第33話 近付く中心部、どんどんヤバくなる魔物。

「けぷ」


「ダイジョウブ?」


「おにゃか、いっぱい、けぷ」


 ボクのお腹の上に、アカが寝ている。

仰向けになったそのお腹は……まるで妊婦さんだ。

もう臨月じゃん。


 黒蜂たちをアレしてから、ボクはハチの巣を丸ごと回収することに成功した。

いやー、このポーチすごいよお。

どんどん入るんだもん。

結局全部入っちゃった……おひいさま、『大したことない』とか言ってたけど凄いじゃんこれ。


 しかも、しかもだよ?

なんとなーくわかるんだよ、手を突っ込んだら。

『まだ入る』ってことが。

地球の貨物船とかが積んでるコンテナと同じくらい入るのかもしれない。

小説とかなら中の時間まで停まるアイテムボックスがお馴染みだけど、それとは違うみたいだけどね。

だって、リンゴが普通に熟し始めてるもん。

まあ、それくらいなら別にいいけどさ。

リンゴはともかく、蜂蜜って腐りにくいらしいし。


 で、その性能に感動して少し移動し……現在に至る。


 ねえねえトモさん、なんでアカがこんなになってんの?

『魔力吸収効率化』あるんでしょ?アカも。


『おそらく、身体に溜めておける魔力量の臨界が近いのでしょう。だから、通常の生物のようにお腹が膨れたんでしょうね』


 あー、なるほどね。

アカ、蜂の子無茶苦茶食ってたもんなあ。

ボクも美味しいと思ったけど、見た目がね……

それに怯んでいる間に、アカは自分よりも何倍も大きい蜂の子をむしゃむしゃ。

さらにその上に、『もったいない!』って言って……通常の黒蜂すらむしゃむしゃしていた。

そりゃあ、お腹もああなるってもんだね。


 ボクといえば、食べるのもそこそこに女王の死体を頑張って解体した。

野球ボールくらいある魔石を回収した後、甲殻を剥がしたり内臓を取ったりしてね。

なんでもトモさん曰く、女王の甲殻っていい値段で売れるみたいなんだ。

ちなみに内臓は毒があるし売れないとのことだったので遠慮なく捨てた。

今は街もお店もないけれど、ゆくゆくは西の国に行くから……売れるものは持っておくといい!って言われてね。

確かにその通りだと思って、えっちらおっちら解体したんだよ。


『もう少し休憩してから移動しましょうか。女王の残骸に他の魔物が寄ってくるかもしれませんし』


 ここはあの場所から1キロ少々は移動しているけど、用心は大事だねえ。

あれ?でも毒あるんじゃない?


『魔物の中には『無毒化』のスキルを持ったものもいます』


 ……そのスキル、便利そうだけどなくってよかった。

毒まみれの内臓まで食べるハメになるところだった。


『好き嫌いはいけませんよ?』


 前から言ってるけどさ、好き嫌いじゃないよ、そういうの。

死んじゃうじゃん。


「えへぇ……しゅあわしぇ……」


 お腹パンパンでスヤスヤ眠るアカを見ながら、ボクはそう思うのだった。



 ひと眠りしたアカのお腹がへっこんだので、移動を再開。

ボクらはここを抜けないといけないのもあるけど、エルフの国から追手がくるかもしれないって危険もあるのだ。

いや、おひいさまの口ぶりから絶対に追手は来そう。

アカってむっちゃ珍しいみたいだし。


 今はいいけど、西の国に行くときはアカの姿を隠すことも考えとかないといけないよね。

そこらへんどうしよっか、トモさん。


『そうですね……まあ、それに関してはあまり深刻に考えずともいいかと』


 なんでぇ?


『妖精をことさら神聖視しているのはエルフの国だけです。他の国では『ちょっと珍しい』といった扱いですね』


 あ、そうなんだ。


『狙われないかと言ったら……まあ、狙われますが』


 狙われるんじゃん!


『それは仕方がありません、そこに関しては自衛するしかありませんよ?むっくんだって珍しい魔物になるんですから』


 ……ボクにまで魔の手が!?

被害が拡大してるんだけども!?


『ですから、強くなって他者からちょっかいをかけられない『力』を身につける必要があるのです。様々な場所を旅したいんですよね?自衛力はいくらあっても困りませんし』


 ……そっかあ、そうだよねえ。


『ですが、『妖精は問答無用で保護』という約定があるのはエルフの国だけです。他の国ではまず誘拐は犯罪ですから、そこからして違います』


 あ、そっかあ。

法律がどんだけ機能しているかは知らないけど、一応ここでも誘拐ってイリーガルなんだ。


『特に西の国においては、それに加えて『名目上』見た目での差別はありませんので。『名目上』』


 嫌な部分強調するなあ……

まあ、治安最悪な外国くらいの感じで認識しておこう。

まずは、ここを抜けないと話にならない。


『そうですよ。あ、正面の大きな木に登ってください、先を確認しておきましょう』


 正面には50メートルはあろうかという大木がそそり立っている。

黒い森に入ってから、どんどん大きい木が増えてくよなあ。


「アカ、ダイジョウブ?」


「だいじょぶ!おやびん、ひっぱる!」


 お腹いっぱいで魔力チャージも完了したアカが、かわいらしく両手を振り上げている。

うーん、とっても頼もしいや。



 幹に棘を突き立て、すいすい登っていく。

アカがボクの頭に座って念動力を使ってくれてるから、体重がまあ軽い軽い。

初めは浮かせてくれようとしていたが、それだと魔力の消費が大きそうだから断ったんだよね。

いつ何が起こるかわからないので、温存しておくに越したことはないもん。


 ふう、8割くらい登ったぞ。

イイ感じの枝があるから、ここに座ろうか。

うひい、高いなあ。

高所恐怖症なら死んじゃってるぞ。


「まっくろ、まっくろ~」


「ソダネ」


 アカが言うように、西の方角は地平線まで黒い森で埋め尽くされている。

結構移動したと思ったのになあ……

この森、深いッ!!


