第24話 いいもの貰った上に進化しました、うっひょー!!
「今日は何やら疲れたのう、ムーク」
『ボクなんか体半分消し飛びましたしね、おひいさま』
エルフさんたちの野営地に到着した。
ボクとアカは肩に乗せてもらったから楽ちんだったけどね、後半は。
ぴょいっと地面に飛び降りる。
ふう、久しぶりの大地。
『むにゃ、おやびん、ここどこ』
静かだと思ったらずっと寝てたのか、アカ。
まあ、今日は蜘蛛大進撃で疲れただろうしね。
『帰ったよアカ。そのまま寝てていいよ』
『あい……』
すっと寝たねこの子。
〇び太くんかな?寝つきがいいのは才能だね。
『むっくんを信頼しているのでしょうね』
へへへ、嬉しい。
いい子分を持ったもんだ。
「さて、ムーク。今日は大儀であった……よって、褒美を取らす。レクテス!」
「ハッ!」
レクテスさんが、腰に付けているポーチ的なものを外し……ボクの前に置いた。
なんか一瞬光ったな、くっ付いてる宝石が。
……え、なにこれ。
ポーチごとくれるの?
「初めは中身だけくれてやろうと思っておったがな。お主は存外に賢いようじゃし、これも使いこなせるであろ」
と、言われましても?
ボク、ポーチなんか貰っても特に使い所さんが……
『むっくん!これは素晴らしいですよ!』
急に興奮する脳内トモさん。
びっくりしたあ!
『おひいさまが説明してくれるでしょう。足りない部分があれば後で補足しますね』
ほーん?
レクテスさんがしゃがみ込み、ポーチの前で首を捻っているボクに話しかけてきた。
「コレは『空間圧縮収納』というマジックアイテムだ。簡単に言えばな、この中にはかなりの分量のモノが入る」
ええ!?
ファンタジー小説でお馴染みのやーつ!?
わー!すごいすごい!!むっちゃいいものじゃん!!
「しかもこれは特別製でのう、お主に合ったサイズに伸び縮みをするし……強度も抜群じゃぞ?」
嘘でしょ!!むっちゃ、むっちゃいいものじゃん!!
わーっ!!すっごい!!
凄いしか言えない!!
『ええ~!死にかけたとはいえ、流石にいいものを貰い過ぎでは!?』
「ほほ、虫の癖に謙遜しよるわ。まあ気にするな……『外』ではその限りではないが、わらわにとってはこの程度、何ということもない」
おひいさまがおひいさま過ぎる!
お金持ちなんだなあ、この人。
「貴重ではあるが、空前絶後というわけではない。有難く受け取れ、ムーク」
レクテスさんも、そう言って頷いた。
「まず触ってみろ」
あっはい。
手でちょこんと――うわ、縮んだァ!?
めっちゃコンパクトに!?
「問題ないようだな。では手を当てたまま軽く魔力を流せ、内容物が出てくる」
ほーん……むん!
――じゃらり、と綺麗な石が出てきた。
うわあ!これ、前にもらったやつより大きいよ!
しかも10個くらいある!!
「竜の調査中にちょっかいをかけてきおった魔物のものよ、いくらかよさそうなモノをより分けておいた。わらわたちにとっては特に珍しいものではないが、お主にとってはなによりであろう?」
なによりです!なにより!!
はー、期せずして凄まじいボーナス!!
『やったことに対して報酬が豪華すぎません?あ!もしかして10年くらい奴隷労働させられるとか!?』
「疑り深い虫じゃのう……だから、わらわにとっては大したものではないのじゃ。お主は久方ぶりに出会った面白い魔物じゃしな、この程度はなんともないわ」
むむむん、これが強者故の余裕とかそういう感じのアレなんか。
あ!貴族の……なんか!の、ノーブル……オポッサム?とかいうの!!
『……ひょっとしてノブレス・オブリージュ
では?』
そうそれ!!
『あ、でもこの手じゃ取り付けられませんね……虫アームが憎い!!』
もうちょっと精密な動作ができるようになるまで安置しておかないといけないかな。
おや、なんですかレクテスさん。
ポーチをボクの胴体に押し付けて……くっ付いたよォ!?
「これは、所有者の体のどこへでも貼り付くんだ。私もさっきまで腰に固定していただけだ」
ふわあ、超便利これ!
どこにでもくっ付いて、しかもサイズ変更自由!頑丈!!
ファンタジーアイテムだ!!
「先程『初期化』してお前に魔力を流させたのだ。今の所有者はお前になっている」
パソコンかな?
『もし他の誰かに引き継ぎたいときはどうするんですか?』
「その場合はのう、宝玉の部分に強めの魔力を流せばよい。それでまっさらな状態に戻る……おっと、その場合は中身を空にしておけよ?先程のように中身が全部出るぞ」
あ、そういうことなんだ。
じゃあもしボクがアカに引き継ぐ時はそうしよっと。
『いやあ!むちゃくちゃいいものをありがとうございます!ボクはこの虫生が終わるまで、おひいさまを崇め奉ります!ありがたや~、ありがたや~!!』
嬉しすぎるので、その場で五体投地を繰り返した。
あ!ポーチがお腹にめり込んでちょっと痛い!!
「や、やめんか!虫に五体投地されるとは……長き人生で初めてのことじゃわい……」
ゲームならトロフィーアイコンがティン!してそうだな。
ボクもそんな経験ないし。
記憶ないけど!
『では、ありがたくいただきます、ついでに石もいただきます!』
この場で半分食べちゃお。
がぎり、ぼりぼり。
うーん、やっぱり風味は砂、感触は石だねえ。
もしくは感触だけでもクッキーにならんかね。
『いいものを貰いましたね、むっくん。現在位置の関係でどうしようかと思いましたがこの出会いは僥倖でした』
ふふふ、これは『持ってる』なボク!
運と仲間関係はチート級ですね、フハハ!!
『はい、アカちゃんの分以外は食べましょうね』
はい……ぼりぼり、ごきん。
硬いなあ、この謎の石。
魔物の体内にあるのこれ?今まで食べた死体にはなかったけど?
『ある程度以上強力な魔物にならないと形成されません。地底蜘蛛なら子蜘蛛にはありませんが、成体にはありますよ』
ああ……そういうことね。
じゃあ今のボクには全く関係ありませんねえ。
あのデカ蜘蛛、全力衝撃波でもビクともせんかったし。
けぷ。
まだまだあるなあ……ごりごり、ごぎり。
色んな色があるのに味は変わらないの辛いよな……でも、強くなるためだから仕方ない
さて、これでボクの食べる分は最後――
――どくんと、きた。
うおっ、この酩酊感はまさか――
『おめでとうございます、むっくん。進化の予兆ですよ』
マジで!?
石ころボリボリしてるだけですけお!?
『大地竜の幼体以上の魔石を5つですよ?今のむっくんが三点倒立しても敵わない魔物ばかりですし』
何故三点倒立をチョイスするのさ。
そりゃそんな間抜けなことしてたら勝てるわけないでやんしょ?
……あ、ヤバ、これやば。
『おひいさま、進化するっぽいのでボクはここでお暇いたしますぅ』
木のウロホームまで帰らんと!!
ここむっちゃお外ですし!!
「おう、進化か!気にするでない、わらわも気になるからここでするがよいぞ。我々よりも心強い護衛もおるまい?」
それはありがたいけど、悪いなあ。
『アカ!アカ!』『んにゃい……なに、おやびん』
急いでアカを起こす。
進化中も上に乗ってて融合とかしたらかわいそうだもんね!
そんなことになるかどうかは知らないけど!
『おやびん進化するから!ちょっと離れといてね!あとここにある残りの石食べていいからね!!』
『ふおー!おやびん、つよくなる?かっこい!かっこい!!』
背中から飛び降りて嬉しそうに跳ねているアカ。
ふふふ、微笑ましいなあ……あ、もう限界。
なんでさ?前は移動する暇くらいあったのに――
『高濃度の魔力を一気に摂取したからですね。魔素変換開始、体組織の再構成と置換を実行――』
ああ、なんか……今回は棚ぼた進化だなあ。
棚ぼた!大好き!エルフ!大好き!!
――すやぁ。
・・☆・・
「うはは!虹色に光りよったわ!ほんに珍しい虫よのう!」
「退屈だけはしませんね、おひいさま……あ、こちらのニセムシも進化に入るようです」
「ははは!2匹揃って眩しすぎるわい!レクテス、適当な毛皮で覆ってやれ……眩しゅうて敵わん」
「御意」
・・☆・・
『むっくん、起きてください。進化が終了しましたよ』
ううむ……あと3日……
詳しく言うと48時間……
『それは2日ですし、そんなに寝たら溶けてしまいますよ。冗談ですが』
ハハハ、トモさんジョークも磨きがかかってきたね……ふわぁあ。
起きよう起きよう。
毛皮がもこもこフワフワでむっちゃ気持ちいい……おひいさまがかけてくれたんだろうか。
さてと、どうなったかな。
防御力が上がっていればいいんだけど……お?おお?
「……おう、起きたかムークよ」
『……なんか、おひいさま縮みました?』
さっきまでは膝小僧のあたりに視点があったんだけど、今はそのささやかすぎる胸のあたりにある。
絶壁かな絶壁かな。
「ふはは!馬鹿を申せ……お主がデカくなったのよ」
あー、なるほど。
不敬罪になりそうだから胸のことは言わないでおこ――
『――二足歩行しとる!!ボク二足で立っとる!!!!』
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