第26話 お寝坊のアカさん、寝る子は育つっていうけど大丈夫なんスかこれ。

「ではの、ムーク。お主はゆっくりしておれ……ほれ、腹が減ったら食うんじゃぞ」


「アリガト!オヒイサマダイスキ!!」


「はっはっは……では皆のもの、出発じゃ!」「「「ハッ!!!!」」」


 おひいさまが、エルフを引きつれて歩き出す。

うーん、いつ見ても隊列がしっかりしていてとても格好いい!

しかもボクにお弁当まで置いて行ってくれるとは……ボクがエルフなら一生お仕えするね!


 残念ながら虫なのでエルフの国に入国すらできないけど!HAHAHA!!

……こっそり遠くから見るとかはしてもいいんじゃないかな?


『100年ほど前の記録ですが、獣人の一隊が吹き飛ばされたという話がありまして。かなり遠距離からなら可能でしょうが』


 はいキャンセル!

そんなしょうもない理由で死にたくない!!

エルフの国の見物計画は頓挫デース!!

博打はせんのだ!!



 とまあ、今日のボクはお留守番だ。

なんでかって?

アカがね……あれから一夜明けたのにまだビカビカしてるから!

起き抜けに確認したら目が眩んだよ、ビックリしたなあ。


 今回の進化はかなりの長丁場っぽいのよね。

いくらここが安全だって言っても、さすがに置いていくわけにもいかないし……かといって超目立つから狩りに連れていくわけにもいかない。

よって、とりあえず今日はお留守番だ。

中身は見てないけど布袋に包まれたお弁当もあるしね!


『この周辺はエルフの結界によって安全区域となっています。むっくん、スキルの確認等をするなら最適ですよ』


 おー、それは最高だ。

アカ次第ではいつ狩りに行けるかもわかんないし、ここは腰を据えて確認作業に勤しもう。

それに、二足歩行の体にも慣れておかなくちゃね。

前世はたぶん二足歩行だけど。


 よし、では早速『視覚補助』の暗視を……目が潰れるわい!今は朝ぞ!!

暗視の必要性が最も薄い時間帯ですわ!!

……セルフ漫才はこれくらいにしとこっと。



 アカを包んだ毛皮が視界に入るくらいの距離まで移動。

狙いは……あの適当な太さの木にしよっか。

それでは、触角に魔力を集中……うお、もう溜まった。

衝撃波、発射ァ!!


 ――かおん、と軽い音がした瞬間に木にバレーボール大の穴が開いた。

向こう側の景色が見える!貫通してる!!

 

 お、おお~! 

前の衝撃波より溜め時間は短くなったし、威力も上がってる!

これは間違いなく(大)だ!

次は連射だな……むん!

発射ァ!!


 ――どきゅきゅきゅ。と音。

木の幹にソフトボール大の穴が連続して4つ空いた。

でも貫通はしてないな、八分目って感じ。

これも使いやすくなったなあ、この前の子蜘蛛みたいな敵にはこれだね!


 さてさて、それでは大詰め。

最大の溜め撃ちだ。

吹き飛ばされるのはアレだから、足の棘を……ふんっ!地面に打ち込んで固定、と。

これ、某ロボットアニメのターンピックとかなんとかアンカーみたいで格好いいな!テンション上がる!!

よーし、むんむんむん――エネルギー充填100%って感じ!!

――発射ァアッ!!!!


 ごぉん! って感じの爆音。

その瞬間に全身に反動が襲い掛かり――固定された足を起点に、地面に背中から叩き付けられた。

いっだい!?死ぬゥ!?


 背中の痛みに半泣きの気持ちで体を起こすと――木がなかった。

正確に言えば、標的にした木が直径5メートルくらいの範囲に引き千切られて泣き別れになってる。

あ、今上半分が倒れた。

おお、おおおお……これは完全に必殺技クラスの威力だ!

