第31話 森どころか敵まで黒いし葉っぱも黒い!目がおかしくなりそう!!

『むっくん、進行方向から敵です!気付かれています!』


 黒い黒い森の中。

ひたすら走り続けているむっくんです。


『了解!アカ、前の草むらに……雷どーん!!』


「あいっ!!」


 頭上を飛んでいるアカが叫ぶと、細い稲妻が真っ直ぐ突っ込んだ。


「ギィイ、ギャーッ!?」


 そしてその向こうから、動物園で聞いたような猿っぽい悲鳴。


『まだ生きていますよ!』


 ボクもそう思う!

このまま突っ込むよーっ!!


 草むらを飛び越えると――その先に、地面に蹲っている真っ黒なお猿さんを発見。

アレ、アカの雷で焦げてるわけじゃないみたい!元から黒いのか!


 むんむんむーん……衝撃波発射ァッ!!


「オゴッ……!?!?!?」


 中溜めくらいにした衝撃波が頭に着弾し、お猿さんは仰け反りながら倒れて後頭部を強打。

よっしゃぁ!そのままそのままっ!!


 空中で右手を引き絞り――倒れたお猿さんに着地しながらぶん殴り!そしてパイルッ!!


「ギヒッ――ォオ、オッ……」


 パンチが胸に直撃、そして棘が貫通。

どどんっ!って感じでクリーンヒット!!

お猿さんは、血を吐いて沈黙した。


 よし!


『お見事です、むっくん。そのまま胸を切り開いて魔石を回収してください。心臓の横ですよ……やっと魔石を有する魔物に出会えましたね』


 はーい。

ざくざく、っと。

肋骨がコレで、心臓が……ああ、コレね。

んで、その横あたりに……小さな紫の石がある。

これかー!

前におひいさまに貰ったのよりも小さいね。


『これからは魔石の回収を第一に行動しましょう。魔力を効率よく摂取できますし、全身を食べていては時間がかかりますからね』


 やったー!

魔物丸かじり生活からやっと脱出できるゥ!!


『魔石を有する魔物は一定以上の強さがありますよ。より一層気を引き締めましょうね』


 あっはい……

そりゃあそうだよね……


 取り出した魔石に棘を当て、ぱきんと折る。

よし、棘の方が強いね。


「ハンブンコ」


「あーい!」


 アカが飛んできて魔石を口に含む。

ボクもここで食べちゃお。

ごぎ、ごり、ぼりり。

うん!血生臭い石の味がする!!


「かたい!はごたえ!おいし!」


 アカはなんでも美味しく食べられていい子だねえ。

ボクはまあ……毒茸くんより不味くなきゃ諦めよう。

どうせ、この状態なら煮たり焼いたりなんてできないんだしさ。

食への欲求は、とにかくこの黒いゾーンを抜けてからにしよう!そうしよう!


「シュッパツ」「しゅっぱつー!」


 一瞬の栄養補給を終え、方位魔石を確認し……ボクは西へ向かって小走りを始めた。



 黒い森に入って1日目。

朝ご飯を食べてすぐに出発したけど、早速激ヤバゾーンの洗礼を受けることになった。


『右方向は無理です、正面』


『左に大型の反応。迂回しましょう』


『後ろから追跡されています!速度を上げて振り切ってください!』


 もうね、都市部に入った時のカーナビくらいにトモさんの指摘がむっちゃ多い。

以前の森と違って、こちらは本当に魔物の、それも強い魔物の縄張りがギチギチに詰まっているようだ。


『魔物戦国時代の様相を呈していますね。知識としてはありましたが、実際に体験すると違います』


 というわけで、黒い森に入ってからは当然だけど進行速度が劇的に落ちた。

しかも、ただ逃げればいいというわけでもないのよねえ。


『倒せそうな魔物の場合は食べましょうね。今のむっくんでは格上に遭遇して逃げられないと死にますので』


 という、ことォ!

返す返すも弱きこの身が憎い!憎い!!



『前方の池で休憩しましょうか。周囲に気配はありません』


 ふう、よかった。

池なんて転生してから初だよ。

あの森では木と林と草むらしか見たことなかったし。

ボクらが水とか関係なくなんか食べてれば生きていける存在でよかったね。

エルフさんたちは水筒使ってたなあ。

アレ、絶対にボクのポーチみたいな感じで水めっさ入るやーつだと思う。


 池に到着。

ええ……池?……池なのこれ。

ねえトモさん、コレ池?

――原油じゃん、ビジュアル。


『土壌の成分が染み出してこのような色になったようですね。むっくん、ごく少量を口に含んでみてください』


 超やだ!!

やだけど……まあ、トモさんのお願いですし?

