第42話 痛いのは嫌だけど、後悔するのはもっと嫌だ!
「グルウアアアアアアッ!!キュオオオオオッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
むっちゃくちゃキレてる。
発見される前にあの場を離れて……500メートルは逃げたのに、すぐ近くにいるくらいの音圧だ。
『オオムシクイドリは子が完全に巣立つまで面倒を見ると言いますからね……愛着も愛情も、かなりあるのでしょう』
むう……子煩悩なのか。
それはちょっとかわいそうだと思う。
思うけど……ボクたちは食料側だもん。
いくら麗しの家族愛だって言われても、麗しく食べられるワケにはいかないんだ。
ボクらだって生きているんだから。
それに、ボクもアカも殺されかけたんだもん。
これは、生存競争なんだ。
いいとか悪いとかじゃないんだ。
ドキュメンタリーとかで見たんなら、素直にかわいそうだとは思うけどね。
今は当事者なんだし、綺麗ごとを言っても仕方ないんだよね。
そう思うでしょ?トモさ――
『――体を低くしてください!大規模な魔力集中、確認!!』
――うへぇわぁあ!?
咄嗟に地面に身を投げ出したら……なんか背中が熱い!!
バキバキドカドカって物騒な轟音もする!
な、なななな何が起こったのォ!?
『ブレスです!オオムシクイドリが四方に向けてブレスを乱射しています!』
なんて、はた迷惑な!?
悲しいのはわかるけど、自然環境とボクのことも考えてよォ!!
『そのまま伏せていてください、発射間隔を把握します……』
ひいいい!?
四方八方にドギャンドギャン撃ってる音がする!
ママ……じゃなかった!パパ、ブチギレすぎ!!
無理もないけど!!
『発射間隔は10秒ですね……次に撃ったらダッシュですよ……今ッ!!』
はいダッシュ!ダッシュ!!
ねえトモさん!ちなみに今のボクにあのブレスが直撃したら――?
『欠片も残りません!消滅です!!』
でしょうね!
ちなみに前より強くなったっぽいボクの攻撃、衝撃波と射出パイルは効くゥ!?
前も聞いたけど、一応聞いとく!
『現状でも表皮には通用しないでしょう!肉薄しての口や眼球ならあるいは、です!』
ハァイ!
じゃあ逃げますゥ!!
何処までも逃げますゥ!!
・・☆・・
「キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ま、まだ暴れてる……
あれからかれこれ1時間は逃げてるのに、まだ暴れてる……
声でっか。
『流石に魔力が枯渇してきたのでしょう、ブレスはありませんね……もっと離れましょう』
はい。
そういえばアカがいるところは大丈夫かな、トモさん。
『あそこは低い場所ですので、水平射の影響は受けません。周囲も分厚い岩盤なので、万が一直撃しても抜かれることはないでしょう』
たしかに、あそこは周囲から一段低い川の横だったな……
それに、あのブレスは木を吹き飛ばしてたけどさすがに地面を根こそぎ消し飛ばすってくらいの威力はなかった。
逃げてる時はそれどころじゃなかったけど、落ち着いて考えたらそうだった!
『とにかく、遮蔽物を探しましょう。向こうの魔力が回復したら、またブレスの乱射が始まりますよ』
またかあ。
『オオムシクイドリが子供を大事にするのは有名な話です。害した相手を殺すまで追いかけます……たとえそれが格上の相手でも、そうすると言いますよ』
ううーん……家族愛!
『ちなみに雌は卵を産んだらすぐに別の雄を探しに行きます』
ママがドライすぎる!!
0か1かしかないのかオオムシクイドリ!!
と、とにかく移動だ。
アカを隠した場所に籠ってもいいけど、逃げる間に大分距離が離れちゃった。
近場を探した方がいいな。
『それに、残った3匹の幼体も気になります。以前のように魔力網を各所に設置しているのかもしれません』
うあ、あの罠みたいなやーつか。
あの時も子供に仕掛けさせたんだろうなあ。
『私は魔力網の探知に全力を注ぎます。周辺警戒はむっくんにお任せしますよ』
了解!
あの網、ボクは引っかかるまで何もわからなかったもんね。
トモさんに頼るしかないか。
『オオムシクイドリが暴れることで追いたてられる魔物も多いでしょう。そちらも警戒するのですよ、むっくん』
はい!
オオムシクイドリ以下でもボク以上の魔物なんかウジャウジャいるだろうしね!
こんな所でポカミス死をするわけにはいかないのだよ。
さあ、避難場所を探そう!
・・☆・・
オオムシクイドリの叫び声にビクつきつつ、森を彷徨うこと1時間少々。
ボクは、よさそうな場所を見つけた。
見つけたんだけど……
『地表に突出したダンジョンの一部ですか。珍しいものを見つけましたね、むっくん』
初めは岩山かと思ったんだ。
だけど、近付いてみると違うとわかった。
それは、地面から突き出した……石造りの四角い建物だった。
表面は苔むしているけど、規則的に同じような石が組まれていて明らかに人工物っぽかった。
だ、ダンジョン……これがダンジョンか!