反動が洒落にならないくらいでっかいけど、それに見合った威力だね……

魔力を一気に持ってかれたからか、ちょっとクラクラする。

連発はできないなあ。


 次はパイルバンカーだな。

撃発式刺突棘って言いにくいもん、なんとかパイルバンカーにならん?トモさん。


『そこは私の管轄外ですので……』


じゃあこの名前決めてんのって誰なんじゃろ。


『そういう部署がありまして』


部署。

なんか神様の世界のイメージがどんどん変な感じになっていく。

ワンオペだったり、部署があったり。

天界?ってなんか世知辛いよねえ……


『はい、地球の会社とそう変わりはありませんよ。まあ過労死はありせんけども。我々は基本的に不死ですので』


これは笑ってもいい所だろうか。

リアクションに困る。


 じゃあさ、このボクたちのサポート?ってのも片手間……じゃないけどそんなにひっ迫してるとかじゃないんだね。

給料が減るとかもないだろうし。

だって不死だから。


『まあ、そうですね。発言力が増えたり位階が上がったりしますけれど……たまに神罰で消滅するくらいでしょうか』


おい!!

結構でか目のペナルティがあるじゃないですか!!

そういう大事なことはもっと早く言ってくださいよ水臭いなあ!!

トモさんは大丈夫なの!?

嫌だよ急に脳内女神サマが消滅するとか!!


『あら、ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ』


本当にござるかあ?


『本当です。消滅するようなモノはここ500年はいませんので』


ほーん。

よほどのことをやらかさんと大丈夫ってこと?

ちなみに前の人は何したらそうなったん?


『たしか……たまたま発見した邪神を復活させて、転生者と組んで悪意を持って大量虐殺をして、最終的に大陸を1つ沈めそうになったとか』


 控えめに言って空前絶後の大魔王じゃん。

逆にそんくらいやんないと大丈夫ってザルなんじゃない?

っていうかどう収拾つけたのそれ。

一番偉い神様が指パッチンで光りあれってしたの?


『我々は下界に対して直接的な干渉はできません。アドバイスや啓示などですね……むっくんの損傷回復もギリギリアドバイスに含まれます』


 えっ、じゃあこの世界の人たちでなんとかしたん?

それはそれで凄いなあ……


『どこの国でも人気の物語になって伝わっています。有名ですよ、『イチロウ=ヤマダの大冒険』は』


 ご同郷の人がむっさ頑張ってた……ボクもたぶん日本人だと思うし。

山田一郎……一体何者なんだ。


『あ、彼は転生者山田一郎の6代後の子孫ですね。もはや現地人ですね』


 ややっこしい!!

名前ごと受け継いだのォ!?


 ……ええと、何の話してたんだっけ。

あ、パイルバンカーの試用だった。

スキルネームの話から大分脱線したなあ。


 あ、これ『任意射出』ってあるよね。

トモさん、飛ばしたらまた生えてくる?

そして寿命減る?


『そうですね、1本につき寿命10日前後でしょうか』


 ……意外と重いな、消費。

これは慎重に運用する必要があるねえ。

欠損扱いだもんな、射出。


 ちなみにボクの寿命あとどんくらい?

進化する前に石ころボリボリしたから結構あると思うんだけど。

そのちょっと前に体半分吹き飛んだんだけどね。


 えーっと、吹き飛ぶ前には確か半年はあった……ような?

駄目だ、記憶があいまいすぎる。

ヤバかったらトモさんが教えてくれるやろ~、で全然意識してなかった。

だってさ!寿命がいくらあっても、突発魔物襲撃や突発ごんぶとレーザーとかで死んだらそこでおしまいだしね!!


『現在の寿命は残り10か月ですね』


 結構あった!人間ベースとして考えると死にかけの存在だけど!!

棘飛ばした瞬間に死ぬことだけは回避できそうだね。

じゃ、やってみるか。


 まずは通常の使い方だ。

前方のイイ感じの木をセンターに入れて……まずはダッシュぅげけあお!?!?

な、なんで、なんで木に激突してんの!?

あー!角が!じゃない触角が木に突き刺さってる!?


『進化して身体能力が上がっていますね。強靭な脚のバネです、素晴らしい』


そ、そうですか……ぬ、抜けない……んぐぐぐぅ!!

