第45話 敵討ち、返り討ち。
「ギャアッ!ギャアアッ!!」
真っ黒い、二足歩行の汚い犬が喚きながら手に持ったこん棒を振り上げる。
「――ギャワァン!?!?」
その顔をに、アカが放った火球が斜め上から炸裂。
ちょっと香ばしい匂いがする!
「オオ――リャアッ!!」
その懐に飛び込んで――お腹に右ストレート!
硬くなった拳に、なんかミチミチと肉が裂ける感触!キモい!!
そして――パイルッ!!
「ゲォッ――!?!?」
犬人間?犬面人?のお腹を、ボクの棘が抉りながら突き破る。
お腹の半分以上の肉を道連れに、背骨すら粉砕して――棘は背中側へ突き抜けた。
犬人間はそのまま後ろ向きに倒れ、一度だけ痙攣して成仏した。
……ふぃい、威力上がったなあ、棘。
それに力も大分強くなった。
『黒コボルト、死亡確認。問題なく対処できましたね、むっくん』
あーそう!コボルト!コボルトだこれ!
なんかそんな名前に聞き覚えがある!
……この犬人間さ、獣人?って人たちとは違うんだよね?
『全然違いますね。見ればわかりますが、その話題は決して獣人の前では出さないようにしましょうね?過去、それで国が滅んだことがある程の差別発言ですからね?』
ヒエッ……ボ、ボクも覚えておくけどその時はまた教えてね!
獣人さんと敵対とかしたくないし!異世界モフモフ!モフモフ!!
「おちかれ!おちかれ~!」
と、アカが頭に乗ってきた。
そこ好きだねェ、高くて見晴らしがいいのかな?
『さあ、黒コボルトの魔石を回収しましょう。恐らく群れからはぐれた個体でしょうが、魔石は魔石です』
はーい。
とりあえず、ボクは棘を展開した。
でっかくてノコギリ刃も追加されたから作業も楽だろうねぇ。
そーれ、ざくり、ごりごり。
・・☆・・
進化し、アカが復活してから3日目。
ボクらは、西に向かって移動しながら遭遇した魔物を狩る作業を続けている。
寿命も減っちゃったし、倒せる魔物は倒しとかないとねえ。
『まだ声がしますね……10キロほどは離れましたが、流石の執念です』
遠くの方から、オオムシクイドリの怒り狂う声がする。
何のシックスセンスだか知らないけど、不思議と大まかな追跡してくるんだよねえ。
子供を殺したのはボクだけど、先に襲ってきたのはそっちなんだからそろそろ諦めて欲しいなあ。
もう、理屈とかじゃないんだろうけどさ。
「アカ、オイシイ?」
「おいし!おいし!おなか、いっぱい!」
コボルトをお腹に収めたアカが、ニッコニコで肩に乗ってくる。
……まあね、アカが元気になったんだから一切後悔してないし!
そもそも先にアカを半死半生にしたのは向こうだし!ボクの左手も吹き飛んだしね!
『では、移動しましょうか。日暮れまでにはまだ時間がありますから……なるべく距離を稼ぎましょう』
はーい、了解!
木から木へビュンビュン飛び移りながら移動中、ふと気付いた。
……そういえば、最近までそれどころじゃなかったけど……今ってどれくらいの所にいるんだろ?
この黒いゾーンって確か30~40キロなんだよね?
結構な距離、移動してきたと思うんだけど……
『まだ現在地を知覚する機能は解放されていませんが、概算でよければお教えしますよ?』
あ、お願いします!
『おひいさまと別れた時からの距離と、むっくんの行動履歴からして……そうですね、恐らくあと10キロ少々で抜けられるかと』
おー!朗報!
もう半分以上は来てたんだね!
『むっくんが進化してから、運動性能もかなり向上しましたし。以前よりも逃げざるを得ない魔物も減ったので、大きく迂回することもないですし』
そっか、それもあるか~。
確かに、カブトムシボディの時はいっぱい迂回したよねえ。
今なら、あの時に遭遇して逃げちゃった魔物とも渡り合えるかもね!
『深淵狼や深淵猛虎なら大丈夫でしょうが……ランドボルボクスは無理です、アレはオオムシクイドリよりもかなり格上の魔物ですし』
それって……あの真っ黒な触手の集合体のことォ!?
あのキモいの、そんなに強いんだ……コワ。
『あの触手1本1本に猛毒がありますし、加えて魔法もどんどん撃ってきますからね。動く砲台のようなモノですよ』
ひぇええ……
『しかも死んでも毒は残るので食べられませんし、魔石を取るために解体すれば強酸性の体液が噴出しますよ?』
ろくなリターンもない……
スルー安定か。
でも、このまま移動を続ければノーマル森に出られるね!
まあ、この森ってば四国くらいデカいらしいから……抜けた後も大分移動しないといけないんだけどね。
『エルフ本国からの追っ手もいますし』
そういえばいたね、そういえば……
そちらには見つからないように森を抜けたいなあ。
おひいさまには本当にお世話になったし、あんまりエルフさんたちと揉めたくないよう。
「おやびん、おやびん!」
「ハイハイ、ドシタ?」
肩に乗り、アカがマントを引っ張ってきた。
「みずのにおい、すりゅ!」
……水?