『開口部だけですね。恐らくこの先には広大な地下区画が広がっているのでしょうが……』
トモさんが言うように、その入り口っぽいものは斜めに10メートルほどの奥行きがあった。
だけど、その先は崩れた土と壁によって塞がっている。
そんな気もないけど、ちょっと掘り返すのは無理だね。
ボクが重機ならワンチャンいけたかもしんないけど。
まあでも、この状況では素敵な隠れ場所だ。
森に囲まれてるし、このダンジョン?の壁はかなり分厚いし。
ねえねえトモさん、ダンジョンってやっぱりダンジョンマスターとかがいてたりする?
そんで、ダンジョンのコアとかで中身を書き換えたりモンスターを配置とかしてるの?
『それはゲームの中だけですよ。お好きなのですか?』
例によって概念しか知らない!
ダンジョンゲーを楽しんだ記憶自体はありませぇん!
『とりあえず、奥に避難しましょう』
あ、はい。
入口から入り、いい感じの窪み?を見つけたのでそこに腰を下ろす。
ふいい、落ち着いた。
『確かに、壁が修復されたり通路が変動するようなダンジョンは確認されています。ですが、それは大地の魔力……龍脈と呼ばれるモノによる自然現象です』
ほほー、龍脈。
風水じみた単語ですなあ。
『ダンジョンマスター、と呼ばれる存在は今の所確認されていませんよ。むっくんには悲しいお知らせですね』
むーん……残念なような、そうでもないような?
あ!でも宝物とかはあるのかな!
秘宝を守るボスモンスター的な感じのもいるのかな!
『そもそもダンジョンとは太古の遺跡ですから。遺物もありますし、住みついた大型の魔物もいるでしょうね』
おー!それはワクワクするね!
いつか行ってみたい!
『冒険者といい、ダンジョンといい……むっくんは妙な部分に興奮しますね。地球の方々はみんなそうなのでしょうか?』
アホだなあ……みたいな声色のトモさん。
みんなってわけじゃないけど、なんかボクはワクワクするね!
記憶はないけど、オタクだったのかしらね?ボクって。
『まあ、いいでしょう……それでは魔石を摂取しましょうか』
あ、蛇とオオムシクイドリ(子供)のやつね。
それはいいんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだよね。
『おや、なんでしょう?』
さっきの戦いが終わった時にさ、『進化いけるかも』って言ってたよね?
それなんだけどさ、進化してる時に寝ないのって可能なの?
あれ、この状況下だと大ピンチになるんじゃないの?
身動きできない所にブレスとか喰らったらそのまま死んじゃうよ。
あ!ひょとして進化中は無敵とかそういうのある?
『ありませんね』
でしょうね……初めての進化の時も身を隠せって言ってたしな、トモさん。
『しかし、寝ずにですか……理論上は可能ですが、その、辛いですよ?』
辛いってなにが?
『進化中の強制睡眠措置は、痛覚遮断と並行して行うのです。体のサイズを変更し、変形させるプロセス中に意識を保ったままというのは……精神的にも、肉体的にも大変な苦痛を伴うことが想定されます』
……た、たしかに。
『長い時間をかけるのも、そのダメージを軽減させるための措置なのです。理論上は短縮することも可能ですが……その場合は、より一層強い苦痛を味わうことになりますよ?』
う、うう……で、でもさ。
この場合はもう、そうするしかなくない?
進化したボクがオオムシクイドリに勝てるかどうかはわかんないけどさ、今進化できるんならしておかないと……戦うにも逃げるにも、手の打ちようがないじゃん。
『……私も、それを回避する手段を考えていましたが、無理そうですね』
じゃあさ、じゃあ……できるんなら、やるしかない、よね?
『……辛いですよ?』
……背に腹は代えられないじゃん。
それに、痛覚遮断してくれるんでしょ?
なんとか我慢するよ、ボク。
『進化の短縮化に、痛覚遮断を併用しますと……その、寿命が大幅に……』
駄目!それ駄目!!
折角アカの為に溜めた寿命なんだもん!
そんな事には使えないよ!
今回のでノルマ分が溜まるかもしれないのにさ!
……ボクも考えたけど、やっぱりやるしかないよトモさん。
やろう。
辛くて痛くて苦しいかもしれないけど……しれないけどさ。
――これで変に安全策取って、アカが死んじゃうほうがボクは嫌だよ。
ボクは、ううん……ボクたちはさ。
これからもいろんな場所に行きたいんだ。
いろんな場所を見て、いろんな事を楽しんで、いろんな事に感動したいんだ。
――ボクと、トモさんと、アカで!
やりましょう!トモさん、お願いします!!
『……わかりました。むっくんを、信じます!』
その言葉が聞きたかった!!
ポーチに手を突っ込み、蛇と子竜の魔石を取り出す。
……これだけ大見え切って進化できなかったら死ぬほど恥ずかしいな。
ノン!弱気は駄目だ、弱気は!!
――イクゾー!!!!
ばりばりばり、ごくん。
ぼりぼりごき、ごくん。
――どくん、ときた!!
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