第19話 狩り再開、ここって美味しくない魔物しかいないのォ!?
『むっくん、前方に反応が二つ。茂みの向こうです』
了解!
パイル……ジャーンプ!!
地面に棘を打ち込む反動で、無理やり飛び上がる裏ワザだ。
ちょっと気合を入れすぎると、地面に固定されて間抜けなオブジェになっちゃうのが難点!!
茂みを飛び越えると、影が見える。
う、あの毒々しいシルエットは……!!
『毒走り茸ですね。ツガイのようです』
お前らか畜生!!
美味しくない茸の癖にツガイとは生意気な!!
『ボクは右ね!アカ!』『あいっ!』
むん!衝撃波発射ァ!!
空中で放たれた衝撃波が、茸くんの胴体を打ち抜く。
うひょう、ポッカリ空いた!
威力上がったね!ボクの衝撃波くん!!
『えいっ!』
アカの思念に続いて、ばじじ、と音。
左側の茸くん?ちゃん?に電撃が命中、痙攣しながらこんがり焦げた。
匂いだけは美味しそうなので腹が立つねっ!
アカの雷撃魔法も威力上がったなあ、それに魔力も増えたっぽいから今では2発なら連射できるみたいだし。
なにより雷だからね、ボクの衝撃波と速度が段違いなのだ。
ボクの方も小学生の全力投球から甲子園投手くらいになったけど、速度。
『お見事です。さあ食べてください』
……ハァイ。
『いたらき、まーしゅ!』
アカは元気がいいなあ。
ちくしょう……いただきマッシュルーム!!
がぶり、こりこり。
おっぶぇ!?おぼぉ!?
なんかいつもよりも不味い気がする……
『ラッキーですね、むっくん。成体ですよ』
あっそっかあ、こいつら成長すると不味さまで加速するのかあ……
『こりこり!おいし!ぱりぱり、おいし!』
アカは可愛いなあ。
でも口吻で吸ってるのに歯ごたえとかわかるの?
ニセムシって不思議。
エルフさんとのファーストコンタクトから、2日経つ。
あの人たちは早朝に出発し、夕方になって帰ってくるというサイクルになっている。
なんかの肉片や装甲の破片を持ち帰ってくるので、調査しているんだろう。
あ、結局どっちのドラゴンが勝ったのか知らないな、ボク。
おひいさまに聞きたいところだけど、ボクらの所にはあのレクテスさんしか来ないんだよね。
毎回何かのお肉を分けてくれるので、アカはすっかりエルフの存在に慣れたのが救いですね。
『いいペースですね。さあ次に行きましょう』
ちょ、ちょっと待って。
まだ不味さの余韻が残ってるから待って。
『あい!おやびん、はっぱ!』
わあい!口直しだ!
ありがとうね、アカ!!
うーん、青臭い!けど茸よりはマシ!!
『ふむ。むっくん、前方の木に登ってください』
その後もまさかの茸くんとのおかわり遭遇を経て疲弊していると、トモさんに言われた。
目の前には、今住んでいるのと同じような50メートル級の大樹がある。
はいはい、了解。
アカは浮いてついて来てね~?
シャカシャカっと。
木に登るのも慣れたもんだ。
もしここにゲームの世界樹みたいな木があっても、この分だと結構早く登り切れるかもね。
『登ること自体は可能でしょうが、世界樹は強力な魔物の巣窟ですよ。美味しくいただかれますよ』
この世界は基本的に不条理であるねー。
特に虫に厳しいなあ。
そしてやっぱりあるんだ、世界樹。
迷宮も付属してそう。
っと、そんなことを考えてる間にイイ感じの枝に到着。
これでいいの?
『はい、そのまま真っ直ぐ先を見てください』
おー……見渡す限りの森、森、森だ。
わかっちゃいたけど、この森でっかいなあ。
この木は結構な高さなのに、それでも地平線までずううっと森だ。
広いなあ……いつか出れるんだろうか。
『何か気付いたことはありませんか?』
ん~?
そう言われましても、森だなあ……以外の感想なんて出てこな……お?おお?
なんか黒い!遠くの方に黒い森がある!!
初めは影か何かって思ったケド、違う。
ペンキをぶちまけたみたいな、真っ黒な木々が乱立している!
『アレが、前に言った強力な魔物がいるゾーンですよ』
あー!エルフの国の結界で追い払われたヤベー敵が固まってるドーナツゾーン!
あれがそうなんだね、トモさん!
どれくらいの幅?があるんだろうなあ。
『私が知っている地図から逆算しますと……そうですね、およそ30~40キロくらいでしょうか』
思ったよりも広い!!
てっきり10キロくらいだと思ってた!!
それは大変だなあ……でも、いつかはあそこを抜けないといけないんだよね。
エルフの国には入れないし、死ぬまで森の中は嫌だもん。
……いや、ちょっと待ってよ?
ボクが強くなって抜けるつもりだけど、アカの念動力で空を飛べばもっと早い段階で突破できるのでは?
『航続距離、荷重、そして空の魔物の観点で無理ですね』
ああ、そっかあ。
そりゃあそうだよねえ。
そんなにうまい話はないか~。
『オオムシクイドリもいますし』
なにその殺意高い名前!!
ボクら狙い撃ちにされるじゃん!!
『ちなみにムシクイドリとオオムシクイドリは別種の魔物です』
ややっこしい!!
なんだよもう!この世界の魔物学者さんもっと頑張って!!
ダーウィン先生が泣いてるぞ!!
……ダーウィン先生って図鑑とか作ってたっけ?
『おやびん、あっこ、まっくろ!』
『真っ黒だね~。あそこは怖い魔物がいっぱいいるんだってよ? 今は近付かないようにしとこうね~』
『こわい!』
おぐぅう!?
急に背中に来ないで!!
心の準備が!!
『我々の目的を再確認したところで……むっくん、ちょうど木の下に魔物がいますよ』
どうりで獣臭いと思った!
そうっと、そうっと……お。
なんだあの、苔と茸のバケモンは?
『あれは苔猪です。背中に生えた茸は高級素材として取引されますよ』
マ ジ で ! ?
高級素材ですって!?
やったあ!この生活始まって以来の高級食材だァ!!
『いえ、食材では――』
ジャンプ&姿勢制御!!
むぅう――エネルギー充填完了!!
衝撃波、全力射撃!!
「ピギィ!?」
よし!苔と肉が抉れた!!
降下しながら充填、充填充填ッ!!
――連射ァ!!
「ピギィイイイイイッ!?!?」
背中、首、脳天に着弾!
トドメの……自由落下式パイル棘ェッ!!!!
「ギャッ!?アギ!?オォオ!?」
首に着地しつつ、腕4本分のパイル棘をぶち込んだ。
吹き出る鮮血が目に入ってちょっとキモい!!
どずん、と猪くんは倒れた。
よしよし、見敵必殺が上手くいった。
ボクも中々やるもんだね、えへん!
『おやびん!しゅご!かっこい!!』
アカが遅れて飛んできて、むっちゃ褒めてくれた。
ふふふ、子分の為にもご馳走が取れたぞ~!
さて、衝撃波が当たらないように気を付けた茸!!
どことなく松茸に見えるね!
よおし、んではまず一口――
『毒ですよ』
――なんて?
『苔猪の茸は高級『素材』です、『食材』ではありません。この茸は煎じると、対魔物用の劇毒が抽出できるんです……だから、高値で取引されるのですよ』
なんて、なんてこった……
『食べると、むっくんの寿命の半分を使わないと解毒できません。苔の部分にも弱毒がありますので、除去してお肉だけ食べてください』
……はぁい……
じゃあアカ、ちょっと待っててね……苔剥いじゃうから。
『いただきますぅ……』
『いたらき!ましゅ!』
がぶり、ぞぶぞぶ。
……うっぐ!?硬い!!硬くて苦くて渋くて臭い!!
洗ってない動物園の味がする!!
……洗ってない動物園ってなんだろう。
でもそうとしか言いようがないのだ。
『おいし!おいし!しあわせ!おいし!』
……すごいなあ、アカは。
『ホラ、内臓もしっかり食べてください。骨は硬いので勘弁してあげますから』
はぁい……うぼっ!?
洗ってない下水道の味がするゥ……洗ってない下水道ってなんだか知らないけど。
やだよう、この森基本的に不味い魔物しかいないよう。
現状生で食べるしかないから、その時点で不味いスタートだよう……
嗚呼、早く立派で器用な手足を手に入れて料理とかしたい。
血抜きとか筋切りとかして、香辛料や根菜を入れて煮たりしたいよう。
『あの黒いゾーンの魔物は美味しいですよ』
それホント!?
どこ情報よ!?
『一般的に、魔力が高い魔物ほど味がいいのです。なおかつ草食なら、なおさらです』
早く、早く強くなろう。
ボクの味覚が死んでしまう前に。
『そして、以前に言っていた魔力含有量の高い果実もあのゾーンに多いです。それを目当てに、強い草食の魔物が生息していますね』
強くなろう!!!!
一刻も早く!!!!!
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