『正面方向の先に、少し開けた場所があるのが分かりますか?』


 あっはい。

あからさまにデッカイ木が円状にあるあたりですね。

絶対に何かあるわ、あの中心。

ボクが登ってるこの木よりもデッカイぞ。

この世界の植生バグってるなあ。


『アレは恐らく竜種の巣です。絶対に迂回しましょう』


 肝に銘じます。

そんな恐ろしいセクション、頼まれたって通るものか。


『ある種の竜ですが幼生体のうちだけ、ああいった外界と隔絶した場所で育つのです。これからも同様のものを発見した場合は避けましょう』


 ああ、つまりはアレが竜のゆりかごみたいなもんなのね。

子育て中のママ竜とか絶対近くにいるだろうし、絶対に避けよう。


『さらにその先、木がない区間が見えますか?』


 あるある。

あっちはポッカリと穴が空いてる感じだね。


『恐らく大きな水場があります、あちらには寄りましょうか。水場には魔物が集まりますので、狩れそうなものを見定めましょう』


 強くならないといけないしねえ、了解。

全部逃げて解決するもんでもないし。

さっきの女王みたいに、ボクの必殺パイル飛ばしで死なない魔物も出てくるだろうしな~。

防御はそりゃあ大事だけど、攻撃力もおろそかにできないもん。


『エルフの追っ手が来るとすれば、この区間を越えた先に出る可能性が大です。もしも遭遇した時の為に、できるだけ強くなっておく必要もあります……逃げるにせよ、戦うにせよ』


 ……おひいさまに超お世話になったからエルフの人とはなるべく敵対したくないけど……でも、アカを渡すのは絶対に嫌だ。

それをするくらいなら、戦わないとなあ。


「おやびん?」


 目の前をふよふよ飛んでいたアカがこちらを振り向いた。

とりあえず頭を撫でておこう。

進化して指が生えてよかったなあ。

ちゃんと感触もあるし。


「えへぇ、へへへ」


 くすぐったかったのか、アカが笑った。

癒されるなあ……頑張ろ。


『好き嫌いなくいっぱい食べましょうね』


 だから好き嫌いを越えた部分の話なんですってば……もう!


『確認終了です、移動を再開しましょう』


 はいはーい。

今日のねぐら、いいのが見つかるといいなあ。



・・☆・・



「ツカレタ」


「ちかれた」


 アカと揃って、地面に寝転がっている。

ここは、歩き続けて夜になるギリギリの時に見つけた洞窟……いや、穴だ。

ちょっとだけ盛り上がった丘の側面にあった、奥行き2メーターほどのものだ。

その入り口を周辺から持ってきた枝葉と土で塞いだだけの、簡単なシェルターである。


 いやー、ここに来るまで本当に大変だった。

でっかくて黒い狼、でっかくて黒い虎、そしてでっかくて黒い……なにかよくわからない触手の集合体。

どれもこれもでっかくて黒く、そして現在のボクでは絶対に敵わないであろう魔物を避け、逃げながら移動し続けてやっとの思いでたどり着いたのだ。

肉体的にはともかく、精神的には本当に疲れたよ〇トラッシュ……


『アカちゃんが火炎魔法を使えて助かりましたね』


 現在唯一の明かりは、適当な枝にアカが火をつけてくれたもの。

何気に火炎魔法初披露だった、こんなにしょぼい場面で使わせて申し訳ない。

ちなみに指先からポッと火を出していた。

本気になればもっとすごい!的な主張をしていたが、こんな所で蒸し焼きになりたくないので止めておいた。

酸素的な問題が心配なので、本当にささやかな火だけどありがたいや。

ボクらが窒息するかどうかは別として。


「ハイ、ドウゾ」


「いたらきましゅ!」


 ポーチからリンゴを取り出し、アカに渡す。

まだまだ在庫はあるし……嫌だけど雑草も集めてある。

飢え死にをする心配だけはなさそうだ。


「おいし!おいし!」


「ウマウマ」


 今日も元気でリンゴが美味しい。


『むっくん、女王の魔石を』


 あっ完全に忘れてた。

この状態なら、たとえ進化することになっても安全だ。


 ポーチから取り出し、半分に割る。

ボクの棘って地味に便利。

進化したから棘っていうかナイフみたいな太さになっているけど。


「ハイドウゾ」


「あい!……がりがり、おいし!おいし!」


 本当に美味しそうに食べる子ですよ。

どう考えても石なのに。

しばしそのアカを観察……よし、進化はしないな。

この場で同時に食べて進化が始まったら、さすがに無防備すぎるからね。


 では、ボクも。

がりり、ごぎぼり……やっぱり石だなあ、石。

ボクの体調にも変化はない。

結構強い魔物だったのにな、やっぱり経験値的なやーつがどんどん必要になってるんだろうねえ。


「ネヨネヨ」


 今日やることは全て終了した。

後はぐっすり寝て、明日の英気を養うのだ。


「ねゆ!」


 ごろん、と仰向けになったボク。

そのお腹の上に、アカが飛び乗った。

〇トロかな?最近この体勢でよく寝てるけども。


 ふああ……おやすみ。

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