第35話 水場ガチャ、開始!!

『むっくん、来ましたよ……いけそうですね』


 了解……衝撃波発射ァ!!


「キョーーーー!?!?」


 最大溜めで放たれた衝撃波が、首を曲げてブラックウォーターを飲もうとしていた魔物に直撃。

大きな角みたいな枝を生やしていた鹿が、首を歪に曲げながら倒れ込んだ。

よーし!一撃で仕留めたぞ!


『行動は迅速に!死体を回収ですよ!』


 アイアイキャプテーン!

衝撃波の反動対策の為に背中を埋めていた木から抜け出し、ボクは死体に向ってダッシュした。



 狼の群れから逃げている最中にたどり着いた真っ黒な池。

ボクらはそこの……周囲に点在する林に潜伏し、水を飲みに来る中で『倒せそう』な魔物を待つ作業を続けていた。


 ボクやアカと違って、魔力を生命力に変換?できない魔物たちは当然ながら水を飲む必要がある。

だから、ここで待っていればよさそうな連中が来るだろう……という、トモさんの具申によるものだ。


『枝鹿ですね。このサイズだと魔石はありませんので……はい、全部食べてください』


 ううう……了解。


「ごはん!ごはーん!」


 アカはいつでも元気で羨ましいなあ。

血の臭いがあまり拡散しないように、頑張って掘った穴の中で鹿を丸かじりする。

全部食べちゃえば臭いはあまり残らないしね!


『美味しいですか?むっくん』


 きちんと料理すれば美味しいんだろうなあ……って味!

血抜きもせずに、焼きもせずに丸かじりですよ!?

血と生肉と臓物の味しかしませんよ!


『アカちゃんの火炎魔法を使うと臭いと煙が目立ちますし』


 そうですよねえ……仕方ない、仕方ない。

今は美食よりも強くならねば。

強くなってこの激ヤバ森を脱出せねば。


「おいし!おいし!」


 満面の笑みを浮かべたアカが、鹿の頭蓋骨に頭を突っ込んで中身をもぐもぐしている。

それ本当においしい?鹿の脳味噌本当においしい?

なんでも美味しく食べられるって才能だよね……

でも、いつかは本当に美味しいものを食べさせてやるからな……


『むっくん、アカちゃんを止めてください。枝鹿の角はそこそこ貴重です、売れます』


「アカ、ソレダメ。ハチミツ、タベテ」「あい!」


 ポーチからハチの巣を取り出す。

アカは、今まさに齧ろうとしていた角を地面に落としてこっちに飛んできた。


「はちみつ、しゅき!おいし!」


 あーあー、頭から蜂蜜まみれになっちゃって……可愛いから全部許すけどね!!

肌?についた部分も後から吸収しちゃうし、アカは。

魔力吸収って便利なスキルだなあ。



『むっくん、注意を。反応が複数』


 林に身を潜めながら頷く。

こっちは風下だからよくわかる……生き物の濃い臭いがする!

今までに嗅いだことのない臭いだ……


『アカ、しーだよ』『あーい』


 毛皮にくるまったアカは、ボクの懐でおとなしくしている。

飛んでると魔力が出るからバレるって、トモさんが教えてくれたもんね。


 しばらく息を潜めていると……反対側の木が揺れた。

来るか……!


 ぬっ、と豚の……いや、猪?の頭が出てきた。

何だ猪か……と思ったら、やけに頭の位置が高い。

クソデカ猪にしては、普通?の頭の大きさだ。

こ、これはもしや……


『黒オークの一団です。二足歩行し、団体行動をとりますが『思考種』ではありません、原始的な魔物です』


 林から出てきたのは、猪みたいな頭をしたムキムキの魔物だった。

体にはボロい毛皮を巻きつけ、それぞれの手には……なんだろ、石を削り出して作ったような斧や槍を持っている。

オークだ!オークだ!!

ゲームとかでお馴染みのアレ!

女騎士とかにアレやコレをするイメージがある魔物!

この世界だと違うんならごめんなさい!!


『概ねその通りですよ。オーク種には雌が少ないので、基本的に他の種族……人間やエルフの女性個体を攫って繁殖します』


 概ねその通りだった!!

とんでもない種族過ぎる……ボクらは虫だから大丈夫だろうけど。

……そういえばアカはどうなんだろ?

見た目は女の子に見えるけど、まだ性別がないままなんだろうか。


『妖精に性別の概念はありません』


 あ!多様性の時代ね!

なんか違う気がする……じゃない!それどころじゃない!

トモさん、どうしよ?

あいつら6匹もいるよ!?


『放置で。数が多すぎます……今のむっくんでは、そうですね……3匹が限界でしょうか』


 そんなに強いんだ、あいつら……コワ。


『個としての戦闘力は大したことはないんですが、連携戦術を駆使します。1匹を一撃で葬れるだけの戦闘力がないむっくんだと、博打になるでしょうね』


 むーん、なるほど。

無理をしてまで手を出すほどの存在じゃないってことか。

納得。

分の悪い賭けに出るほど、今は追い詰められてないからね。


「ブキ、キキ」「ブゴゴ」「ギーッ!ギギギャ」


 オークたちは何やら謎言語で会話している。

アレ意思あるでしょ、絶対。


『結局のところ、他種族と共存できるかどうかですから。オークたちは基本的に全ての種族を食料か孕み袋としてしか見ていません』


 トモさんが過激だ……

だけど、そんな生き物なら魔物判定もやむなしか。

あ!ねえねえ!じゃあいるの、ゴブリンも!


『いますよ。地球のゴキブリと同じような扱いですね……『1匹見たら100匹いると思え』ということわざもあります』


 扱いがひどい……ボク、ゴブリンとかオークにならなくてよかったぁ……

強くなっても駆除対象じゃあねえ。

虫人?とかいうカテゴリーに入れるように頑張らなきゃ。


「ゲギャア!」「ブゴ!ブギブギ!!」「ギーッ!!」


 ……なんか目を離した隙に喧嘩してる!?

ウワーッ!さっきまで仲良さそうだったのに何の躊躇もなくこん棒?で脳天をぶん殴った!?

サツバツとしすぎでしょ!?何の原因で喧嘩してんの!?

女性のタイプについてとか!?


『これは……むっくん!待機ですよ、これは漁夫の利があるかもしれません』


 へいへい。

言われなくてもあの殺気立った集団の前で不用意には動きませんってば。


 息を潜めること30分少々。

壮絶な内輪もめの結果……オークさんは3匹になった。

さっきまで命だったオークさん3匹が、撲殺されて散らばっている。

しかも、生き残ったうちの2匹は結構な大怪我だ。

これは……いける!


『ゴーです、むっくん』


 了解!


『アカ、一番後ろの元気なのに雷撃……今!!』


 念話で指示しながら、飛び出す。

背後から発射された稲妻が、五体満足なオークに着弾。


「ギ!?!?」


 急な雷に驚いた2匹のうち、右側に向かって突っ込む。

ボクに気付いたオークのお腹に、走った勢いを乗せたドロップキック。


「ガ――ゲビィ!?!?」


 そしてその瞬間に両足パイルだ!!

さらに、残った1匹に頭を向け――衝撃波発射ァ!!


「ゴボーッ!?!?」


 衝撃波が鼻に付近に直撃し、オークが体を折る。

一撃死とはいかないか!


 お腹を貫いたまま、オークが倒れる。

とにかく、コイツを早くなんとかしなきゃ!

棘を収納して抜き、そのまま頭に向けてジャンプ!


「ピギ、ギュ!?!?」


 右足で頭を踏みつけ、再度パイル射出ッ!!

どぐちゃ、みたいな音がして棘はオークの眉間を貫通した。

痙攣し、オークが静かになる。


 よし、衝撃波ぶっぱした1匹を――痛ァい!?


 横っ面をこん棒でぶん殴られ、吹き飛ばされた。

いっだ、痛い!

頬の装甲が剥がれた!


「おやびん!んんにぃい~!!」


「ブギャアアアアッ!?!?」


 林を飛び出したアカが、空中からボクを殴ったオークに火炎魔法。

バスケットボールくらいの火球が、オークの頭部に着弾、炎上させる。

でかした子分!もう最高!!


 それを見ながら何度かバウンドして止まり、体を起こす。

ううう……頭がふらふらすりゅ……あ!

最初に雷を喰らったオークが立ち上がろうとしてる。


 させるかっ!左腕パイル射出ゥ!!

うわわ、反動でまた倒れた!


「――ゲェエオ!?!?」


 だけど、狙いはバッチリ!

背中から胸を棘が貫通し、ポッカリと大穴を空けて血が噴き出る。

ビンゴ!致命傷ォ!


「ガガアアア!アアア!グルオオオオ!!」


 顔面キャンプファイアー状態の最後の1匹が、こん棒を振り回してアカを狙っている。

危ない!!


『アカ!上に飛んで魔法!』『――あいっ!!』


 ろくな狙いもつけられないそれを余裕を持って躱し、大きく飛び上がったアカ。

真下に向って盛大に稲妻を放った。


「ギャアアアアッ!?」


 ばじん、と稲妻が跳ね……落雷にあった人のようにオークの体毛が逆立った。

あ!なんか焼肉みたいないい匂いがする!!

やっぱり豚肉なのかな、オークって。


「――イヤーッ!!」


 アホなことを考えながらもダッシュ。

オークに飛び掛かり、痺れている状態の背中に右パンチ!

そして発動したパイルが、胸の中心から飛び出した。


「ガ……ア……」


 香ばしい匂いのするオークは、息を漏らして前のめりに倒れ込んだ。

ふう……なんとかなったね!


「おやびん!おやびーん!」


 アカが飛んできて、ボクの周囲を旋回している。


「だいじょぶ?だいじょぶ?」


「ダイジョブ、オヤビン、ツヨイ、チョウツヨイ」


 ホントは頬が痛すぎるんだけどね。

ちょっとは格好つけなくちゃ。


『さあむっくん、楽しい解体の時間ですよ。オークには魔石がありますから、6つも手に入りましたね』


 あんまり楽しくはないけれど、まあ……いいか!

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