第34話 激ヤバ地帯突入。逃げろや逃げろ!
『むっくん!後方から3!左右に1ずつ!挟み込むつもりですよ!』
『アカ!まだ魔法は使わなくっていいからね!ボクにしっかりつかまってて!!』
『あいっ!』
疾走している。
石を飛び越え、草をなぎ倒し、林を突っ切って。
すっかり慣れた二足歩行をいかんなく発揮し、地面を蹴り飛ばしながら。
『左右!包囲を狭めてきています!』
こっちでもなんとなくわかってます!
左右の方から、草をかき分けるザザザザって音がする!
どうしてこうなった!!
朝起きて朝食を摂り、さあ今日も頑張ろうとねぐらを出発した。
出発したんだけど……
歩き出して1時間もしないタイミングで、トモさんからエマージェンシー。
後ろから何かが追いかけてくるからすぐに逃げろ!って。
それで、アカを肩に乗せて走り出して……今に至る!
「おやびん!くる!まほー、うつ?」
「マダ、ダイジョブ!」
大きく地面を踏み切ってジャンプ!
滞空の後、さらにジャンプ!!
ハッハッハ!どうだ、インセクト・三段跳びは!!
このしなやかな脚力から繰り出される高機動!なんの魔物か知らんが、追いつけはしないだろう!?
『後方、加速!追いつかれますよ!!』
インセクト・三段跳びが――!?
おのれ、やりおるわ!!
「トブ、ツカマッテ!!」「あいっ!!」
アカの了承を得た瞬間に、思いっきり地面を蹴る。
黒々とした木々を飛び越え、一瞬体が森の上に出た。
――見えた!このままの方向に……昨日見つけたでっかい水場!!
あそこを目指そう!
トモさん!あそこまで行って迎え撃つよ!
『そうしてください!この場は視界が悪いですから!』
だからトモさんも逃げろって言ってたんだね!
追いかけてくるのが何か知らないけど、こんなに林がある場所じゃあ戦えないしね!
――着地ィ!!
さあ、もうひと踏ん張りだっ!!
どっせい!!
林を突っ切ったボクの目に飛び込んできたのは、黒々とした水面をたたえた池だった。
絶対に飲みたくないそこには、他に生物の気配はない。
ぎゃりぎゃりと急ブレーキをかけ、出て来た方向にターン!
池の横の空間で追っ手を待ちつつ、同時に魔力を充填開始!
『アカ!ボクの上を飛んでて!合図したら魔法ね!』
「あいっ!おやびん、がんばって!」
了解ィ!
『群れが一塊になりました!5体同時に来ます、正面!』
その声が終わると同時に、背の高い草むらが揺れた。
――そこォ!衝撃波を喰らえッ!!
「ギャインッ!?!?」
一番乗り!みたいな感じで飛び出してきた……黒い大型犬みたい魔物。
そいつの両前足が、衝撃波によって逆方向に折れ曲がった。
そして、そのまま前のめりに倒れ込む。
よし!生きてるけど放っておいていいだろアレは!
続いて衝撃波、斉射、斉射斉射ッ!
溜めナシの衝撃波を、草むらに打ち込む。
「ギャッ!?」「ヒャイッ!?」
森の中から悲鳴が2つ!
どこかに当たったね!やった!
「ウルゥオオオオオンッ!!!!」
うおっ!?
見積もったよりもかなり高い場所から、さっき倒したのよりも一回り大きな個体が飛び出してきた!
洗ってない犬の臭いがしそう!!
『深淵狼……ではなく森狼の変異種ですね、問題なく対処できますよ!』
やっぱりこいつ狼なの!?
小汚い洋犬にしか見えないんだけど!?
「ガアッ!!」
おっと!
飛び掛かってきたので後方に跳んで退避。
喰らえ衝撃波ァ!
うわ、避けられた!!
「ガアアッ!!」
森狼は、鋭く跳んで回避しつつボクに向かう。
大きく開いた顎からは、涎でテラテラ光る牙が覗いていた。
「――ギャヒ!?」
――その顔が、空中で炎に包まれる。
アカの火炎魔法が直撃したんだ。
これは好機!
空中の森狼に向け、ジャンプ!
空手の待機動作みたいに両腕を腰に引きつけ――腹を狙って同時に突き出す!!
インセクト・ダブルチョップだ!イヤーッ!
