第41話 かかってこいや、虫食いトカゲ野郎!
『真っ直ぐこちらへ来ます!戦闘音を聞きつけられたようです』
よおし……撤退!
蛇の8割以上が残ってるけど、考えがある!!
蛇の死体から離れ、さっきまでいた木に登る。
そして、切れてない枝に身を隠した。
『アレは……あの夜に戦った個体ですね』
そいつは、空からバサバサと下りてきた。
日の光に照らされたオオムシクイドリの子供は……頭から翼にかけて、火傷の跡が色濃く残っている。
アカの雷撃魔法の名残、か。
『普通は巣に持ち帰るのですが……あの個体は独り占めをするようですね。傷の回復を優先させるのでしょう』
子供は、ボクの食べ残した蛇の残骸を両足で挟むと、嬉々として齧り始めた。
オオムシクイドリって翼と腕が合体してるんだなあ、前はマジマジ観察する余裕なかったし。
プテラノドンみたい。
……アイツは蛇に夢中になっている。
それボクが仕留めたヤツぞ!そんなに美味しくないけど!
『周囲に他の個体の反応、ありません。行きますか?』
うん。
アイツらはボクらが憎くて襲ってきたんじゃない。
食べるためだ。
でも、こっちにはわだかまりがあるし……それに、見逃す道理はない!
ボクの寿命のため、アカの命の為に――犠牲になってもらう!!
音をさせないように枝から身を起こし、両腕を真っ直ぐ突き出す。
腕の延長線上に……ヤツの翼を照準!
トモさん、撃ったらすぐに再生お願いね!
『了解です』
夢中で蛇を貪るオオムシクイドリ。
その片方の翼に向って――パイル、射ァ出ッ!!!!
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
空気を切り裂いた棘が2本。
ヤツの翼の……なんか、薄い膜?を貫通して、さらに胴体へ突き刺さる。
すかさず枝から身を躍らせて――空中で両足パイル、射出ッ!!
「ギャンッ!?!?」
続けて飛んだ棘2本。
それが、翼の付け根に突き刺さった。
『修復開始!』
ジワジワと痛みが引いていく。
何度やっても変な感触だなあ。
「キュオオオオッ!!オオオオオオオオオ!!」
パイル射出の勢いで若干浮かんだボクが着地した時に、オオムシクイドリが振り向いて吠えた。
「オゴオオオオッ!?オ、オガ!?!?」
――その口に、衝撃波を叩き込んだ。
唾液が空中に飛び散り、声が中断される。
まだ棘は再生しない――ならッ!!
「オウリャアッ!!」
駄目押しの衝撃波を放って、地面を蹴る。
衝撃波を追いかけるような形になったボク。
跳んだ勢いを乗せたドロップキックが、オオムシクイドリの胸に炸裂。
ぐら、と揺れてそいつは倒れ込む。
「オリャア!!」
「ギイイイイイイイイッ!?!?」
倒れ込んだオオムシクイドリ。
その胸に触角を突き立て、さっき蛇にやったように衝撃波を直接体内に――打ち込む!
悲鳴を上げ、竜の体が震える。
三度目の衝撃波を打ち込んだ時だった。
『――離れて!』
うわ、あ!?
トモさんの声に反応したけど、少し遅れた!
ボクが突き刺さったまま、竜が身を捩って暴れ――その勢いで弾き飛ばされちゃった!?
「グ、ムッ!?」
子供とはいえ、ボクの何倍も大きい竜。
その体重エネルギーでボクは飛ばされ、背中から木に叩き付けられた。
体が軋むほどの衝撃だ!背中の装甲がビシっていった気がする!!
「グオルルル……ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
『ぶっ殺すぞお前!!』みたいな感じでオオムシクイドリが吠えた。
結構ダメージを与えたけど、まだ元気だなあ!
望むところだよ!こっちは!!
『むっくん、手足の棘の修復完了です!続けて触角の修復に移ります!!』
だけど、さっきの動きでボクの触角が根元から折れた。
衝撃波はしばらく使えない!
今も魔力を溜めてみたけど、額まで魔力が溜まらないんだ!
触角って大事なんだね!なんか変な感じもするし、ボクが考えるよりも大事な器官だったのかもしんない!
「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
オオムシクイドリの開いた口の周りに、魔力が集中している。
――ブレスが、来る!!
「ナニクソ!!」
軋む体に鞭を打って、斜めに走る。
一拍遅れて、さっきまでいた所に閃光が走った。
あっぶなぁい!!
視界の端に見えたけど、木が円状に抉れて消し飛んだ!
絶対に当たるわけにはいかない!
即死しなくても戦えなくなる!!
『再びブレスが来ます!』
連射間隔が短いなァ!!
ひたすら首の可動範囲から逃げ回る!!
地面が消し飛び、木々が消し飛ぶ。
バカスカ撃ちやがって!オノーレ!!
ほぼ斜めになる勢いで走り――背中側に回り込んだ!