しゃーなしやで?ですよ?


 むぐ……


 と て も ま ず い !

少量って言われたけど!頼まれてもこれ以上飲みたくない!!

ヘドロだ!ヘドロの味がする!!

絶対に体によくない味がする!!


『含有物、精査開始……ふむ、無毒ですか』


 嘘でっしゃろ!?!?

こんなに不味いのに!?


『緊急時の魔力補給には使えそうですね。飲んでもいいですよ、むっくん』


 オヴェエ!!

いやです!コレで魔力回復するくらいならいつも通りに草を食べますから!!

畜生!でも吐けない!無駄に高性能になった口が憎い!!


『ですが、周辺の雑草には有毒なものが多くてですね……』


 ふっざけんなですよ!!

なんで!?そこは水に毒があればいいじゃんよォ!!


 ……もう腹が立った。

休憩中だけど採集しよう!


『アカは休んでていいからね~。ボクはちょっと草を摘むから』


 水場だけあって草ばっかりだ。

リンゴはまだあるけど、緊急用の毒のない草を摘んでおこう。


「や!てつだう!アカもてつだうー!」


 なんちゅういい子や。

それじゃあ、アカにも頼もうかな。

トモさん、齧っていくから毒の調査お願いね~。


『わかりました。水よりはその方がいいでしょうし』


 そうだよ。

それに、この水をポーチに入れるのってなんかヤダ。

出す時も大変だし、なにより……臭くなりそう!外側が!!

おひいさまから貰った大事なポーチなんだからね、綺麗に使わないと。


 半分休憩、そして半分草むしりをしながらしばし過ごした。

なお、草のお味の方は通常の森とさほど変わりはありませんでした。

青臭いけど!美味しくないけど!それでもヘドロ水よりはマシ!!



『アカ、ボクの肩に来て。しーだよ、しー』


『あい……』


 池を離れて、小走りと全力疾走の中間くらいの速度で進んでいた。

進んでいたが、現在は木の上に潜んでおります、なう。


『そのまま静かに、魔力を出さずに……念話もやめてください』


 その理由は、眼下にある。


 潜んでいる場所の、100メール先の森。

そこに……鈍く光る何かがいた。

その何かが、木や林をなぎ倒しながらゆっくり、ゆっくりと動いている。

ま、まさか、まさかアレって……


『深層ナメクジですね。あれほどの大きさであれば、成体でしょう』


 でっか!!

外国の二階建てバスくらいあるナメクジだ!!

でっかい上に気持ち悪い!!

ボク、節足動物に転生して本当によかった!本当によかった!!

ナメクジ転生とかしたら初手で心が死んでいた可能性があります!!


『アレは草食性の魔物ですが、這った後に毒ガスを発生させる強酸性の粘液が長く残ります。周辺の気配を探り、空が安全なようなら飛び越えてしまいましょう……なので、今は待機ですよ』


 はい……

なんだよ、強酸性の粘液って。

それで溶けてくださいよ。


『ちなみにあの魔物は身体すべてに毒が含まれているので食べることができません』


 この森に入ってこれまでで一番いい情報かもしれない。

アレ食べろって言われたらどうしようかと思った。

前にミミズくんは食べたけど、やっぱり虫系は共食いしてるみたいであんまり食べたくないんだよねえ。

精神性としては人型の魔物食べる方にも忌避感があるのかな?

幸いにして魔石のみで済んでいるけども。


『去りましたね。ジャンプしてください』


 合点です。

インセクト・ジャンプゥッ!!

安定して5メートルくらい跳べるようになれたね、逃げながらした反復練習の成果だ。

練習って大事……と、着地!!

ボクの足、この前気が付いたんだけど膝と足首の部分がバネみたいに伸縮するんだ。

足にショックアブソーバー付いてるの、すっごく便利。

どうりで跳んだり跳ねたりしても膝が爆発しないんだね。


 トモさーん、果物っぽいもの見つけたら教えてね。

すぐに摘むからね。

もちろんボクも探すけどさ。


『はい、お任せください。果物の周辺には魔物が多く点在するので危険ですし』


 そうだった。

ご飯的な意味でも、安全的な意味でもしっかり探そうね!


「おやびん、おやびん」


 おや、どうしたのアカ。


「いーにおい、しゅる!あっち!あっち!」


 肩に乗ったアカが、腕を伸ばしてかわいく指差している。

かわいい。


『私には何の反応もありませんが』


 ボクもそう。

だけど、アカがこんなに自己主張するのも珍しい。

方角的には西方面だし、行ってみようか。


「アカ、アリガト」


 そっと頭を撫で、その方向へ走り出した。

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