あ、抜けた。


 かなり足の力が強くなってるなあ。

虫形態……今でも虫だけど……の時なら余裕をもって飛び掛かれるくらいの勢いだったのに。

ちょっとこれ、しっかり把握しとかないと最悪自損事故で死んじゃうぞ。


 気を取り直して木の前に立ち、腕を振りかぶって叩き付ける――と同時にパイルオン!!


 ――どぎゃん、みたいな音がして……ボクのカッコいい棘は木の幹を貫通した。

おほ~……すっご!衝撃波だけじゃなくてこっちも威力上がっとる!

うあ、でも引き抜けない……ぬぐぐぐぐ……あ、縮めたら抜けた!便利!!

こっちは通常の魔力が減るだけで寿命には関係ないからな、バンバン使えるぞ。


 さて……なんか色々回り道したが、いよいよ飛ばしてみよう。

足を肩幅に開き地面に棘を打ち込む、そして重心を低くして……突き出した右腕に左手を添える。

さあいくぞ……発射ァ!!


 ――地面ごと後方に吹き飛んだ!ボクが!!


 ぎゃひん!?

背中に木が当たってすごく痛い!!

そして今更だけど飛ばした棘の付け根?がむっっっっっっちゃ痛い!!

血は出てないけどすごく痛ァい!泣きそう!!

涙腺ないけどォ!!


 そして……うん。

ボクの視力が及ぶ範囲で、直線状に木の幹が丸く抉れている。

かなり先の方までだな……確認してこよう、いててて。


『修復開始しますね』


あ、じんわりあったかい。

腕に近い方から、棘がじわじわ復活していく……そして半分くらい再生したところで痛みが消えた。

ふう、再生までは10秒ってところかしら。

……1秒で寿命が1日減るのかぁ。

計画的に運用しよう。


 結局、棘は50メートル程先の木の幹に突き刺さっていた。

かなりの威力だけど、衝撃波同様反動が強いなあ。

もうちょっと考えて使わないとなあ。

地面の上で撃つと後ろに吹き飛ぶし、多分空中だともっと吹き飛ぶよね。

脚から地面に棘打ち込んでもコレだもんなあ……ホイホイ使えないな、コレ。


そして……どうやら射出した棘は、すぐに崩壊してボロボロになるっぽい。

惜しいなー、射出した後に手に持って使えるかと思ったのにい。

そんなに甘い話はないようだ、残念無念。


 まあいいや、検証作業おーわり!

アカの所に戻ってお弁当食べよ!



・・☆・・



『すひゃ……すぴゃ……』


 相変わらず幸せそうな思念が伝わってくる。

寝てる時間は長いけど、元気そうだからいいか。

アカには悪いけど、お腹空いたからお弁当食べようっと。


 布をめくると、よくわかんない大きい生肉と……果物ォ!!

でっかいリンゴみたいな果物ォオ!!

うわあ!転生初果物だよ!!果物!!

ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

フルーツ万歳!!

ありがとう!ありがとうおひいさま!!

早速イタダキマス!!デザートだろうけど先に齧っちゃう!!


 しゃきり、さくさく。


『むっくん、何故倒れるのですか』


 お、おおお……おいし……おいし……

転生してから初めての『美味しい』味に口の中が東海道中膝栗毛だよ……

ボクの全身が十返舎一九だよ……


『は、はあ……』


 トモさんは呆れているけども、本当に昏倒するくらい美味しいのだ。

味は、前世でも慣れ親しんだであろうリンゴそのもの。

品種改良を繰り返して美味しくなった地球のリンゴに並ぶとか……異世界も中々やるでござるな?

おひいさまの持ち物だったってことは、超絶高級品なんだろうけど。

はあ……一気に食べるのが勿体なさすぎる、毎日1センチずつ齧りたいよう。


『もうありませんが』


 本当だァ!?

消えてる!リンゴが消えてる!ナンデ!?

ボクが食べたからですね!証明終了!!

ああ~……でも、本当に美味しかったなあ。

おひいさまに土下座して、アカ用にも確保しておいてあげよう。


 ちなみに謎生肉は今まで食べた生肉よりも格段に美味しかった。

でも所詮生肉は生肉なので、やっぱり血生臭かったです、まる。

リンゴを後に残しておけばえかった……

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