ここならブレス――は届かないけど尻尾を薙ぎ払ってきた!!
ジャンプゥ!!
そして尻尾を避けつつ――右足パイル、射出ゥ!!
「ギャンッ!?!?」
ほぼ狙いを付けずに撃った棘は、背中のど真ん中に着弾。
ボクは、片足を撃った反動で縦回転!
斜めの軌道で回転しながら――痛みで暴れる、竜の首に着地!
「イヤーッ!!」
すかさず両手を叩き付け、同時に両手の棘を伸ばす!
棘は二段階の加速で首に刺さり、ボクの体を固定。
加えて、左足の棘も続けて伸ばす!
更に強固に食いこむボクの棘!!
「キュオオオオオッ!?!?ギャ!?!?オアアア!?!?」
ここまで首は届かないし、尻尾も届かない!
体を倒せばボクを潰せるかもしれないけど――そんな隙は与えないぞ!!
右のパイルを縮め、すかさず伸ばす!
次は左を縮め、伸ばすッ!!
交互に、微妙に打ち込む箇所を変えて――縮めて打ち込む!縮めて打ち込む!!
絶対にここから離れない!!絶対にだ!!
ボクの魔力が尽きるか、お前が死ぬか――根競べ、だッ!!!!
「ギャア!?アアア!?ッギギギ!?キシャアアアアアアッ!?!?!?」
竜はなんとか身を捩ろうとしているけど、打ち込むたびに痛みで行動がキャンセルされてるっぽい!
喰らえ、喰らえ――連続パイルラッシュ!!
「――ウオオオオオオオオオオッ!!!!」
・・☆・・
「ギ……ィイ……ガ、ア……」
もう、何度棘を打ち込んだかわからない。
魔力が枯渇ギリギリで、頭がぼうっとする……
何度かコイツが寝返りのように暴れ回ったけど、決して離れなかったことだけは覚えている。
――そして、オオムシクイドリの子供は地響きを立てて地面に倒れ込んだ。
『むっくん、トドメを』
痛む体を動かし、首から離れる。
もう、首元の皮膚は骨が露出するくらい抉れてズタズタだ。
変に動かせば、そのままボキっといきそうなくらいだ。
「ガ、アア、アアア……」
足を引きずり、首に近付く。
弱々しく震える、その首に。
――じゃき、と右手の棘を格納。
『――魔力反応!』
「ガア、アアア!アアアアアアアアッ!!!!」
ボクが近付くのを待っていたかのように、首が素早くこちらを向いた。
その口内に、魔力が集まる。
「――オオオオッ!!!!」
――その、魔力の塊を貫いて。
ボクは右手を、口の中に叩き込んだ。
舌を殴りつけ、喉へ打ち込まれた右手。
そのまま、棘を二段階伸ばす。
口内の拳に、暖かい液体がかかった。
「――クラ、エッ!!!!」
そして、射出。
――喉を貫いて、棘が外へ飛び出した。
「――モウ、イッチョ!!!!」
残った左手を、竜の眉間へ。
拳の装甲が割れるほど叩き付け――パイル!!
「――ゴバァ!?!?!?!?!?」
――そして、射出!!!!
「――ァア、ア、オゴ………」
ヤツは大きく痙攣し……後頭部から棘と血と脳の破片をぶちまけた。
一瞬、首は静止。
そして……今度こそ、目から光が消えた。
『……お見事です、やりましたね!むっくん!!』
「ヤ、ヤッタァ……」
落ちる首にくっ付いて、ボクは地面に叩き付けられた。
死ぬほど……冗談ぬきで死ぬほど疲れてるけど、やった、やったんだ!
勝っ……たぞ!
勝ったぞおおおおおおおっ!!
地面に倒れたまま、ボクは渾身のガッツポーズをした。
『そうです、そのまま胸を切り開いて……ハイ、魔石ですよ』
しばし後。
トモさんの指示に従って竜を解体している。
心臓の横に……ソフトボール大の赤い魔石があった。
すぐに、ポーチへ入れた。
これで、寿命伸びるかなあ、トモさん。
『伸びますとも、今まで倒した中で一番格上の魔物ですから。大角蛇の魔石と合わせれば、進化の可能性すらありますよ』
やった!
それは嬉しい!!
アカを助けるためにも、進化はかなりのいいニュースになる!
『さ、とりあえず血を飲みましょう。他の魔物に嗅ぎつけられる前にできるだけ食べるのです』
なんか、デジャブだな……
嫌な予感が凄くする。
二度あることは三度あるって言うし――とりあえず血を飲んだろ!
ゴクゴクゴク……無茶苦茶不味い!!
でも寿命と進化の為だ!名実ともにボクの血肉となれ!!
……けぷう、飲んだぞ。
よし、次はお肉だ!
疑似的な血抜きになったはずだから、ちょっとは美味しいかもしんない!
それじゃ、ガブっと――
「――キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ほーらね、来た。
よりにもよって、親が。
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