第23話 お前はなんだと聞かれましても?
『〇〇、なんで、なんであなたなの……!!』
うあ、いつぞやの別嬪さんじゃないですか。
美人さんなのに人をそんな、親の仇みたいな目で睨むのはやめていただきたいんですけお?
『――産まれの分際で!何故――の寵愛を!あなたが!!』
ひぎい凄い目力。
視線で人が殺せそうですね、あーた。
『――を、渡しなさい!そして死んで!すぐに死んで!!』
そんな風におっしゃられても、それちょっと今手元にないんですよ。
そこにないならないでーす。
『いいえ、もういいわ!○○、それなら私が――』
ちょっ!?このお姉さんサムライソード持ってるがな!?
銃刀法!銃刀法違反ですよオマワリサン!!
そこに綺麗な顔した犯罪者がいますよォ~!!
『なんであなたなの!何故、何故私では駄目なのォ!!』
おねえさんが、喚きながら日本刀を振り上げ――
鳩尾を思い切りぶん殴られたように、重力を無視して後方に吹き飛んだ。
え?なに今の?
まるで透明なトラックが突っ込んできたみたいに――
『――うせろ、ぶさいく』
ボクの後方から、鈴を鳴らすような声が聞こえた。
・・☆・・
『むっくん、起きなさい』
うーん、むにゃむにゃ。
あと24時間ん……
『そんなに寝てはかえって体に毒ですよ、さあ、起きなさい』
はいはい、了解でーす。
いやー聞いてよトモさん、まーたよくわからん変な夢見ちゃって――
――むっさ見られとる!!
ボクをエルフの皆さんが取り囲んでいらっしゃるぞ!
視線が!視線が痛い!!
『おやびん!おやびーん!!』
ぐええ。
アカが腹に飛び乗ってきた。
やめろください、お腹の部分は比較的柔らかいので死んでしまいます。
うん?お腹……全部あるじゃん!!
やった!修復が成功したんだね、トモさん!
『ええ、むっくんが以前よりも進化してくれたおかげでギリギリ間に合いましたよ』
ギリギリかあ……まあ、胴体の半分くらいが吹き飛んだもんね。
我ながらよく生きてたもんだ。
虫って生命力強いよね、人間だとこうはいかんだろうなあ。
「おうムーク、起きたの。体は大事ないか?」
アカの次に近くにいたおひいさまが手を伸ばし、ボクの触角をさすった。
あひゃひゃ、それ凄くくすぐったいからやめて!!
『ええ、なんとかなりましたね~。いやはや死ぬかと思いましたよ……あ、蜘蛛は?』
「穴経由で毒を流し込んだのじゃ。直接触れずとも気化した煙を吸えば体を溶かすほどのモノをのう……成体でもまあ、残り香でも即死であろうな」
ヒエッ。
ボクのフルパワー衝撃波を受けても超元気だったデカ蜘蛛でもかあ……この世界は残酷である。
「地底蜘蛛の厄介さはのう、単体よりも群体の強さにある。地底にて脱皮を繰り返し、子蜘蛛が十分な大きさになれば地表に湧いて出るゆえにのう……お主も遭遇したのじゃな?」
『ええ、もうむっちゃいました。子蜘蛛はボクでも殺せましたけど、いかんせん数が多くて……逃げの一手ですよォ』
まさに、数の暴力って感じだった。
「その子蜘蛛が成体の大きさになった時に、地表に出てくる。わらわもこの人生で2度ほどソレに遭遇したが……黒い絨毯が迫ってくるような感じであったな」
ひぇえ、おっかねえ。
あの数が成体の大きさでかあ……もう災害だね、災害。
『『スタンピード』と呼ばれる現象ですね。ダンジョンなどでも発生します』
ダンジョン!ああ、ダンジョン!
やっぱりあるんだね、この世界にも!!
古代遺跡!罠だらけの通路!隠された宝物!いしのなかにいる!!
『最後のは一体……まあ、ありますが。そんなに楽しい場所ではないと思いますがね』
浪漫なので、浪漫!
いやー、見たいものも行きたい場所もどんどん増えるよね、トモさん!
いつか行こう!みんなで行こう!!
『ふふ、そうですね。むっくんは前向きで好ましいです』
後ろを向いても記憶がないので!
「さて……色々聞きたいこともまだあるが、今は撤退じゃな。毒を流し込んだ結果は明日にでもまた見に来るとするかの」
あ、帰っちゃうんだ。
まあボクも今日の所はとっとと寝たいし。
『あ!おひいさま!あの岩の竜の死体、ちょっと齧ってもいいですか!!』
忘れるところだった。
近くに落ちてる魔物の死体は齧らないと!!
「……ああ、すまんなムーク。アレは森の魔物に齧られぬように、毒を沁み込ませてあるのじゃ」
なん……だと……?
「腐らぬように処理もしてある。齧ると死ぬぞ」
毒&防腐剤入りかあ……どう考えても体に悪い。
そっかそっか、調査目的で来たんだもんねこの人たち。
『加えて大地竜の肉はそれでなくてもとても硬いです。むっくんの現在の口では噛めないどころか歯が全部折れますよ』
おおん……期せずして大幅レベルアップのチャンスがぁあ……
やっぱりこの世界、ボクに厳しすぎる。
「疲れたであろう、わらわが運んでやる。ニセムシもな」
おおっと。
おひいさまがボクらを持ち上げ、肩にそっと乗せた。
「お、おひいさま!」
「なんじゃレクテス。立派に仕事を果たした勇者をねぎらうのは当たり前であろう?」
いや、そう言いますけどすごいなおひいさま。
ぬめぬめはしていないとはいえ、30センチ級の謎虫を肩に乗せるとか。
この世界って虫に対する忌避感とかないんじゃろか?
『普通にありますよ。彼女が変わり者なだけでしょう』
やっぱりー。
『アカ、運んでくれるってさ。帰りはらくちんだよ』
『らくちん!えるふ、いいやつ!』
ぐええ、飛び跳ねないで。
急はビックリするから!
「ふふ、仲のいい虫共じゃ。さて、帰るぞ皆の衆」
「「「ハッ!!!!」」」
いいお返事ですこと、皆さん。
・・☆・・
『のう、ムーク』
遭遇する魔物をエルフさんたちが流れ作業で殲滅する帰り道。
おひいさまが念話で話しかけてきた。
『はいはい、なんでしょう』
お付きの人たちが全部やっちゃうから暇なんかな?
『――お主は、なんじゃ?』
……?
何だと、言われましても。
『虫ですけど』
こちらとしてはこの答えしかないんですが。
『お主が欠損を回復、否『修復』をした術式な。わらわも知らぬ未知のものであった……1000年生きておるわらわでも、じゃぞ?』
おひいさま1000歳だったんですか!?
すげえ!ロリババアだ!
のじゃロリババアだ!!
キャラが濃すぎる!おひいさま!
しかもおひいさまってことは、お姫様でしょ!?
じゃあ上にまだいるってことだ!すっげえ!エルフ長生き!!
……じゃない!!
これ、どうしたらいいんですのトモさん!!
なんて答えるのがベターなんですか!?
『ふむ、やはり気にされましたか……作戦名『知らぬ存ぜぬ』でいきましょう。実際にむっくんは知らない訳ですし』
そっか!そうだよね!
よく考えたら何も説明できないわ!
だってトモさんがやってることだもん、全部!
『マジで何も知らないんですって。気が付いたら森に転がってたんですもん』
『ほう、ではあの時に『治る』と言ったのは何故じゃ?』
わあ、よく覚えてる!
『あー、アレはですね。前に木の下敷きになって死にかけたんですよ……で、死んだ~って思って気絶して……起きたら治ってました。だからボク何も知らないんですけど』
嘘は言っていない、嘘は。
『ほう……ふむ、成程。つくづくお主は変わった虫よな、この森でお主と同種の魔物を見かけたこともないしのう』
えっ!?そうなの!?
てっきりボクっぽいベースの虫がいるもんだと思ってたんだけど!?
そっちの方が気になるよ!
トモさん!どういうこと!?
『むっくんが混乱しないように今まで黙っていました』
マージで!?
『おひいさまが以前に言っていた、曲面カブトというよく似た虫の魔物は存在しています。ですが、頭部……むっくんのような一本角の頭部を持った曲面カブトは存在しません』
そ、そうなんだ……
この頭、カッコよくて気に入ってるんだけどオリジナルだったんか……
『そもそも、転生に際しては必ずこの世界の何らかの生物の幼生体になるハズ、なのですが……むっくんは何故かその不可思議ヘッドになっておりまして……』
不可思議ヘッド!?
カッコいいヘッドでしょうが!?
しかしそっかあ、ボク、マジで謎虫だったんか~……
『どうした?黙り込んで。やはり疲れておるのか?』
あ、やっべ。
まあでも……嘘つくとこじゃないし。
『いやあ、ビックリですよ。どうりで一人ぼっちで転がってたわけですねえ、てっきり群れや巣からはぐれたのかと思ってたんですけど……天涯孤独の謎虫だったとは』
「ぷふっ!?……な、なんでもないわ!こやつが面白いことを言うたのでな、少しツボに入ってしもうたのよ」
あ、おひいさまにウケた。
わぁい。
『お主は……なんというか、変な奴じゃのう』
『そうなんですか?今まで会話できる存在がおひいさましかいなかったもんで……』
トモさんとアカのことは黙っておいた方がよさそうだ。
特に女神サマの方。
『まあ、よいわ。姉上に押し付けられた退屈な調査じゃと思うておったが……お主らのお陰で退屈はしなさそうじゃ』
へえ、お姉さんいるのか。
1000何歳なんじゃろ、そこらへん気になる。
『休んでおれ、野営地に着いたら給金を払うからのう』
わーい!
依頼達成の報酬だ!報酬!
虫系冒険者、依頼達成!!
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