第32話 ぶん ぶん ぶん こっちくんなァ!!
「あれ!あれ!いーにおい!」
アカの誘導に従って森を進み、やってきました開けた場所。
森の中にぽっかり空いた空間です。
周囲は高い木に囲まれていて、木漏れ日がちょっとアクセントになっていてセクシーね!
ぼんやり暖かいし、住むには意外といい場所かもしんない。
じゃない!
空き地の正面にある、でっかい木。
その……中腹あたりにある物体。
記憶としては知っているモノと同じだけど……規模が違う!
さすが異世界だ!!
そこにあったのは、直径10メートルくらいのハチの巣だった。
でっかいなあ~!
『おそらく、黒蜂という魔物の巣です。むっくんが知っている地球の蜂と習性は変わりありませんよ』
ほうほう、それじゃああの中には蜂の子とか蜂蜜があるわけですな?
最高じゃないですか……異世界初の甘味ですよ、甘味。
蜂の子も美味しいって聞いたことがあるような気がするし、これはなんとしても確保する必要がありますね!
『大きさは10倍ほどですし、勿論数も多いですよ?』
……蜂の子は諦めた方がいいかもしんない。
デカすぎるでしょ。
ええと、ハチの巣駆除ってどんな感じでやってたっけ、地球。
ガソリンを入れた器をかぶせたり、夜に松明を近づけたりしてたな。
『これ以上近付くと中から警戒個体が出てきますよ。観察するならこの場がいいでしょう』
ふむ……そういえば蜂蜜の元になる蜜はどこから探してくるんだろうか。
いままでこの森で花とか果実とか見たことないんだけど。
『もっと中心に近い場所でしょうね。黒の森は中心に近付くほど植生が変わるらしいですし』
へー、じゃあこのまま移動していればいつかは花畑とかにも到着するのかな。
それは楽しみだ。
『強力な魔物も多いですけど』
そうでした……楽しみと恐怖心が拮抗するなあ。
今はみんなあの巣にいるんだろうか。
どう攻めたものかなあ。
ガソリンはないし……松明も夜じゃないしあんまり役に立たないよねえ。
トモさん、その黒蜂ってのは針飛ばしたりビーム撃ったりする?
『物理攻撃のみ、だと言われていますよ。ただ、ここに住んでいる魔物ですから装甲は硬いですし飛行速度も速いですね』
ふむふむ、なるほど。
遠距離攻撃がないなら……アレがいけるかも!
トモさん、周辺の警戒よろしくね~。
さあ、作業作業っと。
『アカ、さっき言った通りにボクの後によろしくね』
『あい!がんばゆ!』
真っ暗な中で、アカに指示を出す。
『むっくん、周辺に魔物はいませんよ。迅速にお願いします』
よし……やるぞォ!
額の触角に思いっきり魔力を集中させる……むん、むんむんむうん!
ほぼ同時に、巣の内部でブブブブ……みたいな音が聞こえてきたけどもう遅い!!
――最大チャージ衝撃波、発射ァ!!
どぉん、と衝撃が来て体が軋む。
だけど、吹き飛ばされる心配はないっ!!
巣には豪快な穴が空いた。
それがくっ付いている大本の木にも、半分くらいめり込む。
ボクの衝撃波、かなり強くなったけど……それでもここの木は硬すぎるねえ!
『アカ!思いっきりやっちゃって!!』
「あいっ!……えぇいっ!!」
ボクの前でホバリングしていたアカが、全力で雷撃魔法を放つ。
周囲がむっちゃ明るくなった瞬間には、もう巣に稲妻が到達していた。
「えぇいっ!!えーいっ!!!!」
さらに、二発。
続けざまに殺到した稲妻が、ボクが開けた穴に殺到する。
『効いていますね』
ほんとだ!
穴から痙攣している蜂がぼとぼと出てくる!
けどやっぱでっか!?ボクよりちょっと小さいくらいじゃん!?
「にゅううう……!!」
アカが帯電している。
ああ、そんなに無理しなくっても……
「――えぇーーーーーいっ!!!!」
うおまぶし。
今までで最大級の稲妻が発射され、巣に着弾。
内部から溢れた電撃が、巣の表面で帯電している。
「……ちかれた」
ぽて、とアカが着地。
肩で息をしている。
「オツカレ!ココニイテ!」
アカを潰さないように注意しながら、『外』へ出る。
『危ないのが来たら念話で教えてね!すぐに戻るからね!!』
『あい~……がんばて、おやびん』
カワイイ子分の激励を背に、ボクは地面に斜めに掘った穴から出た。
あれから、蜂に気付かれないようにこっそり棘で穴を掘ったんだ。
穴の中なら、もし蜂に気付かれたとしても対処できるからね。
物理攻撃で遠距離ナシなら、穴の中から衝撃波ぶっぱで行けると思ってさ!
『地面に落下した蜂、まだ生きています』
了解!
両腕から棘を展開し――地面で痙攣している蜂の頭と胴体の付け根あたりを刺す!
蜂は一瞬ビクっと痙攣して、すぐさま死んだ。
よし!棘はちゃんと通る!
とにかく、こいつらが痙攣から復帰する前に全員成仏させるんだ!
