第22話 やめて!もうボクのHPはほとんどゼロよ!!
――壁が、崩れた。
崩れたというか、何かが飛び出してきた。
うわ、壁の破片で小さい蜘蛛がだいぶ潰れた!グロ!
『地底蜘蛛の成体……最悪の上の、最悪です!』
トモさんのひっ迫した声。
『え、えぇいッ!!』
雷鳴。
アカの雷撃魔法が――壁から出てきたでっかい、本当にでっかい蜘蛛に直撃。
「GGGGEGEGGGGGGKKKKKK!?!?!?」
ひいい!!何この声!!
黒板を爪で無茶苦茶引っ搔いたみたいなキモ声!!
耳が!耳がお亡くなりになりそう!!
だけどアカの雷撃魔法のお陰で、デカ蜘蛛は痺れたように痙攣している。
便利!感電って超便利!!
ついでに溜めておいた衝撃波どうぞッ!!
「GGGGEGGGGGGGGGRGRGG!!!!!!」
――ボクの現状最大溜めの衝撃波が完全に入ったのにちょっとよろついただけ、だとォ……!!
理解した!今のボクじゃどうあがいても勝てない相手だって!!
じゃあ逃げるゥ!!
『――突っ切るよアカ!ボクが跳んだら念動力お願いねッ!!』『あい!おやびん!!』
進行方向の蜘蛛を衝撃波で吹き飛ばし、痙攣を継続しているデカ蜘蛛を掠めるように奥へ!
「ギシャ!!」
ええい邪魔ッ!喰らえパイル――じゃなくて伸ばしたままの棘チョップ!!
「ギギ!?」
よし両断完了ッ!!
止まらずに前へ、前へ!!
子蜘蛛?はボクでも十分対処可能だけど、数が多い上に動きが早い!
どっちにしろ、この状況で相手ができる存在じゃない!
数が多すぎ!ゲームみたいに最大4体とかにして!!
「ギ!」「ギギ!」「ギチチ!」
ええい!数が多い!多すぎる!!
止まったら、止まったら死ぬ!!
『跳ぶよ、アカ!!』『あいっ!!』
さらに加速し――地面を踏み切る瞬間に、6本全ての棘を展開。
硬い地面に打ち込んだ反動で、高く高く跳ぶ。
『複数の魔力反応――!』
ぞわ、と寒気。
四方八方から、何かを撃ち出す音がする。
なんだ、一体何――!?
視界の至る所に、光る糸?が見える。
なんだあれ!?
『地底蜘蛛の魔力糸です!捕まると動きが鈍ります!!』
絶対に引っ掛かりたくない!!
この状況で動きが鈍ったら死んじゃ――正面から蜘蛛糸!!
むん――衝撃波発射ァ!!
……よし!糸より衝撃波の方が強い!!
問題なく押しきれる!!
うわわわわ!
バンバン飛んでくる!!
発射、発射発射発射ァ!!
なんとか拮抗できてる、正面だけは!!
『アカちゃんの残留魔力、雷撃2回分!むっくん、なるべく衝撃波を節約してください!魔力残量が半分を切りました!』
そんなこと言われましても!!
そろそろ滞空が終わる……着地点にもめっちゃ蜘蛛いる!!
空中で棘を最大展開!
移動に4本、攻撃に2本使うしかない!!
出したままだと魔力消費しないしね、棘!!
着地――と同時に腕を振る!!
イヤーッ!!インセクト・ダブルチョップだ!!
「ギ!?」「キ!?」
2体成仏!そのままダッシュ!!
『アカ、ボクの前に――真っ直ぐ撃って!!』『あい!!』
薄暗い空間を、雷撃が走り抜ける。
一本道を作るように蜘蛛が痙攣して倒れ込んでいく。
だけど、脇から新手がどんどん来る!
――もういっちょ、衝撃波ァ!!
空いた道を塞ぐように湧いてきた蜘蛛たちを吹き飛ばし――壁が見えた!!
ボクらが侵入した穴も見える!ボクが描いた印があるもんね!!
よおし!あそこまで行けば勝ちだ!!
穴に潜り込んだ瞬間に後ろ向きに衝撃波をぶち込んで、穴を塞いじゃるッ!!
『後方、成体が動き出しました!魔力を集中させています――糸が来ますよ!むっくん!!』
ええええ!?タイミングが悪すぎる!!
だけど、あと20メートルもない!!
なんとか逃げ込めそう――
――なんでそうしたかは、わからない。
真ん中の脚2本でアカを掴み、前方に放り投げた。
『おやびんッ!?』
ほぼ同時に、ボクの胴体がぞんって感じでほぼ半分抉れた。
脚2本を、巻き込んで。
ぐうう、あ、ああ!?
無茶苦茶痛い!泣きそう!!
『ア、カ!飛んで!穴に入って!ボクも、追いかける、から!!』
う、ああ!
体から力が抜けるぅ!!
仕方ないか!胴体吹き飛んだんだもん!
なにがあったのォ!!
『成体の魔力糸です!子蜘蛛のものとは攻撃力が違います!むっくん、動いて!動いてください!この損傷は修復可能ですから!!』
いいニュース聞いた!
悪いニュースとしては脚が2本消えたから速度が落ちたしバランスも最悪ってこと!!
あああ痛い!痛すぎィ!!
発狂しそうだよボクは!!
『おやびん!はやく、はやく!!』
アカは……穴の入り口まで到達してるな!偉いぞォ!!
『アカ!最後の一発……合図したら跳びながら地面に!放って!!』
足を溜める。
殺到してくる子蜘蛛が飛び掛かってくる瞬間に――棘解放!!
それと同時に、全力衝撃波発射ァ!!
子蜘蛛と地面をまとめて吹き飛ばしつつ、斜めにジャンプ!!
『今だァッ!!』『――あい!!』
ばじん、と音。
アカの放った雷撃魔法が、地面に炸裂。
素晴らしい伝導率で、子蜘蛛が円状に痙攣して倒れる。
ホント、最高の子分ッ!!
『飛び込んで!むっくん!』
はいはーい!
胴体から液体がビシャビシャ出る感覚を覚えつつ、アカと一緒に穴に飛び込む。
『アカ!地上まで逃げるよォ!ごめんだけど帰りは飛んで!』『あいっ!』
そして――飛び込んだ瞬間に、最大溜め衝撃波。
入口を破壊して、穴が……塞がった!
『緊急措置!傷口を塞いで痛覚を麻痺させます!不便でしょうが、4本脚で頑張って!』
――うわ、急に痛みが消えた!
麻酔みたい!
だけどこれで走るのに集中できる!!
正直くじけそうなくらいの激痛だったんだよねェ!!
『アカ!ダッシュダッシュダーッシュ!!後は逃げるだけだよ~!!』
『おやびん!だいじょぶ!?からだ、ない!?だいじょぶ!?』
『ハーッハッハッハ!!おやびんは無敵だから大丈夫!!さあさあ出口まで競争だァ!!』
重量バランスの狂った体で、なんとかこけないように走り出した。
後方からは、土を掘るようなちょっと恐ろしすぎる異音が断続的に聞こえていた。
・・☆・・
光だ!出口!出口!!
脱出、成功ォオ!!
やったぜ、トモさん!!
あ、やっべ。
ブレーキのこと考えてなかった――
「ムーク!?お主どうした!?」
勢いよく出口から飛び出したボクを、おひいさまが優しく抱き留めてくれた。
うわ、なんかめっちゃいい匂いする!
花畑みたい!!
『蜘蛛!蜘蛛でェす!!穴の先に蜘蛛の巣がありましたァ!!』
「蜘蛛じゃとォ!?地底蜘蛛か!?しかしここにいるような魔物ではないぞ――お主!体が千切れておるが!?」
『治るんで大丈夫です!それより、穴を通って子蜘蛛が出てくるかもしれません!成体もいました!!』
おひいさまが『地底蜘蛛』という名前を出した瞬間。
穴の周囲にいた鎧さんたちが一斉に盾を構えた。
そして、レクテスさんたち軽装の皆さんはその後方で……宝石の付いた短い杖を構える。
『この穴からボクが普通に歩いて――ええっと、一時間くらいの場所に――』
「レクテェス!距離、約3デラシル!!地底蜘蛛のコロニー!!」
「御意!ラザトゥル、毒王水!」
「ハッ!!」
レクテスさんが指示を出し、男のエルフ……ラザトゥルさんが、なんか杖をバババッて感じで細かく動かした。
「オーム・ラガーハ・レグザウ・ウル・オン・スヴァーハ!!」
か、かっちょいい!生詠唱じゃん……って、うわあ!?
杖の先から、明らかに体に悪そうな紫色の濁流が出た!!
それは、脱出してきた穴にどっばどば注ぎこまれていく。
うへえ、地面がじゅうじゅういってる……王水って言ったよね?たしかなんでも溶かす液体的なやーつだったような……?地球だと。
「そのまま放出を続行!我らは新たな穴に警戒する――周辺索敵、厳!!」
「「「ハッ!!!!」」」
一糸乱れぬ、ってやつだ。
すっごいなあ、このエルフさんたち。
『むっくん、彼女に地面に下ろすように言ってください。このままだと魔力が干渉して修復が行えません』
『ねえおひいさまー!地面!ボクを地面に降ろしてくださーい!!』
「む、わかった……ようやったのう、お主。地底蜘蛛のコロニーに遭遇して生き残るとは」
少し申し訳なさそうな顔をしてる。
『いえいえー!逃げ足だけは大得意なんで!』
そっと、おひいさまがボクを降ろしてくれた。
『衆人環視の中ですが、背に腹は代えられませんね……生命魔素、変換開始――体組織修復、高速実行――』
あ、なんか、むっちゃ眠く――
『おやびん!おやびーん!!』
ああ、泣かないでよアカ。
おやびんは、最強、なんだから――
・・☆・・
「たまげた、恐ろしく高度な回復魔法……いや、違う。わらわの知るどんな回復魔法とも違う魔力の流れじゃ、これをどう見る、レクテス」
「わかりません、私も初めて見る術式です。この虫、一体何者――」
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