「ウオオ……カワダ、デカイ」
「かわ!かーわ!おっき、おっき!」
それから30分ほど移動を続けると……黒い森を横切るように流れる、とんでもなく大きい川にぶち当たった。
今までも小川くらいのものは見たことがあるけど、こんなに大きな川は初めてだ……
向こう岸が辛うじて見えるくらいの、大河だ!
すげー!それに川の水が真っ黒!キモい!!
『コレは、原始の森を南北に貫く『アラスト大河』ですね。むっくん、ここさえ越えれば普通の森まであと少しですよ』
まあ、それはなんて朗報!
朗報なんだけど……なんだけどさ……
この川、どうやって渡ろう?
どう見ても深そうだし、流れも早そう。
異世界初スイムを挑むにはちょっと……ハードルが高いや。
あ!森の木を切って縛って筏でも作ろうかな?
動力源はボクの衝撃波で!
『この川には大型の魔物がそれはもうウジャウジャいます。今のむっくんなら『地上では』渡り合えるでしょうが……』
それって暗に水中だと死ぬよって言ってますよね?
まあ、ボクもこんな視界ゼロの空間でまともに戦える気がしないんだけどね。
しっかし、黒い川だなあ……もう墨汁じゃん、こんなの。
明らかに体に悪そうなんだけど、飲んでも大丈夫って本当に異世界って面白いや。
ふむ、どうしたもんかね。
これはこの湖畔に腰を据えて、一晩くらいゆっくり考える必要が――
「キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
うん!
むっちゃ近い気がする!
『後方5キロほどの地点ですね。オオムシクイドリは空では天敵も多いのに、気にせず飛び続けてきたようです。恐らく、子供たちも引き連れているのでしょうね、親の声に混じって聞こえます』
……このままここにいるのは不味い。
相手は空を飛ぶから、こんなに目立つところにいたらバレちゃうよ!
「シカタナイ、プランBデイク!」
ボクは、急いで準備を始めた。
『アカ、ぎゅーって掴まってるんだよ、ぎゅーって。あと、ボクが指示したら浮かせてね』
「あい!」
どこからか持ってきた草のツタをボクの首に回し、アカが胸元に縋り付いてきた。
うーん、カワイイ!
『声が近付いてきています、急ぎましょう』
はい!
ボクは、川に一番近い大木のてっぺんに登っている。
たぶん、地面からは50メートルほど上だろう。
ちら、と後ろを振り返れば……遠くの方に羽ばたくような3つの影が見えた。
あんまりのんびりもしてられないな!
よし……行くぞォ!!
木のてっぺんを両手で掴み……川と反対側に向かって飛び降りる。
ギシギシと木が軋み――空中のある地点でボクの体が止まった。
かと思うと、飛び降りた時よりも何倍も強い勢いで――しなった木が元に戻る!
「ヌ、ウ!!」
しなる木が、元の所まで戻る勢いを利用して――ボクは空中へ斜めに打ち出された。
ここの川幅は500メートルくらいだ、それを――飛び越える!!
勿論、これだけじゃとっても足りないから――跳躍の頂点で、後方に衝撃波発射ァ!!
どん、と体が加速する。
後ろ向かなくっても発射できるようになったの、本当に便利!
戦闘ではボクが慣れてないから使いこなせてないけど、こうして使うだけなら十分だッ!!
『アカッ!』『あーい!!』
加速中に、ほんの少しだけ浮かぶ。
重力を無視した斜め上に、ボクの体が打ち出される!
さらに衝撃波!衝撃波!!衝撃波ァ!!!!
三段ロケットよろしくの多段加速をしたボクは――川の真ん中を飛び越えた!
よおし!このまま――
『むっくん、後方からブレス!真っ直ぐ!』
了解ッ!
斜め後ろくらいに――衝撃波ッ!
ズレたボクの横を、白いビームが通過した。
ひぃい!危なかった!
あんなに遠くから撃ってくるのやめてよ!
でも、これで再発射まで10秒ある……んだった、よね!?
『このまま飛び越えましょう!子供のブレスはここまで届きません!』
いい情報ォ!
そのまま一気に行くよッ!!
むんむんむん――最大溜め衝撃波、発射ァアッ!!
「わはーっ!はやい、はやーい!!」
スピードに喜ぶアカの声を聞きながら――ボクは大河を飛び越えた!
フーッ!気持ちいいッ!!
地球にだってないぞ!こんなイカしたアクティビティは!!
『減速!』
そうでした!
小刻みに前方に衝撃波、連続発射!
うぐ、ぐ!重力、重力が辛い!
あっというまに対岸の木が近付き――その幹を半ば貫通しながら、両足で着地?した。
あ、危なかった……
『むっくん!オオムシクイドリが来ますよ!』
うおっとォ!?
とりあえず奴らの現在位置を把握して――
振り向くと、対岸の上空近くにまで追いついたオオムシクイドリがブレスを放とうとして――後方から飛んできた、青くて綺麗なごん太ビームに首から上を消し飛ばされていた。
……は、はぇえ?
『どうやら、水晶竜の縄張りを横切ったようですね……僥倖です』
首無しのオオムシクイドリが、水飛沫を上げて川に落下するのを見ながら……ボクはなんとも言いようのない肩透かし感を抱くのだった。
まあいいけどね!楽だし!!
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