第25話 ねんがんの 二足歩行を てにいれたぞ!!

 ふおおおお!視点が高い!

二本足で立ってる!っていうか立った!!

むっくんが立ったァ!!


「二足歩行がそんなに嬉しいのか……?」


 当たり前でしょレクテスさんっ!

二足歩行ですよ二足歩行!!

これでまた一歩人に近付いた!!

最終的に人間にはなれないだろうけど!!人型にはなれそう!!

っていうか厳密には今もうなれてるし!!


『ボクの素敵バディを確認したい!とても確認したいのでちょっと水たまり的なモノを探してきます!!』


「ま、待て待てムーク!落ち着かぬか……子分のこともあるし、鏡を貸してやるわい」


 え!?あ!!そういえばアカ!

アカはどこにいるの!?

あ!この毛皮の下にうお眩しッ!?!?


『アカちゃんも進化中です。むっくんが昏倒してからすぐに始まりましたよ』


 マジで!?

……あ、でもあれだけの魔石をボリボリしたらそうだよね。


「これでいいか?ムーク」


 おひいさまが、懐から明らかに身長よりもデッカイ鏡をにゅっと出した。

……あの便利収納道具、持ってるんだなあ。


 おひいさまは、それをボクの前にでんっと置いた。

お~、普通に鏡だ!地球のと比べても遜色ないや!

この世界の加工技術も捨てたもんじゃないね!!


『ありがとうございます!それでは早速――』



 ――鏡には、二本足で立ったずんぐりむっくりのカブトムシっぽいシルエットの……4頭身の生き物が写っていた。


 身長は1メートルくらいだろうか。

今までは同じ長さだった腕……いやもう脚だね。

一番お尻側だったそれが長く、太くなってがっしり大地を踏みしめている。

なんかこう、甲冑みたい!生体甲冑って感じ!カッコいい!!


 真ん中の腕のサイズはちょっとだけ大きくなった程度だ、ちっちゃい腕って感じ。

でも、虫形態?の時にあった棘がなくなってるのはちょっと残念。

脚にはあるのに。


 そして一番頭側の腕だ。

これは……肩の部分が盛り上がって鎧の肩当てみたいな形状に変化。

二の腕、肘関節ときて……人間の腕みたいに手首までちゃんとある!

しかも!しかもですよ!!

指がある!!手の甲から指が生えてる!!5本ちゃんとしたのが生えてる!!

指関節もちゃんとあるよう!ちゃんと動く!モノが掴める形状になってる!!

うわー、無意味にぐっぱぐっぱしちゃう!!


 続いて胴体!

こっちは胸?から人間ならおへそがある部分までがつるっとした殻に覆われてる。

西洋甲冑の胸甲だっけ?なんかあんな感じ!

お腹の部分は……伸縮性のあるゴムみたいな装甲?だね!

人間だった時とそんなに可動範囲に違いはないと思う!

いやー、しかし格好いいな!生体甲冑!!


 で、頭部。

今までの兜っぽい造形はさらに細かくなって、スリットの部分からは青い目が覗いている。

うーん、ボヤっと発光しててむっちゃカッコいい!ロボットアニメの主人公みたい!

額の触角もかなり長く、先端に行くほど鋭くなった。

ヘラクレスオオカブトっぽい感じ!

額から太めのナイフが生えてる感じだ!!


『うぅおおおおおお~~!!!!格好いい!!ボクがとても格好いい~!!!!』


 もう跳ねちゃう!嬉しくて跳ねちゃ――おへぇえ!?

軽く跳ねたつもりなのに、3メートルくらい跳んだ!?

ボクの脚、むっちゃ強靭になってるゥ!!

――べへん!?

着地のこと考えてなかった!!


 あ!今鏡で背中が見えたけどやっぱり羽生えてない!!

なんでさ!!一応カブトムシっぽい魔物のはずでしょボクは!?

……まあいいか!格好いいし!!うへへへへ!!!!



「……ムーク、落ち着いたかの?」


『あっはい、ちょっと……ボクがあまりにも格好いいので我を忘れました』


「おう、よくわかっておるわ。感情表現が豊かな虫じゃのう、お主」


 おひいさまが苦笑いしている。

その後ろのエルフさんたちも、まるではしゃぐ子供でも見ているかのような感じだ。

まあね、実際その通りだったろうし。


「……しかし、やはりお主はようわからん進化をするのう。二足で立つとは」


『え?そうなんです?』


「お主の首から下に似ておる魔物は、成体になってもただのデカい虫になるのじゃ。二足で立つなぞ……さらに下の脚がそのような形状に変化するというのも聞いたことがないわい」


 ほーん、そういうもんか。

ん?なんか喉がムズムズする……ようなー?


「ソデスカ」


「そうじゃよ……お主喋ったか?」


 喋りましたねえ!?

トモさん!今のジャギジャギした声ボクゥ!!?


『おめでとうございます、声帯が形成されていますね』


 や、やった~!!

ジャギジャギしてるけど、これで一般異世界人とコミュニケーションが取れるぞ!!

なんか声が出しづらいから基本的にカタコトだけど!

それでも今までが無だったから、大進歩だ!!


「シャベレルヨウ、ナリマシタ」


「そ、そのようじゃな……本当に規格外じゃな、お主。戦闘能力の方はそれほどでもないようじゃが」


 ……そうなん!?

えええ!ワンオフの虫型魔物だからむっちゃ強いんだと思ってた!!

蜘蛛に攻撃が通用しなかったのもボクが幼体だからだとばかり!!


