第46話 黒の森、脱出!
特にかわいそうでもないオオムシクイドリが成仏してしまった後、ボクらは移動を再開した。
子供たちもついてこなかったし、対岸まで再度ジャンプをするつもりもなかったしね。
いやあ、死体は魅力的ではあったんだけどねえ……
『水晶竜が来ますよ』
という、トモさんの言葉にダッシュで逃げることにしたんだ。
進化して強くなったとはいえオオムシクイドリにも勝てるかどうか未知数なのに、水晶竜になんて勝てる気がしないよ。
アカも元気になったから、博打に出る必要もないしね。
というわけで、再び移動を開始したってワケだ。
まだ日は暮れてないしね!
「おやびん、はやい!しゅごい!」
「ハッハッハ、オヤビンナノデ」
肩に座ったアカがご機嫌だ。
ボクの体が大きくなって、どこでもゆったり座れるのが嬉しいみたい。
ボクもアカが嬉しそうでとっても嬉しいよ。
「アカも、おっきくなりたい!なりたーい!」
『ふふ、アカちゃんもいつかは大きくなれますよ。おやびんも頑張っていますからね』
「わはーい!」
トモさんも会話の相手が増えて嬉しそうだねえ。
どういう理屈か知らないけど、たまーにボク抜きでガールズトークしてるし。
アレ、アカは性別ないし……トモさんってどっちなんだろうか?
声はすごくきれいだけど……
『むっくんは今まで散々女神だとか言っていたじゃないですか、その通りですよ?』
あ、まあそれはそうなんだけど。
じゃあやっぱり女の人なんだー。
ボク、神様ってなんかこう……不定形?というかエネルギーの塊的な感じだと思ってたんだよね。
人間と同じような形はしてないんだろうなーって。
なんか、なんとなく。
『私にもちゃんと体はありますよ?いつかこの姿をお披露目するのが楽しみです』
フンス!みたいなイメージが伝わってきた。
トモさん、かなりの自信をお持ちのようだ。
まあね、そりゃあ女神様だもんね~……さぞお綺麗なんでしょうね!
あ!でも宗教によって女神様ってのも様々だから……ひょっとしたら腕が6本あってそれぞれカタナとかハルバード的なのを握ってるのかもしれない……!
それはそれで神々しくて格好いいと思うよ!
『むっくんの中の女神イメージがとても心配になってきました』
なんでさ!
いっぱい腕があるのって格好いいじゃん!強そうだし!
『深い言及は避けておきましょう。ですが、むっくんの性癖なら西の国はご満足いただけるでしょうね……』
性癖って言わないで!
で、でも西の国云々が気になるなあ……あ、たしか色んな種族がいる国なんだっけ?
『正確に言いますと、様々な種族が治める小国が寄り集まった、群体のような国ですね。人族、獣人、デミ・エルフ、亜人……もちろん、むっくんっぽい虫人もいますよ?』
ほほー!そんなに!
デミ・エルフっていうのはエルフじゃないの?
『デミ・エルフは他種族との混血や『正統でない』とされているエルフの総称ですね。むっくんにわかりやすく言いますと……アレです、フィクションではハーフエルフや……ダークエルフと呼ばれている種族です』
ダークエルフ!
何故か普通のエルフさんと違って、大体のゲームとか漫画で何故かすっごく豊満な感じにされるやーつ!
『こちらでは肌の色が濃く、魔法よりも肉弾戦に特化した種族ですね』
ほーん、なるほど。
魔法が不得意なんだ。
なんか、親近感!
『あ、むっくん基準で考えると達人レベルですが』
世知辛い。
親近感が一瞬で消えた。
これだけ進化してもまだボクは弱者側なのでござるね……精進しよ。
あと、亜人ってのはなーに?
『地球で言う、爬虫類のような外見を持つ種族が多いですね。下半身が蛇状のラミア種、直立したトカゲのようなリザード種などがわかりやすいですか』
なーる!わかりやすい!
うわー!見てみたいな~!
『早くこの森を抜けて、色んな人やモノを見に行きたいね~、アカ』
「いくー!アカもいっしょ!おやびんといっしょ!」
勿論、という気持ちで頭を撫でた。
さあ、距離を稼ぐぞ!
・・☆・・
『あそこを今晩のねぐらにしましょう』
川から離れて走ったり跳んだりすること数時間。
適度に休憩を挟みつつ、そろそろ夕暮れかな~……みたいな時間になってきた頃。
こんもりと盛り上がった丘の側面にある、洞窟を発見した。
あそこならボクの大きくなったワガママ甲殻ボディも入れそうだね。
『ですが、魔物の反応があります』
うん、風下だから生き物の臭いがボクにもわかる。
お休み前の運動しときますかー。
『アカ、さきにやる!』
おや、アカがやる気になっている。
気付かれないように念話に切り替えるのも賢い。
『ふふ、おやびんにいい所を見せたいんですよ、きっと。助けた恩返しでしょうね』
はあ~……!
