第27話 立った!アカも立った!……それどころじゃないけど立った!!

 美味しすぎるリンゴを貪った翌日。


『むっくん、起きてください、アカちゃんの進化が終わりそうですよ』


 という、トモさんの優しい声に起こされた。

なんじゃとて!?油断したァ!!


 飛び起きて――ああああああ!!上空5メーターまでジャンプゥ!!!!

ボクの脚力が暴発しウギィアッ!?

せ、背中から落ちたァ……!


「……何をしておるんじゃ、お主は」


 おひいさま、ジト目凄いですね。

ちょっと待ってください、今起きるので。

腕が長いから虫でも起き上がれて便利!

……ふう、朝から大変。


 いやそれどころじゃない!!


「コブン、シンカ、オワリマシタ」


「おお!長かったのう、わらわもニセムシの進化なぞ見たことがない。後学のために見学させてもらうぞ」


 あ、どうぞどうぞ。

別に減るもんじゃないし。


 えっと、アカの入った毛皮は……あったあった!

そうっとめくると……お!発光が落ち着いてきてる!

LED電球くらいに!今まではアレ、昔の刑事ドラマの尋問みたいなカーッ!っていう光量だった!

刑事ドラマを見た記憶自体はないけども!

……つくづく面倒臭いな、ボクの脳味噌!


『魔力が安定してきましたね、進化が終わります』


 おー、ついにお目覚めか!眠り姫!

……いや、雄雌の区別ないんだっけ?

多様性?の時代だから別に関係ないや!!


 ボクと、おひいさま。

そしてその後ろにいつの間にかいたレクテスさん。

この2人と1匹で見守る中、光りが弱まっていく。

それが収まった時、ボクの目の前には――


「――イヤ、サナギヤナイカイ!!」


 前と同じ、ピンク色の蛹があった。

え、ぇえ……まさかの、二段蛹進化!?

ま、まあ?アカはレア個体らしいし、蛹の状態が長くっても驚かないけど?

ちょっとは期待していたけどさあ?


「いや、待てムーク。コレは――」


 その蛹から、ピシリと音が聞こえた。

そして、ばきっと頭部からお尻にかけてヒビが入る。


 ――嘘ォ!?

ヤバい!やばいやばいやばい!

助けてトモさん、なんとかして!

アカが割れちゃうからなんとかしてェ!!

ボクの寿命使ってもいいから!残り3日までは許容するからァ!!


『落ち着いてください。これは、羽化です』


 うか?

それってどういう種類の方言……羽化ァ!?

あ!そうか!そうか蛹だよねェ!!

気が動転しすぎた!ボクとしたことが……もっとクレバー虫にならねば!


 蛹の亀裂が大きくなるにつれて、中から光が漏れてきた。

しかし、どんな姿になるんだろう……

蛹はカブトムシっぽいからボクの1個前的な感じになるんかな。

うーん、いいね!親分子分でカブトムシコンビが結成できるぞ!


『来ます』


 トモさんの声に続いて、大きく開いた蛹から中身が出てきた。


 ――初めに見えたのは、羽。

蝶々っぽいのじゃなく、トンボのような透き通った朱色の綺麗な羽だ。

そして、背中。

艶やかな薄ピンク色の甲殻に包まれた背中だ。

最後に……するり、と仰け反るように体全体が蛹から出た。


「ヨウ、セイ?」


 そう。

蛹から出てきたアカは……背中に4対の綺麗な羽を備えた、小型の人間、いや妖精っぽい姿だった。

手が二本に、足も二本。

全身をこう……ピタッとした伸縮性のありそうなレザーっぽいものと、大事そうな部分はレザー?の上から薄ピンク色の装甲に覆われている。

装甲があるのは上半身、股間周り、そして太腿と手足の先だ。

頭部のカワイイ触角はそのままに、なんていうのかな……頭には髪じゃないけど薄いピンク色の髪が生えてる。

寄って見ると、無茶苦茶細い筒状のモノが寄り集まった感じだった。

エビの触角がむっさ細くなった感じ。

長さは肩くらいまでのショートヘアだ。

ヘアじゃないけど。


 なんか、全体的に特撮ものの女性キャラっぽい感じ!

昆虫モチーフのアーマーを着た妖精さんだ!!

えー、ズルイぞアカ!おやびんを差し置いて一足先にそんなに格好よくなるなんて!!


「オット!」


 アカが蛹から完全に抜けて、咄嗟に差し出したボクの手に落ちてくる。

うわ、軽い。

身長20センチ少々の綺麗なお人形さんって感じ。

顔は……上半分にバイザーみたいな甲羅?があってよく見えないが、大きな目が2つ閉じられているように見える。

超見えにくいけど、芋虫や蛹の時にあった小さな目は額の方に移動したようだ。

そして鼻も、なんと口もある。

ここだけ見たら本当にただの人形みたいだなァ……


『これは……アカちゃんは、ニセムシという、魔物は……』


 なんかトモさんが絶句している。

なんすか、超かわいい&カッコいいじゃないですか!

カブトムシコンビじゃなかったのは残念だけど、これはこれで!

無事に進化してくれたからそこがまず嬉しい!!


