第21話 暗い!そんなに狭くない!不穏!!

 額に魔力をちょろっと流す。

おお、明るい明るい。

地球の蛍光灯を思い出すなあ。


 エルフさんたちから仕事を請け、地下に踏み込んだ我ら虫系冒険者。

依頼主から提供された光り玉?のおかげで視界はばっちりである。


『なっがいねえ』


『ながい!』


 シンプルな感想通り、入った穴は斜め下の方向へ向かってずうっと伸びている。

入口と同じくらいの直径で、ずうっと。


『壁の様子からして、自然物ではありませんね。何らかの魔物の手による巣のようなものでしょうか』


 うへえ、巣か。

やだなあ、なんだろう。

クソデカミミズくんとかかなあ。


『なんにせよ調査です。先に進みましょう』


 あいあーい。


『アカ、怖かったらお外にいてもいいからね』


『や!いく!!』


 かわいいやつよ。


 さあ、進軍だ。

たった2人の軍隊ですけども。



 ……長いなあ、ほんとに長い。

枝分かれもせずに、道はずっと続いている。

ずっと1本道だ。

なんか時間間隔がバグってくる。

ねえトモさん、どれくらい歩いたと思う?


『およそ1キロですね、地表からの深さは100メートル前後でしょうか』


 そんなに。

なんて大規模なトンネルなんだ。


『むっくん、試したいことがあるのでなにか音を立ててください』


 うい、了解。

腕の棘をガッチャンする。

きぃん、きぃん……と、音が反響していく。

しばし足を止め、黙る。


『……この先、少なくとも10キロは道が続きますね』


 そ ん な に 。

一体なんなの、このトンネルは。


『ですが、あと500メートル程先に大きな空間があります。そこから、四方に枝分かれしているようです』


 おお、やっと景色が変わるのか。


『注意してください、かなり広い空間です。何がいるかわかりませんよ』


 ヒエッ……そうだね。

十分に気をつけよう。


『アカ、退屈じゃない?』


『おやびん、いっしょ!だいじょぶ!』


 はぁあ~……なんじゃこのいい子。

待ってろよ、この仕事をきっちり完了して美味い、かどうかは知らないけどいいもの食わせてやるからな。



 そして……歩き続けると、開けた空間に出た。

見渡せないくらい広い。

むむむ……魔力追加!

うおまぶしっ!


 そこは、かなり広い空間だった。

半円状の……なんていうか、コロシアムみたいな空間だね。

色んな所に、ボクらが歩いてきたような穴が空いている。

うーん、一体何が原因であんな穴が。


 ねえトモさん、ここは大地竜がいた場所じゃないの?


『違います。出れないじゃないですか、あの穴だと』


 だよねえ。

ふうむ、じゃあこの場所って何なんだろう。

どう見ても自然にできた場所じゃないし。


 むうん……あ、奥の方に……でっかい穴がある。

アッチが10キロ以上続いてる方向?


『はい、そうです。これは大地竜とは別の何かの巣穴かもしれませんね』


 ここにいてもしょうがないし、先に進むか。

さすがにまだ何も見つけてないし、もうちょい調査継続だな。


 トモさん、ボクも気を付けるけど探知よろしくね。


『お任せください。魔力探知は半径20メートルですが、音響探査ならもっと遠くまで可能ですので』


 つくづくウチの脳内女神サマは頼もしいですなあ。


『脳内にいるわけではありませんが』


 言葉の綾ですよ、綾。

さてさて、進もう。

おっと、帰り道が分からなくなったらいけないから……出てきた穴の横に大きく〇でも書いておこう。

こういう時に棘が便利。



 シャキシャキと脚を動かし、進む。

何の音も、(ボクとしては)気配もしない。

ひたすら岩肌?土肌?があるばかりだ。

やっぱり自然物には見えないなあ。

でっかい何かが掘ったみたい。


『おやびん、なんかある』


 お?あ、ほんとだ。

何かが地面から突き出してる。

なんだろアレ。

気配はないし、近付いてみよう。


『何かの骨……いや、甲殻でしょうか』


 トモさんが言うように、そこには地面から突き出した角?みたいなものがあった。

黒色の、長い形状だ。

見た感じは……なんだろ?節がいっぱいあるなあ。

表面がつるつるして……テカテカしている。

なーんか、どっかで見たような気がするなあ。


 どこで……あっ。


 ボクの腕だ、もしくは脚。

っていうか虫の脚みたいなんだ、これ。


『虫系魔物の脚……たしかに、そうですね』


 これは……先っちょになるのかな?

先端が虫の脚っぽいギザギザだし。


 むーん、もうちょっと調べるか。

えーと、太さはかなりあるし、長さもそう。

これが本当に脚の一部だとすると、持ち主はかなりデッカイぞ。


 硬そうだなあ……ツンツン。

……お?なんだこれ、中身がスカスカだ。

こーんこーんって、反響音がする。

なにこれ、虫の脚ってこんなにスカスカなんだっけ?


『おやびん、おやびん!』


『ん~?どうしたの、アカ』


『いっぱいある!いっぱい!』


 いっぱい……?

それって何……が……


『これは……!』


 トモさんの声に、緊張感がある。


 ――それもそのはずだ。


 アカに言われて周囲を見たら、この空間の壁の……至る所に、同じような脚?が突き刺さっている。

それこそ、無数に。

なに、あれ。


『むっくん、もう一度叩いてください』


 あっはい。

こんこーん、っと。


『……わかりました、これは抜け殻です』


 抜け殻?

それってどういう……?

え、なんかがここで脱皮したの?

虫って脱皮するんだっけか?


『――むっくん、これで十分な調査結果になると思います。この場を離脱しましょう、今すぐ!』


 うひょ。

これは大怪獣バトルの時くらい焦ってるね、トモさんが!

じゃあ――ボクの答えは一つだけだ。


『アカ、しっかり掴まってて!』『あい!』


 アカにそれだけ言い、ボクは即座にUターン。

来た道をダッシュで引き返す。

全力だあっ!!命が大事!!


 ――なにか、背中がぞわってした。

同時に、何か聞こえ始めた。


『――気付かれましたか、走って!』


 走ってまあす!!

全力疾走中ですう!!


『おやびん、くる、くる!』


 聞こえてる!後ろの方から……何か大勢の足音!

ボクが動く時みたいな、シャキシャキって音が大量に!!

いや、もうザザザザザザ!!みたいになってる!!

気になるけど、振り向く手間すら惜しい!!


『速いですね、音からして多脚の魔物……脚の数は6以上!』


 じゃあ昆虫じゃないな!

たしか6本以上だと違う分類になるらしいし!


 トモさん!追いつかれそうな気がするんだけど!

後ろの奴らの音、どんどん大きくなってる!!


『遺憾ですがその通りです。後方の一団の速度は、むっくんよりも少し上です!』


 やっぱり!

結構進化して速くなったと思ったのになあ!!

さっきよりもかなり、音が近い!


 ――それになにより、『前方』からも音がする!

来るときに通った道にあった、四方の穴の方から!!


『正面、斜め左方向!索敵範囲に入りました……接敵します!』


 照らされた視界に、『それ』が出てきた。

節くれ立った複数の大きな脚。

光りを反射する大きな目。

膨らんだ、腹部。

大きさは、ボクより一回りくらい大きい。


 コレ知ってる!

この生き物は――


『――最悪です。地底蜘蛛という魔物です!』


 ――衝撃波、発射ァ!!

明らかにボク目掛けて走ってきたその蜘蛛は、胴体の中心を射抜かれて吹き飛んだ。

よし!衝撃波で殺せる!

これなら――


『おやびん!いっぱい!いっぱい!』


 数が多いっ!?

前方の暗闇から、ウジャウジャ蜘蛛が出てきた!!

くっそ、衝撃波の溜めが間に合わない!!


『アカ、撃って!全力!!』『あいっ!!』


 空間が、アカの雷撃で白く照らされる。

その全て。

道も、壁も、黒光りする同サイズの蜘蛛がひしめいている。

うわキモッ!!


 アカの放った雷撃が、前方の蜘蛛を感電させながら複数吹き飛ばす。

やっぱり面制圧力、大事!!


『むっくん!一直線です、足を止めずに走り抜けてください!倒すことは考えずに!』


 言われなくても……!!

魔力を充填……進化したお陰で、一杯撃てるようになったんだ!

衝撃波――発射ァ!!

狙いは前方、それだけ!!


「ギキュ!」「ギュ!」「ギチチ!」


 何匹も吹き飛ぶけど、その何倍もの新手が来る。

いちいち相手していたらきりがない!

このまま、最小限の交戦をしつつ突っ切るぞ!!



――轟音と共に、壁が吹き飛んだのはその時だった。

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