『むっくんはこの森ではそこそこ強者……いえ中堅サイドではあります。あのおひいさまが、少々、いやかなり規格外すぎるのです』


 あ、そういう……

確かにごんぶとレーザーを連射できるおひいさまからしたら、ボクなんてちょっと衝撃波が出せて棘が伸びるだけの虫けらですわよ。


「なんにせよ、よかったのうムーク。わらわとしても、知り合ったばかりのものが野垂れ死ぬのは嫌じゃからな」


「アザス」


「あざ……?」


「アリガト、ゴザマス。オヒイサマ、ダイスキ」


「はっはっは!拙い発声で吹きよるわい!ハハハ!」


 おひいさまが爆笑している。

そんなに虫ヴォイスがお気に召したのかしら。


「おひいさま、そろそろ夜です。お話はまた明日にでも」


 あ、今まで気づいてなかったけどもう結構暗い。

ボクもお暇するかなー、トモさんとスキルの確認もしたいし。


「おう、そうじゃな。ではの、ムーク……あ」


 ぬ?


「お主、そのナリで今朝までのねぐらに入れるのか?」


 ……あ。

ボク、今朝までの倍以上のガタイになったんだった。

あそこの入口は潜れそうにないなあ……


「ムリポ」


「無理ということか……?ううむ、今日の所はその毛皮を羽織って寝ればよい。我々の近くにおれば魔物は寄って来ぬからのう」


「ナニカラ、ナニマデ……アリガト」


 さすがにエルフさんたちのド近所にいるのは気を遣うので、ちょっと離れた林の方で寝よう。

旧ホームはちょっと離れ過ぎてるし。

ねえトモさん、アカまだ進化終わらないっぽい?


『ですね、魔力の胎動が活発に続いています。アカちゃんはレア個体ですので進化も通常とは違うのでしょう』


 ふうむ、じゃあまだしばらくはビカビカが継続するってことか。

それなら毛皮に包んで置いておいてあげよう。

幸いにして、ここら辺の気温は温暖……とまではいかないけど、凍え死ぬほどじゃないし。

そういえばボク虫だけど冬とか大丈夫なんだろうか。


『むっくんもアカちゃんも虫型『魔物』ですからね』


 あ、そういえばそうでござった。


「オヤスミデス、オヒイサマ」


「うむ、また明日のう」


 おひいさまにそう言ってから、ボクはみなさんと付かず離れずの位置まで移動。

イイ感じの場所にアカを安置し、木に背中を預けた。

うわー!座れるのってなんかこう、新鮮!!

あ!今気付いたけどポーチもボクのサイズに合わせてちょっと大きくなって、腰に貼り付いてる!

なんか不思議!!


 さあ、さあさあさあ!

トモさん!嬉し恥ずかしスキル確認の時間だね!!

じゃんじゃんやろう!ジャンジャンバリバリ!ジャンジャンバリバーリ!!


『テンションが高いですね。いいでしょう』


 ぶん、といつもの半透明シートが出現。

さあて、早速確認――


 ――鎧の人がボクの前にいるゥ!?

さっきまでいなかったのにいるゥ!?

しかも剣抜いてるゥ!?


「――何をしている」


「オマジナイ、デス。マリョク、ツカッテマス」


 なんとかそう絞り出すと、鎧の人はゆっくりと納刀した。


「そうか、見慣れぬ魔力だったものでな。邪魔をした」


 そして消えたァ!?

え、どこ行ったの!?


『不可視化、という魔法でしょうね。見て下さい、鎧を着ている人数が少ないでしょう?彼らはああやって姿を隠しつつ護衛をしているのですよ』


 ほんとだ!今鎧の人3人しかいない!

し、心臓に悪いよう……で、でも気を取り直してスキル確認だ!!



・個体名『むっくん』

・保有スキル『視覚補助(熱源)(暗視)』『魔力吸収効率化』『衝撃波(大)』『高性能多腕制御』『二足歩行効率化』『撃発刺突棘・二段・任意射出』『耐衝撃高密度甲殻』



 うおおお!!なんか……なんかすごい増えて……はない!チョット増えてる!でも嬉しい!

元からあるのも結構変わってるなあ。

『視覚補助』に暗視が追加されとる!早速やってみよ……やめとこ、推測はできるし、また鎧の人ぴゃって来たら困るし。

わー!『魔力吸収効率化』だ!アカに遅れてボクも獲得したぞ!これでおやびんの面目が保たれるぞいぞい!!

『衝撃波』も進化しとる!これも……当然だけど試すのは今度ね、今度。

『高性能多脚制御』が『腕』と『二足歩行』に分かれたのかな?これはわかりやすいねえ。

脳がちょっと混乱するけど、手足はちゃんと動くな。


 そしてアレですよ、アレ!

『撃発刺突棘』ですよ!インセクト・パイルバンカーですよ!

『任意射出』ってことはアレよね!ロケットパンチよね!パンチじゃないけど!!

うわー!試したいなあ!今度!!


 最後の『耐衝撃高密度甲殻』は読んで字のごとく、防御力が上がったんだろう。

地味だけど便利なスキルですなあ……有難い。


 ボク、結構強くなったねえトモさん。


『油断は禁物ですが、今はただおめでとうと言っておきます。これで油断をするようなむっくんではないでしょうし』


 ……その信頼に応えられるように頑張ろう!


 ち、ちなみに前に言ってた『オオムシクイドリ』には勝てそう?


『まだ無理ですね。アレは前の水晶竜と同じくらいのサイズですので……強さは大分劣りますが、むっくんにとってはどちらも強者ですよ?』


 トリの名前を返上しろ返上!!

そんなんもうドラゴンじゃんよ!!


『そうですね、実際にアレは竜種の一種ですし』


 ――名付け親の馬鹿野郎!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る