第36話 水場ガチャ、大失敗。
またオーク来ないかなあ……
こんにちは、むっくんです。
今日も今日とて、朝から水場周辺に潜んでおります。
ねぐらは少し離れた所に穴を掘って眠っています。
体中が土の匂いになりつつある気がする!
『オークが気に入りましたか?』
すごく気に入った!
魔石もあるし、なによりお肉がちょっと美味しかったから!!
硬くて筋がいっぱいあるけど、豚肉の味がした!塩コショウが欲しい!
『オークは一部地域で食材としても取り引きされますからね』
やっぱり!
血抜きしてない生焼け状態でも、オエってならなかったもん!
ちゃんと料理したらさぞ美味しいんだろうなあ……
『アカ、オーク美味しかったね』
『おいし!おーく、しゅき!かりかり!しゅき!』
アカの魔法のお陰で焼けてたもんね。
確かに外側の皮のとこが香ばしくって美味しかったもんね~……ゴクリ。
いやあ、魔物って美味しいのもいるんだねえ。
ボク、てっきりこの森には不味いのしかいないのかと思ってたよ。
『好き嫌いはいけませんよ?』
基本的に食べてますやんか……ボク。
美味しくないのも全部。
『あ、来ますね。前方、距離約50メートル』
おっと、気を引き締めないと。
さーて、今度も美味しいのが来るといいなあ……
ばきばき、ばきばきと音が聞こえる。
ほほう、結構な大物です……ね……
――林の木をへし折りながら、10メートルくらいの物体……黒くてゴツゴツした形状の、巨人が出てきた。
陽射しが当たってキラキラと輝いている……なにあれ、石の巨人?
あ、もしかしてゲームとかにありがちのあのモンスターか!
『黒曜ゴーレムです……むっくん、離脱の準備を。かなりの格上です』
マジで!?
なんか、どんくさそうな感じなんですけど?
『通常の場合はそうです。ゴーレム種は敵を認識するまでは比較的低速ですが、一度戦闘状態に入ると――』
首のない、胴体だけの体。
人間で言えば2つの鎖骨の中心あたりにある、鈍く光る1つ眼。
それが――明らかにこちらを『見た』
『むっくん、離脱を――!』『アカ!高く飛んで――』
トモさんの警告と、ボクの念話。
それに続いて隠れていた体を起こし、ジャンプしようとした時だった。
――何かが飛んできて、ボクの左腕が付け根から吹き飛んだ。
『にぃい!?逃げるよ!全力で!!』
襲って来る激痛を無視し、即座にUターン。
手近な木の幹に向けてジャンプ!!
さっきまでいた場所から、土が吹き飛ぶ音がした。
「おやびん!?」「ニゲル!ニゲルッ!!」
心配するアカの声を聞きながら、幹に棘を突き刺して一気に引き寄せる。
バランスの悪くなった体が、一気に樹上へ。
だけど、枝に着地した時に違和感。
この木――傾き始めてる!!
『体を構成している部品を高速で射出しています!逃げて!索敵範囲から、一刻も早く!!』
はぁいっ!!
枝を踏んで――ジャンプゥ!!
枝から枝へ、ジャンプを繰り返して逃げる、逃げる。
アカはボクの右肩に掴まって、心配そうにこちらを見ている。
心配ご無用!おやびんは最強なので!!
痛くて泣きそうォ!!涙腺ないけどっ!!
うわわわ!?
後ろからバキバキバキバキ音がする!?
あのゴーレム、どんだけ残弾あるんだよ!?
体なくなっちゃわない!?
あ、10メーター級だから平気かァ!ちくしょう!!
『ゴーレム種は広い範囲を巡回する習性があります、今回は運が悪かったですね……いい機会です、移動をすることにしましょうか。あの水場はゴーレムの縄張りになってしまいました』
ああもう!折角のロケーションが!!
だけど命には代えられないよね!
トモさん!修復よろしくゥ!!
『了解。片腕だけなのでこのまま開始します……修復中は索敵がおろそかになりますので、周囲の警戒を怠らないでください!』
こっちも了解!
とにかく、ざっくり西の方角に向って逃走だァ!
はいぴょーん!ほらぴょーん!!
ジワジワと生えてくる腕を視界の端に捉えつつ、ニンジャよろしく猿飛の術だ!
この体、息切れとか存在しないのが便利だよね!
まあ魔力切れたらそのまま餓死するけど!
……ポーチから雑草取り出しとこ、逃げながら魔力補給だ!!
リンゴは落としたら嫌だから雑草!!
「おやびん!こわいのいる!」
『うん、わかってるよ!だから逃げてるんだ!』
「そっち、ちがう!まえ!まえ!!」
――は?
嘘、そんなのってアリ!?