「なんと……なんと!!」


 おひいさまが、なんか超近い。

ボクに半分ぶつかりながら、食い入るように眠るアカを見ている。

ふふん、どうよボクの子分。

可愛いっしょ?まあ前からずうっとかわいかったけどねェ!!



「デミ・フェアリーかァ!!」『デミ・フェアリーだったのですね……』



 ……お?

なんか耳慣れない言葉だね。

そして被ったね。

フェアリーって……妖精?だっけ。

デミ、デミ……だめだ、ハンバーグしか思い出せない。

お腹空いてきたなァ……


「オヒイサマ、ナニソレ」


 とりあえず聞いてみた。

むっさ驚愕してるし、おひいさま。


「妖精種の……前段階のようなモノじゃ。通常の妖精種は無から発生するが、稀にこやつのように魔物から段階を踏んで至るモノがおる」


 ほほーう、やっぱり妖精か!

へえ~、アカってばボクよりも珍しいんじゃない?


「ヘエ~」


「お主……はあ、虫ならば仕方あるまいな。こ奴はのう!存在だけは『あるのではないか』と推論だけが出ておっただけの……貴重な魔物なのじゃ!」


『おひいさまの言う通りですね。私の知識でもそのようになっています……魔法分野において他の追随を許さないエルフでも、そうなのですよ?』


 つまりアレか。

ウチのアカ、滅茶苦茶珍しいってことね。

地球で言うとなんとかフィッシュとかなんとかデスワームみたいな。

おお、UMAだ!UMAって本当にいたんだ!!


『ン……』


 あ。

アカがボクの手の中で身じろぎし、薄く目を開いた。

なんでわかったって?バイザーがジャキン!って感じに左右に開いたから!ビックリしたけどカッコいい!いいなーこのギミック!!


起きたなあ……あれ?アカってボクが進化したの知らないじゃん!

謎のクソデカ直立カブトムシに持たれてるの知ったらビックリするんじゃない!?


『あー……おはよう、アカ』


 先手必勝でアイサツ!

アイサツは大事なのだ、古事記と日本書紀にもたぶんそう書いてあるハズ。


『ンンン、ふわぁ……』


 アカは手の中で大きく伸びをして、座り込んだ。

そして、目を見開いてボクを見た。

晴れた日の青空みたいに、透き通った綺麗な目だった。


「――おやびんっ!おやびん、かっこい~!」


 ぶぇえ!?

アカは念話ではなく口で話しながら、ボクの顔面に飛びついてきた。

危ないでしょ!潰れたらどうするのさ!!


「アカ、ボク、ワカル?」


「わかる!アカのおやびん!かっこい!かっこい!!」


 キャッキャと笑いながら、ボクの周囲を旋回するアカ。

すっごいな!そういえばもう羽使えるんだ!

ボクなんかそこら中で跳ねまわって大変だったのに!

それに話してる!

念話も会話もできるのって……すごいなあ!ボクの子分!!


『アカもかわいくなったねえ、羽で飛べるなんていいなあ』


「からだ、かるい!きもちい!あはは!」


 うーん、見るからに元気そうでよかった。

長い事寝ていたから心配してたんだよ。


「おやびん!おなかすいた!すいたぁ!」


「マチタマエ」


 エルフさんのくれたポーチに手を突っ込み、『リンゴ!』と念じる。

するとあら不思議……ボクの手にはリンゴの姿が!

昨日の美味すぎるリンゴさんだ。

帰ってきたおひいさまに高速カブトムシ土下座をかましたら、『そんなに美味かったのか……国では馬に食わせていたのだがな……よいよい、こんなものでよければいくらでも持っていけ』って、少しだけドン引きしながらいっぱいくれたんだ。

ポーチの中にはまだ25個もあるぞ!!

馬の餌って聞いてびっくりしたよね!エルフの馬っていいもの食ってるんだなあ!!


 まあいい。


「トテモオイシイ、オタベ」


「なにこれ!いたらきましゅ!」


 ボクの手に乗り、アカがリンゴにかぶりついた。

体が小さいからさぞ食いでがあるだろう。


「ン、ン!ン!!」


 一口ごとにアカが痙攣していく。

あれ、どしたのアレルギーかなにか!?

やっべ!どうしよ――


「おいし!おいし!!おいし!!!」


 声でっか。

まあ、そりゃ美味しいよね。

ほっとした。

なんというかこう……雑な味覚かと思ってたからさ。


「ンンン!ンンンン!!」


 すご~……

リンゴが物凄い勢いで削れて消えていく。

その体のどこに入ってるんだよ、妖精の神秘だなぁ。


「……ケプ」


 もうなくなっちゃった。


「マダ、イル?」


「いる!いるぅ!!」


「ハイハイ」


 芯まで食べたので楽でいいや。

新しいのを取り出すと、アカは猛然と新しいリンゴに飛び掛かった。


「ン!ン!!ンン!!!!」


「オタベオタベ、イッパイオタベ」


 いやあ、平和だなあ。

ボクは、手の上でハムスターの化身みたいになっているアカを見ながらそう思ったのだった。



『――むっくん、これからはエルフの動きに注意してください』



 ……えぇえ?

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