ザクザクっと流れ作業をしていると、ブブブブと羽音が聞こえてきた。
まだ巣の中に残ってたのか!
地面の上にいるのはあらかた片付けたから……巣に追加の衝撃波をぶち込んで引きずり出してやるぞー!
『違います、巣ではありません。敵機直上、急降下!』
なんか戦争映画で聞いたような警告を聞きつつ、横に跳ぶ。
すると、上空から真っ直ぐ黒い影が降って来て地面に突き刺さった。
うわぁ!?なんだこのデッカイ蜂!!
今までのと違って、ボクよりも二回りは大きいぞ!?
『偵察に出ていた兵士個体でしょうか。今のところは他に反応はありませんが、油断なさらず!』
はいっ!
蜂は攻撃が失敗したと気付いたのか、ボクの方へ顔を向けつつホバリング。
今の攻撃に使ったであろう、お尻の長く鋭い針がギラリと光った。
ひええ、アレ絶対痛いよ。
と、ビビっているように見せかけて衝撃波を速射ッ!!
空中の蜂が少しよろめいて――それだけだった!
いいなあ!その防御力ゥ!!
さっきの一般黒蜂くんとは段違いだね!!
――っとあぶなっ!?
蜂が突っ込んできたのをなんとか躱す。
こ、こいつむっちゃ速い!
だけど躱したから今度はこっちの番――痛ァい!?
肩が!肩アーマーが砕けた!!
ついでにその下の皮膚もちょっと切れたァ!?
今、掠ってたのか!!
「――!」
声帯がないらしい蜂。
そいつはボクの方を睨んで……また突っ込んできた。
ボクだってやられっぱなしじゃないんだよっ!!
地面を蹴って高く跳ぶ。
今度は完全に躱したけど、空中のボク目掛けて蜂が突っ込んできた。
――これを、待ってた!!
喰らえ必殺、ロケットパイル!!
右腕の棘が勢いよく射出され、ボクの体がさらに上空へ吹き飛ぶ。
急速に遠くなっていく黒蜂が、胴体の真ん中で引き千切れるのが見えた。
よし!ドンピシャ!!
頂点から地面に、重力に従って落下する。
地面に激突するちょい前に……衝撃波発射!
体が衝撃に軋むけど、落下の衝撃は相殺されて無事に着地できた。
ふう……なんとかなった!
さすがに射出パイルは効いたね!
『やりましたね。周囲に他に気配は……1体!』
おかわり!?
まだいるの!?
でも方向だけわかっていれば、出会い頭に左手のパイルをぶち込んでやる!!
『――巣から来ます!!』
えっ。
だって巣はアカの電撃でビリビリに――
巣が、内部から爆発した。
いや、正確には爆発したんじゃなくて――
「メンセキ、ホボオマエカ!?」
内側から、クッソデカくて羽の短い――お腹がパンパンに膨れた黒蜂が出てきたからだ。
『黒蜂の女王種です!飛行能力はありませんが、注意を!』
言われるまでもない!
今度は速攻で――喰らえパイル射出ッ!!
足首まで地面に埋めるほどの反動を残し、ボクの棘が女王の……首元に着弾!
ハッハー!ジャックポット!!
――なんでまだ元気なのォ!?貫通もしてないしって、うわ、わわっわ!?
どずん、と大地が揺れた。
んがぐぐぐ……じょ、女王タックルをもろに喰らっちゃった!
悪いことに、左足と右手がクイーンプレスで使い物にならない!超痛い!!
女王の顔が目の前にある。
ボクのよりも立派な顎をギチギチと震わせながら、顔に喰らい付こうとしてる!
やめろください!そんなので噛まれたら顔なくなっちゃう!!
――だけど、いい位置だね!
むんむんむん――マックス衝撃波、発射ァ!!
超至近距離で放たれた衝撃波は女王の顔面に炸裂。
顎と複眼が陥没して体液が噴出した。
もう、いっちょ!速射衝撃波を喰らえ!喰らえ喰らえ喰らえッ!!
連射された衝撃波が陥没をさらに後押しし、女王の顔が仰け反った。
んぎぎ……よし!右足が動いた、なんとか抜けたぞ!
仰け反った顔を戻した女王に、ボクの右足を押し付ける。
体液で濡れる感触を感じながら――足のパイルを二段階で叩き込んだ。
顔の中心を真っ直ぐ棘で射抜かれた女王は、大きく痙攣して動きを止めた。
そして――うわ、待って待ってボクの上に倒れ込んでこないでっ!?
・・☆・・
「アカ、オイシイ?」
「おいし!おいし!あまーい!あまい!おいし!」
アカが、顔中どころか体中を蜂蜜まみれにしながら喜んでいる。
さっすが10メートル級のハチの巣、どこを崩しても大量の蜂蜜が取れる。
ボクも前世以来の蜂蜜を、おおいにエンジョイしている。
『手足の修復、完了です。失った寿命を考えても、大きなプラスになりましたね』
わあい、褒められた。
『さあ、むっくん。ハチの巣はポーチに回収するとして……女王の魔石を回収したら、蜂の子が食べ放題ですよ!』
わあい……嬉しいな……
美味しいらしいけど、見た目がグロすぎる……
でも嬉しいな……
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