ウチの子分いい子すぎでしょ。
泣けるわ……涙腺ないけど。
『うん、じゃあお願いねアカ』『あいっ!』
肩から空中へ移ったアカの触角が帯電を始めた。
お~、やっぱり派手でいいな、魔法。
ボクの衝撃波もかなり強くなったけど、ビジュアル面は地味だもんね。
だって見えないし。
「にゅにゅにゅ……えぇーいッ!!」
アカの触角が閃光を放ち、次の瞬間には洞窟に稲妻が走っていた。
いやあ~、やっぱり格好いいな、雷って。
「えーい!えいっ!えぇ~い!!」
しかも、続けざまに三発。
うおお、張り切るねえ。
目がチカチカするよ。
「アギャア!?」「ギッギギギ!?」「ギャバア!?!?」
洞窟の中から悲鳴が聞こえてきた。
3匹……かな?
でも電気って便利だねえ、感電するもん。
アカ、よくやっ……んん?
なんか、まだ気配がする、ような――?
「アカ!ウエニトンデ!!」「あいッ!」
アカが上に、ボクは横に跳んだ。
――洞窟の中から、焦げた何かが飛んできた。
それは地面でバウンドして、木の幹に激突。
おおっと、まただ!
洞窟の前から避難していると、続けて二つ飛んできた。
アレは……たぶんアカの電撃で焦げ焦げになった……毛玉?
香ばしい匂いがする。
『ゴブリンですね』
えっゴブリンってこんなにモフモフなん……ああ、毛皮着てるだけか。
煙が上がるその隙間から、THE・ゴブリン!って顔がのぞいている。
かなりの勢いで投げられたから、体中がボキボキだ。
っていうことは――中にそれをした『何か』がいるよね!
「ゴルウウウウアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
うおお!やっぱりなんか出てきた!!
毛皮を身にまとったそいつに衝撃波を――
「えぇいっ!!」「ゴワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
アカの火炎魔法が脳天に着弾!
行動が早い!!
ボクも負けてられないな!
「オウッ――」
炎上する顔面を抱える、ボクよりも頭一つくらい大きい影に踏み込み!
「――リャアアアッ!!!!」
そして、両手をその勢いで胸に叩き付け――インセクト・ダブルパイルッ!!
「ゴワギャッ!?!?」
ほぼ同時に二段階加速した棘が、ソイツの両胸を貫通!
これで――まだ動くの!?
な、ならッ!!
「ギ、ィイイ!?ッギャバ!?!?!」
ボクの背中から飛び出した隠し腕――その先端の鋭い刃がその首を両側から貫いた。
さすがにこれは駄目押しだったらしく、そいつは何度か痙攣して……ぐったりと力を抜いた。
刃と棘を引き抜くと、その魔物は前のめりに倒れ込んで、もう動かない。
ふう、びっくりした。
『お見事です、早速隠形刃腕を使いこなしていますね』
いやあ、咄嗟のことだったから必死だったんですよお。
『黒ゴブリンの幼体と、成体ですね』
ゴブリンってこんなに大きくなるのか……2メーターはあるよ。
ホブ?ホフ?ゴブリンとかゴブリンチャンピオンとかってのじゃないんだ。
『それらは存在しませんが、ゴブリンの変異種なら3メートルはありますよ』
思ってたゴブリンと違う!?
……まあでも、奇襲が成功してよかったあ。
「アカ、オツカレ」「おちかれ!おちかれ~!おやびん、かっこい!かっこい!」
フフフ照れちゃう!
さて……解体するかな。
ゴブリンさんって美味しいといいんだけど。
『成体には魔石があります。残念ながら肉には毒素が含まれますので、食べるのはやめておいた方が賢明です』
やっぱり思ってたゴブリンと違う!?
……それなら魔石だけ回収しようか。
どう見ても美味しそうに見えないし、こいつら。
さーて、ごりり、ばきばき。
・・☆・・
明けて、翌日。
ゴブリンの住処は腐った食べ残しと排泄物で控えめに言って地獄だったので、アカに頑張って燃やしてもらい……比較的綺麗な場所で毛皮に包まって寝た。
ゴブリンさんたち……あんな不潔環境でよく平気だよね、衛生観念どうなってるのさ。
というわけで、かなり早起きしてまた移動を再開した。
長くいたい場所じゃなかったしねえ、悪臭も酷かったし。
『むっくん、あそこの木に登ってください』
トモさんの指示通りに、デッカイ木に飛びついて登る。
20メートル程登ったところで、景色の変化に気付いた。
――先の森が、緑色なんだ。
……ってことは!ついに!!
『おめでとうございます2人とも、黒き森……突破ですよ!』
「ヤッタ!!」「やたー!!」
トモさんの嬉しそうな声に、ボクとアカも大いに喜んだ。
おひいさまと別れてから……長く苦しい戦いだったなあ……
あまりに嬉しすぎたので、そのまま大ジャンプで森の境界を越えた。
ちょっと速度が出過ぎていたので、太腿まで地面に埋まることになった。
うーん、締まらない。
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