トモさんレーダーは今使えないし、ボクが決めなきゃ!
『アカ!こわいのは前だけ?』
「まえ!うしろ!ひだり!」
驚いた、ボクよりもよほど立派じゃないか!
助かるよ、相棒!
じゃあ……右方向だ!!
枝を足場に、右斜め前に思いっきりジャンプゥ!!
……だけど、何故か右だけ木が少ない!
地面ダッシュに切り替える!!
草を踏み、岩を飛び越えて走る、走る。
いまだに後ろから何かがどきゅんどきゅん飛んでくるので、ジグザグに逃げないといけないのが辛い!
うひい!斜め前の木が吹き飛んだ!
あんなのマトモに喰らったらボクの体なくなっちゃうよ!!
『アカ!追いかけてくるこわいのは!?』
「うしろ!ひだり!」
くそう!新しいのまで追加された!!
たしかに、なんか左の方からどっすんどすん聞こえてくるし!
今度はなんですか!!
ええい、もうこうなったら開き直って……走り続けて距離を稼ぐ!
黒の森ゾーンはすぐには抜けられないけど、中心部からはさっさと逃げたいッ!!
「キュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ひいい!意外といい声!!
これ絶対ゴーレムじゃないよね!
アイツ明らかに声帯とかなさそうだったし!
だって首ないし!!
『修復一時中断!むっくん、左の個体は恐らく……オオムシクイドリです!!』
ひぎゃああああ!!
このタイミングで出てきやがったのォ!?
ボク、なんか前世で悪い事したの!?
前からちょいちょい見る夢ではなんか被害者側だと思うんですけど!!
ポン刀で斬りかかられたりしたし!!
アレが本当にボクかはわかんないんだけどさ!!
「あっ!」
どうしたアカ!?
「うしろと、ひだり!けんかしてる!!」
マジで!?
やったァ!僥倖だッ!!
『前方、気配なし!修復再開します!』
トモさんのお墨付きも出たし、この隙に距離を稼ぐぞォ!!
「キュオオオオッ!!ケェエエエンッ!!」
無茶苦茶キレてる!オオムシクイドリ(推定)!!
そのままゴーレムくんと遊んでてください!!
『思いっきり行くよ!アカ、しっかり掴まってて!!』
「あいっ!」
アカが肩に全身でしがみついたのを確認し――助走をつけて地面を蹴った。
斜めに飛び上がりながら、一瞬体を後ろに向ける。
行くぞォ……衝撃波、全力発射ァ!!
どん、と体が打ち出される。
すぐに前を向き――首を振って真下にも衝撃波ァ!!
重力に逆らい、体が浮く。
『アカ!ボクに少し浮かぶくらいの念動力を!!』
「あいっ!」
ふわ、と体に力がかかる。
よし、このまま慣性の法則さんに手伝ってもらってカッ飛ぶぞ!!
迫りくる木の幹を蹴り、殴り、直撃コースを避けながら飛ぶ。
ああ、返す返すもボクにも翼が欲しい!
・・☆・・
『周辺に魔物の気配はありません、お疲れ様でした』
ぷひい……
「おやびん!ぎゅーん!しゅごい!かっこい!」
アカの全肯定尊敬目線が、ボクの疲れた心身に沁みる……
はあ、ひどく疲れた。
ボクがいるのは、低い岩山に開いた横穴の中。
ちょいと森が開けた場所にぽつんとあったのだ。
もちろん、入り口は塞いでいる。
結局、日が暮れるまで逃げ回る羽目になった。
ゴーレムくんはあれからすぐに諦めたみたいなんだけど、オオムシクイドリ(推定)がまあ……しつこいしつこい。
ずううっと後方から声が聞こえてたもん。
名前の通り、虫好きすぎでしょアイツ。
『むっくんの内包する魔力に気付いたのでしょうね。向こうにとっては元々大好物の虫が、さらに美味しそうに見えていたのでしょう』
捕食者にモテても何もいいことがないなあ……もう近くにはいないよね?
『夜は活動しませんが、しつこいですよ。こちらも早く寝て、夜が開ける前に出発しましょう』
嫌だなあ……
ああ、早く強くなりたい。
ドラゴンをデコピンでミンチにできるくらい。
とりあえずご飯だ、ご飯。
リンゴ食べとこ、リンゴ。
『アカ、今日の晩御飯はリンゴに蜂蜜をかけたものだよ~』
「りんご、はちみつ!?しゅごい!!」
こんな料理とも呼べない料理でも大喜びしてくれるこの子分は天使か?
「おいし!おいし!」
「イイコ、イイコ」
夢中で蜂蜜リンゴを頬張るアカの頭を、指でそっと撫でた。
いつか、もっと美味しい料理を食べさせてあげるからね……!!
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