「ギャ!?ァオッォ!?」
森狼の腹に両拳が勢いよくめり込み、一拍遅れて棘が突き刺さる。
毛皮と肉を貫いて、棘は根元まで埋まった。
「ヒラキイッチョウ!!」
棘が埋まったまま、全力で両腕を左右に開く!
ぶちぶちと嫌な音がして……ボクの素敵な鋭い棘が、狼の腹を切り裂いて外気に触れた。
「セイッ!」
鮮血をまきちらす胴体を蹴り飛ばし、地面に復帰。
遅れて狼が落下し、一度痙攣してから沈黙した。
よーし、これで4匹にダメージを与えたね!
あとはいっぴ――
『――魔力反応!横に跳んで!』
うおおっ!インセクト・エスケープぅあ痛いっ!?!?
跳ぶのが遅れて、右二の腕がざっくり切れた!?
なに今の!?何されたの!?
『風魔法です!』
ありがとうトモさん!
魔法使うのか、森狼!油断ならな――嫌な予感がするッ!!
本能に従ってさらに横へ跳ぶと、さっきまでいた場所の地面が盛り上がって――なんか槍みたいになった土の塊がジャキン!と突き出した。
『土魔法!これは……!』
トモさんの狼狽を背景に、林から影がぬうっと姿を現した。
さっきまで森狼――じゃない!
額に角が生えているし、体付きも顔つきもまるで違う!
こっちはザ・狼って感じだ!
『深淵狼です!森狼を率いていたのですね……注意を!昨日避けた個体よりは弱いですが、森狼とは比べ物になりませんよ!』
言われなくても……出会い頭に衝撃波じゃあッ!!
「――オォオン!!」
ハァ!?ボクの衝撃波を……角で防御したァ!?
今、何やったのコイツ!
『魔力干渉!額の角から魔力を放出、衝撃波を散らしました!』
テクニカルな事しやがってからに!
――うっお!?
今度は狼の周囲から土の槍っぽいものが飛んできた!!
こな、くそっ!!
横に跳んで避け、右腕の棘を展開。
接触しそうな槍の一本を殴りつけて躱す。
『アカ!撃ったら逃げるんだよ!』
「ギャン!?」
ボクの念話に、アカは雷撃で答えた。
意識していない方向からの魔法に、狼は悲鳴を上げて硬直する。
今だッ!!
一気に接近して……右の棘パンチ!!
「ッグ!」「ガアア!!」
狼はすんでの所で頭を振り、額の角で棘を受け止めた。
だけどボクには、まだ腕はある!!
「セイ、ヤッ!!」「ギャッ!?」
残った左手を首元に叩き込み、パイル!!
何ィ!?棘を避けたァ!?
なんちゅう反射神経だよ、デタラメだッ!
「ルオォオッ!!」
狼がボクに飛び掛かる。
両前足が肩にかかり、サイズ差もあって地面に押し倒される。
――が!
倒れ込みながら、両足でドロップキック!
同時に、足パイル展開!!
「ガ!?オォ!?オ!」
左足のはなんとか避けたみたいだけど――右足の棘が下腹部に突き刺さった。
この機を逃すか!射ァ出ゥッ!!
「ガォ――!?!?!?」
突き刺さった棘が撃ち出され、狼は下腹部に棘を埋めたまま高く吹き飛ばされた。
『アカッ!!』「えぇぇいッ!!」
空中でもがく狼に、アカの放った雷撃が直撃。
毛と肉の焦げる臭いがする。
『むっくん!』
はーい!
起き上がりながら地面を蹴って跳び上がる。
その頂点で、地面に落下してもがく狼に向かい――速射衝撃波を放つ。
放ちながら近付き――口から血を吐いている狼の胸に、展開したままの棘を思い切り突き刺した。
「ギャンッ!?」
胸を貫通した棘で、狼は地面に縫い留められた。
これでトドメだ、駄目押しの衝撃ハァア!?
いっだ!?胸の甲殻がなんか急にスパッと切れた!?
苦し紛れの風魔法かぁ!オノレーッ!!
棘を戻し、腕を溜める。
「――セイヤーッ!!」「ギャッ!?!?!?」
突き出した棘は、今度こそ喉を貫いた。
おかしい……進化したのに防御力が向上した気がしない……
『さあむっくん、解体して魔石を回収して食べましょうね』
しばらく警戒していたが、新手の気配はない。
狼……本当に面倒臭い魔物だよ。
群れで追われるのが超厄介だ。
今回はそんなに強い個体じゃなくて助かったね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます