たち!?
『恐らく神聖属性の魔法です!デミ・フェアリーのアカちゃんには、直撃してもさほどのダメージはないでしょうね』
そうなの!?いいな妖精さんって!!
……ちなみにボクは!?
『大怪我しますね』
おのれエルフゥ!!
あ、あとエルフさんたちってこう……自然を大事にしましょ!とかそういう教義?ルール?とかないの!?
異世界だからまだ自然保護意識がアップデートされてないのォ!?
『いえ、ちゃんとありますよ。ただ、彼らの場合『妖精の保護』が全てに優先するのでしょうけど』
ああああ!!妖精ジャンキーめが!!
もっと自然と虫のことも考えてください!
具体的に言えばボクのことを!!
うぐぐぐ……まだドゴンドゴンする……
お願いだから当たりませんようにヒィイ!?すぐ隣に落ちたァ!?
もうやだ!むっくんおうち帰る!
おうちはどこにもないけれど!!
あのエルフさんたちは、おひいさまたちとは別のエルフだと思うことにする!思い込むことにする!
そうしないとエルフ族全体を憎みそうになるからァ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます