第20話 爆誕、虫系冒険者。
「――おひいさまがお呼びだ、ついて来い」
朝方、木のウロで惰眠を貪っていると……レクテスさんが急に来た。
心臓に悪い登場だよ本当に、たぶん心臓ないけどさ。
レクテスさんは、ウロの入口でおいでおいでしていた。
……これ、行かないと絶対前のバインドなんちゃらで連行される流れだ。
はいはい、行きますよォ。
毎晩お肉貰ってるしね、行きますよ。
数少ない知的生命体の知り合いだし。
数少ないって言うか唯一だけども。
『アカ、背中においで』
『あーい』
なんか日に日に重くなっているアカを背中に乗せ、木のウロを出ることにした。
さてさて、今日は何の用だろうか。
・・☆・・
「おう、よう来た。ちょいと待っとれ……ぬん」
到着するなりまたもや謎ビームを撃たれる。
せめて今からやるぞって言ってくださいよ。
前のように、エルフさんたちに囲まれている。
何にもしないから、もうちょっと圧弱めてください。
アカが怯えるんですよ、特に鎧エルフさんたちに。
「のう、お主……早く進化したいか?」
藪から棒になんですそれ。
そりゃあ……
『できることならしたいですよ。もっと強くならないとおちおち外出もできませんし』
一生このゾーンで生きていくのは御免すぎる。
ボクはもっと色んな異世界を見たいんだ、こんな一面のクソ緑じゃなくて。
もちろん、トモさんやアカと一緒に。
『ふふ、とても嬉しいですね』
当たり前でしょう、ボクたちは仲間なんだから。
「ふはは、お主は虫の幼生体の癖にやたら語彙が豊富じゃな。それではいい話をしてやろう、我々の仕事を請けて欲しい」
お仕事、とな?
「我らが竜種の闘争について調査しておるのは知っているな?ソレに関してじゃ」
ええ、そりゃあ知ってるけど。
『でも、ボクたちは戦力的にクソ雑魚ですよ?あなた方が戦ってるのを遠目で見ましたけど、アレ級の活躍を求められてもちょっと……』
ごんぶとビームとか撃てないし。
精々ソフトボール大の衝撃波だし。
「いやいや、お主らにそこは求めておらぬわ。――頼みたいのはな、調査よ」
調査。
「水晶竜と大地竜が戦っておった場所、そこの地下へ続く細く深い穴があってのう。それの調査を頼みたいのよ、あそこらの地面は硬い……開口部が小さすぎて、我々が掘るには時間がかかりすぎる」
あー……そういうことか。
ボクらなら、するする入っていけるってことね。
んで、ボクは意思疎通ができる……と。
『この方はかなり柔軟な発想のようですね。まさか知性体とはいえ、むっくんのような謎虫に頼みごとをするとは』
謎虫って言わないで!
『エルフの、特に国に住んでいるような方々は考え方が硬い……と、この世界では思われていますし』
まあ、実質鎖国してるもんね。
ふむん……トモさん、どうしよ。
この仕事、受けた方がいいかしら。
『むっくんのお好きなように。何が出てくるかわかりませんが、『戦闘』ではなく『調査』ならばリスクは低いでしょう』
だよね~、ヤバかったら逃げればいいしね。
地中は暗いけど、この前サーモグラフィ搭載になったからなんとか……サーモグラフィ意味ないじゃん!!
暗視と間違えた!恥ずかしい!!
ええと、じゃあ……
『受けるのはやぶさかではないですけど、明かりがないと地中は厳しいです』
「おう、そんなことか……ホレ」
おひいさまが、懐からビー玉みたいなものを取り出す。
何ぞそれ?
「これは『光り玉』という道具よ。魔力を流せば……この通り明るくぎゃん!?」
ドヤ顔で、ボクにもわかるくらいバカでっかい魔力を流したおひいさま。
しかしその玉は閃光弾みたいな感じで光って砕けて飛び散った。
ウワーッ!?目が!?
「おひいさま!」
「んだ、大事ない……ちょっと魔力を流し過ぎたわい。このように、微弱な魔力に反応して光るというわけじゃ……わらわはちょっと、細かい魔力操作が苦手でのう、ははは」
あ、前のごんぶとレーザー絶対この人が撃ってるわ。
なんかそんな気がした。
「お主にはこれをくれてやる。コレがあれば、地中でも真昼のように明るくなるぞ」
おー!くれるの!?
わぁい!期せずして照明ゲット!!
さっきの感じだと、ボクの魔力なら全力で流さなければ大丈夫だと思うし。
『ハイ!喜んで引き受けます!!』
「おいおい、報酬のことくらい聞かぬか。能天気な虫よのう……」
え、報酬ってその光る玉じゃないの?
正直それだけでも助かるんだけど。
「以前お主らにくれてやった魔石、アレよりも純度の高いものをやろう」
マージで!?
そんなんやる一択ですやんか!!
『あの、地下がヤバかったら逃げて来てもいいんですよね?』
「よいよい、あくまでも調査じゃ。入り口で引き返されると流石に困るがのう」
そんな漫才みたいなことしないってば。
『はい、やります。よろしくお願いします!』
「よし、商談成立じゃな。レクテス、これを角に付けてやれ」
「御意……動くなよ」
レクテスさんが、玉を金属製の網みたいな入れ物に入れる。
それを、ボクの角にチェーンで固定してくれた。
うはは、くすぐったい。
自分でも角って言っちゃうけど、触角だから敏感なんだよね。
「うむ、よく似合うぞ……そう言えばお主、名はあるのか?」
あ、名前ね。
エルフにもむっくんが知れ渡ってしまうのか。
ちょっと複雑。
『――待ってください、むっくん。本名ではなく偽名を名乗ってください、真の名を知られるのは魔法的にアレなので』
アレってなにさ!?
なに、呪いでもかけられるの!?
ええ、でもこの土壇場で偽名って言われましても……
『あ、む……ムークと申します』
こんなクオリティ低めの名前しか出てこないじゃん。
この際しょうがないけど。
「ムーク……ほう!古き言葉で『雄々しき鎧』とは……なんとも大仰な名よのう!はははは!」
『たまたま、古代エルフ語に合致したようですね。ナイスな偽名です』
嘘でっしゃろ!?
なんというファインプレイ……!!
真の名前よりも強そうじゃないですか!?
あ!違うからねトモさん!可愛さや親しみやすさなら、断然むっくんの方が上だからね!?
「よし、では行くか。皆のもの、準備せい!!」
「「「ハッ!!!!」」」
うわビックリした!?
皆さんいつも静かなのに急に叫ぶのやめて!!
アカがビックリしてちょっと浮かんだじゃん!!
・・☆・・
「よし、到着したぞ。ムークよ、疲れておらぬか?」
『いいえ滅相もございませんおひいさま、わたくしのような虫けらめにご心配の言葉をかけていただき……望外の喜びでございます、ハイ』
「どうしたお主」
例の大怪獣バトルの跡地に到着した。
あそこから、森を真っ直ぐ突っ切って。
到着したん、だが……
このエルフさんたち、強すぎ。
道中、森の中からは見たこともない強そうな魔物がバンバン襲ってきた。
アレがトモさんが言っていた『おこぼれ狙い』の魔物なんだろう。
それを……もうね、草でも刈るみたいな勢いでボコるの、この人達。
鎧の人はボクに見えない速度で剣振るし、しかも明らかに剣よりも長い範囲をスッパリ斬るし。
レクテスさんたちも何も言わずに氷とか雷とかバンバン飛ばすし……アレって『無詠唱』とか『詠唱破棄』とかいうのじゃないの?知らないけどきっとそう。
そして、極めつけはおひいさまだ。
10メーター級の大地竜がコンニチハしたんだけど、ごんぶとレーザーで足首を残して消滅させてた。
じゅって!じゅって!!
おそろし……エルフおそろし……
やっぱり敵対しないようにしとこ、エルフさんには。
あと、そのまま放置される死体がむっちゃ勿体なかった。
いや、食わせて~! とかあの場じゃ言えないから我慢したけども。
貰える石に期待しよう。
「ようわからん奴じゃな……ほれ、そこじゃそこ」
爆心地みたいになった更地。
その中心に、サッカーボールくらいの穴が空いている。
あーこれね、これ。
確かにこれはいかにスレンダーなエルフさんたちとはいえキツいな。
……ちなみに、前の大怪獣バトルなんだけど勝ったのは水晶竜みたい。
なんでかって?この爆心地の端っこに岩山の残骸みたいな死体が転がってるからだよ。
アレも勿体ないなあ、この仕事が終わったら齧らせてくれないかなあ。
おっと、いかんいかん。
仕事に集中せねば。
『んじゃ、行くけど……アカはどうする?ここでお留守番しとく?』
『や!アカ、いく!おやびん、いっしょ!!』
なんてできた子分だろうか……
この子はなんとしても守るぞ。
ひょっとしたらボクよりも防御力あるかもしれんけどな!
『それじゃ、行ってきますおひいさま』
「うむ、お主の固有魔力振動数は『覚えた』からのう。死なぬ限りは待っておいてやる」
なんだこのイケメン。
これが上に立つ者のカリスマということか……
よし、異世界初のお仕事だ!
虫系冒険者むっくん、いきまーす!
『冒険者は最底辺の職業なのですが、むっくんは本当に変な憧れがありますね……』
いいんだよトモさん、浪漫なんだから、浪漫。
背中にアカを乗せ、ゆっくりと穴に突入した。
・・☆・・
「おひいさま、随分とあの虫を気に入ったご様子ですね」
「ふふ、面白い奴はみんな好きじゃ。ここ500年ではムークが一番面白いゆえに、のう?」
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